ザク×リリア
「んんっ…あっ…」
カーテンを閉めた部屋に女の甘い声が響く。
外は明るく、太陽が高く昇っている。良い天気だ。
日焼けした肌の男と白い肌を紅潮させた女が一糸まとわぬ姿で絡み合っている。
男の筋肉隆々とした逞しい身体がじっとりと汗ばんでいる。
「俺…もう…ダメっす…リリアさん…」
ザクが低い声で呻く。
「じゃぁ、イッて…」
ザクの動きが速くなり、リリアがそれに合わせて声をあげる。
「あ…イイ…早く…お願いっ…」
リリアの脚がぴんと突っ張り、ザクが一瞬動きを止めた。
二人の身体が同時に弛緩する。
「あん…よかった…ね、まだ時間あるんでしょ…?」
細い腕をザクの首に回してリリアが囁く。ザクには決して逆らえない、誘惑。
最初に誘って来たのは、リリアの方だった。
誕生日のプレゼントの通販を娘のポプリに頼まれて、一緒に祝った後だ。
「あのね、…お願いがあるの〜」
息子と娘が席を外した隙に、リリアが囁いた。
「明日、リックとポプリがいない時にまた来てくれる〜?」
いつもと同じ、おっとりとした口調だったのをザクは覚えている。
次の日の昼間、いつもの仕事をしている顔をして、ザクは養鶏場を訪ねた。
鶏の世話をしていたリックが「こんにちは」と挨拶してきた。
リックはその父親に顔立ちがよく似ている。真面目で一本気なところも、だ。
この青年に嫉妬しても仕方がないと、ザクは何度自分に言い聞かせただろうか。
ザクが家に入ると、リリアがいつも通り微笑んだ。
「いらっしゃい〜。来てくれたのねぇ〜」
そう言って、カウンターから出てくる。
「プレゼント有り難う〜。ポプリが迷惑かけたでしょ〜?」
「いや、そんなことないっすよ。仕事っすから」
憧れの女性が、手を伸ばせば触れられる所に立っている。
このまま抱き締めてしまいたい、と思うが、ザクにはそれが出来ない。
「うふふ〜」
リリアが、ザクにすり寄って来た。
「昨日のお礼がしたいの〜
…な〜んて、本当はもっと貰っちゃうことになるかもしれないんだけどぉ〜」
体中の血液が、逆流したかと思った。何を、とか、何で、とか聞きたいのに
言葉が出ない。
「ね…こんなオバサンじゃ…イヤ…?」
甘えるように上目遣いで見つめられて、ザクは、自分に逃げ道がないことを悟った。
何もかも、見透かされている気がした。
決して断らないと、知っていると思った。
病気がちで身体の弱いリリアを今までずっと見つめて来た。
その細い身体に腕を回した。壊れものを扱うようにそっと抱き締めて
「そんなこと…あるわけないっす…」
と答えるのが精一杯だった。
この細くて白い身体は、幼い顔立ちの割には成熟しきった身体は、本当は、
リックによく似た男のものだ。
リリアの身体はその男によって何度開かれたのだろう。
どのように愛されたのだろう。
そう思うと、その男の残り香を消すまで、リリアを抱かなければ気が済まなかった。
何度身体を重ねても、まるでリリアの中からその男の気配がするような気がして、
毎回、体中を愛撫した。
「ね、どうしたのぉ?」
さっき一度仕事を果たしたザクのペニスを弄びながらリリアが訊ねる。
「なんでも…ないッス…」
考えていた言葉をすべて飲み込む。
この人は、まるで純真無垢な乙女のようだが、ひどく残酷だ、と思う。
「あの人が帰ってこないからぁ〜…私、寂しくってぇ…」
最初の頃は旦那の話ばかり聞かされた。
「独りでするのにも限界があるのぉ〜」
要するに、旦那の代わりが欲しかったんだろう、と思う。
それならそれなりの道具でも渡した方が良かったのかもしれない。
しかし、ザクにはそれはできなかった。道具にさえ、嫉妬してしまいそうだった。
まるで悪気のない口調。本当に悪気もないのだろう。
この町では、こんなことになることもあると、旦那もわかっていて出掛けたのだろう。
「うふふ〜」
リリアが笑う。ペニスが硬くなりかけている。
「私、この子も大好き〜」
ペニスに血液が一気に集まった。
