薄ぼんやりとした部屋の中、ひとりの兵士が一糸纏わぬ姿で椅子に縛り付けられている。
屈辱にまみれた姿で怒りを露わにした表情を浮かべ、自分のすぐ目の前にいる人影を睨みつける。
「ふふ、いい表情を浮かべているな」
高圧的な物言いと共に、その人影、董白は手に持った鞭を遊ばせている。その表情はどこか嬉しそうだ。
なぜこのような事になったのか。
それは今朝の調練にまで遡る。
旗揚げして間もないこの軍の軍師である禰衡は、まず初めに、各武将の特訓方法や兵達の質を見るために日替わりでの特訓を命じた。
そして董白の番が来たのだが、彼女の特訓内容は [耐ワガママ訓練]。
文字通り彼女のワガママを聞いていくというハチャメチャな訓練だ。
結果だけを述べれば、兵達の対応力や忍耐力が上がり、兵達もまた、他の特訓に比べれば身体的疲労は少ない為、結果オーライでお咎め無し、と言うことになったのだが、納得のいかない兵、今縛られている彼が、董白に面と向かって抗議したのだ。
最初は何事かと思った董白であったが、その顔に次第に笑みを浮かべ、詳しく聞くから夕刻に自分の部屋に来い、とだけ言い残してその場を後にしたのだった。
彼が言いつけ通りに董白の部屋に向かうと、彼女はお茶を用意して待っていた。
「よく来たな、とりあえずお茶でも飲め」
言われるまま、彼はお茶を飲んだ。
そして話をする事数分、彼を突然の眠気が襲った。朦朧とする意識の中、彼が最後に見たのは悪戯成功した子供のようにクスクスと小悪魔めいた笑みを浮かべる董白だった。
そして時間は現在に至る。
「いきなり面と向かって抗議された時は驚いたが、その度胸は気に入ったぞ」
彼の頬を愛おしげに撫でながら、董白が囁く。
「私はお前みたいな奴が好きだ」
突然の告白に彼は戸惑う。
それもそうだろう。呼び出され、眠らされ、全裸で椅子に縛り付けられたと思えばこのような事を言われたのだ。戸惑わない方がおかしいと言うものである。
「最近の男は上官なら女であってもへこへこする奴ばかりで飽きてきていたんだ」
董白が年相応の少女のようにむくれる。だがその表情はすぐに一変して好色な笑みを浮かべる。
「やはり屈服させるなら、お前のような奴がいい」
幼くとも魔王の血は受け継がれていた。
幼いながらゾクリとする笑みを浮かべる董白、その姿はまさに魔女という言葉がピッタリくる様だった。