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「おい……何なんだよ?草薙……こんな時間に呼び出して」  
 豪人はそういうと窓際にたたずむ優花をみつめた。だが優花は答えず、ただ窓の外を見  
つめている。その背には、どこか哀しい気配が漂っていた。  
 
 豪人が優花から電話で学校へ呼び出されたのは今から一時間ほど前の事だった。突然の  
電話に困惑した豪人だったが『どうしても来て欲しい』と言う優花の言葉から言い知れぬ  
悲痛さのようなものを感じ、急いでやってきたのだった。教室には、優花が一人で佇んで 
いた。  
 
「来てくれたんだ、嬉しい……」  
 だが、優花は豪人を一目見てそう言ったきり黙ってしまった。  
 時計はもう九時を過ぎている。優花が一体どんな用件で自分を呼び出したのか分からな  
い豪人は、優花が用件を切り出すまで待とうとしたが、さすがに一時間がたとうとするの  
に黙っているわけにはいかなくなった。  
「おい、草な……」  
 豪人は、優花の背にもう一度呼び掛けた。  
 だが、優花は豪人が呼び終える前に振り向いた。優花は静かに豪人を見つめた。何かを、 
決意したような表情だった。  
 
「……豪人くん」  
 その声には、豪人が電話口で感じた悲痛さのようなものはなかった。静かな、声だった。  
「……何だ?」  
「豪人くんは竹露が好き?」  
 それは、半ば予想された問いだった。  
 前に優花から手紙を渡されたことを豪人は覚えている。この年頃の女子には珍しい、丸  
みのない綺麗な文字だった。  
 短い手紙には優花らしい簡潔さで短く、(好きだから付き合って欲しい。返事待ってる) 
とだけ書かれていて、豪人は受け取ったその日の内に返事を伝えたのだった。  
 悪いが、自分は竹露と付き合ってる。だから付き合えない、と。  
 
 その後、逆上した優花は竹露を襲ったりしたのだが、もうそれは過ぎたこと。豪人はそ  
の事で優花を責める気はなかった。  
「……ああ」  
「これからも?変わらない?」  
 優花はすがるような瞳で再度豪人に尋ねたが、豪人はもう、その答えを翻す気はなかっ  
た。  
「……ああ」  
豪人はうなずいた。決して変わる事のないその答え。  
 優花は瞳をそらして沈黙した。  
「用はそれだけか?……なら帰るぞ」  
 しばらくそんな優花を見下ろしていた豪人だったが、それだけ言うと教室から出ていこ  
うとした。  
「待って!」  
 
その時、ひときわ大きな声が教室に響き、豪人が驚いて振り向くと、優花は豪人の胸に  
抱きついていた。  
「おい、草なーー」  
 豪人が声をあげると優花がそれを遮った。  
 その声はとても小さなものだったが豪人の言葉を遮るには十分だった。  
「……抱いて。お願い」  
 優花の言葉に、豪人は目を見開いた。続く言葉が出てこない。  
「なに言って……!」  
「お願い……一度だけでいいの!」  
 自分より遥かに小さな優花の体。顔を伏せているので、その表情は読み取れない。  
 ただ、豪人を抱き締める優花の力が強くなった。  
 
 豪人はしばらく優花を見下ろしていたが、その肩が小さく震えているのに気付いた。  
 ここで、断ったら恥をかかせることになるのだろうか。  
 今、自分を抱き締めながら肩を震わせるこの小さな少女。おそらくは、こうして自分を 
呼び出すのにも、相当思い悩んだに違いないだろう。だが、豪人は優花のその願いを聞き 
入れるわけにはいかなかった。そう、前に手紙をもらった時のように。  
 自分には、好きな女が。雨月竹露が、いるからと。  
 それに、こんな形で優花を抱くことが優花のためになるとは思えなかった。  
「草薙……」  
 豪人の声に優花がびくりと身をすくませた。  
 
 豪人は、そっと優花の頭に手をおいた。そして優花の、軽くウエーブのかかった髪を撫 
でながら静かに言葉をつむぐ。  
「……それは出来ねえ。第一そんな事してもテメエのためにならん」  
「……」  
「だから……離せ」  
 優花は黙って豪人の言葉を聞いていた。肩の震えは止まり、その手の力が微かに弱まっ 
たようだった。  
「草薙……」  
 豪人はほっとしたような声をあげると、優花から体を離そうとした。  
 その時だった。  
「!」  
 豪人の首筋に鋭い痛みがはしった。  
 同時に、体の力が抜けていく。立つことが出来ない。  
 豪人はその場にがくりと膝をついた。豪人の体にぶつかった机が、派手な音をたてて倒 
れる。  
 重く、思うように動かせなくなった腕を必死に動かし、痛みの走った首筋にふれると、 
ぬらり、とした赤い液体が指筋をつたった。  
 
「草、なぎ……?テメエ、何を……!」  
 同時に、自分の体から後ずさるように離れた優花を見れば、その手には緑色の液体が入っ 
た小さな注射器が握られていた。  
「……ごめんね、豪人くん」  
 感情のこもらない小さな声でつむがれた言葉。  
 それが、薄れゆく意識の中で豪人が聞いた、最後の優花の言葉だった。  
 
 優花はくずおれた豪人の元へと近付いていった。  
 脈拍と呼吸が実験の時と同じように安定しているのを確かめると、優花は安堵の溜め息を 
ついた。  
(……大丈夫みたいね)  
 
 優花が豪人に射した液体は媚薬だった。  
カーミラの弟子として前世から植物学を極めてきた優花にとって、媚薬の一つや二つ、調合 
するのは難しい事ではない。特殊な土で育てた植物の葉は、たった一枚でも、市販の薬とは 
比べ物にならない様々な効果を発揮する。  
   
 そして今、優花が豪人に射したそれは、普通の媚薬とはいささか効果が異なっていた。  
 
 優花は制服のスカートのポケットから、小さな子瓶を取り出した。  
 硝子で出来たそれの中には、一見しただけでもわかるほどに濃い赤紫色をした、粉末状の 
何かが入っている。  
 優花がそれの蓋を開けるとむせかえるような花の香りが辺りを包んだ。  
 
 優花はそれを飲み干した。  
 首をそらしあおるように一気に飲んだため、直後にむせそうになるが、優花はそれを何と 
かこらえると、呼吸を調えるため大きく息を吸った。  
「はあ……」  
 そして、手を口許へ運ぶと、優花は自らの息が花の香りかを確かめ始めた。同時に腕や体 
も同じようにかいで、その香りを確かめる。優花の体は、まぎれもなく瓶の中身と変わらな 
い、花の香りを香らせ始めていた。  
 優花はそれを確認し終わるとその場に膝をつき、ゆっくりと服を脱ぎはじめた。  
 ふっくらとした、優花の体があらわとなっていく。  
 
 優花の体は、同年代の女子達と比べると、いささか太っていると言えなくもなかったが、 
優花自身は特にその事で卑屈に思い悩んだりするような事は無かった。  
 むしろ、痩せぎすの骨ばった体躯よりは、いささか太っていても、柔らかな曲線を讚えて 
いる自身の体躯の方が女としての魅力は高い、と優花は考えていた。  
 そしてそれは優花の思う通りであった。  
 すでに下着だけの姿となった優花の体は、優美な曲線があらわとなり、むせかえるような 
花の香りとを抜きにしても抗がい難い艶めかしい魅力を持っていた。  
 
 

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