「・・・いっ、ちゃん?」  
「なんだ」  
緊張して口調の変わってしまった  
でもカノンは気にしていないようだ  
「いっちゃん、わたしね・・」  
「わかってる」  
初めてなんだ・・・。  
「うん・・・よろしく、ね?」  
顔を真っ赤にして蚊の鳴くような声で呟くカノンに激しい劣情を感じた  
ゆっくりとカノンの上体を起こし、強く抱きしめる  
「・・すごい、解る、いっちゃんの心臓の音」  
「・・僕もよくわかるよ、カノンちゃん」  
二人は抱き合い、互いに肩口に顔をうずめながら、一言二言、短い会話を交わす  
うまくリズムがつかめない、お互いに焦った、お互いがどうすれば満たされるのかも解らなかったし、何より二人ともこんなシチュエーションには慣れていない  
 
伏は、うっすらと熱を帯びたカノンのその首筋に、短く口付けを施してみた  
「あっ!」  
カノンの体がゾクッと震えた、よくわからなかった、キスしただけなのに、なんで?  
「大丈夫?」  
つくづくムードの無い問いかけだ、でも今はそんなことを気にしている余裕も無い、ただ単純に二人は互いを快楽の高みへと導くべく愛撫を続ける  
何を思ったのかカノンはさっきから伏の肩をあま噛みすることを続けている  
「・・・いっちゃん、キス、して・・」  
無言で自分の方を見つめる伏、切れ長の、だがしかし吸い込まれそうに大きな目、そうだ、この目が、自分を狂わせる。  
そう、どうされてもいいと思ってしまうのだ、あんなに人間が嫌いだった自分が・・・。  
「・・・」  
目を閉じて、そして待つ、もう流れに身を任せることにした、体の力を抜く  
「・・・ふ、ん・・・」  
舌が絡み合い、甘美な擬音を部屋に充満させる、カノンはまるで乳飲み子のように伏の唇から口を離さない  
伏も同様に。  
二人は互いに愛しいその唇を味わいそして、互いの境がだんだん取り払われてゆくのを感じあった  
 
「カノン・・ちゃん?」  
「ぷは・・んゅ?」  
「布団、引きっぱなしなんだけど」  
「最初からそのつもり・・・。」  
にっこり微笑んでカノンを抱きかかえると、ゆっくりと布団の上へと寝かせた  
寝かせられたカノンがこちらを見てうなずく  
「・・・うん」  
「・・・・・」  
無言のうちに伏もそれに続く  
 
する・・と彼女のだぼだぼのジーンズをゆっくり脱がせる、傷ひとつ無い脚がその目の前に露になった  
・・・彼女という存在の何もかもが、美しく、いとおしく見え、頭がくらくらとしてきた  
綺麗な脚とのコントラストが目に痛い、白と黒の縞模様のパンティも、それに華を添えた。  
「ゃ・・」  
じろじろ眺められたのが嫌だったのだろうか、カノンは脚を閉じる仕草をした  
「・・・綺麗、だね。カノンちゃん」  
「・・ちゃん、つけないで」  
「え?」  
「名前、呼んで・・。」  
耳まで赤くなった、伏がだ。  
なんというか、一線を越えたような感じがする「ちゃん」ってついていないだけで少女は女になるな・・とひとりごちた  
再び視線をカノンの脚へ、そしてパンティへと戻す  
 
「・・・取るよ」  
「は・・い」  
するり、簡単に脱げた  
伏は思わず眼をそらす、凝視するのもなんだ  
「ほんとに・・・少し濡れてる・・。」  
同人誌じゃないんだ・・・今更三次元の感動に酔いしれる伏  
 
「・・・いっ・・ちゃん?」  
「なんだい?」  
「・・・よろしく、お願いします」  
ぺこり、とカノンは頭を下げる  
「こちらこそ」  
 
小さな、でもやわらかい、小さなふくらみ、それを優しく口に含む  
甘い・・のか?  
正直そんなドラマチックな感覚は無い、そっけない無味、でも・・・甘い。  
謎だ。  
「・・ぅ。う・・くすぐった・・」  
噛んでみた  
「きゃ!」  
「痛い?」  
「・・・」  
さっきから顔を真っ赤にして何も答えないカノン。  
もっと盛大に喘ぐもんだと思っていた伏は、改めてエロゲの嘘を体感した・・・訳も無く、またカノンへの愛撫を一心に続けた。  
「・・い・・ぁ・・んぅう」  
「うわ・・・どんどん濡れて・・。」  
つつ、と秘部に指を滑らせた  
「そんな・・言わない・・あぁ!」  
指をちょっと中に入れてみる  
「う・・ぁ、いっちゃん・・い、い・・。」  
「エッチだなぁ・・カノンは。」  
「・・ひゃ・・ぁ・・いじ、わる。」  
汗ばんだ肌から甘い香が漂う、まるで天女のようだ、綺麗な薄紫の髪をさらさらと撫でてやると、カノンはまるで小動物のようにふるっと震えた。  
「・・う・・・あ、ん・・ぁあん、こんな、いいよぉ・・あっ」  
だんだん声が上ずって来た、それに伴って自分もだんだん高まりを感じる・・  
「いっ、ちゃん・・・」  
「いい・・・?」  
「はい・・・。」  
 
