「絶望した!完全に機能していない自分の体内時計に絶望した!」  
 
望は、文字通り絶望していた。これほどの絶望感は久しぶりかもしれない。  
筋違いとはわかっていても、セットしなかった目覚まし時計に八つ当たりするほどだった。  
 
現在時刻、午後10時。実に、眠り始めてから10時間。  
タイムリミットまで八時間しかないというのも問題だが、何より問題なのは……  
「この時間から外出できる女子生徒など、いるはずもない……」  
朝方奈美に連絡を入れた後、望は誰とも約束を取り付けていない。  
つまり、このままタイムリミットまで……もう誰とも接触は望めない、ということなのである。  
 
望は頭を抱えた。ここであっさり死んでは、今までその身を預けてくれた生徒達に申し訳が立たない。  
(何か……何か、方法は……!)  
枕元に置いてある携帯電話が目に留まる……無理は承知の上、恥を忍んで誰かに連絡を入れるか?  
 
ふと、気付いた。携帯の背面ディスプレイに、未読メールのマークが浮かんでいる。  
 
「……音無さん?」  
四件のメール。その差出人は全て、毒舌メール少女音無芽留だった。  
 
15:00 『なにやら困ってるんだってな 手貸してやってもいいぞ』  
15:09 『返信ぐらいしたらどうだ ハゲ』  
15:15 『このメール見たら 返信しろ』  
15:42 『力を貸してほしかったら校門前に来い 確かに伝えたからな』  
 
もう六時間以上も前のメール。  
そこに記されていたのは、紛れもない呼び出しのメールだった。  
「このメールが来た時、目が覚めてさえいれば……」  
望は溜息を吐いた。芽留の折角の好意を踏みにじってしまったのだ、と。  
 
が、しばし考えた後。望の脳裏に一つの疑問が浮上した。  
 
「……なんで、ここでメールが終わってるんでしょうか」  
芽留の性格から言って、返信が来るまでメールを送り続けてきてもおかしくはないのに。  
六時間もの時間が経過しているにも関わらず、望を咎める内容のメールすら届いていない。  
 
ただ単に、いつまでも返信をしなかった望に怒っているだけかもしれない。  
しかし、もしかしたら……万に一つの可能性がある。  
 
望は、宿直室を飛び出して行った。  
 
万に一つの目が出た。  
望は、校門の裏によりかかって寝息を立てる芽留の姿を見つけたのである。  
 
おそらく芽留は、一通目のメールに対する返信から、校門前に居る事を伝えるつもりだったに違いない。  
が、二通目三通目と送っても望からの返信がなく、痺れを切らして呼び出しのメールを送ったのだろう。  
そして、それでも望が来なかったがために……待ちくたびれて眠ってしまった、と予測できる。  
 
望の心に罪悪感が溢れる。ひとまず芽留を起こそうと、望はそっとその肩を揺すった。  
 
「音無さん、音無さん……起きてください、音無さん……」  
何度か揺らしたところで、芽留はぼんやりと目を開き、望の顔を見てビクッと身を強張らせた。  
ついで辺りをせわしなく見渡し、状況が把握できずにひたすらおろおろし始めた。  
「すいません。詳しいことはすぐに話しますから……ひとまず宿直室へ」  
 
望は、芽留の手をひいて立たせようとした。が、芽留はぺたんと尻餅をついてしまう。  
「音無さん?」  
芽留は、右の脚を押さえて座り込んでいる。  
おそらく、無理な体勢で寝続けたために脚が痺れてしまったのだろう。  
 
「……ちょっと、失礼しますね」  
望はそんな芽留の身体をふわりと抱きかかえ、宿直室への道を戻ることにした。  
 
御馴染み、お姫様抱っこスタイル。芽留はぼんやりした表情のまま、顔を赤らめていた。  
 
めるめる……めるめる……  
 
『で 今頃気付いて ようやく探しに来たってわけか』  
「本当に申し訳ありません」  
『レディを六時間も待たせるなんて ろくな男じゃねーな』  
「返す言葉もございません」  
 
宿直室、重ねた座布団の上に座る芽留。その前で完璧な土下座スタイルを貫く望。  
明らかすぎる非がある以上、望にできるのはひたすら謝り続けることだけだろう。  
 
何しろ今、芽留の目にはうっすらと涙がにじんでいる。  
ひたすらに放置されていたことを思い出し、その時の寂しさも思い出してしまったか。  
いつもなら毒舌メールを打つ時ももじもじと身体を揺らしているのが芽留のスタイルだったのだが……  
今の芽留は、時折袖口で目をこするぐらいしか動かない。  
 
