一夜が明けた朝の六時。タイムリミットまで、遂にあと一日となった。  
短い仮眠から目覚めた倫は、もう一時間も前に宿直室から去っている。  
 
(遂に、実の妹とまで関係を持ってしまった……)  
一人残された望は、ひたすら悩んでいた。頭を抱えるその姿を見る人は誰も居なかったけれど。  
 
そんな望に、あと24時間でタイムリミットが来るという現実が追い討ちをかける。  
(……あと三人。そろそろ、自分の手で探す必要が……!)  
 
千里のメールを信じて自分との性交を容認したのは、四人。  
裏を返せば他の教え子達は、今なおメールに対して半信半疑(むしろほぼ"疑")なのだろう。  
 
だとしたら。  
残り三人の相手は、自分からアプローチをかけなければ得られない、ということではないか。  
 
枕元の携帯電話が望の視界に入る。  
その中には、教え子の連絡先もいくつか含まれている。  
 
(……私が、自分から……生徒にセックスを申し込む……)  
 
頭痛がさらに酷くなったような錯覚に包まれ、望は再び頭を抱えた。  
 
 
一方、同じ頃。携帯の画面を見ながら、難しい顔で悩む少女が居た。  
「……やっぱりマズいよね、教師と生徒だし……でも、チャンスと言えばチャンス……」  
 
普通少女、日塔奈美。常識的思考回路の持ち主である彼女は、未だ一歩を踏み出せずに居る。  
千里の緊急連絡網が回ってきた順番で言えば、彼女は限りなく早い段階でその情報を得ていたことになるのだが……  
どうしても割り切った考えが出来ないまま、今に至ってしまったわけである。  
 
「みんなはどうしたのかなぁ……もしかしたら意外とあっさり……」  
ベッドの上をごろごろと転がる。奈美は何かを考える時、いつもそうして時間を潰すのだ。  
「だとしたらもう先生、10人とのえっちなんて終わらせちゃってるかもだし……うーん……」  
が、今回に関しては、ベッドで転がってるだけでは答えの出るはずもない。  
 
「うぅ……折角、先生との距離を縮めるチャンスなのになぁ……どうしてこう常識を気にしちゃうんだろ……」  
いつしか悩みは自己嫌悪になる。結局自分は"普通少女"から抜け出せないのだ。  
奈美は、なんだか無性に泣きたい気持ちになってきた。携帯の画面が歪むのは、目に涙が滲んだせいだろう。  
「はぁ……バカみたい」  
自嘲気味に呟き、八つ当たり気味に携帯を放ろうと  
 
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪  
 
した瞬間、突然着信音が鳴り出した。びくっとして画面を覗き込むと、そこには【着信:糸色先生】の表示が。  
慌てすぎなくらいに急いで通話ボタンを押す。  
 
「も、もしもし?」  
『……もしもし、糸色ですが』  
「なにか御用ですか?」  
『……大変、聞き辛い質問なのですが……木津さんから、"緊急通達"なるメールは届いてますか?』  
届いているも何も、つい今しがた、それが原因で泣きたくなっていたところ。  
……まあ、そんなことは言わずに、普通に応答する。  
「あ、はい。届いてます」  
 
重苦しい沈黙の後、受話器越しに小さな溜息が聞こえ、再び望が話しだす。  
『そのことなんですが……もし良ければ……その……』  
 
奈美の頭の中は途端に真っ白になる。何せ、この望の電話は、もしかしなくとも……  
(先生からの、お誘い!?私に!?まさか!?)  
そんな奈美の心中に遠慮することもなく、望は続ける。  
 
『あの……お願い、できないでしょうか』  
「へ?あ、そ、は、いえ……」  
『いや!ダメならいいんです!聞かなかったことにして下さい!では!』  
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」  
本気で切ろうとする望を、慌てて引き止める。  
「ダメだなんて言ってませんってば!……わ、私は構いませんから!全然構いませんから!」  
不必要なぐらいに念押しする奈美。頭が熱くなって、勝手に言葉を発してしまう。  
 
『あ、ありがとうございます……その、それでは……』  
しばし沈黙した後、お礼と待ち合わせ場所を伝えてくる望。  
学校の近くにある、全国チェーンのファミレス。何故そんなところで待ち合わせるのかはよくわからない。  
「はい、了解しました。それじゃあ……また後で」  
『ご迷惑をかけて申し訳ありません。では」  
 
電話を切った後、奈美は放心状態に陥っていた。いや、むしろ興奮状態、だろうか。  
先ほどまでうじうじと悩んでいた自分に感謝したい気持ちにまでなっていた。  
(下手にアタックしないでよかった!おかげで先生から……先生の方から!)  
 
