「…んん?」
突然ぐすぐすと泣き出した周姫に男は面食らったが、暫くして下の方から漂う臭いに気付き眉を顰めた。
周姫の下半身はたっぷりとした衣に幾重にも覆われ、脚先まで見えてはいない。どうやらその衣の中から臭ってきているようだ。
「…おい、お前、何してんだ」
「ッ!」
探るように声を掛けると周姫の肩がびく、と震える。
涙にまみれたまま男を見上げる表情の中に恐怖、絶望、それに少しの羞恥が混じっているのに気付き、もしや、と男は思った。
そう考えれば先程からの周姫の何かを堪えるような、妙な行動にも合点がいく。
「…お前、もしかして…漏らしちまったんじゃねえか?」
恐怖のあまり失禁してしまったというのはよくある話だ。
と言っても、大の大人がそんな事をするとは思えないが、この自分にすっかり怯えている娘ならばありえるかもしれない。
ひょっとしたら、とその程度の自信しか無かった。が、男がそう言った途端周姫の顔がかああと真っ赤に染まり涙がぼろぼろと溢れた。
「ち、違う…!」
「じゃあこの臭いは一体何だよ?ん?」
「違う、違うっ!知らないもん…っ!」
紅潮した顔のまま周姫がぶんぶんと首を振る。精一杯否定しているつもりだろうが、この顔とどもりながらの言葉は既に図星です、と言っているようなものだ。
「へえ…それじゃあ一つ、確かめさせて貰おうじゃねえか」
泣きながら馬鹿の一つ覚えのように違う、と繰り返す周姫を男は半分笑いながら眺めていたが、ふと思いつくと周姫に剣を突き付けた。
首筋に鋭利な刃を押し当てたまま、先程と同じく高圧的な口調で命じる。
「お前、その下の衣を自分で捲くってみせろ」
「…え?」
「自分のカラダを俺に晒してみろ、っつってんだ」
周姫が愕然として男を見上げる。
最初の数秒間は彼の言っている言葉が理解出来なかったが、暫く経ってから再び火をふいたように顔を真っ赤に染めた。
見知らぬ男にそのような事を要求されたのは初めてである、当然の反応だった。ましてや、今は。
(も、漏らしたのが、ばれてしまう…!)
本当はもうとっくに男は知っていそうな口ぶりだったが、それでも下半身の動かぬ証拠を見られてしまえばそこで一巻の終わりだ、と周姫は思った。
それ以前にこんな男に自分の淑やかな半身を見せる事などどう考えても耐えられる事では無かった。誰か、と咄嗟に助けを求めて
辺りに目を走らせたが、辺りに味方はおろか自分とこの男以外は人っ子一人いない。気付けば計略の効果は解けていたが、誰かが助けに来てくれそうな気配も全く無い。
そんな周姫の必死の様子がおかしかったのか、男の紅を差した唇がにい、と吊り上げられた。
「おら、さっさとしろよ」
「…い、嫌…お願い、それだけは…」
「お前なぁ、今の状況解ってるか?馬鹿が」
そう言って男は周姫の首筋に冷たい刀身をひたひたと押し付ける。
せめてもの懇願も到底聞き入れてもらえず、絶望に突き落とされた周姫はいよいよもって涙が出てきた。
本当に、この酷い男の前に自分の身体を晒さねばならないのだろうか。それほどの恥辱を受けるぐらいなら、いっそ…という考えも一瞬頭を過ったが、
度重なる恐怖と緊張に犯された周姫の精神はとっくに折れてしまっていた。
(…もう、嫌…全部…)
どうしたら、と考えれば考えるほど一つの答えしか思い付かない。
首に添えられた鋭利な剣の感触もそれに拍車をかけた。自分は名誉より命を選ぶはしたない、浅ましい子だと思った。しかしもう止められるものでは無い。
(父様、母様、愚かな周姫をお許し下さい…!)
がくがくと震える手を伸ばし、意を決して衣の裾を掴む。
「…っ、ぐす、…」
男に見つめられるのが耐えられなくて目をぎゅっと瞑ると、そろそろと両手と掴んだ下の衣を上に捲っていく。
すんなりと伸びた両脚、白い太股、そして最後に濃い染みが浮かんでいる下着が露わになると、男がそら見ろ、と皮肉めいた口調で呟くのが聞こえた。