二人は市場に来ていた。
そこは呉には無い物であふれ返っていた、めずらしい陶器や変な形の武器まである。
洋コにとっては見知ったものばかりだったが陸抗にとっては珍しいものばかりだ。
幼い子供のように色々なものを手にとって眺めている。
そういえば本に【男女が一緒に出かけることを西方の国では『でぇと』と言う】と載っていた。
そこにそれはとても楽しいことだと書いてあった、たしかに今の洋コは幸せな気分だ。
陸抗の存在は戦いで傷ついた心と体を癒してくれる。
陸抗の気持ちは分からないが楽しいものであるようにと願った。
さて、このままブラブラしているだけではあまり楽しいものとはいえない、洋コはどうしようかと考えていると昔の事を思い出した。
司馬イに女性の扱いについて色々と教えられたことがあるのだ。
『女性が機嫌が悪い時や、気を引きたい時は何か贈り物をすると良いぞ。
髪飾りや花を贈ると良いかな。
春華にもこの前桃の髪飾りを〜(以下3時間ほど惚気られました)
まぁそんな感じで贈り物は良いぞ』
それは3時間も惚気話を聞かされた辛い思い出だったが今はそれが役に立った。
ちなみに司馬イと春香はいわゆる『ばかっぷる』だ。
春香の『やんでれ』ぶりもさることながら司馬イも独占心の塊みたいなものだ。
以前、自分は出陣しないのに春香だけ出ると言うのを知ったときに曹操に向かってこういったらしい。
『自分の居ない戦場に行かせられるか!!あそこは飢えた男どもばっかりだ!!春香がいくなら軍師は俺だ!!』、と。
その剣幕に驚いた曹操は軍師として採用したらしい、ちなみにその日の戦は根元一気と言う策で大勝した。
それを思い出した洋コは思う。
そうだ、何か贈り物をしよう。たしか向こうにそういう類の店があったはずだ。
陸抗を見るとどうやらフルーツが気になるらしい。
女性は甘いものや果物に目がないと聞いたことがあるし、たしかに珍しい物ばかりだ。
「陸抗、僕は用事があるので少し居なくなりますが、すぐに戻ってくるのでここに居てください」
そう声をかけると陸抗は眼をフルーツから離さずに返事が返ってきた。
こっちを見てもらいたいと思ったがまぁ仕方ないかなと思った洋コはその店を離れて装飾品の店へと足を向けた。
通りから少し外れた場所にある店はあまり大きいとはいえないが品揃えもよく、良いものが揃っている。
司馬イの行きつけの店らしい其処は、たしかに春香が付けている髪飾りに良く似たものが有った。
洋コが店に入ると店の女性が声をかけてきた。
「まぁ、うつくしい御方。彼女への贈り物かしら?」
洋コは笑いながらそんなところです、と返し蒼い髪に映えるものは無いかとたずねた。
その女性は店の奥からいくつかの物を出してきて棚に置いた。
たしかに彼女に似合うだろうと思われるそれらの中に一点特に眼を引くものがあった。
紫の蝶の形をしたそれはとても綺麗に光っている。
「これをください」
そう告げると女性は少し驚いたように言った。
「あら、良いものを選ぶわね。これは有名な方が作ったものだから少し値は張るけれど、絶対喜ばれるわね」
たしかに少々高めだったが自分が買えない額ではない。
洋コはお金を渡して商品を受け取った。
店を出るときにがんばりなさいな、と後ろから声をかけられた。
まだ彼女との関係を持っていないことが分かったのだろうか、まぁ女の勘は鋭いと聞いたこともあるし特に気にはならなかったが。
髪飾りを大事そうに抱えながら先ほどの道を歩いていると女性が二人組みの男に絡まれているのが見えた。
巻き込まれたくないので少し離れようと思ったときにその女性の声が聞こえた。