ピート×サラ


ある所に、ピートという青年が居ました。
特にこれと言った特徴のない、敢えて特徴を挙げるとしたらヅラ疑惑のあるその変な前髪だけの、ごく普通の青年であったピートですが、ある日、彼の祖父がついぞ果たし得なかった「大牧場の建設」という夢に漢のロマンを感じ一念発起。
祖父が生前購入した土地を相続し、四苦八苦・七転八倒・紆余曲折を経て、ついに祖父の夢である大牧場の建設を成し遂げ、栄誉ある牧場マスターとなりました。
けれども、彼の牧場生活が大きな節目を迎えてしばらくの後。
ピートはなぜか、心のどこかに満たされない隙間が出来ていたことに気がつきました。
夢を叶え、満たされた生活の筈なのに、なぜ。
疑問の答えは出ず、ただ日々が過ぎてゆきました。

一方、これまたある所に、サラという少女が居ました。
彼女は物心ついた数年後、母親を亡くしました。母の死をたいそう嘆き悲しんだ彼女でしたが、父親の深い愛情と優しさに辛い現実を乗り越え、母の遺した思い出と共に明るく元気に育ってゆきました。
やがてサラが都市部の学校に進学し、卒業も間近となった頃。
なんということでしょう、父親が亡くなったとの知らせが彼女の元へと届いたのです。その上、彼女の父親が営んでいた牧場は、管理する者がいないということで人手に渡るだろうというのです。
あまりの出来事に、けれどもサラは一晩だけ泣いて、心を決めましました。
父さんと母さんの思い出は、私が守る。
周囲の猛反対にも、サラの決意は揺るぎませんでした。父の牧場は、彼女にとって何物にも変えがたい思い出の場所なのですから。
なおも反対する周囲をよそに、彼女は淡々と牧場のある離島への渡航準備を整えていきました。


サラの渡航も間近となったある日、頑として意見を変えようとしない彼女を見かねて、彼女の父の友人であるハインツは、知り合いであったピートの元を訪ね、依頼しました。
『ある少女の手伝いをしてくれないか』
事の顛末を聞いたピートは、迷った後、彼の牧場をハインツ達村の皆に任せ、サラを手助けをすることに決めました。その時ピートはなぜか、心の隙間が疼いたような気がしました。
ピートの了解を取り付けたハインツは、次にサラの元へと向かいました。人を一人、雇ってみないかと提案するためです。
ハインツの提案に、少しの逡巡の後、サラは首を縦に振りました。牧場再建の為に今は一人でも人手がほしいところです。ハインツの紹介ならば、間違いはないでしょう。
かくして、まだ雪の残る晩冬のある日、ピートとサラは島へと渡る港がある町の駅で出会いました。
この時サラが、ピートの前髪が着脱式かどうかかなり本気で悩んだことは、彼女だけの秘密です。


それから。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、また春が来た頃。
ピートは、自分の中でサラがかけがえのない存在となっていることに気づきました。
彼女の牧場に対する真摯な情熱が、彼の心の隙間を埋めてゆきました。それは、ひとつの目標を達成したことで彼が見失いかけていたものでした。
彼女の、彼に向ける表裏の無い優しさと笑顔が、更に彼の間隙を満たしてゆきました。それは、たったひとりで突き進んできた彼が無意識のうちに求めていたものでした。
ピートの心の隙間が暖かなものに満たされた頃には、彼は、この隣に居てくれる存在を手放したくないと欲するようになっていました。平たく言うと、ぞっこんラヴということです。


一旦サラを女性として意識してしまうと、少し困ったことも出てきました。
何せ、2人はひとつ屋根の下で昼夜を共に暮らしているのです。何もしなくとも彼女の私生活の飾らない姿を目にしまくりです。
その上、2人のベッドは小さなチェストひとつを挟んで隣同士に設置されているのです。うっかり夜中に目を覚まそうものなら、暴れん棒将軍とか頭悪そうな駄洒落を思いついてしまう勢いでした。
(嬉しいんだけど、いや、でもなあ……)
年頃の男の子は大変です。

ピートが、そんな幸せを感じつつも絶妙に悶々とした日々を送り始めてしばらくしたある日。
本土まで買出しに行っていたサラが、見慣れない瓶を携えて帰ってきました。
ピートが瓶について尋ねると、
「あ、これ?長老様に貰ったの。いつも収穫物をお裾分けしてるお礼だって」
なんでも、2人の住む村の長老特製の薬養酒だそうです。
「コップ1杯を寝る前に飲むと良いって言っていたよ」
なるほど、島のことに精通している長老ならば、体に良い薬草なども多く知っているのでしょう。
「さっそく今晩頂いてみようか」
そう言って、サラは瓶をキッチンの棚にしまいました。
濃い色をした瓶の中を良く見れば、様々な形をした葉や枝に混じって、尻尾の長い小さな四足動物が沈んでいたことに2人が気づかなかったのは、果たして幸か不幸か?


