快楽だけを求める行為を、人は堕落と呼ぶ。麻薬、姦淫、嗜被虐…
一度でもその堕天使の世界を覗いてしまったなら、もう戻ることなんて出来やしない。
「んん…」
2つの瞳を覆う瞼が開く。溢れるものが眼球を潤ませる中、曹沖は目覚めの時を迎えた。
「はっ!!」
絡めとられた四肢は未だ動くこと能わず、目だけを動かす。小ぶりながら、確かな存在がそこにあ
った。
「夢…か……」
安堵を含むため息。夢としたあの映像は、あまりにも現実離れしていて、あまりにも生々しかった。
「そうだよ…ね。僕が女の子になって…あんなあんな…」
ドクン。心拍が、強く弾む。リズムを加速させ、血液がめぐる。浮かべてしまった、脳裏から。夢
であるはずの自身の痴態。疼きが、蟻のように全身へと群がっていく。下半身が、力強く主張する。
「な、なんでぇ…僕の…僕の…」
不可解な興奮に支配される。不安と恐怖。火照る身体の内、心は暗く澱む。
「ほほほほほほ。どうやら絶頂が忘れられないみたいね。」
甲高い不愉快な声。聞き覚えがある。夢だったはずの記憶が、現実と交差する。
「な、なにを!!」
性的な知識には疎い曹沖にも、指し示すものを本能的に理解する。
「我慢しなくていいのよ。まあまあこんなにも大きくしちゃって。」
不愉快な声を放つ男の、指が暗がりの中瞳に映る。優しげに近づいて、肉を包む。
「う、うわぁ…」
あの時のとは、違う感覚。自分のままの身体を、弄ばれる。
「びくんびくんしちゃって。可愛い子ね。」
次第に指が動きを作る。規則的に上下へと。曹沖の下半身の熱が一点に集う。
「ああ!!変だ!!僕、なんかへんだ!!」
頭を振り、自分を襲う『何か』への懸命な抵抗。しかし、この男の指は無慈悲にも、否慈悲に満ち
ているように優しげな動きをやめはしない。
「ああ!!何かくる!!出るでるぅぅぅ」
射精―することはなかった。臨界点を察した男は、本当にギリギリのところで、導火線の火を消し
たのだ。
「はぁはぁ…な、」
「イキたかった?」
一直線に心に突き刺さる言葉。行為の名称こそ知らなくとも、男が描いている図は想像に易い。
「ち、ちが…う…これは、お前の変な薬のせいでぇ!!」
本来の色白さとは、かけ離れた赤面。プライドを守るために、自己を正当化する。
「そうねぇ。その通りねぇ。」
男は、意外すぎるほどすんなりと正当性を認めた。