「………真っ暗で何も分からないわ」
ただ前に進めばいいと言われたので、私は言われたとおりにまっすぐ歩いた。
トントン
「えっ」
いきなり肩を叩かれ、すぐにその方へと首を向け―――
むにっ。
頬に指が刺さる。
「……………」
無言でその手を払いのける。なんて古典的な悪戯に引っかかってしまったのだろう。
「(何が出てくるのかと思ったら………こんなのばかりなのかしら?)」
再び足を進める。
トントン
「………」
また肩を叩かれたが、今度は無視。
さわさわっ。
「!!!」
想定外の場所に触れられ、私はびっくりして飛びずさった。
「だ、誰ですか!今お尻触ったの!」
私の問いかけにも答えは無い。周りを見回しても先ほどの手はもう闇に紛れてしまっている。
「(この様子なら、きっともう一度触りに来るはず…)」
悟られないように身構えつつ、再び前に歩き出した。そして―――
さわっ
「!」
手が再び私のお尻に触れた瞬間、私はその腕を捕らえた。
「いくら演出でもやっていい事と悪い事がありますよ!出てきてください!」
掴んだ腕を、力任せに引っ張った。
一度引っ張っただけでは身体までは伺えず、私は二度、三度と引っ張る回数を増やしていった。
「……?」
変だ。いくら腕を引っ張っても、身体はおろか腕の付け根すら見えてこない。
「ど、どういうこと……?」
私は怖くなってそれ以上腕を引っ張るのをやめた。すると
トントン
三度、肩を叩かれる。今度はゆっくりと叩かれたほうへと首を動かす。
肩を叩いた手が、下を指差す。その手に導かれるように、私は視線を下に落とし――――
「…え」
視線を落とした先、それは今まで私が引っ張った腕が、まるで大蛇のように私の周りを取り囲んでいる。
肩を叩いた手は、私の身体を一周するように腕を伸ばしていた。
「きゃあああああぁぁぁ!!」
私はそれを跳ね除け全速力で走った。ミニスカートなのも気にせず一心不乱に走った。
「な、な、何ですか今の!?」
生まれて初めて見たモノ。人の腕、いや人の腕の形をした何か。あれも演出なのだろうか。しかし掴んだ感触は確かに生身のものだった。
いや、今は本物か作り物かなどどうでもいい。とにかくアレから離れないと。アレに捕まる前にここから逃げ出さないと―――