War in mineral town
今日もピートの牧場の上空を、戦闘機らしい複葉機が飛んでいく。
自国を挟んだ2国が戦争を始めて半年。空に太陽と雲と鳥以外のものを見かけるのもすっかりお馴染みだ。
この国にまだとばっちりはなく、お互いがお互いに、散発的な威嚇飛行をスローぺースで繰り返しているだけ。半年前の緊張感も、不安も、今はだいぶ薄れていた。
暑い中、よく太陽に近いところを飛んでいられるな。
ピートは汗を拭いながら、そんなことを考える。
今日はタマネギの収穫。妻のエリィは、これを使ってどんな夕食を作ってくれるだろう。
彼の畑では、戦争などどこ吹く風で、パイナップルが葉いっぱいに太陽を受けていた。
「東の国、来るのか…」
「ここのすぐ近くを通るのね…」
夕食後、エリィと一緒にテレビを見ているときに流れてきた不吉なニュース。
東の国が西の国に攻め入るという知らせ。
行軍の進路は、ミネラルタウンをかすめる形になっていた。
固まった戦局が動く可能性がある。それだけで、ピート達は不安になった。
この国はどちらかというと東寄りだ。
西はマザーズヒルを含む山脈がそびえているため、交易は昔から東の国が中心であり、こと第一次産業が発達したこの国にとって、重要なお客様だったからである。
そのため、この国の首脳は、東の国に頭が上がらない。のみならず、国の防衛を任せてしまってすらいる。だからこそ、行軍の際の領地横断を許したのだ。
そして戦争のきっかけも、そういった外交の偏りに端を発する。
西の国がこの国に持ちかけてきた大規模な交易協定と、国交の親密化の要求に、東の国は不快感を表明し、外交会談は泥沼化。気づけばどちらからともなく宣戦布告が行われていた。
とはいえ、どちらもモチベーションを上げることなく切って落とした火蓋であり、その結果は半年にもわたる戦線の膠着である。
このまま双方大した死傷者を出すことなく終戦を迎えてほしい。甘い希望ではあるが、それは、3つの国に住む人全ての願いだった。
それからわずか1週間後の未明。マザーズヒルのむこうで激しい戦闘があった。
山中に潜んでいた西の国の軍が、東の国の軍に奇襲をかけ、ほとんど全滅に追い込んだのだ。
軍の規模こそ大きいものの、軍のトップや兵の大半は戦争などやったことのない、平和ボケした東の国である。行軍日程を非戦闘員に通達するなど、素人でも犯さないような失態だった。
遠く聞こえる砲撃や銃声の中、ピートは、自分にすがり付いて震えるエリィと息子を抱きしめ、今後の自分たちの行く末を考えていた。
おそらく、勝利を納めた西の軍は、戦場に近いここミネラルタウンに駐留するだろう。そして、住民に支援を求める。聞こえはいいが、いわゆる略奪だ。
多少の代価は得られるだろうが、それも二束三文。財産が大きく削られる。
祖父の残してくれたこの牧場は、ただの財産ではない。手放したくはなかった。
だが、その可能性は薄いのではないか。ここは、さらに侵攻するための道程に過ぎないし、軍人など一人もいない。余計な抵抗さえしなければ根こそぎ奪われはしないだろう。
では何かを徴収されるか。西の国は、南の海から北に長く伸びる工業国だ。そして、環境保全の意味から、ミネラルタウンに接する南部には工場がなく、漁民が細々と暮らしているだけで、過疎化が進んでいる。
西の国には第一次産業に携わる者は少ない。食料を徴収されるのは覚悟しなければならないだろう。
それなら、この牧場には、過剰なほどの蓄えがある。それを差し出せば、無碍な扱いはされまい。
徴兵はされるだろうか。しかしここは西の国境に近い。兵力はまだまだ十分なはずだ。ここで兵の補給は行うまい。
大きな問題はないように思えた。戦勝国がどちらであっても、とどのつまり自国は中立だ。完全にどちらかの味方につくことはないだろう。どれだけ東寄りの風潮が強くとも、独立した国なのだから。
だがそれは、甘い見通しだった。
妻や、同年代の女性が例外なく美しい容貌を持っていること。
そして、西の国の軍勢が、過疎化が著しく、若い女性の少ない地域を通ってきたことを、ピートは忘れていた。
夕方、西側の兵が牧場を訪れた。案の定、食料の要求だった。
歓迎するつもりはないが、むやみに刺激するよりは、求められているものを素直に渡して帰ってもらうのが得策だろう。
兵が、自分の後ろにちらちら目をやっていたのが引っかかったが、要求は食料だけで、徴兵はなかった。
内訳は、野菜が木箱3。畜産物が木箱半分。牛1頭。鶏2羽。合わせて代金3000G。
家畜は、高齢で畜産物も取れなくなったものをくれてやった。
愛玩しかできない牛でも、少なからず、悲しかった。引っ張られていった牛は、ピートがこの牧場にきて初めて育てた牛だ。
こんな秤になどかけず、天寿を全うさせてやりたかった。
西日の残光も弱くなっていく部屋の中、隣のエリィの肩に右手を回し、ピートは心の中で、牛に手を合わせた。
不安を胸に沈め、そのまま何時間か過ごした。外は暗い。息子は、まだ日があるうちに寝かせた。
互いの気持ちを慰めあうためにも、ひととき不安を忘れるためにも、今夜は妻を抱こう。そう決めて、肩に回した手を腰に滑らせ、より強くエリィの身体を引き寄せる。
エリィは逆らわず、体重をピートに預けてきた。
左手を妻のあごに添えてこちらを向かせると、彼女は目を閉じる。
その唇に、ピートは唇を重ねた。
左手を背中に回し、強く抱きしめる。
エリィの目からあふれ出た涙が、重なった頬に吸い込まれ、溶け合う唇にほのかな塩味を伝える。
ごく近くにある災いから目を逸らしたい。言葉を交わすまでもなく、二人の心がそんな会話を交わす。
一度身体を離し、エリィが先にバスルームへ向かった。
ピートは、電気を消して、冷蔵庫からワインを取り出し、グラスに注いで一気に飲み干した。
彼は、あまりアルコールに強くない。しかし、酔いは一向は回らなかった。
同じく飲めないエリィも、同じだろう。
今夜は、効かない酒をあおって、互いを求め合う。
自分たちの小ささが、ひどく惨めに思えた。
