いとしいひと・2

「――労から―――――はい、安静―――――――――」
誰かの声が聞こえる。
「―――はい―――配―――――――――ええ」
(僕…は………)
次第に周りの音がはっきりと聞こえてくる。
「今日の所は―――ええ。目が覚めたら――ゆっくりと寝かせてあげて下さい」
「はい――分かりました。」

意識がはっきりとしてくる。
(ああ、僕…倒れたんだっけか…)
鼻腔を消毒特有の臭いが刺激する。
(ここは病院…? と言うことはさっきの声はエド先生か…)
目を開けると、そこは白い清潔な空間、病院だった。

「おや、目を覚ましましたよ」
「あ…先生…」
ここに来た頃はよく無茶をして病院にはお世話になったけど、ここ暫くは中々会う事もなかったので久し振りに会う。
最後に会ったのは結婚式の時だっただろうか。
「もう!ラグナさんは無茶をし過ぎです!もしもの事が有ったらどうするんですか!!」
ラピスさんが叱咤の言葉を投げ掛けてくる。
「あ…その…ごめんなさい」
物凄い剣幕に押されて思わず謝ってしまう。
「最近は落ち着いたと思ったら。これからは無茶をしないようにして下さいね。それに、あなたが謝るのは私達ではありませんよ」
部屋の反対側の方を指差す。
そこで気づいた。
部屋の隅の診察台に腰掛けた女性に。

「ロゼッタ………ごめん」
「さっさと帰るわよ。立てる?」
いつもと変らない表情で一言。
「本当に…ごめん。怒ってますよね」
「あなたが無茶をする人だって事は分かってたけどね。ちょっと呆れただけ」
思ったよりは怒ってなさそうだった。

「帰りますか…ととっ」
立ち上がろうとしたが、足に力が上手く入らない。
「もう、仕方ないわね。ほら、肩貸してあげるから」
ロゼッタの肩に支えられ、おぼつかない足取りで病院を後にした。


家に帰ると、また急に眠くなり、今度は家のベッドで眠りに落ちる事となった。

次に目を覚ました時は夜だった。
(ん…いい匂いがする)
倒れた時点から何も食べてない為か、キッチンから漂ってくる匂いは激しく胃を刺激する物だった。
ロゼッタが料理をしているようだ。
「あ、起きたわね。今ご飯作ってるけど食べられる?」
「ええ、お腹が空き過ぎて胃が痛い位です」
「じゃあそっちに持っていくわね」

お盆に載せてベッドまで持ってきてくれた食事は牛乳粥、シチューと言う消化に良いものだった。
「ほら、食べさせてあげるから。口開けて」
「え、いや、いいですよ。自分で食べられますから」
「病人が何言ってんの。こんな時位甘えときなさいって」
スプーンで粥を掬い、目の前へと運んでくる。
「はい、では」
ここは甘える事にした。
暖かい食事が何も入っていなかった胃に、体に染み渡る。


「ご馳走様でした。美味しかったですよ」
「お粗末さま。後で体拭いてあげるからもう暫く寝てなさい」
布団へと押し込められ、ロゼッタは洗い物をしにキッチンへと向かった。


「ほら、体拭いてあげるから上着脱いで」
暫くしてから、さっき言ったように体を拭いてもらうことになった。
寝ている間に汗をかいたせいもあって、ぬるま湯に浸かったタオルで体を拭いてもらうのは心地よかった。
「はい、前は終わり、後ろ向いて」
言われるままに後ろを向いて、今度は背中を拭いてもらう。

「作業が1日遅れてしまいましたね。明日からは頑張らないと」
不意にロゼッタの手が止まった。
(………?)
背中に重さを感じる。
もたれ掛かって来たようだ。
「うぅ…グスッ…」
背中に熱い物を感じる。
(ロゼッタ…?)
泣いている。
ロゼッタが泣いているという事実に、ただただ困惑する。
今まで一度も見た事…いや、結婚式でのお義父さんの挨拶の時のただ1度だけ。
「ど、どうしたんですか?」
「…ごめん…暫くこのままで…」

「あなたは…馬鹿よ。本当に馬鹿」
いきなり投げかけられる言葉。
「今回は家の前だから誰かに見つけて貰えるものの…洞窟だったら………」
洞窟の中で倒れたら誰にも発見してはもらえない。それは命に関わる事だ。
「それにあなたは、もうあなた一人じゃないのよ…?」

ここまで言われて初めて気付く。
表面上は平静を装っていたロゼッタが、どれだけ心配していたか。
(僕は…僕は本当に馬鹿だ)
自分の浅はかな考え、言動、行動を呪った。
(本当にごめん、ごめんロゼッタ)
前を向き、未だ泣き止まないロゼッタを優しく抱きしめる。