するりとズボンを脱いだ  
「・・・すご・・」  
「・・・」  
心臓がバクバク言っている、頭がふわふわだ  
「・・いくよ」  
カノンに自らをあてがう  
「・・・来て・・。」  
ゆっくりと腰を前へと進める、正直なところもう我慢でき無そうだ、おっかなびっくりだ。  
「いぃ!い!・・・く・・。」  
少し入ったかな・・というところでカノンが叫んだ  
「大丈夫!?」  
「・・はぁ・・・は・・ぁ・・平気・・・だ、よ。」  
潤み声でカノンは言った、とても痛いのだろう、息が荒い上に、今にもあふれんばかりの涙が眼に湛えられている  
「・・じゃ、いくね」  
「・・・ふ・・うん」  
またすこし腰を進める  
「ぅあああっ!ひっ・・・あっ!」  
このままもたもた続けてもカノンも痛いばっかりじゃないか・・・  
その眼からは大粒の涙がぽろぽろと流れ落ちていた、その涙は決して愛する男と初めて結ばれる事の感動の為せる物だけではあるまい  
・・・まだ血は出ていないようだ、カノンの「そこ」からは愛の雫だけがこぼれている、必死に耐えているのか、歯を食いしばっている。  
そのけなげな姿に、伏の男は更にそそられるのであった・・・。  
でもそんな我慢も長続きするわけも無く・・。  
「いぃ、いたいよぉ!いっちゃん!ぃ・・あぁあああ!痛い!痛いよぉ!!」  
泣き崩れるカノン、かなり強い力で抱きすくめられる  
「・・・よそう、痛いだけだよ」  
腰を浮かせる、名残惜しいけど、でもカノンが泣いてるところなんて見たくない  
「・・!だめ・・ぇ!いっちゃんと・・・いっしょに、なる・・ん・・・だからぁ!」  
ドンッ!  
カノンが一気にこちらに体重を掛けて押し倒そうとする、ごろんと横に転がると、布団から転がり落ちて柔道のように畳に倒れこんでしまった  
結果的に、騎乗位、つまり。  
 
「・・ぁあああああああっ!!!」  
自身が何かを突き破った感触、そして・・・・血。  
「・・はぁぁっ・・・はぁっ・・・!」  
肩で息をしている、限界じゃないのか?腹の上にぽたぽたと涙が落ちてくる  
「カノン!!」  
急いで体勢を戻そうにしても、すかさずカノンが手をつかんで離さない。  
「はぁ・・・いっちゃん・・・・・・はぁ・・・痛くても・・いいから・・いい・・から・・して・・・。」  
「・・解った、解ったから、こんな格好じゃ痛いだけだから、体位、変えるよ?」  
「うん」  
ゆっくりとまた、カノンを下にした正上位へと体位を移す、ゆっくりと  
「・・?痛くないの」  
「はぁ・・うん・・なんだか、みんな入ったら・・うん」  
「・・じゃあ、動いていいかな」  
返事の前に腰を進める  
「・・ふぅ・・あ」  
くちゅ・・と、時折淫らな音がして、あとはカノンが小さく喘ぐ声しか聞こえない  
「ふぅえ・・え・・いっちゃん・・・ん・・あ!」  
マズい・・・可愛すぎる、痛がってばかりで顔を見る余裕なんて無かったが、カノンの清楚な、それでいてどこか欲に乱れた微妙なその表情は  
伏の理性を吹っ飛ばす破壊力を十分に持ち合わせていた。  
「い・・い・・いぃ・・よぉ・・あ・・ぁあ」  
だんだん口をついて出る言葉が取り留めの無い「声」になってきた、彼女も限界が近いのだろうか  
そんなことを考えるでもなく、腰の動きを早める  
秘部と秘部とがこすり合わさる水を含んだ音が、カノンの体から香るコロンのような芳香が、どんどん二人を快楽の螺旋へと導いてゆく  
伏は登りつめるべく、そしてカノンはその精を受けるべく、互いに貪欲に求め合う  
「いっ・・あっ、あっ、あっ、あっ、あぁああっ!もぉ・・あぁ・・なにぃ・・これぇっ・・・ひぃぁ・・きゃ・・ふ」  
理性が吹っ飛んだはず、だけどなんだかとても幸福感に包まれているような気がしてならなくて、伏はカノンの顔を見つめる  
 