結婚式のあの日に感じた、妻になったエリィに、決して悲しい涙を流させないという自負と誇らしさ。
すべてが砕け散った気がした。
今朝の安心すべきという結論は、自慰に過ぎなかったらしい。
あのやせ細った兵士を見たとたんに弱気になる自分が情けなかった。
残ったのは、浅ましい身体だけ。自嘲気味に笑って、グラスに残ったワインを見つめた。
エリィが風呂から出てきた。入れ替わりに、バスルームに入る。
いつも以上に熱い湯を身体に浴びせ、風呂を出た。妻の隣に座り、彼女の杯にワインを注ぐ。
エリィはとても悲しげに笑い、ピートのグラスを満たした。
乾杯はない。どちらともなく、グラスに口をつけた。
半分も飲まないでエリィはグラスを置き、ピートに身体を任せる。
今日二度目のキスを交わそうとしたとき、ノックの音がした。
無視すべきだ。同時に、応対すべきだという矛盾した警告が頭をよぎる。
無視したからといって、できるのは寝たふりだけ。
そんなものが通じる相手がドアの向こうにいるのだろうか。
やむを得ずドアを開けると、いたのは案の定、さっきの兵士だった。
「…まだ、何か」
「…奥方に、我々の慰撫をしてもらいたい」
「は?」
「奥方に、我々の慰安婦をしてもらいたい」
二の句が告げなかった。
エリィに性欲の処理をさせろというのか。
「そんなこと…!」
「兵たちは苛立っている。受け入れてもらえないならば、強制という形を取る」
「横暴じゃありませんか…!」
「どう思われようと結構。わかって欲しいわけでもない。だが、穏便には済ませたい」
「許可を出させるのと、力づくとを選べっていうのか…!」
「力づくの場合、命の保障もできん」
「…!」
ピートは壁にかけてある鎌を掴み、兵士に向けた。
兵士は怖じることなく、腰の拳銃を抜き放つ。
双方の動きが止まった。怒髪天を突く表情のピートに対し、兵士は笑みさえ浮かべている。
圧倒的に不利だった。しかし譲るわけにもいかない。
「穏便に済ませたいのですが」
皮肉をたっぷり込めて、兵士が敬語を使う。ピート達の命を、掌で弄ぶように。
「なにが穏便にだ…!」
「そうしたいから、あなたはまだ生きている」
「この…!」
「待って!私、行きます!」
鎌を握る手に一層力が込められた瞬間、エリィの声が室内に響いた。
ピートは愕然とした表情で振り返り、兵士は「ほう」とでも言いたげに首をかしげる。
「エリィ…」
「行きますから…夫を殺さないで…」
「そんなこと…」
「…あなたが死んだら、あの子、私と同じになっちゃうかもしれない…」
「自分が死ぬようなこと言うな!」
「あなたもそうしてるじゃない!」
ピートの腕から力が抜ける。確かにエリィの言うとおりだった。
少なくとも、今抵抗すれば、息子は確実に父を失う。
最悪の場合、両親をなくすことにもなりうるだろう。
そうならないために、せめて、父親だけでも。エリィはそう言っている。
「…くそっ…!」
ピートが肩を落とす。その横を、エリィがゆっくりと通り過ぎていった。
ドアが閉まって、あたりが暗闇に満ちても、ピートは立ったままでいた。
やがて、ゆっくり膝をつき、歯を食いしばって、力いっぱい床を殴りつける。
月明かりに照らされたワイングラスから、露が一滴、テーブルに落ちた。
マザーズヒルを越えたところに、彼らの幕営地があった。
20ほどあるテントに明かりはなく、人の気配もしない。ただ泥と汗の臭いが、夏の湿気と交じり合って重く立ち込めているだけだ。
その中で唯一、一番大きいテントからは灯油ランプとおぼしき明かりが漏れている。
そこに、98人を数える西の兵士と、彼女たち5人はいた。
エリィは顎を引いて目を閉じ、ランは耳を押さえて椅子に丸まっている。
ポプリはぐずり、カレンは唇を噛んで膝の上で拳骨に握り締めている。
意外なことに、マリーは今にも相手を殺しそうな視線で、辺りの兵士を睨みつけていた。
5人の前に、口ひげを生やした兵士が現れた。部隊長か何かだろう。他の兵士にはない威厳がある。
「本来この戦争とは関係のない貴女方に、辱めを強要することを、大変申し訳なく思う」
そう切り出し、彼女らへの遺憾の意を表すとともに、部下たちの欲求不満がいかに高まっているかを、軍人然とした口調で5分ほど演説した。
口ぶりこそ立派だが、その内容は身内の弁護に過ぎない。
5人の女性の恨みや軽蔑の視線を浴び、彼は一刻も早くその場から立ち去りたい様子で、しかし歩みだけはゆっくりとテントを後にした。
「…さて」
上官の短い演説の間にも、苛々と貧乏ゆすりしていた兵士が椅子から立ち上がる。
牧場に来た、あの兵士だった。
「順番がいいか、それとも一度に相手してくれるかい?」
最低の男だった。
既婚者は、エリィだけだ。
無論、男性と交わった経験がある者もいる。だが、少なくともランとマリーは、付き合っている男性から考えて、まったくの未経験だ。
それぞれの思い人に捧げるつもりだった操を、こんな男に散らされる。それが、エリィには不憫に思えた。
「…その前にひとつ、お願いがあります」
「あん?」
「私を含めて、ここにいる5人、生涯添い遂げるつもりの男性がいます」
「…今更やめろってのかよ」
「…願わくばそうしていただきたいのですが、それは無理でしょう?せめて、唇を重ねるのはやめてください」
兵士はすこし呆然とした顔になった。そして、笑い出す。
「ひゃはははははは!下はよくて、上はダメだってか!ははははははは…」
支離滅裂な要求だということはわかっている。だが…
「性交は体の繋がりですが、キスは心の繋がりです。それまで断ち切らないでください」
「くっくっく…いいよいいよ、約束してやる」
下卑た笑いを抑えきれないように兵士は答える。それでも、約束してくれるならいい。男を知らない友の、壁のひとつは崩さずに済む。
「…んでよ、そんだけ前に来たってことは、もちろん、あんたが最初に相手してくれるんだろ?」
エリィが「はい」と答えようとしたとき、誰かが肩に手を置いた。
「あんただけ貧乏くじ引くことないわ」
「カレン…」