そしてその日の晩。
夕食を終え、風呂にも入り、明日の天気も確認しムム明日はあいにくの雨のようです──、後は寝るだけ、というときになって、サラが2つのグラスと件の瓶を持ってベッドまでやってきました。
ベッドに腰掛けて、チェストに置いたグラスにとぷとぷと瓶の中身を注ぐと、片方をピートに差し出しました。
「乾杯!」
かちんとグラスを打ち合わせて、7分目程まで注がれたその酒を口に含むと、甘い薬草の風味に混じって、アルコールのそれとはまた違う仄かな苦味が口の中に広がりました。なかなか飲みやすい味です。
「甘いけど、ちょっと苦いね。でも結構美味しいな」
サラの言葉に、ピートも相槌を打ちます。
一口飲むたび、酒の成分が体中に染み渡るように心地好い興奮が頭に霞をかけてゆきます。頬は上気し、何となく下半身が騒がしくなってきました。
流石、長老の薬養酒。これならばっちり安眠できそうです。
(──安眠?……って、ちょっと待て!)
身体に起きた異変に気づき慌てて、サラの方に目をやれば、
「ぁ……何だろ……」
ビンゴでした。


頬を桜色に染め、いつになく艶やかに潤んだ瞳の少女を目の前にして、ピートの堪忍袋の緒(桃色仕様)はじりじりと耐久限界に近づいていました。
(長老……一体酒に何を入れたんですか……)
人生の荒波を乗り越え酸いも甘いも味わいつくした長老のこと、もちろんピートの気持ちなどとうにお見通しでした。
普段は好々翁の仮面を崩さない長老ですが、どっこい実はなかなかの策士です。煮え切らないピートの態度に少々発破をかける目的で、特製の薬養酒をサラに渡したのでした。
「ん……何だか今日は、暑いね……」
どうやら、サラは一服盛られたことに気づいていないようです。
残念、暑いじゃなくて熱いだよ、とか胸中で呟きつつ、ピートは彼女から必死に目を逸らしました。
そのまま彼女を直視していたら、本能の勢いに任せて彼女を傷つけてしまいそうだったからです。
そんなことになれば、彼女の両親に祟り殺されるかも知れません。
けれども、それはむしろ逆効果でした。
「ピートくん?」
ピートの不審な態度に、サラが不思議そうに声をかけました。
「いや、何でも──」
答えかけて、振り向いてしまったピートの目に、無意識のうちに肌蹴てしまったのでしょうサラのパジャマの裾から見える、彼女のやや小ぶりですが形の良い双房が、飛び込んできてしまったのです。


ぶちんという何だか不穏な音を、ピートは聞いた気がしました。
「えーと、その」
「うん?」
(……さようなら俺の理性)
「ごめん、サラ」
「え?」
口をついて出た謝罪の言葉は、理性の欠片の最後の足掻きでしょうか。
サラが言葉の意味を理解する前に、「きゃっ」ピートはサラをその腕の中に閉じ込めてしまっていました。
「や、ピートくん、どうしたの……んぅっ」
問いの答えの代わりに、ピートは噛み付くような口付けを彼女に返しました。さながら飢えた獣のごとく、ピートは何度も執拗にサラの唇を貪ります。
「んんっ…ぁん……」
長老特製怪しい薬養酒の効果でしょうか、わずかに開かれたサラの口元から、困惑混じりの艶めいた声が漏れました。
その声は、ピートの激情をますます煽り立てるものでしかなく、
「ふ、ぅ……っ」
サラの少しだけ開かれた歯列の隙間から舌を潜り込ませると、惑う彼女のそれと絡め責めたてます。
部屋の中には、2人の衣擦れの音と小さな水音、それから乱れた呼吸音が断続的に響いています。
そのただならぬ気配にベッドの側の寝床で寝ていた、飼い犬にして忠犬たるもものすけが目を覚ましましたが、賢い彼のこと、2人に気づかれないように、そっとその場を離れました。
その時、
『ご主人様、頑張るんだワン』
そんなことをこっそり言ったとか言わなかったとか。


