『始まり』
目の前には長い廊下。耳に入るのは自分の足音。外では桜がひらひらと散っている。穏やかな陽気が心地いい。
一枚の紙を手に持って私は黙々と足を進めた。すれちがう人たちは知らない顔ばかり。
緊張はしている。不安に思うことはたくさんある。だけど、自分で決めたことだから。
そう、これは自分の意志。誰かに強制されたわけでも、薦めてくれたわけでもない。
どんな顔をすればいいのだろう。どんな態度をとればいいのだろう。思考はやがて困惑になり、そして不安要素へと変化する。
だけど、足は止まらない。頭と身体が上手くリンクしていない。でも、それでいいと思った。
人間の深く考え込む能力、それは生きる中で重要なウェイトを占めているもの。だが、時にそれは邪魔者にも変化する。
本当の私は、理性を保った自分なのか、それとも本能のまま動く自分なのか。
一体どちらが真実なのか。わからない。わかるはずがない。でも、それが一番良い気がしてならない。
この世には、正しく答えが出ない謎が合った方がいいのだ。
だんだんと近づいてくる目的地。心が不安と期待で入り混じる。胸が高鳴っている。そう、それはうるさいぐらいに。
だけど今、自分の目の前にあるドアをあけたとき、そんな心配はしなくなる。
ノックを二回。返事を確認し、静かに扉をあける。そう、始まりの扉を。
「すみません。仮入部したいんですけど……」
もう、大丈夫。
期待が不安を取り込む日は、そう遠くはないから。
Fin.
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