・・・嗚呼、いったいどれだけこの時を待ちわびたのだろうか?  
愛する者と、時を共有するこの一刻一刻、電源を落しても続くコミュニケーション、それは決してこのような淫らなひと時だけではない。  
いつも自分がディスプレイに感じていた孤独感、これを書いている奴のようにキーボードとマウスによってキャラへの愛をブチ込んでいる折に感じた虚無  
 
 
A4のパルプに乗った恋人、CD−Rの中にいる女、一見華々しいそれら何もかもの裏には、寂しさが影を潜めていた。  
辛かった。  
所属の関係でできなかった恋愛、社会に戻ったところで、急に女といちゃいちゃするなんて、そんな器用なことは伏にはできなかった。  
それに、あの日、伏は何にも変えがたい女性を一人、失っていた。  
それはこの国をまともにするには軽すぎる、しかし伏には重過ぎた犠牲・・・。  
一連隊一中隊所属、高嶺夏暖・・・・  
タカネ・カノン、二等陸士・・・これが陸軍の最低位にして彼女の最終位になった。  
 
『大人になってからのことを考えなかったのかしら、名前・・・ねぇ、いっちゃん?』  
 
くすり、と笑ってそうぼやいていた彼女、秘密の逢引、ばれちゃマズい、みんな協力してくれた。  
一中の奴らも、二中の奴らも、みんな。  
除隊した後、みんなには、一中の奴らを除いたみんなには「気にするな」と言っておいた、だれだってのろけ話ぐらいしたいだろう  
わざわざ自分の感傷でタブーを作るようなことはしたくなかったからだ  
でも、寂しかった、いつも眼を閉じれば、気の強そうな彼女が笑っていた、その眼の覚めるように黒い、ボブカットの髪を風になびかせて。  
 
『いっちゃん、いたい・・・・いたいよぉ・・・いっ・・・ちゃん・・・おなか・・・お腹・・・痛い・・・。』  
死因:右側下腹部銃創による失血死  
決して心地よくなどない、この眼で見ることの無かった夏暖の最期の夢、涙を流し血みどろで助けを求める夏暖  
それでも伏は布団から飛び起き、愛しさに夜通し泣き続けた。  
 
 
・・・回想から、現実へと戻る  
決して彼女を忘れたわけではない、彼女から乗り換えたのでもない、でも・・・カノンに夏暖を重ね合わせているのではない。  
ただ、カノンが愛しかった、生きている、こうして血の通ったカノンが  
『夏暖、いや、夏暖ちゃん・・・頼む、今は僕の浮気を許してくれ』  
夏暖はちゃん付けで呼ばないと怒ったっけ・・・よっぽどそっちのほうが子供っぽいのにね。  
瞼の裏で、クスリ、と夏暖が微笑んだ、そして、見えなくなった。  
「いっちゃん!あぁっ!・・いっちゃん・・・・・・あたし・・あた・・・ああああああぁっ!」  
「・・・カノンっ!」  
『夏暖、ごめん!』  
 
「ああんっ・・いっちゃん!ひぁああっ!あああああっ!」  
「・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・・カノ・・ン・・・。」  
「・・は・・ぁ・・あ・・いっちゃ・・ん。」  
・・・それから、何も言葉を交わさずに、少しの間二人は、惰性の時間を楽しんだ。  
まあ、疲れて寝てしまったというのが本当なのだが。  
 
・・・錆びた音で眼が覚めた、3回  
「・・・!こんな時間だ!」  
「・・んぅ・・なに・・!わっ!」  
午後三時、こんな時間、と言いながら、かなりいい時間に眼が覚めた。  
「・・・どうする?」  
「服?」  
「うん」  
「そりゃあ・・行くよ、こんなに汚れちゃったし」  
横目でちらりと服を見るカノン、顔に火がつく  
「よし・・・よいしょっと」  
掛け声をかけて立ち上がる  
「・・・まって」  
「何?」  
「ちょっと、座って」  
訳もわからずそこに胡坐を書く  
カノンは正座  
「・・・いっちゃん・・・一貴さん・・・」  
「・・うん」  
「・・・・・・ふつつかものですが、よろしくお願いします。」  
深々と頭をたれたカノンが、顔を上げると同時に、伏はカノンに抱きついた  
「いいの?オタクで」  
「・・うん」  
「ほんとに」  
「・・・・いっちゃんなら、いいもん!」  
 
はみゅっ・・・  
 
この日二回目の口付けを交わした。  
伏の瞼の裏では、夏暖がちょっと悔しそうに、でも満面の笑みを浮かべて、伏に親指を立てていた。  
 
〜完〜  
 

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