思う様サラの口内を犯し尽くすと、ようやくピートは唇を離しました。二人の間に繋がった細い銀糸が、やがてふつりと切れました。
「…は……ん……ピート…くん……」
呼吸もままならぬ程激しくサラを苛む青年の、普段とはあまりに違う雰囲気に、彼女は戸惑っていました。
一大決意をして島に渡ってきて以来、彼女は両親との思い出を守り牧場を発展させることに意識の大半を向けていました。
それ故に、一番身近で移ろっていった、ピートの彼女を見つめる視線に気づかなかったのでした。
気の良いパートナーであると彼女が信じて疑わなかった青年は、今はサラの目の前には居ません。
──けれど。
「サラ」
己の名を呼ぶ青年の声が、サラの胸の奥を、甘くむず痒く痺れさせます。
決して不快ではなくむしろその先の何かを求めてしまうような、不安と興奮に心を溶かされてゆくような感覚。
「君が、欲しい」
耳元で囁かれた言葉と、身体にかかる酷く現実的で、しかしどこか夢うつつのような重みを、ついにサラは拒みませんでした。


とさりと音を立てて、サラの背中がシーツに触れました。
「あ……」
少女の細い肩を、青年の無骨な腕が押さえています。
「サラ……」
熱の篭った声で少女の名前を呼びながら、ピートは彼女の首筋に顔を埋めました。そのまま、ついと舌を滑らせます。
「ふあ…っ」
慣れない刺激に、思わずサラは上ずった声を上げてしまいました。
更に、ピートは開いた左手でサラのパジャマの上着を乱暴にくつろげると、彼女の胸へと手を伸ばしました。既にぷくりと起ち上がっていた紅い突起が、健気に彼の掌を押し返します。
「はぁん……っ」
鼻腔をくすぐるシャンプーの香りと右手に伝わる柔らかな感触、それから常ならぬ熱を帯びたサラの声が、ピートを一層昂ぶらせます。
頭の奥、何処か仄暗い場所からの命令に忠実に従って、彼はサラの片房を揉みし抱きました。指で、掌全体で彼女を感じ、捏ね繰り回します。
「ぁあっ…や……あ、ああん…っ……」
感じやすい部位への激しい愛撫に、堪らずサラの声は大きくなっていました。


なおもサラの右胸を刺激しながら、ピートは口付けを首筋から鎖骨、更にその下方へと移動させてゆきました。
やがて彼の唇は、サラの左胸へと辿り着くと、彼女の荒い呼吸に従って上下するその胸の先端を、舌で突付きました。
「ひゃうっ!」
指と掌のそれとは全く違った湿り気のある感触に、サラの小さな悲鳴が上がります。
それに構わず、むしろ更に追い立てるように、ピートは少女の胸を突付き、舐り、吸い上げました。
少女の双果は、全く素直に、青年の与える刺激を彼女へと伝えます。
「あんっ、あ…」
激情のままに繰り返される青年の愛撫に、いつしかサラの身体の内に灯った情欲の炎は段々と青白く輝きを増し、
「ぅあ、あ……ひうっ……あああっ…イイよ…っ……」
無意識のうちに、ピートを求める言葉が、朱に染まった唇から滑り出る程に燃え立っていました。


それから、ピートの右手は、彼の胸の下で喘ぐ少女の密やかな陰りへと伸ばされてゆきました。
パジャマのズボンを引き降ろすと、ショーツの中に指を進めます。
彼女の柔らかな髪と同じ栗色をした茂みの向こうに、隠された粒を見つけると、ピートはそれをきゅっと摘み上げました。
「やあああっ!?」
敏感な部分への強い刺激に、びくりとサラの背がしなります。
「あっ…ひゃ、やぅっ……!」
行為に反応して小さく勃ち上がっていたそれを擦るたび、サラのあられもない声が響きます。
跳ねるサラの身体を制して、ピートはサラの全身を貪欲に愛撫し続けました。
怪しさ大爆発な酒の力を借りたとはいえ、焦がれた少女が淫らな姿で悦がっているという事実は、青年を獣欲の檻へと捕らえるのに十分な力をもっていました。


