「ありがとうございましたー!」
「あ、ありがとうございました…」
「やったじゃない周姫!午前中で完売しちゃったわよ」
「尚香さん、もうコレ着替えてもいいですか…?」
はしゃぐ孫尚香とは対照的に、泣きそうな顔で机の下にうずくまる周姫。
最後の客を見送った後も、教室の周辺には二人の姿を一目見ようと見物客でひしめき合っていた。
三国志学園の文化祭。
蜀組の出し物であるメイド喫茶に対抗するために呉夫人先生が出した策、それはメイドはメイドでも、マーメイド喫茶。
東の国のおとぎ話がモチーフらしいが、売り子の二人は胸と股間だけを貝殻で隠した、まるで水着のような姿で接客を行っていた。
本来最初の売り子係は交代制だったが、最初の周姫と孫尚香の番で客が殺到して完売したため出し物は終了、衣装は二人が着ただけでお蔵入りとなったのである。
仕事を終えた二人は制服に着替え、ようやく見物客の仲間入りを果たした。
「母さ…呉夫人先生も、人魚喫茶とはまたとんでもないものを考えたわねぇ」
「本当です…尚香さんはまだしも、どうして私なんかを売り子に抜擢したのでしょうか」
「ココでしょ、こ・こ」
指で周姫の胸をツン、とつつく。
「む、胸は関係ありませんっ」
両手で胸を隠すと、周姫の胸が少し左右に広がった。
「あたしより大きな胸したあんたが何言ってんのよ。途中ポーズまで取ってたじゃないの」
「あ、あれは土下座までされて頼まれたから仕方なく…!尚香さんが割って入ってくれたお陰で助かりました」
目新しいものを探して歩いていると、ふと孫尚香が足を止めた。
「ねぇねぇ周姫、コレ入ってみない?」
「これ…ですか?」
二人が足を止めた場所、それは群雄組の教室。
おどろおどろしい装飾と共に、「群雄物の怪屋敷」という看板がぶら下がっている。
「あの…私、あまりこういうものは信じないのですが」
「真面目に考えなくていいのっ。こういうのは楽しんだもん勝ちなんだから」
不気味な風貌をした男子生徒が入り口に座っている。恐らく受付だろう。
「(クラスに一人はいるわよね…こういう妙に老け顔の子って)」
「しょ、尚香さん…声に出てますよ」
「ククク…ただの出し物と思うなかれ。ここに入ったら最後、一週間は寝付けませんぜ」
「あら言ってくれるじゃない。なら確かめてあげるわ、行くわよ周姫」
「あっ、尚香さん!」
周姫は孫尚香の後を追うように、暗い教室の中へと消えていった。
「ククク…二名様ご案内………ようこそ、我が幻術の世界へ」