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首都東京のちょっと入り組んだところにある男の家、  
この家主、伏 一貴その家に数日前から転がり込んできた少女、カノン。  
今回はその二人のあまあまでピリ辛なお話  
 
伏とカノンの出会いは数日前にさかのぼる  
 
ここは東京郊外の田舎町、小さな朝露が雑草の葉の上に乗っかっている。  
今は朝の6時、小さな砂利の敷いてあるスペースに数台の車が、主にRV車が停まっている。  
その駐車場(?)のすぐ横からは青々とした雑草がしげり、その先はうっそうとした雑木林になっていた。  
「ぐああああ、疲れた疲れた、夜通しだもんな、眠いよ」  
そう言って機関銃を背負った迷彩姿の15人ぐらいの男たちが、雑木林の道から出てきた  
「面白かったー、やっぱり夜戦だと緊張感が違うね、今日はこれからどうするの?」  
「俺、帰る、早く帰らないとカァちゃんに怒られちゃうよ」  
男たちは格好に合わないのんびりとした話題で盛り上がる  
今は戦時中ではない、この男たちはただ夜通し戦争ごっこをしていただけなのである。  
それが証拠に犬を連れた少女がそいつらの前を歩いて行った。  
「春日さんはだめかぁ、じゃあ若松、ゲーセン寄ってこうよ、今日暇だよ」  
「・・・ごめん、俺今日予定あるから」  
「え~、なになに」  
「おい、いっちゃん、これだよ」  
春日と呼ばれた男がすかさず小指を立てる、  
「ホントですか河田さん、おい、この裏切り者、貴様何時から」  
「頼むよ、今日誕生日なんだ、一緒にいなきゃ」  
「聞いてないよ、って事はこないだは女いるのに全日夏コミ行ったの!?」  
「いいじゃん、人付き合いだよ」  
若松は苦笑いしながら答える、そこに横から口を突っ込む奴  
 
「え~、どうやって言い訳したの三日間も!俺初日しか行けなかったよ、三日目行きたかったのに~」  
「仕事って言った、プレゼント買う約束してたからさ、バイト増やしたって言っちゃった」  
「ええい秋原もか、悪人共め、チョンガーの聖地を汚すつもりか!!」  
と、かなり落ち込んだ顔でふざける伏  
「え~、いっちゃん知らなかったの?それよりさ、今日俺も暇だよ、どっか行こうぜ。」  
さっき若松に夏コミについて愚痴った秋原だ  
「うん、秋葉出てエロゲ見てパーツ見てペッパーライス食って帰ろうぜ」  
「そうだ、それいいねいっちゃん!ねぇちょっとぐらい暇あるだろ、若松も行こうよ」  
「だめだよ、朝一で合う約束してんの」  
「ほらみろ、奴は病気なんだよ、奴は完全に三次元になっちゃったんだ、早くセル画に逃げ込もうぜ」  
「・・・。」  
辺りの他の男たちは挨拶も懇ろに車に乗り込んだりスーツに着替え始めたり・・・。  
二児の父だったり、休日出勤を控えているものがいたり、それぞれはそれぞれの生活に戻る。  
「みんな大変なんだね、やっぱ学生っていいね。」  
「そうだね、乗れよ」  
そういうと伏は車のドアを開けて乗り込む、秋原もそれに続く。  
伏は帰り支度をする面々に挨拶をし、朝の田舎道を秋葉原に向けて走り出した。  
 
スパパパン!  
