人一人の日常がある。誰にも等しくそれはある。曹沖倉叙のそれを、陰りと艶 やかな色が彩り始めたのは、思えば同じ点の上…
 それは禁忌が呼んだ罰…残酷で、優しい


 時は何れや。彼―曹沖―の日常は知識に塗れていた。齢わずか一三にして、千 あるいは万を超える書物を読破し、そこに記されたる知識を蓄積していく。
 神童―そう呼ばれるようになったのは必然で、誰一人それを疑ってなどいなか った。本人も子供心にその状況を快く思っていた。おもてにこそださないが、ほ められるという行為の快感は、まだ幼い心に暖かさを育んだ。
 好奇心が、彼を駆り立てる。好奇心は則ち向上心となり、それに従うことで自 分の心も満たされることになる。
―幸せってこういうことなのかな―
 湧き上がる感情に、一人あどけない笑顔を浮かべたりした。
 さらに彼には兄弟が多い。12人の兄と、姉もいた。出る杭は打たれる。そんなこと もなく、秀でた才能をそのままに認めてくれる兄達の存在に、家族という単位の 心憎さを知った。




 再び何れかの時、曹沖は今日も書庫に通う。何年も続く他愛ない繰り返し。飽 きることのない日常。もう6割方の本は読んでしまっただろう。
少年の知る領域 は漸次、不可侵とされた区域へと近づいていく。書庫の奥の奥。父や兄達から 『大人になるまで近づいてはいけない。』
とされている場所があった。彼の好奇心に、唯一つブレーキをかけている存在で あった。
「一体何があるんだろう…」
 思考が言の葉を通して外に出てしまうほどに、彼の興味は漸次強くなっていた 。それでも家族を大事にしたいという思いが、彼に不可侵を遵守させていた。
「あ、もうこんな時間か…。ちょっと遅くなっちゃったな。」
 見渡せば青から赤へ変わっていた空の色は暗転し、昏い夜を迎えていた。
「早く寝ないと。」
 本を元の位置へと返し、書庫から寝所へと早足で向かう。
「……ん…ぁ…」
 物音…いや声だろうか。いまだかつて耳にしたことのない、甲高い声。




「…へぃ…かぁ…ん!!」
 少しずつはっきりと、そして聞き覚えのある声へと変わる。場所は寝所。彼の ではなく、彼の姉。曹節の。
「あ、姉上…?」
 何が起きているのか。未知への恐怖があった。しかしそれ以上に、彼の旺盛な 好奇心が、二つの足を目的地ではない寝所へと向かわせた。
 ふすまを静かにそっと開く。震える指で。
「ぁぁぁ!…ん、ふぁゃぁっ」
 近づいたからではなく、明らかに声が大きくなる。部屋の中に光はない。うっ すらと見えるシルエットが一つ。長い髪が乱れていた。
(あ、姉…うえ?)
 一体彼女は何をしているのか。他に人の気配はない。ただ一人、得体の知れな い何かを繰り広げている。
「ぁっ!イっちゃ…ぁぁ!!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 一際大きく、鼓膜を突き抜け脳髄を撫でるような声。何かが少年の下腹部を刺 激する。耐えられない。理性でもない知性でもない、何かが爆ぜてしまいそうで 、曹沖は脱兎の勢いで逃げ出した。本来向かうはずだった寝所へと。
 駆け込んで深呼吸。冷静さを取り戻そうと必死の行動。ハアハアと息が荒い。
下半身が熱い。排泄機関としか認識していなかった場所が、未だ見ぬ形へと変異 している。まるで悪夢。しかし生々しいほどの現実感がある。頭で処理できそう にないので、曹沖は起きていることをやめた。
(明日になったら、姉上に聞いてみよう…)
 めまぐるしく展開された事象に疲れたのか、曹沖はあっという間に眠りにつく ことができたのだった。


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