関平は気持ちを昂ぶらせていた。
明日の戦の勝敗は蜀の命運をも左右するだろう。
何度か小さな小競り合いには武将として参加し戦果を上げて来たが、明日の戦の規模ははその比で無い。
当然、関平にかかる緊張や重圧は今までの戦とは比べ物にならない程大きくなっていた。
……これじゃあ眠れないな。
そう思った関平は武練をして汗を流す事にした。
なに、ちょっと稽古すれば直ぐに何もかも忘れて気持ち良く寝れるさ。
静かで集中し易い場所に槍を持って移動すると、関平は体を動かし始める。
だがいくら手に持った槍を突き、払い、薙ごうとも沸き立つ恐怖を抑えられなかった。
嫌な考えばかりが頭に浮かぶ。
敗北。自分が死ぬ事。大切な人が死ぬ事。……好きな人が死ぬ事。
ふと眼前に幻影が見える。
それは今槍を持つ自分そのものだった。
唯一今の自分と違う点と言えば、その幻影の方が自分より何倍も手練れである点だろう。
関平はその幻影と戦う事を試みたが何度試しても勝ちには至らない。
想像上で関平は何度も袈裟に斬られ、頭蓋を突かれ、滅多刺しにされた。
「くそっ!」
そう言うや、思わず槍の穂先を地面に突きたててしまった。
いけない、自分は武人なのだ。武人が戦いを放棄してどうする。
槍を再び手に取ろうとしたが、体がぴくりとも動かない。
自分は何のために戦うのか。何を守り、何を成すのか。
分からない。分からない。ワカラナイ。
どうしようもない虚無感に襲われる。
もう、駄目だ。
体中の力が抜け片膝を立てて座り込んでしまった。