そして、ピートはしとどに濡れそぼったサラの下の口へ指を埋めました。
くぷ……
「くぅんっ…」
既に溢れんばかりの蜜を湛えていたその坩堝は、青年の指を優しく飲み込み吸い付きます。
くちゅ…つぷ……
指を曲げ引掻くように壁を擦り、時に紅く色づいた真珠を捏ねながら、ピートはサラの蜜壷を解きほぐしてゆきました。
「やぁっ……ピート…くん……」
青年の骨ばった指に掻き回された下半身が生むどうしようもない熱に浮かされて、サラが切ない声を上げます。
泉から溢れた雫がシーツに小さな染みを作り始めた頃。
ピートはサラの内から指を引き抜くと、代わりに猛り狂った己の怒張を引っ張り出し、力強く脈打つそれを少女の花弁に押し当てると、そのまま突き進めました。
「ッッ!?」
最奥を貫かれる衝撃に、サラの身体は大きく揺れ、声にならない悲鳴が漏れます。それでも、ピートは止まりません。
突き入れた一物を限界まで引き抜くと、再び彼女へと叩きつけました。
ぐじゅッ
「はあんっ」
肉のぶつかる生々しい音に、淫猥な水音が重なります。
「あぁっ…はぅ……っ…だ、めぇ…っ」
ピートの荒々しい動きに、サラはなす術もなく翻弄されていました。


抉るように抜き差しを繰り返しながら、自身を締め付け蕩けるように熱いサラの内の感触に、ピートは何処かへ続く階段を確実に上り詰めて行っていることを感じていました。
「ひゃん…っ…あ、あぅっ……」
──君が、欲しい──
まるでその行為が少女の全てを奪い尽くす手段であるかのように、ピートはサラを貫き、蹂躙します。
「や…やあんっ…ぅく…っ…なんだか……へん、だよ……」
一方サラも、いつしか圧迫の苦痛とは明らかに違う悦楽の波に、飲み込まれようとしていました。
「やあっ…ピートくん……っ」
「くっ…サラ…っ……」
ピートの律動が激しさを増します。
やがて、
「や…ひあああああああああああっ!」
「くぅ…っ……!」
絶頂を迎え白く染まってゆく意識の片隅で、サラは、己の内にピートのたぎる熱が打ち付けられたことを、おぼろげに感じていました。


(……やってしまった……)
一発抜いたせいか幾らか冷静さを取り戻したピートは、行為の後そのまま気を失ってしまったサラをタオルで拭いてやり、随分と乱れてしまった彼女のベッドから彼のベッドに移しかえてから、部屋の隅で頭を抱えていました。
何だか遺書を遺して首を吊りそうな雰囲気です。
(いくら変な酒を飲んじゃったからって、サラの気持ちも考えずにあんなことをしてしまうなんて……俺の阿呆!屑!色魔!)
酷い自己嫌悪にピートが悶絶していると、
「……あ……?」
「!」
どうやらサラの意識が戻ったようです。
「ピート…くん……」
部屋の隅のピートに気づいたサラが、口を開きかけました。
(……言い訳は、みっともないだけだ!)
サラが何か言う前に、ピートは彼女の元へ駆け寄りました。
「サラ、ごめんっ!」


「許してくれなんて言わない…ほんとに、ごめん」
地に着かんばかりに頭を下げ謝るピートに一瞬面食らったサラでしたが、ふと表情を緩め、彼に言葉をかけました。
「嫌じゃないから……」
(……へ?)
てっきり傷つけてしまったとばかり思っていた相手の意外な言葉に、ピートは顔を上げました。
「嫌じゃ…ない……?」
鳩が豆鉄砲喰らったような顔で聞き返すピートに、頬をほんのり紅く染め、サラは続けます。
「ピートくんだから……嫌じゃないよ……」
言ってから、サラは恥ずかしそうにシーツを引き上げ顔を隠しました。
その強い決意で、自身の情動にすら鈍感となる程牧場の仕事に打ち込んできた彼女ですが、彼女の思いを受け止め心身共に支えてくれるピートに対して、心の奥では思慕の情が育っていたのでした。


「サラ……本当に……?」
「うん……」
隠した顔を少しだけ出して、サラは頷きました。
「嫌われたと、思った……」
ピートの言葉に、サラはふるふると首を横に振ります。その様子に、ピートは安堵の溜息をつきました。
気が抜けたようにベッドに腰掛ける彼に、サラは小さく続けました。
「ね、ピートくん……」
「うん?」
「えと……言って欲しい言葉が、あるんだ……」
サラの言葉に、少しだけ考えて、ピートは答えました。
「そうだな……順番が逆になっちゃったけど、ちゃんと言うよ。
 好きだよ、サラ。……愛してる」
ピートの飾らない言葉に、サラの顔にはにかんだ笑顔が広がります。
「うん……私も大好きだよ、ピートくん……」
言って胸に飛び込んできたサラを、ピートは優しく抱きとめました。
「今度は、優しくしてね……」
「うん……」

「……わんっ」
結局満足に眠れなかったもものすけの、ラヴラヴファイヤー全開の主人たちを生暖かく見守りながら小さくひとつ鳴いた声は、まるで『終わり良ければ全て良し…だワン』と言っているかのようでした。


おしまい。

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