「全部自分で背負わなくてもいいの。知ってるでしょ?みんなの中で初体験が一番早かったの、あたしだって」
「でも…」
「経験豊富なぶん、あたしが半分くらい搾り取ってやるわよ。そしたら、誰かは何もされないかもしれないし」
口調は軽いが、やはり顔は青ざめている。エリィが反論しようとするのを制し、カレンは立ち上がった。
「なんだ、案外若いのもいるじゃない。いらっしゃい、お姉さんがいろいろ教えてあげるから」
取って付けたような台詞だったが、放たれる異様なまでの迫力に気圧されしたのか、何人かが後ずさる。
行動力があり、面倒見のよいカレンと、母性の暖かさで仲間を包むエリィは、いつも5人の先導役だった。
その二人が、100人近い男たちを相手に怯んでいない。その姿を見て、ポプリとマリーも立ち上がった。
「だ、だったら、ポプリもカイにいろいろ教えてもらったもん!」
「読んだだけの知識を試すいい機会ね」
各々、青い顔に表情を無理に貼り付けて精一杯の虚勢を張る。しかし、その気迫は兵士達に動揺を与えた。
理由などない。ただ、女性が男性より勝っている部分が、本能的に兵士を怯えさせるのだ。
「…おい、最初はあいつだ」
最後まで引かなかった、あの最低の兵士が、唯一なんの反駁も示さなかったランを指差して言った。
4人の青い顔が、さらに血の気を失う。確かに、図式としては、4人がランを守っているように見えたかもしれない。ただの偶然なのだが、しかし、1人を残してしまった時点で、彼女たちの防衛線はランになっていた。
ランが標的にされれば、この抵抗も終わってしまうだろう。
しかし、少なくとも、彼以外は誰も行動を起こす様子もなかった。
「おい、聞こえないのか。上官命令だ!」
兵士達は、互いに目配せをする。その表情は、相変わらず決心をつきかねているようだった。
「…では俺がやる。お前とお前、あとお前とお前。こいつらを押さえておけ」
その命令に、指名された兵士達がおずおずと4人を拘束しにかかる。
カレンが手を払いのけたりと、ささやかに抵抗するが、それでもすぐに4人とも動きを封じられてしまった。
「…あたしが最初って言ったじゃない」
「決めるのは俺たちだ」
「やめてあげてください…あの子、立ち直れなくなる…」
「キスさえしなけりゃいいって言ったのは、お前だろうが!」
過剰すぎる反応だ。やはりあの男も怯えていたらしい。
それでも、ランの腕を掴んで、強引に椅子から降ろそうとする。
イヤイヤと身をよじるラン。しかし、力の差はどうしようもなく、簡単に地面に転がされてしまう。
「イヤがってばっかだと、痛いぜぇ…?」
先の過剰な反応を取り繕うように、口調だけは優しく、男はランのオーバーオールのボタンを外していく。そして、強引に体を開かせ、組み敷いた。
ランの胴に腰を下ろし、左手で彼女の両腕を捕まえ、顔を覗き込む。
「へへ、この町の女は上玉ぞろいだな…」
陳腐な台詞とともに、男の舌がランの首筋を舐め上げる。
どこかで生唾を飲む音が聞こえた。よくない傾向だ。兵士達がまた興奮し始めている。
ランのオーバーオールを腰のところまで下ろし、右手で服をとブラを同時にめくりあげる。
けして大きくはないが、若さをいっぱいに湛えた双丘が露わになった。しかしそれは、恐怖や嫌悪で、微かに震えている。
男はにやりと笑い、片手でその乳房を揉みしだき、その先端を、口に含んだ。続けて、吸い上げ、舌で舐りまわし、軽く歯を立てて刺激する。
「ん…くぅ…」
怖がってはいたが、ランは耐えようとしていた。他の4人に比べて弱々しいが、彼女なりに抵抗を試みているのが、エリィにはよくわかった。
感情を伴わない、強制的な身体の繋がりに関して、男性は単純な生き物である。よがらせるか、泣き喚かせるか。ほとんどの男たちが、その二択を女性に求める。
それに抗うならば、相手に期待されない行動を取ればいい。それを、ランはこの土壇場で健気に実践していた。
エリィの胸に希望が射した。大丈夫、私たちの心は折れない。輪姦されてなお、想い人が受け入れてくれるなら、それだけで。
そして、彼女の夫も含めて(あのカイですらも)、恋人に体だけを求めている男はいないのだ。
「う…ん…」
男の手が、ショーツ越しにランの秘部をさすっている。
誰にも触れさせたことのない場所をゆるゆると責められながら、それでもランは堪えていた。
まだ、もちそうだ。エリィの安堵の吐息は、しかし途中で短い吸気に変わった。彼女を拘束していた兵士が、胸に手を忍ばせてきたのだ。
荒い息遣いが耳元で聞こえる。他の兵士もそれに気づき、八方からエリィに手を伸ばす。
何者かがエプロンを引きちぎり、何者はブラウスをめくり上げ、気づけばエリィは下着姿にされて地面に転がされていた。
幾人もの兵士が彼女を取り囲む。彼らの軍服の股間は例外なく盛り上がっていた。
「ん…ぅあ…っ!」
兵士達の荒い息づかいに交じって、押し殺した声が聞こえた。
足の間から、カレンと思しき裸体が、浅黒い塊にのしかかられ、揺れているのが見える。
立候補したとはいえ、いの一番に蹂躙の対象になってしまったのは、なんとも皮肉に思えた。
「いた、痛い!」
あの声はマリーだ。青い服が翻っている。着衣のまま、侵入されようとしているらしい。
全裸に剥かれたポプリは、口と手による奉仕を求められている。「いろいろ教わった」ことを試されようとしているのか。
足元に落ちている服は、彼女の必死の抵抗を物語るように、ぼろきれのごとく破り裂かれていた。
さっきの虚勢が今度は彼女たちを追い詰める結果になっている。無残だった。
自分も、時間の問題だった。包囲網は狭まってきている。
あっという間に残った下着も剥ぎ取られ、エリィは全裸にされてしまった。
兵士が1人、彼女に覆いかぶさる。そして、湿り気のない秘所に、たぎった剛直がねじこまれた。
「…!」
声を出さなかったのは、せめてもの抵抗だ。噛みしめられた唇の端に血がにじむ。
このまま耐えていれば、全ては終わる。
ほどなく、兵士は精を放った。彼女の顔や腹に、白い粘液が飛び散る。
…終わるのなら、早いほうがいい…!