余り物には福がある。そんな格言を思い出しながら、奈美はしばらくベッドの上でくねくねしていた。  
 
奈美が待ち合わせ場所に着いたのは、待ち合わせ時間の10分前だったのだが、望は既に到着していた。  
 
「すいません、待たせちゃいました?」  
「いえ、今来たところです」  
テンプレート通りの会話を交わし、二人は店内に入る。  
 
「……ところで先生、なんでファミレスなんかに?」  
空いている席へと向かいながら、奈美はそれとなく質問した。  
ちょっと考えるような表情をした後、望は頭を掻きながら答えた。  
「……身体だけを要求しているように思われるのが嫌だったので……」  
朝食ぐらいはご一緒しようかと思いまして、と繋げる望。  
「そんなに、気を使わなくてもよかったのに」  
「いえ、これぐらいしかできなくて……」  
「デートのお誘いかと思って、ちょっと期待しちゃったじゃないですかー、なーんて……」  
「はは、だからおめかししてるんですね?可愛いですよ、日塔さん」  
 
硬直。  
 
「へ?え、い、いや、じょ、冗談ですよぉ?」  
「え?な、なんだ、そうだったんですか」  
あははは、と乾いた談笑を交わす。  
 
(う、うわーやば、顔赤い……)  
(き、気まずいことを言ってしまったような……)  
 
それから、頼んだ料理が来るまで、特に会話はなかった。  
 
 
場面変わって、宿直室。  
あれからどんな会話しながらここまで来たのか、奈美の頭にはさっぱり残っていない。  
 
―可愛いですよ―  
 
今日の望には、いつも通りに自分を"普通"とからかう余裕はない。  
これから身体を預けられることもあって、自分に気を使っているのかもしれない。  
 
それでも、嬉しかった。少なくとも今日の望の前で、自分は"普通の生徒"ではない。  
 
「奈美さん……あの、そろそろ……」  
望の声で、奈美は現実に急速に引き戻された。気づけば望の顔が、すぐ前にある。  
いつの間にか、ファーストネームで呼ばれている。悪い気はしないけれど、なんだか気恥ずかしい。  
 
いよいよ、というわけである。何か気の効いた、普通は言わないような一言ぐらい、添えておきたい。  
 
「……先生」  
「なんでしょうか」  
「優しく……してくださいね?」  
 
……しまった、と奈美は思った。考えすぎて、かえって普通の言葉になってしまった。  
(こ、これだから私はいつも普通女って言われるのよ……)  
勝手にショックを受けている奈美とは対照的に、望は頬を染めていた。  
 
(思いのほか、しおらしい子だったんですね……)  
 
嗚呼、すれ違う想い。  
 
「では……奈美さん、服を」  
「あ、はい!」  
 
いそいそと真新しいワンピースを脱ぐ。先生に"可愛い"と言わせた服。記念にとっておこうか。  
同時に、望もまた上着を脱ぎ捨てた。こちらは随分と脱ぎやすそうだ。  
 
上半身裸の望に、ブラジャー姿の奈美。二人はしばし、見つめ合う。  
 
「……ふ、布団はこっちです」  
桃色の雰囲気に耐えられなくなった望が、奈美を布団へと誘う。  
言われるがまま、その中へと入る奈美。望も、すぐその後に続く。  
 
初めて触れる望の身体に、いささか奈美の気持ちも高揚する。  
(意外としっかりしてるんだなぁ……)  
軽く抱きしめると、望がぴくりと反応した。  
 
「……積極的ですね」  
「へぁ?いやいやいやいや、ちょっとした興味ですから!」  
慌てて掌をぶんぶんと振る奈美。その顔はすっかり真紅に染まっていた。  
「それじゃ、私からもお返しです」  
「ふえ?んむ……!」  
 
身体が密着している以上、お互いの顔も近い。キスをするにも楽な距離。  
奈美はあっさりと唇を奪われていた。  
 
「……っ、先生も、十分積極的じゃないですかぁ」  
「だからお返しと言ったでしょう」  
「む、まあ、そうですけど」  
キスの余韻に浸りながら、ほんわりした会話を交わす。  
 
が、そんな言葉を交わしながらも、望は次の行動をゆっくりと始めていた。  
 
「ひゃっ!?」  
望は奈美の背中に手を回し、ブラのホックを外し……奈美の胸はあっさりと曝け出された。  
続いて望は、その胸を両手で軽く撫で摩る。  
 
「……んぅ」  
こもった声。胸に直接触れただけで押し黙る奈美に、望は軽い興奮を覚えた。  
「……や、んん……」  
少しずつ力を強め、若干揉みしだくような動きを加えると、奈美の声も少しずつ大きくなる。  
「どうですか、奈美さん?」  
「……はぅ、ちょっと、くすぐったい感じです……」  
「じゃあ、もうちょっと強くしますか」  
「っ……!痛ぅ!」  
「あ、す、すいません!力加減が難しくて……」  
 