他には誰のが好きなのかとか、好きなのはそこだけなのかとか、
様々な思いがザクの中を血液と同じ速さで駆けめぐる。
リリアがペニスの先をちろり、と舐める。
そして、たわわな乳房でザクのものを挟み、上下に擦り合わせる。
胸に挟んだものを口に含み、先端を舌で転がす。
「リリア…さん…」
舌がくびれの周りをなぞり、先端の割れ目を刺激する。
「んっ…」
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立ててリリアがザクのペニスをしゃぶる。
遠くから、見ているだけだった女性が、今自分にこんなことをしてくれている。
最初の頃はその状況だけで自分は射精に至ってしまっていた。
愛しい女の脚の間に顔を埋める。
今は、身体は慣れて、少しは余裕ができた。その分、行為の最中に考えることが増えた。
クリトリスを舌でつつくと、リリアが
「やん…そこはだめぇ〜…」
と腰をくねらせて抵抗する。
「感じちゃう…んっ…」
それなら、と、スリットに舌を這わせる。昼間なので、色も形も丸見えだ。
使うと黒くなるとか、子供二人も産んでるからがばがばだとか、
そういうのは全部嘘だ、とザクは思う。
若い娘と比べても何ら遜色ない。
舌を精一杯伸ばして、リリアの中に自分のにおいをつける。
自分がつけた自分のにおいとリリアのにおいが混ざっているのを確認する。
「あん…そろそろ…お願い…」
刺激に堪えかねたのか、リリアが強請る。
「相変わらずッスね…」
そう言いながら、ペニスをリリアの腰に押しつける。
「どうすればいいんでしたっけ?」
いつもの儀式。初めてセックスした時に、もっと言葉を使ってと頼まれた。
リックに似た、誠実そうな、優しそうな男。きっとその男としていたことを、
自分に求めているのだと、ザクにはわかっている。
「あなたを…私に…入れて…」
リリアの答えもいつもと同じ。
「もっとちゃんと言わないと何も入れられないッス」
敬語は使わないで、と言われたが、つい使ってしまう。
せめて、自分の言葉で話をしたいと思う。
リリアの胸の突起を片手でつつき、反対側を強く吸った。
「あなたの…おちんちん…私の、ここに…」
そう言って、リリアがペニスを掴み、そっと自分の中に入れる。
リリアがぐっと腰を押しつけてくる。
「もっとはっきり…」
先端だけ挿入した状態でザクが囁く。
「奥まで…突いて」
興奮して、奥までずぶずぶとペニスを一気に推し進める一方で、ザクにはわかっている。
リリアは、一番良い時にはザクの名前を呼ばない。
「あっ…あん、あん、あん…」
ザクの動きとシンクロしてリリアが喘ぐ。
「こんな昼間っから…奥様がこんなことしてちゃ…いけねェっすよ…」
「だってぇ…」
言葉とは裏腹に、ザクはリリアの腰を掴んで持ち上げ、一緒に動かす。
「やん…イク…イっちゃうっ…んんっ…」
リリアの呼吸が荒くなる。
「ほらほら、明るいから、丸見えですよ」
「そんなコト…言わないでぇ…っ…あぁんっ…」
膣がかっと熱くなり、ザクのペニスをぎゅっと締め付ける。
透明な液体が流れ出す。
ザクも、我慢していた力を抜き、自分を解放する。
同時に達した。
力を失ったペニスを引き抜こうとすると、リリアが止めた。
「ね、もうちょっと入れてて…ぎゅってして…」
そのまま、リリアを抱き締める。リリアの考えていることはわかる。
あの人とは違う、ザクを感じている。ここが違う、ここは同じ…。
「リリアさん…」
「なぁに〜?」
いつも、自分の名前を呼んで欲しいと言おうと思う。
そうでなければ、この関係を終わらせたいとも思う。
しかし、いったん近づいた距離を離すことは難しい。
その上、ザクには言葉が見つからない。
ずっと好きだった人。今も一番大切な人。何もかもさらけ出せるようになった人。
そして初めてわかったこと。
リリアだけではないのかもしれない。女はみんなそうなのかもしれない。
それでもあまりにも。
残酷な存在だと。