エリィは、凄まじい精神力で、可能な限り早く全ての兵士の相手をこなす覚悟を決めた。そうすれば、他の4人への負担が減る。
のしかかっていた兵士がどくと、身体を反転させ、四つんばいの体勢を取った。
誘いをかけるまでもなく、次の兵士の侵入を受ける。
同時に、口にも性器を押し込まれる。嫌悪感や屈辱を踏み潰し、大胆に舌を絡めた。
それなりに積んだ経験を総動員し、ただ射精をさせるためだけの刺激を加える。
夫にしたときは、反応見たさに焦らしたりしたが、今回はそんなものは見たくはなかった。
視界をめぐらせ、手近なペニス2本を両手に握り、扱く。あっという間に、全ての肉棒が弾けた。全身に精液を浴びてなお、冷静でいられる自分に安堵する。
…この人たち、敏感になってる。弱くなってる!
自信が湧いてきた。長期の禁欲が続いていたのだ。長けているわけではない自分の技術でも十分な数をこなせる。敗北の中の勝利を予感し、エリィは冷たくほくそ笑んだ。
だが、端から見れば、早くも快楽に呑まれてしまったようにも見える。
それは、同じく蹂躙を受けている他の4人にとって、ひとつの大きな柱を失うことになる。
特に、まだ周りの心配をする義務がある者にとっては。
「…エリィ…」
相変わらず男に組み敷かれたカレンが、痛ましげに友の名を呟く。
衝撃は大きかった。リーダー格として振舞ってはいるものの、気持ちの上ではカレンは大きくエリィに依存していたからだ。
そもそも、置かれた境遇からして、彼女の芯はエリィに比べ、弱い。両親ともに健在で、特に働く必要もないからだ。
いつもの気の強さは、結局、仲間内での役割分担にすぎなかった。柱を失えば、残ったものは、さほど大きくなく、そして弱い。
…エリィがああなっちゃったら、もう…
男の突き込みに揺られつつ、カレンの中で乱れ飛ぶ思考が、そんな言葉を紡ぐ。
…勝てない、あたし…
霞がかった頭が、そんな自分を認識させる。
エリィが堕ちた今、抵抗できるのは自分だけ。でも、無理。
無力感、諦め、自棄。
…痛いのは、イヤ…
…心も、身体も、痛いのは、イヤ…
「…なんだ、おい、いきなり濡れてきやがったぜ」
カレンに覆いかぶさっている兵士が驚いた声を上げる。
実際、彼女のそこは、じわじわと愛液を分泌し始めていた。
苦痛に耐えて青ざめていた頬が、桜色に上気しつつある。
吐息にも、甘さが見えた。
「感じてやがるぜ、こいつ!」
「マジかよ…輪姦されて感じるなんざ、相当…」
…いいわよ、痛いのはイヤだから…
…辛いのは、イヤだから…
「キモチヨク、して…」
自ら発した言葉か。唇が勝手に動いたのか。今のカレンには、どっちでもよかった。
身体と心の痛みから逃れたい。そんな望みが、身体を、男に開かせる。
にたにた笑う兵士が、腰を突き上げた。
「んあっ…んぅ…」
リックにしか聞かせたことのない声が出た。その声に機嫌をよくした兵士が、動きを早める。
「あっ、ん、あぅ…あぁっ!」
「あられもねえってこのことか?なあ」
「さっきはあんなに突っ張ってたのにな。やはり女は男に屈服させられる定めか」
「気取ってんじゃねえよ、ビンビンにしてるクセに」
「おい、上からだと口が使えねえじゃねえか!」
「悪ぃ悪ぃ」
カレンにのしかかっていた兵士が、彼女の腰を掴んで体を反転させた。甘い絶望の吐息をつく口に、別の男がいきり立った肉棒を押し込む。
「ふム…っ!」
「あんまり上手くねえな…ツラがいいだけか」
「そりゃいきなり口に突っ込まれて技術もクソもねえだろ。それより俺の顔に汚ねえタマぶつけるんじゃねえぞ!」
「うるせえ、俺がこいつの口から引っこ抜いてから出すと、どうなるかわかってんだろうな」
「か、勘弁してくれよ!」
カレンを責めている兵士達が勝手に会話を交わす間にも、あぶれた者たちは彼女の手による奉仕を求める。
胎内、口、両手。四ヶ所から伝わる熱が、心を崩したカレンの脳を赤く染めていた。
肉棒から口を離し、舌にたっぷり唾液を絡め、先端をちろちろと刺激する。
幹だけでなく、袋にまで手を伸ばし、揉みこねる。
「な、なあ、ここもいけるかな」
兵士の一人が呟く。彼の目は、カレンの菊座に注がれていた。
「おいおいおい…そこ使う気かよ」
「だってよ、だってよ、他んとこ全部埋まってるし…」
「…ま、好きにすりゃいいんじゃねえの?俺はそんな汚ねえとこはごめんだけどな」
「じゃ、じゃあ…」
彼はいそいそとたぎった剛直を取り出し、カレンのそこに押し当てた。
「…ゥ!?」
何をされるのかわからず、しかし悪い予感に襲われ、カレンは必死に首を横に振る。
「こ、こっちは初めてだぜ、こいつ」
「んむーっ!」
抵抗したいが、口は異物でふさがれている。腰を捻って狙いを逸らそうとするが、がっちりと固定されているためそれもままならない。
そこに、本来あり得ない方向から力が加えられ、カレンは体内に3本目の侵入を受けた。そのまま男は動き始める。無慈悲な前後運動で、彼女の菊座からは血が滲み始めていた。
その有様を見てマリーを後ろから責めていた男の動きがとまり、陵辱に停止しかけていた彼女の思考が再開する。
ふと気づけば、カレンは一度に両手、口、前後の穴を5人の男に責められている。その光景は、非現実のものとしてしか受け止められなかった。
確かに、そんな行為を知ってはいる。だが、あくまで観賞用の行為としてだ。実際に、身近な人物が、それをされている。家も近所なだけに、光景のギャップには、むしろ妖しい雰囲気すら感じる。
そもそも自分が、知らない男を受け入れているのだ。そのこと自体が異常である。
5人までは数えていた男たちの精液に、彼女の青い服はほとんど真っ白だった。粘液に濡れた服と、その服が放つ異臭。
いつか読んだ官能小説の主人公に自分が重なる。
…あの人も、最後は、気持ちいいって…
考えてはいけない考えが膨らむ。
しかし、その小説を読んだ時、マリーはかつてなく興奮したのだ。
自分の中にある、何人もの男に好きにされたいという欲望に、はっきりと気づいたのだ。
ただ、それは現実のものではなく、あくまで架空のもの。本と現実との相違は知っている。これは、現実だ。快感を覚えるはずがない。
…そうよね?