まとい、倫に続き、望がこの三日間で泣かせた女子生徒はこれで三人目。つくづく女泣かせな男である。  
 
一通りの毒舌で罵倒し終えたのか、ようやく芽留のメールを打つ手が止まった。  
とりあえず気は済んだようだと判断した望は、ふと思いついた疑問を口にする。  
 
「あの、音無さん」  
『なんだ ハゲ』  
「何故、宿直室まで様子を見に来なかったんですか?」  
『そんなことしたら オレが積極的にアタックしてるみたいじゃねーか』  
「……なるほど」  
根は消極的(真偽は定かではないが)な芽留のこと、押しかけるという選択肢を選べなかったのかもしれない。  
 
芽留がメールを打たず、望も口を開かない。宿直室はしん、と静まり返った。  
 
ぴろりぱろぴりろら♪  
 
そのとき、望のメールにメールが届く。差出人は……"木津千里"。  
 
『先生!もう、10人のノルマはきっちりと達成しましたか?  
 明日の七時、先生の様子を見に行きますので、印鑑の準備をお願いします。』  
 
あまりにもタイムリーなメールに、望は唖然としてしまった。  
その不審な様子に、芽留もまた望の携帯画面を覗き込んでくる。そして固まる。  
 
……宿直室内の空気が、さっきよりも重くなった。  
 
その空気を破ったのは、意外にも、驚いたことに、珍しく、望の方であった。  
寝ていたとは言え、自分を待ち続けてくれた芽留の行動に、望が少なからず感謝していたことの表れと言えよう。  
 
「音無さん……いえ、芽留さん……」  
「……!」  
名前を呼ばれただけでビクつく芽留に、望は意を決して言い切った。  
「今更厚かましいことですが……どうか、私の相手をしてもらえませんか?」  
 
ぼっ、と音がするぐらい急激に、芽留の頬が真紅に染まった。  
続いて、いつもよりもさらにおどおどした雰囲気のまま、芽留はメールを打ち始めた。  
 
『そもそも オレがなんのために来たと思ってんだ』  
『察しろ』  
 
連続して届いた二通のメールは、望との行為に対してのOKサイン。望は、携帯を閉じた。  
 
目の前の少女はいつものように、もじもじと太ももを擦り合わせている。  
望がそのももにそっと触れると、芽留は携帯の画面をこちらに向けた。  
『エロめ』  
あまりにストレートな表現に望が思わず苦笑すると、芽留は一層赤面し……  
 
携帯を閉じ、望に手渡した。  
 
「……芽留さん」  
携帯依存症、携帯がなければ会話もろくにできない芽留が、自分の意思で携帯を手放そうとしている。  
「いいんですか?」  
確認を取れば、芽留はこくこくと小さく、しかし何度も頷く。本人がそう言う以上、断るわけにも行かない。  
望は芽留から携帯を受け取ると、自分の携帯と一緒にちゃぶ台へ置いた。  
 
芽留は、小刻みに震えていた。  
ただでさえコミュニケーションが苦手な少女のこと、異性との性交など恐怖の対象かもしれない。  
まずは、その恐怖心を取り払うところから始める必要がある。  
 
「芽留さん……仰向けに、寝てもらえますか?」  
望は、芽留の背中にそっと手を当て(それだけで芽留の身体は酷く緊張した)、ゆっくりと身体を倒させた。  
その横に自分も寝転びながら、望は出来る限り優しく、芽留の身体を抱いた。  
 
腕の中、かちかちになっている芽留の体温を感じ、望は目を閉じる。  
 
……一分ほど、そうしていただろうか。  
芽留の震えが段々と収まってきたのを感じ、望はそっと芽留の腕を撫でる。  
だいぶリラックスしたのか、芽留は特に抵抗もせず、触れられるがままに身体を委ねた。  
 
「……もう、大丈夫ですか?」  
確認を取るべく、望は尋ねる。応じて、こっくりと大きく頷く芽留。  
 
それを見た望は、"本番"に移行する決意を固めた。  
 
腕を撫で摩っていたその手を、芽留の袖口から服の中へと差し入れる。  
一般的な女子高生としては薄い胸のわずかな膨らみは、望の手にあっさりと収まった。  
 
「……っ……!」  
声にならない、いや、声にしない喘ぎが、芽留の口から零れた。  
望が小さな膨らみを掴むようにして揉みしだき始めると、芽留の口から出る吐息は周期的なものへと変化する。  
「……っ……っふ……っは……」  
意地でも声は出さないスタンスなのだろうか、口から漏れ出るのは吐息ばかり。  
 