 
スバル360の小うるさいエンジンが朝の秋葉原の喧騒をさらに引っ掻き回す  
「いっちゃんものもちいいよね~これ親父さんの車なんでしょ」  
「うん、親父から買ってそのまんまだよ、いい車だし新しいのなんか必要ないよ、この大きさなら保険も楽だし」  
「へぇ、僕も車ほしいなぁ、お金が飛んでくよ、同人誌にモデルガン、おしゃれもしなきゃいけないし・・・」  
「なんか我慢してためりゃいいじゃん、ついたよ」  
「ありがと~、まずはツクOで水冷キットみて~」  
「虎とK-BOOKSは外せないね。」  
およそオタクでしか理解し得ない話題で盛り上がりつつ歩行者天国を歩いてゆく二人・・・。  
こんな事ばかりしてるからお前には女ができないのよ、あなた。  
 
~~~~三時間後~~~~  
 
「お前買いすぎだぞ、360につめないよこんなに」  
「ごめんごめん、どうにかなんないかな」  
「大体ハコ13個も何に使うのさ」  
「本気で自作パソコン販売始めるの、今回安かったからね、かなり値段落とせるよ」  
「まったく、お前、屋根に乗れ」  
それからチンタラ走って秋原を家まで送ると、スタンドで彼から貰った燃料代で給油し、家路を急いだ。  
ここから10分で家だ、早く帰らないと居眠り運転をしそうだ・・・。  
家に着くなり伏は片付けも早々にシャワーを浴びまくり牛乳を飲みまくり本日の秋葉での戦利品を読みまくり  
まくり地獄に陥って床に付いた、むにゃむにゃ。  
そして夕方の5時、本日のその時です。by松平 定知  
 
コンコンコン!  
 
「誰だ!俺の安息の時を邪魔するサイヤ人は!」  
伏は眼を血走らせておまわりさんに叫べば確実にパトカーより救急車の来そうな台詞を吐くと  
バタバタと玄関に走った  
「どちらさんの降臨でしか?」  
どうせ来るのは気心の知れた友人だけなのでふざけた応対をする。  
「・・・」  
「あんた誰だ、もしやこれは俺の積年の願いがかなって美少女が俺を訪問しに来たのか?」  
愚痴り好きの近所の同人お姉さんが来たんだろうとふざけた対応を続ける伏  
「・・・」  
「なんだ、いたずらか」  
「・・・・あけ・・て、おねがい・・」  
「は?」  
「おね・・が・・・・。」  
 
ガラガラガラ!  
 
「うわわわわわわわわぁぁ~~~~~~~~~~!押しかけだぁ!コスプレ厨が押しかけに来た!」  
肉感的な脚、艶のある髪、巫女装束の少女が地に膝をついて肩で息をしていた。  
「ま!・・まって!おねがい・・・・・。」  
「うちは合宿所じゃねーやヴォケ!」  
「・・・う」  
ふらりと立ち上がり一言うめくと、少女はそのまま地面に倒れた。  
それを見てあわてないはずがない。  
「まずい、倒れた・・・おまわりさん、ぼくじゃない、撃ったのは奴だ!!」  
「う・・ん」  
それきり少女は動かなくなってしまった。  
「・・大変だ、死んじゃったのかな。ほっといたらスレの人たちがうるさそうだし・・」  
そういうと伏は少女をお姫様抱っこして部屋に持ち帰った。  
スッと微かに香る『おんなのこ』香り  
伏はなんだか落ち着かなくって何度もつまずきそうになりながら少女を床へ寝かせる。  
「面白い服を着ている・・・・でもちょっと汚れてるな、何があったんだろう」  
とりあえず布団を敷いて少女を寝かせたものの、これからどうすればいいかよくわからない伏は  
布団の前で座っていることしかできなかった。  
「・・・ふ・・・うん」  
鼻にかかった声で少女がうめく、うなされているのだ。  
「かわいいなぁ、あれ?おでこになんかついてる・・・取れない、インド人か。」  
「・・ううん」  
「どうしたんだろう、なんかやな夢見てるのかな、うずず、眠くなってきたよ・・・・ぐう」  
少女のお腹のところに顔をうずめて、伏は眠ってしまった。  
 
数時間後  
 
・・・・伏は目を覚まして、寝ぼけて布団に頭を突っ込んだままいろいろと考え事をしていた。  
「よく寝た、夕飯食べなきゃ、・・・。」  
伏はジロジロと時計を見る、もう8時だ。  