確信が欲しくて、周りを見る。だが。
「エリィ…!」
白濁にまみれた友人の姿。扇情的に尻を振りたて、貪欲に男たちのものを受け入れ、口と手でも同時に奉仕を加える、友の姿。
エリィの考えも知らず、快楽に呑まれたものと見てしまう。
カレンも、拷問に近い行為にすら、痛み以外の感覚を見出しつつあるようだ。今は最初に肛穴を犯した男とは別の男が、同じ場所を責めている。
ポプリはここからでは見えず、ランはまだあの男に責められていた。
…みんな…
助かった者は誰もいないようだった。諦めが彼女の抵抗から力を奪っていき、無意識に、陵辱されながらも快楽を貪る仲間の姿が自分と重なる。
突然兵士が律動を再開し、異物感だけになっていた下半身が、再び刺激に満ちた。しかし、不思議とさっきまでの苦痛ではない。
痛みが薄れたことにはほっとしたが、マリーにはその先にある感覚に恐怖を覚えた。
…嫌…っ!
拒絶したいが、感覚は理性を蝕みつつある。
…嫌、嫌っ…!
ギチギチとした感覚しか感じられなかった股間から、粘液質の音が聞こえる。
…ウソよ、濡れてなんかない…っ!
「…滑りが、よくなってきたじゃねえか」
「仲間が犯されてるとこ見て欲情したのかよ。へ、なかなか面白い娘じゃねえか」
…違う、違うッ…!
必死で否定しようとするが、その指摘はマリーの心に一つの核を作ってしまった。
友人が陵辱されている姿を見て感じる女という、核を。
それは否定しても否定しても細かな枝葉を伸ばし、マリーの心を蝕んでいく。
そして、とどめは友人によって刺された。
「もっとぉ…もっと頂戴…」
尻を高く掲げ、左右に振りたてて男達を誘うカレンの姿。その目は、己を辱める者の股間に揺れる男根のみしか見えていない。
白濁が溢れるそこに、新たな欲望の化身が突き込まれる。
目の前に揺れる、見知らぬ男のものに、さも愛しそうに唇を寄せる。手を伸ばし、艶かしく触れる。
全身の穴という穴を責められ、なお狂った笑みを浮かべる友人の貌。
…カレン…
目を背けた先に、エリィの姿があった。
次々と彼女の肢体に浴びせかけられる白い体液。
その層を重ねていくことに悦びを感じるかのように、浴びては手を伸ばし、注ぎ込まれては尻を掲げる。未だ彼女の瞳に宿る屈しない光は、マリーの目には届かなかった。
…エリィ…
マリーは決しておとなしいほうではないが、同年代の仲間内での中心となることもない。
5人で何かをするときは、カレンが主導して、マリーが知恵を出し、ランとポプリが動いて、エリィが見守る。そんな役割分担だった。
マリーはマリーで、カレンとエリィに頼っている面は大きかった。
今目に入っている光景は、頼るべき二人の痴態。自身が気に留めたこともない、サディストが鎌首をもたげる。
同時に、その対極。同じコインの裏表であるマゾヒストが、二人と同じ快楽を求める。
そしてその要求は、容易く叶えられるのだ。
「あっ…」
声が出た。
それをきっかけに、怒涛のような快楽が脳を浸す。
「ああーっ!」
股間が一気に熱を帯び、太腿がしとどにあふれ出る愛液で塗れそぼる。
…イイよぉ…っ
「感じてるのか…?」
張子の優しさで、兵士の一人が彼女に問う。
マリーは、涙と涎に塗れた顔に必死に笑みを貼り付け、ぶんぶんと顔を縦に振った。
「じゃあよ、こいつを、あんたの口で…」
目の前に肉塊が突き出された。漂ってくる異臭すら、甘美なものに思える。
躊躇うことなく、むしゃぶりついた。口腔を満たす、熱、味、匂い。
「んぶ、むうっ、はむうっ」
読み溜めた知識が、断片となってマリーの頭を乱舞し、身体はそれに従って動く。
今自分の口に包まれているものが、次に快楽をくれると考えると、それだけで陶然とした感覚が全身を駆け巡る。
不意に、異物が口から引き抜かれた。
間髪いれず、粘液がマリーの顔に降り注ぐ。だらしなく開かれた口に、赤く上気した頬に、眼鏡に。
「は…ァ…」
レンズを挟んだ目前を白い液体が流れ落ち、唇に達する。舌が自然に伸び、その液体を舐めとった。
「…美味しい…」
澱んだ瞳が、周りを見渡す。白い粘液をくれる肉塊がずらりと並んでいるのを見て、マリーははしたなく喉を鳴らした。
いくつか血がこびりついているものがある。
…誰のだろう…
どうでもよかった。今はただ、快楽に身を任せたかった。
目の前の肉棒に、マリーは唇をつけた。
彼女のひどく見当を外した疑問の答えは、ラン。
最初の男はもはやどこかに行ってしまい、今は11人目の男に圧し掛かられている。彼女の目は、どこも見てはいない。思考もほとんど停止している。ただ、男に揺られるだけ。
そんな状態で、明滅する顔があった。
…クリフ…
彼は、ランが連れ出されそうになったとき、最後まで抵抗し、腹に銃弾を浴びた。
ランは、床に広がる血溜まりを呆然と見つつ、ここまで連れてこられたのだ。
最初の抵抗は、仲間の気丈さに支えられたことを踏まえても奇跡に近い。しかし、その奇跡すら、今はなんの意味も成していない。
下半身の鈍痛も、どこか別世界のことに感じられる。
その遠いどこかで、何かが弾ける気配があり、胎内に熱が注ぎ込まれたようだった。続いて、膣粘膜が引きずられる感触。そしてまた、押し込まれる欲望。
彼女の精神は崩壊寸前だった。カレンのような責めを受けず、また、次々と屈服していく仲間の姿が見えていない。その二つだけで辛うじて繋ぎとめられている危うい糸だ。
無反応な彼女に群がるのは、エリィ、カレン、マリーからあぶれた者ばかり。とにかく早く欲望を吐き出したいため、入れかわり立ちかわりランを責める。
つまり、結果としてだが、ランはエリィよりも数だけはこなし、他の仲間への陵辱の密度を下げているのだ。
そのことに、周りの男達を粗方満足させ、わずかな時間を得たエリィが気づいた。
力の入らない身体を引きずり、ランの元にたどり着く。
邪魔は、入らなかった。
男達は、ただ陵辱することに飽き始めていた。
ただニヤニヤ笑いつつ、ランを抱きしめるエリィに視線を注いでいる。
「男ばっかりじゃ飽きるってか?」
「もともとこんな関係だったかもしれねえぞ」
「こいつダンナがいるんだぜ」
「わかんねえぞ?俺のダチの嫁なんかそうだったからよ」
…好き勝手、言ってくれる…
エリィの胸に、鬼すら殺しかねないほどの怒りが沸く。
だが、生きて戻らなければならない。
自分だけではなく、全員が。
この穢れた身体でも、夫は間違いなく受け止めてくれるはずだから。
希望を胸に据えなおし、改めて仲間たちを見回し…愕然とした。
カレンは、一度に5人の男をくわえ込み、嬌声を放っている。
マリーは左右の男の剛直を交互に舐めしゃぶっている。
ポプリも、カレンを真似てか、男にまたがり、はしたなく自ら腰を打ち振っていた。
…みんな…ッ!