「……んぅ!」  
しかし、敏感な丘の頂点を指で弾かれると、流石に堪えきれない嬌声が零れた。  
「……ん、んぁ……ふぅ、っ……!」  
望がピンポイントにその点を責め続けると、芽留の口からは、普段聞けない声がどんどん流れてくる。  
気付けば望は、自由だったもう片方の手も、芽留の服の中へと侵入させていた。  
「っは……は、ぅん……ひゃ……」  
ひたすらに一点を責め続ける望の手つきは、芽留の意識を急速に絶頂へと連れて行く。  
 
すぐに逝かせるわけにはいかない。  
 
芽留の様な少女は、一度絶頂に達してしまうと、再び"逝ける"態勢を整えるのに時間がかかる。  
望は、チャラチャラ遊んでいた青年時代の経験から、それを知っていた。  
 
唐突に望の手が止まり、芽留は物足りない目をする。大きな瞳が艶を帯び、望を見返している。  
 
「芽留さん……下着を、どかしますね」  
「……!?」  
 
宣言通り、望はするすると芽留の可愛らしい下着を脱がせていく。  
スカートも一緒に下ろそうとしたのだが、上手いこと下ろせなかったので下着だけ。  
望は、すぐに曝け出された秘部へと指を持っていく。  
 
「……ひゃわ!?」  
望は、芽留の身体に快感が残っているうちに、手早く行為を済ませるつもりだった。  
もうこれ以上、芽留を待たせるようなことはしたくないという考えから、である。  
「……ぁ、ぁぅう!ふぅ……!」  
軽く折った指を芽留の中へと差し込み、女体の最も敏感な部分を強く刺激すると、芽留は強く歯を食いしばった。  
事前準備は、もう十分に整ったといえるだろう。  
 
皮肉なことに、望の絶棒の方はとっくに準備万端であった。  
10時間の睡眠は、望の性欲をも完全に回復させた、ということだろうか。  
「……っふぁ……はぁ、はぁ……」  
望は呼吸の荒れる芽留の中からそっと指を出し、代わりに絶棒をゆっくりと挿入する。  
 
(……き、きつい、ですね……)  
望にとって、経験したことのないキツさだった。  
内部が狭いのか、締め付ける力が強いのか……ともかく望の絶棒は強い圧迫感に悲鳴をあげた。  
「ああ、い、ぁああああ!」  
芽留の方も、それは同じ。自分の中へとねじ込まれる異物の感触に、悲鳴に近い喘ぎをあげる。  
 
腰を動かす余裕が、ない。  
 
挿入する側の望でされ多少の痛みがあるのだから、される側の芽留には、もっとひどい痛みがあるはず。  
できるだけ早く行為を終わらせなければ、芽留の体力が持たない。  
が、身体を上下させることが出来ないのでは逝くことができない。  
 
はず、だったのだが。  
望の絶棒は、性欲こそ戻ったものの、三日間の酷使で弱りきっていた。  
なんとも情けないことに、芽留の締め付けの力だけで、あっさりと絶頂に達してしまったのである。  
 
「…………」  
 
逝った直後の脱力感も相まって、流石の望も絶句した。  
 
ともあれ、芽留をそのまま放置するわけには行かない。  
白濁液を吐き出し、すっかり柔らかくなった絶棒を抜き取ると、望は芽留の秘部に再び指を差し込む。  
「……あぅ!ひゃ、はわ、あああああ!」  
再開した振動に、芽留はまた大きな嬌声で答える。  
 
案の定、というより予想通り、というべきか。一分もすると、芽留はあっさり気絶してしまった。  
 
 
『あんなに痛いなんて 聞いてないぞ』  
「予想外だったんです」  
 
二人は、しばし前の土下座陣営に戻っていた。  
 
意識を取り戻した芽留は、しばらく放心状態だった。  
秘部に響いた痛みと、おそらく経験したことのない快楽が、彼女の力を根こそぎ奪ったからであろう。  
が、その後行われた望の献身的手当てにより、芽留はようやく元気を取り戻したのである。  
『ヘタクソ』  
「おっしゃるとおりで」  
まだしばらく、この非難は終わらない。望はそう感じていた。  
 
なぜなら、芽留がいつもの表情に戻っていたからである。  
もじもじと身体を揺らしながら、どこか楽しげにメールを打つ。  
どんな罵詈雑言(バリゾーゴン)を送信されようと、芽留が普段通りになったのはいいことだ。  
しばらくの間は大人しく受け入れる用意が、望の心にもあった。芽留の気が済むまで、罵られよう。  
 
(やっぱり、私はマゾ……?いやいや、待てよ……)  
食傷気味な脳内議論は早々と終わらせ、望は芽留を家に送り返さなければならない。  
 
そして、最後の一人も探さなければならない。  
 
……タイムリミットまで、あと七時間を切っている。  
 

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