普通少女は感度も普通。胸の揉み方にしても、普通を求めるのだろうか。  
 
「……ぁふ、今、ぐらいが……」  
それでも望は、丁度良い力加減を無事習得した。  
右手はそのまま右の丘を揉み続け、左手で奈美のボディラインをなぞっていく。  
「ん、くふぅ……あぅ、うぅん……」  
くすぐったいのか、しきりに奈美は身体をよじる。まるで望の手から逃れようとするように。  
しかし望は、逃がさないように奈美の身体をがっちりとホールドしているので問題ない。  
「や、んはぁ……先生……」  
とろんとしてきた奈美の視線が、望の視線とかち合う。  
 
「奈美さん……」  
その目に触発され、望は自由に動く左手を奈美の下腹部に滑らせていく。  
「ひあ、あ、ひゃん!」  
その手が太ももに達したところで、奈美の声が一層甲高いものとなった。  
秘部の近くに触れた望は、奈美の身体が少しちぢこまったような気がした。  
「……は、ふぅぅ……」  
奈美の口から漏れ出る吐息が、望の頬に届き、彼の絶棒の充血を促進する。  
たまらず望は、奈美の秘部に手を伸ばした。  
 
「ぅ、ひゃあん!」  
触れただけで、奈美の身体が大きく跳ねた。同時に、鈍い音を立てて二人の額がぶつかる。  
「いだっ!?」  
「あっ!?ご、ごめんなさい、先生……」  
とろける様な表情のままで謝罪されたことが、おなじみな望のサドッ気を呼び起こす。  
「大丈夫です。もうぶつからないよう、予防しておきましょうか」  
「え、よ、予防……むぅ?」  
 
唇を、触れ合わせる。これで奈美の頭は固定され、額がぶつかるようなことはない。  
 
「んむむ……んぅ!?」  
口を塞いだままで、望は器用に絶棒を取り出し、奈美の秘部に宛がう。  
「んん!ん、んむぅ!」  
完全に口を塞がれているため、嬌声も自然とこもった声になる。  
段々息苦しくなってきた奈美は、自由な両手でどんどんと望の胸を叩き始めた。  
が、気にせずに望は腰を動かし始める。  
「んぅぅ!ん、むん、んん!ん、んんんん!」  
絶棒が強く自分の中を擦る感触に、奈美は一気に息を吐き出してしまう。  
息苦しさが、増す。望の胸を叩く手にも、自然と力が篭り始めた。  
 
そこまで来て、望はようやく奈美を解放する。正直、自分も苦しくなってきたので。  
 
「奈美、さん。そろそろ、ですか?」  
「はぁ、はっ、やん!んぅ、はぅん!」  
答えは、ない。息を整えるのと、快楽に身を委ねるので、精一杯。  
 
少なくとも、限界は近かったが。  
 
「……ぅく、い、逝きますね……!」  
「は、んぅっぅ、ひやぁぁぁぁあああ!」  
 
結局、二人はほぼ同時に絶頂に達した。そういえば、同時に逝くことができたのは久々だろうか。  
 
……それにしても、この男、早漏である。  
 
 
「……先生、聞くのを忘れてたことがあるんですけど」  
「はい?」  
「あと何人なんです?」  
「……二人、ですね」  
 
つまり、既に自分以外の七人と交わっていたことになる。奈美にもそれぐらいの引き算は出来るのだ。  
 
「えーっと……とりあえず。頑張ってくださいね、先生」  
「……"普通"の応援、ありがとうございます」  
「ちょ、普通って言うなー!てか、この雰囲気で使うの酷くない!?」  
「冗談です……"普通"の」  
「もーっ!」  
 
奈美は、口では文句を言いつつも、妙に安心している自分に気づいていた。  
 
(やっぱり……先生はこうでなくっちゃね!)  
「?……奈美さん、どうかしましたか?」  
顔に出ていただろうか。望が首を傾げた。せっかく聞かれたのだから……宣言を、しておくことにする。  
 
「糸色先生」  
「なんでしょうか」  
「……私、先生にとっての……普通じゃない、特別な一人になってみせますからね!」  
 
望は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。  
(今は無理でも……いつか、絶対!)  
心の中で一文を付け加えると、奈美はそのまま、宿直室から飛び出して行った。  
 
「あ、奈美さん!?」  
 
そのとき。  
 
咄嗟に後を追いかけようとした望に、眩暈が襲いかかってきた。  
 
「っ……!?」  
思わずその場に倒れ伏す。  
考えてみると望は、昨日の夜からまともに寝ていない。  
 
意識に支障をきたしても、無理はない。  
 
「……ちょっとだけ……寝ておきましょうか」  
 
まだ時間は正午前。タイムリミットまで18時間以上はある。  
望は、まだ温もりの残る布団まで這い寄り、そっと瞼を閉じた。  
 
しかし望は、この時自分が重大なミスを犯したことに……まだ、気づいていなかった。  
 

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