悲しみが胸を覆う。ゆっくりとランを降ろし、一番近いポプリの元へ急いだ。
「ねえ、ポプリ、しっかりしてよ…!」
「…あはぁ、エリィ…?」
惚けた表情で、ポプリはあどけない笑みを浮かべる。そしてエリィは腕をつかまれ、引き寄せられた。
「ちょ…んむっ!」
二人の唇が重なった。もぎ離そうとするが、意外な力で動きを封じられる。
そして侵入してきた舌が、エリィの舌に絡みつく。
「む!んーっ!」
抗議の声は言葉にならず、見開かれた目に映るのは、焦点の定まらないポプリの瞳。
「なんだ、こいつぶっ壊れてんじゃねえか」
「いやぁ、ぶち込もうとおもったらギャーギャー喚きやがるからよ、薬使った」
「おい、もしかして馬の種付けンとき使うアレか!?やべぇぞ、人間にゃ…」
「別にいいんじゃねえの?生きてるだけでも運がいいんだぜ、こいつら」
「…あの薬使ってるんだったらよ、こっちでも感じるじゃねえか?」
一人の男がそう言い、ポプリの尻肉を割り、強引に侵入した。
「あぁんっ」
ポプリは口を離し、疑いようのない悦びの声を上げた。
もはや痛みはないようだった。それどころか、その顔は更なる快楽に蕩ける。
二つの穴に刺激が送り込まれ、だらしなく開いた唇の端からは涎が光っていた。
彼女の目はもはや、正気ではなかった。ただ快楽を貪る、壊れた人形。
…こいつらッ…!
エリィに怒りが満ちた。強引にポプリを引き剥がし、手近な一人に飛び掛る。だが、その身体は、容易く受け止められてしまった。
「なんだぁ?また相手してくれるのか?」
皮肉に満ちた声とともに、再び床に転がされ、挿入を受ける。
「許さない、絶対許さないッ!」
組み敷かれ、無慈悲な抽送を受けながらも、エリィは凄まじい怒りの表情で叫んだ。
「おー怖ぇ…おい、だれかこいつ黙らせてくれ」
もがくエリィを押さえつけ、男が言った。
「だったらよ…」
突然視界が暗くなり、なおも叫ぼうとする口が、何かでふさがれる。
柔らかいが、重みがあった。口の中に、何か粘液質のものが流れ込む。
「エリィ…ね、舐めて…」
…ポプリ…!?
ようやく状況が飲み込めた。自分の顔の上に、ポプリの股座。
彼女の菊座には、男のものが入ったままだ。痛々しいほどに広がった肛穴が、目の前に晒される。
そして彼女の秘裂からは、おびただしい量の精液が溢れている。それは口から溢れ、鼻にまで達した。
…息が…!
窒息を免れるために、やむを得ず必死で精液を飲み下す。
ポプリに与えられる性感はわずかなものであるが、それでも彼女は行為そのものに快楽を見出していた。
「ゥン、美味しい?ねえ、エリィ、ポプリのココからでてくるの、美味しいの?」
否定も肯定もしない。屈辱と怒りと哀れみが渦巻き、まともに考えることができない。
もがくエリィの胎内に精が放たれる。男が退き、拘束がなくなったところで脱出を試みるが、その前に再び全身に体重がかけられた。
「ポプリもぉ…エリィのココ、してあげる」
…!!
股間に、ポプリの唇が押し当てられた。そのまま、散々に蹂躙された胎内に、舌が入ってくる。
…イヤ、やめて…ッ!
今度の侵入は、ただ男が自分を満足させるためだけのものではない。同じ女性による、官能のツボを心得た刺激だ。
忘我のポプリの舌は、情け容赦なくエリィを責め立てる。柔らかい、甘美な感覚がじわじわと身体を冒してゆく。
…感じたく…ない…のに…っ!
抗議をしようにも、声を上げようとすればポプリはぐりぐりと秘唇を押し付けてくる。
成す術がなかった。彼女の股間が、熱を帯び始める。
ポプリの尻穴に肉棒が出入りする様から、おぞましさ以外のものが喚起される。
「あは、おつゆ出てきた…ねえ、エリィ、気持ちいいんでしょ?」
否定できない。救うべき仲間からの責めに、身体が反応してしまっている。
「あのねえ、こっちもしてみない?」
不吉な言葉とともに、肛門に一気に指が挿入された。
「んー…ッッ!」
腸の中で、ポプリの指がうねうねとくねる。
さほど苦痛はない。だが、異物感と抵抗感は凄まじい。
「ポプリもね、今日が初めてだったんだけど、すっごく気持ちいいの」
指が引き抜かれ、膝が持ち上げられて、尻肉が割られた。
「ねえ、ここ、入れてあげて」
絶望的な言葉に続いて、菊座に熱の塊が押し付けられ、無慈悲な圧力がかけられる。
貫通の瞬間、ミリミリと、音が響いた気がした。
「――――――っ!!」
激痛が、奔流となって全身を駆け巡る。
エリィのそこに侵入した男は、そのまま腰を動かし始めた。
一突きごとに、湿り気のない腸の粘膜が擦れ、無機質な苦痛をエリィに送り込む。
同時に、ポプリの舌が秘所を責め立て、容赦ない快楽が与えられる。
無情な時間が、ただ過ぎる。エリィの身体に残った力は、その中で尽きてしまった。
ついに最後まで抵抗しようとした身体が弛緩し、無防備に責めを受ける。
そこに重ねられる、見知らぬ男とポプリによる執拗な責めは、望まぬ功を奏した。
直腸の痛みが、ゆっくりと熱に変わり、その先の感覚へと変貌する。
…やだ、やだ…助けて、ピート…
夫の顔を思い浮かべ、精神を保とうとする。だが、その瞬間、ポプリを責めていた男が、エリィの顔に精を放った。夫の顔が、白い飛沫で隠される。
…助けて…助けてよ…お父さん…お母さん…おばあちゃん、ユウ…
端から思い出せる名前を挙げていくが、誰の顔もまともな形を結ばない。
本人の意思とは無関係に膨らんでゆく官能が、頂に近づくのを感じた。
「…んっ…あぁーっ!」
体内に白濁が流し込まれ、彼女は、絶頂を迎えた。
意識が戻ったとき、彼女の股間はカレンのそこと密着していた。
「…カレン…?」
周りの男達は黒い影。目だけが異様に光って見える。
