羊コは落ち着かずに、部屋の中をうろうろと歩き回っていた。
(お義母さまは、先生って言ってたけど…)
入浴も済み、あとはもう寝るだけの簡単な格好で、いつもは結んでいる髪もすべておろしてしまっていた。
(どんな方なんだろう。お義母さまがいいって言うくらいだから、きっと優しい方なんだろうけど…)

そのとき、戸の向こうから声がした。
「羊コ殿」
「は、はいっ!」
突然のことに驚き、慌てて彼女は戸を開いた。
「……!」
「久しぶりだな」
絶句した。戸の向こうに立っていたのは、義兄・司馬師だったのだ。

(お義母さま…!よりによって、お義兄さまを呼ばなくても…!)
凍りついたように固まっている羊コを気にもとめず、彼は言葉を続けた。
「きみのお義母さまに頼まれてきたのだ。…俺に聞きたいことがあるとか」
「あ、は、はいっ、そうです!」
まともに話せない。動揺が顔にあらわれないようにつとめた。
「ではゆっくり話をするか。君の姉君からの預かりものもあるし」
そんな義妹の混乱などつゆ知らず、彼は羊コの横をすりぬけて部屋に入ってきた。
彼の後ろ姿を見つめながら、羊コはこっそりと、両手で頬に触れた。そこはとても熱く火照っていた。

羊コの想い人。それは彼、司馬師だった。
初めて会ったときには、すでに彼は姉の夫だった。好きになってはいけないと分かっていたが、分かって止められるものではなかった。あれこれ理由をつけては姉の元へいき、司馬師の顔を見ようとした。自分から使いの役を買って出ることも少なくなかった。
(そっか、お義母さまは気がついていて、それでわざとお義兄さまを呼んだのかも…)
お義母さまのいじわる。胸中で呟いた。最初に言ってくれれば心の準備が出来たのに。
二人は仲がよかった。他に座れるような場所もないので、司馬師ははやばやと寝台に座って薬やら酒やらを広げていた。

つとめて冷静に振舞おうと決めて、羊コはなにげない体で彼の横に座った。
「これは姉君から。皆で飲んでくれと言っていた」
「ありがとうございます」
それを受け取り、寝台脇の卓の上に置いた。
「それで、聞きたいことというのは?」
ぎくり、と心臓が痛んだ。おずおずと司馬師の顔を見上げる。
「お義母さまから、何も聞いていないんですか?」
「なにも? ただ、叔子が会いたがっていると聞いただけで…」
そっちで話をつけてくれていればいいのに。これから言わなくてはいけないことを想定して、羊コはいよいよ真っ赤になった。

「大丈夫か?風邪でもひいたか?」
義兄の手が頬に触れてくる。
(うぅ、恥ずかしいよ…)
いつまでもこうしてはいられない。決死の覚悟で彼女は言った。
「お義兄さま。私、お、男の人のことが知りたいんです!」
「……は?」
だがそんな告白も、司馬師には全く理解できなかったらしい。呆けた顔でこちらを見つめている。

「だから、男の人の…その…私には分からないようなことを教えて欲しいんです!」
「…うん…熱でもあるなら早めに休んだほうが…」
「熱なんかじゃないです!わ、私は本気です!」
いよいよ羊コの言わんとすることが分かってきて、司馬師は真剣な表情を見せた。
「何が本気だ。羊コ、そういうことは好奇心で言うことじゃないだろう」
「好奇心じゃありません。だって……だって私、お義兄さまが好きなんですから!!」
一瞬で司馬師の表情はかわった。驚いたような顔のまま、何も言わない。
「お義兄さまは好きだけど、でも、お姉さまと結婚してるから、だから、私今まで我慢していたんです。…お願いです、お義兄さま…。今日…今夜だけでいいから…お願いします……!」

涙で潤んだ瞳で見上げる羊コの可憐な姿に、司馬師はしばらくの間逡巡してからため息をついた。
「辛憲英さまはとんでもないお方だ。…これでは断れないではないか」
「え!」
期待に彼を見つめると、困ったような表情で彼は羊コの頭を撫でた。
「おいで。…俺でよければ教えよう」
「…ありがとうございます!」
少女は、期待と喜びに顔を輝かせて言ったのだった。

司馬師は、慣れた手つきで羊コの着ていた服を脱がしてしまうと、わざとそれを戸の前にまで投げ捨てた。
簡単に逃げられないようにするためなのだろう。一糸纏わぬ姿になって、羊コは恥ずかしがりながら両の足を寄せ、自らの体を抱きしめるように胸を隠した。
だが、司馬師に腕も足も掴まれ、強制的に後ろ手をつくような姿勢にされてしまった。
「今から恥ずかしがっていたらお話にならないだろう」
「で、でも…」

灯りがしっかりついた中で、自分の裸を見られている。それだけで羊コは逃げ出したいほどの羞恥心を覚えた。
司馬師の視線が自分の体を駆け回り、舐めまわしているような感覚を覚える。
ともすれば、それだけで達してしまいかねなかった。早くも息が速くなっていく。
「でも、あの、お義兄さま。私の裸なんて見て…こ、興奮しますか?」
「するさ」
しれっと答えられると、いよいよ羊コは耐えられなくなった。ままよ、という気持ちで切り出す。
「こ、興奮すると、お…男の人って……あの、アレが……」
「教えてやるから俺の服を脱がしてくれないか?」
ひっ、という声が漏れてしまった。一瞬体が強張ったが、唾を飲んで彼の服を掴んだ。
司馬師は全く脱衣に協力しないで、無表情のままでいるためにとてもやりづらかった。
何とか上半身は脱がせられたが、どうにも躊躇ってしまって下半身を脱がすのに時間がかかってしまう。




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