「 ! そうだ・・・夕飯作る前に起きてもらわなきゃ」  
 
「ねえ、おきてよ」  
「・・・・・・」  
伏は不安になってゆさゆさと少女をゆすってみた。  
「ううう、うううう」  
「あ!ねぇねぇ」  
「・・・何よ」  
「日本語通じるんだ」  
「・・? わかるわ」  
少女は寝ぼけて赤くなった目を擦ると、少し辺りを見回した  
そして急に正気に戻り目を見開くと、わなわなと壁まで後ずさりして叫んだ  
「あなた・・・誰!?」  
「君は?」  
「・・・・・。」  
少女は大きな目で伏をにらんでいる、気まずい静寂が辺りを支配しないうちに伏は自分から名を名乗った  
「僕は伏、君が玄関先で倒れたから寝かしてた、お腹すいてない?」  
「・・あたし・・・あたしは、カノン、ここはどこなの?」  
「どこって、古宿の八ヶ谷って所だよ。」  
「・・・そう、ここは、ニカイドス島じゃないの?」  
「え?・・いや・・うん・・・・地球」  
それを聴いてカノンはへたっと俯いた  
「・・・地球!?」  
「ニカイドス島って何処?」  
「・・・嘘!知ってるはずよ、こっちに沢山地球から人が来てゾイドを・・」  
「・・・さて、合宿所スレに報告するか、本当の住所を教えなさい、警察行こう」  
カノンはぽかーんと半分口をあけたまま伏を見ている  
「ねえ、じゃああたしのここを見て。」  
おでこを指差してカノンは言う。  
「外れないわよ、これ、風呂に入ってきてもいいわ。」  
「・・・・そうだよね、さっき触ったけど取れなかった・・・君は・・」  
「別の世界に飛ばされちゃったのかもね、あたし・・・本当に知らないの?ニカイドス島の事も、ゾイド星の事も。」  
 
「うん、絶対に誰も知らない」  
いつの間にか立ち上がっていたカノンは、ぺたんとしりもちをついて座ってしまった。  
「嘘・・・そんなのないよ、うそだよ、知ってるはずよ!!フセさん!」  
カノンは近寄ってきた伏の襟首を捕まえて、鼻と鼻が触れるほどに伏に食い入る  
「やめてよ、痛い!本当にゾイド星なんてないんだってば!!」  
「・・・やだよ。ゾイドが・・ゾイドが痛めつけられてるのに、あたしがいなくなったらあの子達・・」  
「いやあの・・何というか、それが本当なら君は少なくとも日本には誰も知り合いはいないんだね?」  
「・・・・どうしようフセさん、あたし・・あた・・・ひっぐ・・うぅ」  
そういうとカノンは布団に突っ伏して泣き始めた  
「ううん・・・ねえ、お腹すいてない・・?とにかく何か食べようよ、これからの話はそれから・・ね?」  
「うっぐ、っは・・え? おいださない・・・・の?」  
「うん、君の話を信じてみようと思う、だってゾイドっていうゲームも漫画も聞いたことないし  
     それにおでこにある印だって作り物じゃないしね、君さえよければ、僕の家にいていいよ。」  
「・・・・。ありが・・とお」  
そう言うとカノンは伏に抱きついた。  
「えへへ、まぁ、伏じゃなくって一貴でいいよ、僕は伏一貴、よろしくね、カノンちゃん」  
「ひっく・・・?それ、あなたのミドルネーム?」  
「うん、そう、いっちゃんってみんないうよ。」  
「・・・ぐすっ、いっちゃん・・へん・・な・・の・・ぐすっ・そうやって呼んで・・・いい?」  
「もちろん、いいよ」  
だれもいないところに一人でほっぽり出されたんだ、親身にしてやらなきゃあまりにもカノンが惨めだ。  
「・・・ああ・・・ありがと、いっちゃ・・ん・・あり・・ぐすっ・・・ああ~ん」  
伏は苦笑いしながら、優しくカノンの頭をなでる。  
「さあ、食事の用意してないからなんか食べに行こう、近所に揚げナス素麺がおいしい蕎麦屋があるんだ。」  
「・・・・うん!」  
 
涙と洟でぐしゃぐしゃになった顔を恥ずかしそうに伏に向けて、カノンは返事をした。  
・・・よかった、出会って早々意思疎通ができないほど変なところから飛んできたんじゃないらしい  
でも、やっぱり何にも知らないところに来ちゃったんだ、元気なように見えてもやっぱり優しくしてあげなきゃな・・  