その目にさらされていることに構いもせず、カレンは動いていた。
何度となく注ぎこまれた精液に覆われた秘唇が、ぬるぬると擦れあう。
「あ、ああ…」
蕩けた意識が官能の皮膜に包まれ、正常でない形に取り戻される。
友人と触れ合ったそこから聞こえる音すら、性感を刺激する材料だった。
積極的に腰を動かし、カレンの性器を貪欲に求める。
男根のような強い刺激ではない。肉体的な感覚ではなく、むしろ倒錯の愉悦だった。
突然視界が青いもので遮られ、精液まみれの女性器が目の前に晒された。マリーだ。
それが当然であるかのように大きく口を開く。マリーは躊躇うことなくエリィの顔に尻を落とし、彼女の顔に白い汚濁を塗りたくった。
「んむ、ぅぅ…」
息苦しさなど意に介さず、不器用に舌を使う。
不意に、顔面から圧迫が消えた。不思議に思う間もなく、目の前の秘裂に屹立が突き入れられる。
「はぁ…いいのぉ…もっと、もっとぉ…」
媚びに媚びたマリーの声が聞こえる。
そそり立った男根が彼女のそこに出入りする度、細かに泡立った愛液がエリィの顔に降り注いだ。
下腹部が、熱くなる。
今だカレンのそこと触れ合った局部が、より強い刺激を求める。
…足りない、欲しい…!
必死でもがき、カレンを押しのけて、脚を大きく広げ、己の中心をさらけ出す。
期待は、すぐに叶えられた。
灼熱が、胎内に一気に押し込まれる。
「ああっ!」
純粋な、悦びの声。
夫以外の男を受け入れ、あられもなく放つ嬌声。
ただただ快楽だけに突き動かされ、艶かしく腰をくねらせる。
「あぅん、あは、はぁ…っあ…」
いつの間にか体を抱えあげられ、男の腰をまたぐ格好にさせられていた。
下からの突きこみに合わせ、恥らうこともなく、激しく尻を上下させる。
目の前に揺れる欲望の塊。なんの躊躇もなくむしゃぶりつく。
胎内に刺さった肉棒が、これまでになく奥まで突き入れられ、弾けた。
同時に、顔にも白いシャワーが浴びせかけられる。
胎内と全身から同時に襲い来る熱を心地よく感じながら、エリィは二度目の頂きに達した。
…あれ…
ふと、ぼんやりと戻った意識。
気づいたら、周りには誰もいなかった。ランプの炎が揺らめくテントの一角に、黒山の人だかり。
男達の脚の合間から、他の3人に責められるランの姿が見えた。
…何やってるんだろう、みんな…
気づけば、手を伸ばしていた。自分もその快楽を享受するためか、彼女らを助けるためかは、もはやわからない。
そのとき、ランと、視線が重なった。
虚ろな目。奥に、底なしの悲しみを湛えた目。
口が、形だけで、うわごとのように言葉を紡いでいる。
『助けて…助けて…助けて…』
聞こえたわけではない。だが、赤い霧が立ち込める意識の向こうで、エリィはその声を、感じた。
…ラン…!
忘れていた何かが、再び燃え上がった。
蕩けた自我が瞬時に姿を取り戻し、爛れた熱に浮かされた意識が急速に冷える。
「何やってるの!あなた達!」
エリィが叫び、その場にいた全員がこちらを振り向いた瞬間、突如、白い光がテントの中央に現れた。
同時に巻き起こった風に、何人かが吹き飛ばされ、壁にぶつかる。
光が薄れ、やがて人の姿を形作る。
緑の髪。向こうが透けて見えそうなほど薄いヴェール。身体のラインを浮き上がらせる衣装。神々しいまでの、後姿。
「ぱんぱかぱーん…っと…」
場違いな台詞を、ひどく暗い声が呟いた。
「…女神様?」
唯一状況を把握したエリィの呟きに、女神様は振り返り、片目を瞑って応える。そして、周りを睨みつけた。
「よくもやってくれたわね、アンタ達」
男達は、未だ現状を理解できていない。
「頼まれて来たんだけどさ…ここまでやってるとは思わなかったわよ」
女神様の周囲に、白いオーラが渦を巻く。
ようやくただならぬ事態に気づいた何人かが、隅にあった銃を構え、トリガーを引く。
だが、銃弾は、女神様に当たる前に、空中に波紋を残して消滅した。
「そんなもんでどうこうできるとでも思ってるの…?」
女神様が右の掌を彼らに向ける。そこから発せられた目に見えない力は、銃を瞬く間にただの砂鉄へと変えてしまった。
唖然とした表情の男達にこの上なく冷たい視線を浴びせ、女神様は続ける。
「ただじゃ済まなさないからね!覚悟しなさい!アタシを怒らせた罪は重いわよッ!」
敢然と宣言し、左手を天に掲げた。そこに、白熱した球体が出現する。そして女神様は目を閉じ、ヒトのものではない言葉を紡ぎ始めた。それにつれて掌の球体はどんどん大きくなり、放つ光も一層強くなる。
男達の対応も、それなりに素早かった。女神様が呪文を詠唱する間に、全員に武器が行き渡る。
「撃てっ!」
最初にランを責めたあの男が喚いた。それを合図に、銃口が一斉に火を吹く。
だが、全ての弾丸は、最初と同じく虚空に吸い込まれてしまった。流れ弾がエリィに向かうが、それもまた、彼女に届く前に消えうせる。
一人の男が、後ろで、絡み合うことも忘れ、呆然とその光景に見入る4人に銃を向けた。
「誰か知らねえが、失せろ!こいつら、ぶっ殺すぞ!」
エリィの背筋が凍る。だが女神様は、詠唱を止めない。
「構わん!一人撃て!」
誰かが発したその声で、引き金が引き絞られる。だが、至近距離で放たれるハズだったこの弾丸もまた、ただの波紋となった。
女神様が目を開く。その双眸は、純粋な怒りの色に染まっている。
「そんな姑息な手、火に油を注ぐだけよ」
静かに言い、左手を前に構える。白い球体から、無数の光条が放たれた。
それは、人間が捕捉できる速度を越え、弧を描いて正確無比に男達を襲う。
一呼吸ほどの間に、意識を保っている兵士はいなくなった。
最初の、あの男を除いて。
「随分と好き勝手やってくれたじゃないの…」
