この恋は…


 2年目の冬のことだった。僕は、冬は家畜の世話が終わったら鉱石掘りか
釣りと決めていたので、その日は釣りをしに海へ行った。
彼女との出会いはそのときだった。
僕は、冬の寒い砂浜で、ふと足を止めた。見慣れない人がいたからだ。
その人影は、遠目にも女性だとわかる。
「…観光の方ですか?」
僕は彼女に声をかけてみた。
「…!」
彼女がざっと振り返った。僕は彼女を見てハッとした。
黒く長い髪、髪と同色の印象的な瞳。素朴な美しさのある顔立ち。
この人は…!?
「マ…マナさん!?」


「マナさん…!?なんでそんなに若返っちゃったんですか?」
僕は戸惑っていた。見た目はマナさんそっくりだが、彼女は僕より
2、3歳ほどしか年上に見えない。
「マナ…?違うわ、それは私のお母さんの名前、私は…アージュ」
「え…!で、でていったっていう娘さん?」
「そうよ。そのアージュ。お母さんそっくりでしょ、私…!」
ここまでは和やかだった彼女だが、急に顔を厳しくさせ、ピートを
「海の家」の影に連れ込んだ。
「わっ…」
僕はバランスを崩しそうになりながら、彼女の俊敏な動きに従った。
彼女はピートにぴったりくっついて、自分たちを隠そうとしている。
「…?」
ピートはザクが通っていくのを確認した。彼女は隠れたのだろうか。
ザクは鼻歌を歌いながら、二人に気づかず通り過ぎていった。
「あ、あのー」
「っていうか、君こそ見かけない顔よね。私が出て行ったあとのこの町に来たの?」
母親譲りなのだろうか、他の追随を許さないしゃべりだ。
「あ、はい。まだまだ新参者ですよ」
「そう…じゃあ私が知らないのも無理ないわよね。名前は?」
「ピートです」
答えながら、ピートは密着しているアージュの体に鼓動を早めていた。
(近くで見てもほんとに綺麗だなあ。マナさんもこんなに綺麗だったのかな)
もちろん今でも綺麗だけどね、とピートは思った。


「ふう…ねえ、ピート君、いつまでもこうやってくっついてるわけにはいかないわ」
「そうですね」
ピートは実を言えばもう少し彼女の体を味わいたかった。
「私、ここにいるってことは誰にも知られたくないの」
「じゃ、なんで戻ってきたんですか?」
ピーとが率直な疑問を口にする。
「そりゃ、お父さんとお母さんが元気でやってるのか、果樹園はどうなってるのか
って気になったの」
「なるほど」
アージュはピートの顔をじっと見つめる。
「…ピート君」
「なんですか?」
「突然だけど、私をあなたの家に連れて行ってほしいの」
「え…な、なんでまた?」
「だって、もうちょっと話も聞きたいし、それに…他の人はみんな、私がいる
ってわかったらお父さんに知らせるだろうし…そんなことになったら、私、今度は
町に帰れないわ」
「うーん…」
ピートは彼女を家にあげてもいいのかと考えた。
やば、やばい。非常にやばいぞ。今でも結構来てるのに、このうえぼくの家で二人
になったりしたら…!
ピートは自分が獣になるのが怖かったのだ。

「…でね、お父さんったら、いつも私のところに電話かけてきて、帰ってこいだの
ちゃんと食べてるかだのうるさいのよ」
「はい」
「まったくもう、自分で自分のことはできないくせに…お母さんはよく我慢できる
わねって思ってる」
「でもマナさんも負けてませんよ」
結局、ピートはアージュを家に入れた。海岸から牧場までの間、住人達に
見られないように歩いたので、かなり神経を使ったが。
今、二人はテーブルを隔て、向かい合わせに座っていた。
実のところ、ピートは自分の理性が少々心配だったのだが、アージュの
母親譲りの素早いおしゃべりに圧倒され、手を出すどころではなくなった。
そのおしゃべりのほとんどが先ほどのようなぐちなのだが…。


アージュは一息つこうとしゃべるのをやめた。
「なんか悪いわね、私ばっかりしゃべってて」
「いいですよ。ぐちも大歓迎です」
ピートは優しく笑った。
「ピート君、優しいのね。もてるでしょう」
「いえ、そんなことは…」
「本当?だって、この町にはちゃんと女の子だっているし。ほんとは
お目当てさんだっているんでしょー?」
マナそっくりの「にやっ」という顔をしながら、アージュがからかう。
「しかも、みんな可愛かったり綺麗だったりするでしょ。まあ、お母さんが
美人だからねー」
「…アージュさんも綺麗ですよ」
「…そ、そう…あはは、照れるわー」
ピートがかなり真剣な顔でそう言うので、アージュは軽口をやめた。