いきなりの事態にいろいろ頭を悩ませながら、伏はそう思った。  
二人で外へ出た、よく晴れている夜で、近くのマンションを大きな月が飲み込んでいるみたいに見えた  
普段はそんな事考えない伏も、今日のような不思議なことが起こるといろんなことを考えてしまう。  
ゆっくりと歩くと、カノンはそのすぐ横を歩いて辺りをきょろきょろと見回して、そして時おり珍しいものを見つけては色々と聞いてくる、そのたび色々なことを教えたが。  
どうも上の空でよく覚えていない。  
 
「都市部なのに自然が多いのね」  
そこらじゅうに植わる街路樹や鉢植えを見て、カノンは言った。  
「もっと田舎に行けば沢山自然があるよ」  
「平和ね・・それでいて自然がある・・・・いい所ね」  
そう言いつつ、カノンは手で前髪をすいた  
伏は、カノンに少女らしくもない色香を感じて、なんだか恥ずかしくなって俯いた。  
それからは、なんだかドキドキしたのでボーっと雪駄を突っかけた足元を眺めながら、ボーっと歩き続けた。  
 
道は少し太い通りに出て、交通量が増えてきた。  
「気をつけて、ここは死亡事故が多いからね」  
自分たちがいきなり死ぬとは努々思わないが、一応注意しなきゃいけない。  
みんなそう思っているんだろうけど、日常の終焉は突然来る、それはここで車に轢かれて息絶えた人もそうだし  
地球という星に飛ばされてきたカノンだって、急に少女と同棲することになった伏だってそうだ。  
「・・こんなに飛ばして、みんなせっかちなのね。」  
カノンは流れるヘッドライトとテールライトの河を眺めながら呟いた  
「そうだよね、日本なんて狭いのにね」  
「・・・そんなに急いでどこへ行く、島でもよくそう言ってる人がいたわ、考えることってみんな同じなのかもね」  
「そうだね・・。」  
「・・・・くすくす」  
カノンが笑う顔を初めて見たが、とても可愛い、いつも笑っていればいいのに、そう思うとまた胸がもどかしくなって俯いてしまった。  
「どうしたの?」  
 
顔を赤くして俯く伏に、カノンは聞いた。  
「・・いや・・。」  
正気に戻った伏は、そう一言だけ言うと、視線を前へ戻して歩き始めた、カノンもそうした。  
無言になった二人は、頻繁に通る車のライトを浴びながらてくてくと夜道を歩き続けた  
車はまるで時の流れを引っ掻き回すように喧しく、それでいて快適そうに二人の横を通り抜けて行く  
「でも、なんでここへ来っちゃったのかしら・・・いい所だけど・・・。」  
「うん・・・。」  
上の空で返事をする伏  
・・・・車の流れを見ていると急に、ふと昔のことを思い出すことがある、そんな伏の頭の中では、子供のころの記憶が駆け巡っていた。  
一人で田舎のおばあちゃんの家へ行く途中、乗るバスを間違え、終点の駅に一人降ろされ呆然としている自分  
辺りはどんどん暗くなってゆく、山からはヒグラシの物悲しげな鳴き声が聞こえ、むせ返るような草の香りが辺りに充満していた  
それらがありありと思い出された。  
 
結局そのときは、おばあちゃんの通報で辺りを捜索していた消防団の若い衆に発見されて無事だったが  
親からはこっぴどく叱られ、それは散々の旅行だった。  
でも、カノンを探す消防団員はいない、伏はその幼い自分とカノンとを重ね合わせて考えた。  
そうだ、もしもあそこで発見されなければ自分はどうなっていたんだろう・・・。  
最終のバスを乗り過ごし、何もできずただ呆然とバス停のベンチに座って泣いていたはずだ・・・そんなに悲しいことはない。  
そんな悲しい思いだけは、このか弱い少女にさせたくなかった。  
伏は、意を決すると、隣を歩くカノンの手を強く、しかし優しく握り締めた  
カノンは少し驚いたような顔をしたが、すぐにその手を握り返す  
「心配しなくていいよ、僕がいる限り君には寂しい思いはさせない。」  
「・・うん。」  
 
・・・そういうと二人は、手をつないだままてくてくと、車のヘッドライトで明るい夜道を歩いていった。  
 

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