女神様が男に詰め寄る。
「お…お前、何者だ…?」
「ここの神様よ」
「んなっ…!?」
「フツーは人間のこういういざこざには手ぇ出したりしないんだけどね…ちょっとばかりやりすぎよ、あんたら」
「ひっ」
小さく悲鳴を上げた男の顔面を鷲掴みにし、軽々と持ち上げる。
「今度またこんなことしたら承知しないからね!覚えときなさい!」
一喝。そして、指の隙間から、光が漏れたと思ったのもつかの間、男はテントを突き破り、暗闇の中へと消えていた。
「…安心しなさい。殺しゃしないわよ…」
未だ震える大気の中、女神様は抑揚なく呟き、顔を伏せる。
数瞬の沈黙の後、女神様は5人に笑顔を見せ、言った。
「みんな、もう、大丈夫よ」
女神様が軽く手を振ると、辺りの景色が一変した。
何もない、真っ白な世界。その中に、いつもの姿の5人がいた。
「ごめんね、遅れちゃって。さて、じゃ、最後の仕上げいくわよ。今夜の記憶、みんな綺麗さっぱり消してあげる。町の人もまとめてね」
それを聞いた5人の顔が明るくなる。つまり、今夜のことは、なかったことになるのだ。自分の中からも、家族の中からも。
皆に促され、最初にランが進み出た。女神様が優しく頭を撫でると、彼女はそのまま光に掻き消えた。おそらく、自宅のベッドにでも送られたのだろう。
順番はマリー、ポプリ、カレンと続き、最後にエリィが残った。
「最後ね。それじゃ目を閉じて…」
「あの…女神様。せっかくですけど…私の記憶は、消さないでください」
意外な申し出に、女神様は少し驚いた。
「…なんで?」
「なんて言うか、確かになかったことにはしたいんです。でも、このまま口を拭っていいのかなって。これからあの人たちが進む先、また私達みたいな人が出てくるかもしれないって思うと、忘れてしまうのがすごく無責任な気がするんです」
それを聞いて女神様は呆気に取られた顔をし、次いで優しく笑った。
「…優しいのね、エリィちゃん。」
「ごめんなさい、ですが…」
「いいえ…いいわよ。そのまま、家に送ってあげる」
そしてエリィを自宅に帰す呪文を唱えようとした女神様の動きが、ふと止まる。
「…ねえ、エリィちゃん。聞いてもらっても、いいかな…」
「何ですか?」
「…実を言うとね。あいつらがやろうとしてること、知ってたのよ」
エリィは言葉に詰まった。女神様の意図が理解できない。
自分達が陵辱の限りを尽くされていることを、女神様は何故看過していたのか。
それを、なぜ自分に伝えるのか。
「…ごめんね…仮にも神様がどこまで人間のことに介入していいのか…柄にもなく、迷っちゃってね…さっさと決めれば…皆、こんな目に遭わなくて済んだのに…」
…そんな理由で…!
不遜な怒りが沸く。だが、助けられたのも事実。
どうしたらいいのか、わからない。
「本当に…謝って許してもらおうなんて…思わないけど…」
女神様の目に光るものが見えた。
「ごめんね…全部、私の甘えなの。皆の記憶は消せても、自分の記憶は消せないのよ…」
何も言えず、エリィはただ立ち尽くしていた。
手前勝手な理由だが、理由もわからないまでもない。
夫も自分も、仕事と家庭の秤には、いつも悩んでいるのだ。
そして、女神様の涙。神が、人間の前で、涙を見せた。
その意味以上に、エリィの心を打つものは大きい。
気づけば、怒りはどこかに消えていた。
女神様の肩に手を置き、微笑む。
「…私も、みんなも、感謝しています」
女神様が、ぐしゃぐしゃの顔を上げる。
「…ありがとう…」
聞き取れないほどの小さな声で呟き、少しはにかんで涙を拭う。
「さあ、もうピートちゃんのところに帰りなさい。帰って、思いっきり甘えちゃいなさい…」
女神様がエリィの頬に触れた。暖かい光が、彼女を覆う。
「本当に、ありがとう…」
エリィが光に掻き消えた後、女神様は呟いた。
エリィは目を覚ました。見えるのは、いつもの、自宅の天井。
隣には、誰もいない。反対側の、夫のベッドにも。
理由のない急激な孤独感に襲われる。
服は、いつも来ているパジャマだ。テーブルには、ワインもグラスもない。
昨夜のことは夢ではないか、そう思う。
…でも…
汚された記憶は、あまりに生々しい。
いいように弄ばれ、夫にも許したことのない行為を強制され、挙げ句快楽を覚えた自分。
そして、机の上の新聞にも、昨日の戦闘の記事が一面に出ていた。
…夢じゃ…ない…
女神様に記憶を消してもらわなかったことを悔やむが、それは自ら望んだことだ。
そして、女神様との約束もある。自己嫌悪に陥ることは、それを裏切ることにはならないか。
とにかくベッドを出て、着替える。時計を見ると、午前8時。いつもよりは、遅い起床だ。
…あの子は遊びに行ってる時間だし、ピートは仕事…
しかし、自分が寝坊したときは(そんなこと滅多にないのだが)、夫は必ず起こしてくれた。
正体のない、不吉な想像が忍び寄る。
…外は…
脚が勝手に、出口に向かう。その手が、ノブに触れようとした瞬間、扉が突然開かれた。
「あ、エリィ、起きてた?」
彼女の心情に全くそぐわない言葉。
たった一晩なのに、途方もなく懐かしい顔が、そこにある。
気づいたら、その胸に飛び込んでいた。
「ちょ、どうしたの?」
答えない。答えられない。答えられるはずがない。
夫は、昨夜のことは知らないことになったのだ。
何も言えない。ただ、その胸で、吹き出る感情に任せて泣きじゃくる。
「あんまりよく寝てたから起こさなかったんだけど、悪い夢でも、見た?」
…そう…
少なくとも、自分以外には、悪い夢。
誰にも、話すわけにはいかない。
…でも、泣くのはいいですよね、女神様…
優しく背中に添えられた手が、どうしようもなく頼もしく、どうしようもなく愛しかった。