「おはようございます」
その声に気づき振り向くと陸抗が立っていた。
「ああ、おはようございます」
陸抗はすたすたと歩いて自分の左に立ったそしてぼうっと池を眺めている。
その顔からは何を考えているかは分からなかった。
きっと遠い祖国を思っているのだろう。
君主に弱いといわれたから来たといっていたが、その心の中では不安ばっかりなのだろう。
「今日は仕事が無いからどこかに出かけませんか?」
朝食の時にそう言ってみた。
すると穏やかな表情だったのが急に強張って、おかずを取ろうとしていた箸の動きが止まった。
洋コは気づいていないがやや頬が上気している、それにびっくりして洋コも動きを止めた。
「い、嫌でした?」
「い、いえ。仕事以外で男性の方とどこかに出かけるというのは経験が無いので……」
と、未体験の事に不安を覚えるような言い方だがその眼は恋する乙女である。
恋愛初心者の彼女が好きな人にどこかに出かけようといきなり言われれば当然の反応だろう。
洋コはなるほどと呟き箸を進めるように促した、そして自分も食事を再開した。
「えっと、僕は行きたいです……ここら辺の街には来た事がないので」
陸抗がそう言いつつ笑ったのにつられて、洋コも微笑んだ。