季節は春、寒々しい冬はとうに過ぎ、やもすれば夏の足音さえ聞こえてきそうな時期である。
地平線へと帰っていく夕日に照らされ、ラグナは今日の出荷分を収穫箱へと詰め込んでいた。

「ふぅ、今日はたくさん採れたな」

春になってから二度目の収穫である。比較的成長の早いジャガイモやキュウリは二回目、
成長の遅いキャベツは今日が始めての出荷になる。そして、収穫箱に山と詰まれた野菜たちとは別に
家主のために畑の一角に専用スペースを作って栽培しているカブをせっせと引っこ抜いていると、

「あれ、今回はカブも出してくれるの?」

ミスト農場専属収穫物回収娘、ロゼッタが声をかけてきた。

「いえ、これはミストさんのところへ届ける分です。出荷するものはそこの箱のなかにありますよ」
「ふぅん、ま、そんなことだろうと思ったわよ。あの子のカブ狂いも困ったものね、そう思わない?」

さて、何と答えたものやら返答に窮していると、最初から答えを期待してなかったのか、ロゼッタは
とてとてと歩いて収穫箱を覗き込むと、

「うっわぁ、また今日はたくさん入ってるわね。これはちょっと持ち帰るの大変そうね」
「あ、よかったら手伝いますよ、今日の仕事はこれで終わりですし。いくらなんでも一人じゃ無理でしょう」
「そう思うんだったら少しはこっちのことも考えて欲しいけど……、まあ、うちとしては量が多い分には
 大いに助かるから別にいいわ。これからもたくさん作ってってよね」

やはり雑貨屋の娘としては店の品物が充実するのが嬉しいのだろうか、上機嫌で鼻歌を歌いながら一つ一つチェックを入れている。

「うん、上出来上出来。これなら安心して店に並べられるわ。やっぱ春はいいわよね。冬なんかそりゃもう寂しいものだったわ。
 よくて石ころ、なーんも入ってない日も多かったしね」

その石ころで家まで建ててしまった身としては色々言いたいことはあったのだが、ここで彼女を相手に採掘のなんたるかを
語ってもしょうがないのでいつものように、

「はい、今日採れたばかりのイチゴです。どうぞ召し上がってください」
「わぁ、ありがとう。ふふ、最近ここに来るのが楽しみになってきてねー。ほんと、いつも悪いわね」
「いえいえ、お世話になってるのはこちらのほうですし、喜んでもらうのが僕の楽しみにもなってますから」
「……あんたってさ、割と平気で歯の浮くようなセリフとか言えちゃうのね。よく誤解されたりしない?」
「うーん、誤解とかはされないですけど、以前ミストさんにも似たようなこと言われましたね」
「あたしに言わせりゃミストもあんたと同類よ。あんたたち二人の会話を聞いてるとなんだかこっちが緊張してくるわ」

いつの間にだべりモードへのスイッチが入ったのか、どちらかともなく路傍に腰掛けると、そのままとりとめのない
雑談が続いていった。西日と穏やかな風を受けながらしゃべり続けるロゼッタの姿を見つめていると、自然と気持ちが落ち着いてくる。
そんなロゼッタの服は昨日までとは違い、初夏を思わせる軽やかな色合い、どことなく涼しげなシルエットが
夕日をバックにした一枚の絵画のように映っていた。
そんな彼女をを見つめながら、やがて来る夏へと思いを走らせる、何でもないような一日はこのまま何でもなく終わるように思えた。

ふっと、地面に視線を落とす。本当に何の気もなしに行った行為だったのだが、

見えてしまった。

いや、過去形ではない。「見えている」現在進行形である。そりゃもうはっきりくっきりと。立てた膝を抱えるように座っている
ロゼッタ。その脚のさらに奥。スカートの中がラグナの位置から丸見えである。白い。太腿も、下着も眩しいほどに白い。
反射的に目をそらし、ロゼッタの顔を見上げる。気付いてないのだろうか、彼女にしては珍しく雄弁に喋っている。
もう一度、さりげなく視線を下ろし、スカートの中を覗き込む。相変わらず、惜しげもなく、その御姿を晒し続けている。

