戦は終わった。
深手は負わなかったものの、孫策は、なんとも言いがたいわだかまりのようなものを
腹の内にかかえたまま、配下である朱治の膝に頭を乗せて眠っていた。
不思議と、こうしていると心が休まる。まるで母親に抱きしめられているような感覚を覚えた。
朱治の手が彼の頭を優しくさする。
「この度の戦で、反乱を抑えることが出来ましたね。若、お見事でございました」
無言で頷いた。父親を突然亡くし、孫策の元から離れていく将の多い中で、彼は変わらず
付き従い、ふたたび自由に戦えるようになるまで守り続けてきてくれた。
感謝はしてもし足りない。信頼だってしている。だが孫策は、心の奥底のところでこの
宿将を軽蔑していた。
否、軽蔑とは言えないのかもしれない。
ただ、自分に心まで赦してくれていないと知っていて、それを悔しく思っているだけであろう。
自分でも、そう分かっていた。
それは、まだ父親である孫堅が生きているころのことだった。
その夜、孫策は大分遅い時間まで配下の兵たちと酒を飲んでおり、いい気分で自室に戻ろうとしていた。
そのとき、わずかに父の房から灯りが漏れ出しているのが見えた。
いつもならば気にもとめないところだったが、なんとなくこのまま眠るのも味気ない気がして、
足音を殺しながらその光のもとまで忍び寄った。
だが、なにやら様子がおかしい。
戸に近づくにつれ、妙に艶っぽい声が聞こえる。
孫策はもう子供ではない。父親が何をしているのかは簡単に予想がついた。
両親のそんな姿なぞ、本当は見たくもないが、酒に煽られて彼は僅かに開いた戸の隙間から
中の様子をうかがってしまった。
だが、そこに母親の姿はなかった。
孫堅の膝の上に乗り、あられもなく身を捩っていたのは宿将である朱治であった。
孫策は己の目を疑った。その体がまぎれもなく女のそれであったからだった。
小ぶりではあるものの、胸にはちゃんと膨らみがあったし、男ならあって然るべき器官はまったく見受けられなかった。
朱治の体が、父親によって蹂躙されるのを見て、酔いは一気に覚めた。
我知らず隆起しだした逸物を、思わず握り締める。
きっと二人は、俺には気がつかないだろう。
そう思い、孫策は自慰に勤しもうと手を動かし始めた。
しかし…。
「朱治、これが欲しいか?」
「はいぃ、殿の、殿の早く下さい、あ、もう…我慢出来ません…!」
普段、清廉で穏やかな将として振舞っている朱治が娼婦よろしく痴態を晒している、それも俺の父親相手に。
それを思うと、急に気持ちが冷めてしまった。
翌日、朱治は何食わぬ顔で孫策に話しかけてきた。父親も、そしらぬ顔をして軍議を始めた。
孫策も、何もみなかったようにいつもどおり振舞った。だが、心の中は昨日とはまるで変わってしまっていた。
その日から孫策の心の底に、冷たい気持ちが淀みを作るようになったのだった。