「ねえ、ピート君」
「はい?」
「真剣な話…誰か好きな人いるの?」
「うーん…みんな、いい友達どまりで、他に好きな人がいるみたいです」
そう、この町の女の子はみんな、ピート以外の相手がいるのだ。
ピートは苦笑した。
「そう…みんな見る目ないわね」
ピートは時計に目をやった。
「それより、もうすぐお昼ですね。僕が何か作りますよ」
キッチンに立つピートに、アージュが熱い視線を送る。
私はあの人がほしいのね。今すぐほしいのね。
アージュは熱にかかったような顔になると、そのまま彼の背後に
忍び寄り、すっと抱きついた。
「ピート君…」
「…アージュさん…!なんてことを…!」

ピートは気持ちを落ち着かせ、彼女の腕をはがそうとした。
「アージュさん、いけません」
「どうして?会ったばかりの女なんてなんとも思えない?」
「そうじゃなくて…あなたは、この町にとどまる人ではないから。
好きになったら、あなたも僕も辛いから」
アージュはかまわず、腕に力を込めた。
「放してください…」
「いや。ここであなたを放したら、私は後悔するわ」
「アージュさん…」
ピートの心のうちに、急に愛にも近い感情がこみ上げてきた。
彼女の腕をはがすと、自分の両手で彼女の顔を押さえる。
二人の間に沈黙が流れる。
アージュはらちを切らしたように皮肉っぽく顔をゆがめた。
「…ピート君、我慢強いのね」
彼女は、下のほうに手を伸ばす。
「あ…!?」


アージュがピートに向かって手を伸ばす。
彼女が触ったのは、いわゆる男性そのものの部分だ。
「どこ触って…んぅぐっ…」
「感じてるじゃないの…もうかなり来てるわよ」
彼女のピアニストのような繊細な指がズボン越しにピートの
それを優しくなでる。
「くうっ…」
感じているのは事実のピートは、やめろとは言えなかった。
「ピート君…私が嫌いだって言うなら、私は今すぐ止めるわ」
ピートは苦笑し、首を横に振った。
「…まいりましたよ。もうあなたには負けました」
「うふふ…」
アージュの手が止まる。ピートは彼女のを抱え上げると、
ベッドまで歩いていき、彼女をそっとベッドの上に乗せた。
「…本当にいいんですね?」
ピートは念押しに確認する。
「…来て…」
アージュが「だっこ」をねだる子供のように手を伸ばす。

ピートは彼女をベッドに乗せると、自分もベッドの上に乗り、
ふわっと彼女の上に覆いかぶさった。
「あ…」
アージュの顔に初めて照れくささが見えた。
ピートは彼女の目を見つめる。真っ黒いその瞳は、使い古された
表現だが、まさしく吸い込まれそうなのだ。
ピートがだんだんと顔を近づけるうち、二人の唇が触れ合った。
「ふう…ん」
アージュの目が閉じる。ピートもそれにならい目を閉じる。
こんなに優しいキスは何年ぶりかしら。いや、もしかしたら、
彼が初めてかもしれない…。
アージュはそう思った。
「ど、どうでしたか?」
ピートは顔を離すと、どこか不安げに彼女に問う。
少年のような表情、質問がいとおしく、アージュは彼を抱き寄せた。
「よかったわ…すごく」
アージュは彼の耳元でそうささやいた。
ピートの顔に、照れたような、嬉しそうな微笑が浮かんだ。


ピートとアージュはお互いの体をしっかり抱いた。
牧場の仕事で鍛えられた頑健な体。都会女性の華奢な体に。
好きだった? ええ。 いつから? たぶん、最初に見た時からね。
そんなふうには見えなかったな。 そりゃ、いろいろあるもの。
でももういいよ。もう…いいよ…。 うん。
好きです。好きよ。
離れないでくれ。 離れないでね。 うん。ええ。
僕は 私は ずっと…あなたを…探してたんだ… 好きです。 好きよ。


二人はいつしか裸になっていた。ベッドの下には二人の衣類が散乱している。
しかしそんなことは今の二人には関係ない。
ピートは本当に満たされた気分だった。ごく幼いころはともかく、
大人になってからこれほどの安心感に満たされたのは初めてだった。
この人が好きだ。ピートの腕がアージュの体をきつく抱いた。
その手はやがて彼女の柔らかい体を撫で回していた。
アージュは拒まない。彼女もまた満たされた気持ちでいっぱいだった。
「ピート」
「アージュさん」
二人はお互いの目を見つめた。この人ならいい。出会ったばかりでも
関係ない。人は時として、一瞬で愛が芽生えることもあるのだから。

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