さて、正直どうしたものだろう。見なきゃいいじゃん、というのは不採用である。男子たるものこの誘惑に勝つことは不可能である。
目を逸らしても次の瞬間、視線は下へと向いてしまっている。もしかしたら物理的な力が働いているのではないかとすら疑いたくなる
程の拘束力。秘密の花園に囚われてしまったラグナに抗う術はない。どうしたって無理なのである。視線はロゼッタのパンツに
釘付けである。

では、本人にこの事実を告げてみようか。……却下である。当の女性に向かって「パンツ見えてるよ」なんてのたまえる程ラグナは
強くなかった。というよりも、ラグナも健康な年頃の男子である。そういったものに興味を示さない方がおかしい。
どの道この後すぐ、雑貨屋マテリアルへと収穫物を運びに腰を上げるのである。ならばそれまでのわずかな間、神に与えられたこの
僥倖を堪能することにしよう。

脳内できわめてチキンな結論を出し終えると、ラグナはロゼッタの方を向いた。無論視線は斜め下へ、時々曖昧な相槌を打ちながら。
よく見てみると綺麗な脚だった。スラリと伸びて引き締まっているにも関わらず、女性的特有のやわらかいラインを失っていない。
そして透き通るような白い肌。その一番奥にある薄い布一枚隔てた先を想像して、思わず打ち消してしまう。
まさか頭の中を読まれるようなことはないと思うが、本人を目の前にしてその姿態を思い浮かべるのはどことなく背徳的な感情が
伴う。そっとロゼッタの顔を見上げると、「どうしたの?」とでもいいたげな顔をして再び喋り始める。

そうしてどのくらい時間がたっただろうか。ロゼッタが急に黙り込む、どうかしたのかと思い、顔を見るとなんだか赤くなっている。
そしてその視線は自分の足元のあたりに固定されている。やばい。

「…………」
「…………」
「……見た?」
「……すいません」

この後すぐに訪れるであろう修羅場を想像して身構える。が、一向に何も起こらない。恐る恐る目を開くと、ロゼッタはどこか
不貞腐れたような表情で、

「なによ、幽霊でも見ちゃったような顔して」
「え、怒らないんですか……?」
「怒ってるわよ! ていうか何で言ってくれなかったのよ。パンツ丸出しでずっと喋ってたなんて恥さらしもいいとこだわ」
「いや、その、ほんとすいません」
「ま、気付かなかった私もどうかと思うけどさ。ちなみにいつから見てたの?」
「えー、三十分ほど前からですかね」
「ほとんど最初からじゃないの! あー、もう、こんなんだったらもっと可愛いのはいてこればよかったわ!」
「ということは、可愛いのはいてたら見てもよかったんですか?」
「…………っ!」

あ、これは地雷を踏んでしまったかも。来たるべき二度目の修羅場に向けて構える。が、一向に何も起こらない。恐る恐る目を
開くと、ロゼッタは先程よりさらに頬を染めながら、、

「……見たい?」
「……え、えーと?」
「だからっ、見たいかって聞いてるの!」
「はっ、すごく見たいです!」

物凄い剣幕に押されて、思わず答えてしまった。するとロゼッタはさっきまでとは打って変わって、どこかすっきりしたような
笑顔で、

「そう、じゃあ今夜ラグナの家でね。遅くなるかもしれないけどちゃんと寝ないで待ってるのよ」
「は?」
「あ、当然見るだけ見てはい、終わりじゃないからね。よかったわねー、あんたの家のダブルベッド、ようやく出番が
 回ってくるわよ。折角買ったのに毎晩一人で眠ってたんじゃ寂しいもんねー」
「え?」
「さ、行きましょ。運ぶの手伝ってくれるんでしょ? ふふ、今から待ち遠しいわねー。」
「はぁ……」

何が起こったのか頭の中で整理する前に、急にハイになったロゼッタに引っ張られ、雑貨屋マテリアルへと歩く。
スキップしながら鼻歌を奏でる彼女を見ながら、今更ながら自分はとんでもないことを言ってしまったのではないかと気付く。
だからと言って今から撤回なんて出来ないだろうし、もちろんそんな気はさらさらない。ただ、今は夜のことに思いを馳せる前に
夕日に染まった彼女の笑顔を、今日見たパンツと一緒に目に焼き付けておこうと思った。

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