――時間を遡って――
「うん、ばっちり」
今日の夕食はパンにグラタン、そしてちょっとだけぶどう酒。
あんまり料理が得意ではなかったロゼッタだったが、結婚して以来真面目に取り組み、ぐんぐんと腕前を伸ばして行った。
「後は帰って来るのを待つだけね」
今まで料理にあまり関心がなかったのは、食べてくれる人が居なかったからかもしれない。
ジェフが居たが、伴侶を早くに亡くして以来娘の為に料理を作っていたので、その辺の主婦顔負けの料理を作る為にあまり自分から作ろうとは思わなかった。
(お父さんも私の作った料理食べたらびっくりするかな?)
なんて事を思いながら、テーブルにディナーの用意をする。


「…遅いわね」
時刻は8時を回り、いくらなんでももう帰ってきてもいいはずだった。
畑仕事開始初日と言う事もあり、張り切っているのだとも思ったが遅すぎる。
(まさか…ね)
心配になり畑まで見に行こうと思ったその時

バンッ

扉が勢いよく開かれる。
「あ、お帰り…えっ」
現れたのはラグナではなかった。
元から白い顔を更に蒼白にし、肩で息をする位に慌てたミストだった。
「え、ちょっと、どうしたの!?」
何か大事起きたのか………もしかしてラグナの身に何かが起きたのかと思い、焦りが伝染する。

「え、えと…お風呂に行こうかと畑の前を通り過ぎようとして、えと、畑がどんな感じになったかなと…えと」
矢継ぎ早に喋ってくるが、いまいち要領を得ない。
「落ち着いてっ 何があったのよっ!」
「来てくださいっ!!」
ミストに手を引かれ、家を飛び出す。
そして、そこに居たのは悪い予想の通り、畑の真ん中でうつぶせに倒れたラグナだった。
「―――――!!」


そして、ぴくりとも動かないラグナを二人で担ぎ、病院へと向かった。


「過労ですね、それと風邪を患ってたようですが…ええ、もう少しで肺炎を起こしてしまう所でした」

今朝顔色が優れなかったのは風邪のせいだったのかと今更ながらに思い出す。
「全く…最近は病院に顔を出さずに済んでると思ったら」
以前はよく病院のお世話になっていたと聞いていた。
結婚して落ち着いたと思ったら、芯では変っていなかったらしい。

一時は最悪の状況も考えたが、病院のベッドで安らかな寝息を立てるラグナを見てようやく落ち着いてきた。
「今日の所はこの辺で。明日昼前には起きると思いますので」
本当は付きっきりで居たかったが診察時間はとうに越えており、病院は先生の自宅も兼ねていたので渋々病院を後にする事にした。

(…晩御飯無駄になっちゃったな…)
明日、ラグナが帰ってきたら美味しい物を作ってあげよう。
で、ちょっぴり小言を言ってどれだけ心配したのか気付かせよう。

まさか泣く事になるとは、この時は全く思って居なかったが。

どれだけの間このままだっただろうか。
一向に泣き止む事の無いロゼッタの頭を、優しく撫で続けた。
そうしている内に、ようやく落ち着きを取り戻して行った。

「グス…ごめんね、急に泣いたりして、びっくりしたよね」
驚きはしたが、その原因が自分にあると思うと心臓を万力で締め付けられるかのような痛みを感じる。
「もう、神に誓って無理はしません。いえ、神より尊い貴女に誓って」
少々歯の浮くような台詞だとは思ったけど、紛う事無く本心からの一言だった。
「馬鹿…聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ」
「今回の事はこれでおしまい。こんど無茶したらただじゃおかないからね?」
何とか元の調子に戻ってくれたようだ。


「体拭いてる途中だったわね」
お湯がぬるくなってしまったので沸かし直し、再び背中から体を拭き始める。
布が優しく背中を撫でる。
あまりに気持ちいいので途中声が出そうになったが何とか耐える。

「さて、次は下ね。さっさと脱ぎなさい」
「え、あ、いや、いいですよ、下位は自分で――」
ロゼッタの目に悪戯っぽい光が灯る。
「ほら、観念する!」
ベッドの上でズボン争奪戦が始まる。
「あ、ちょっと、こら、大人しく―――!」
「自分でやれますって!」
ズボンを守る為、ロゼッタを自分の元に引き寄せる。
縺れ合ったまま、ベッドの上で抱きかかえる形になる。
お互い見つめ合い………

「獲ったぁ!」
「あ、ああっ!!」
一瞬の隙を突かれ、抵抗虚しくズボンを剥ぎ取られた。

「で、病人の癖に何でこんなに元気なのかな?」
半眼になったロゼッタが呆れたような口調で言う。
実際に呆れてるんだろうけど。
…ラグナの下半身は下着は穿いている物の、その上からも分かる位に盛り上がっていた。
実はロゼッタの泣き顔を見て、いつもとのギャップに興奮してしまっていた上に体を拭くのが気持ちよすぎたなんて言いようが無い。
「あは…あははは………(だから自分でやるって言ったのに…トホ)」
笑うしかなかった。

バレてしまったからなのか、抑圧していた感情が徐々に表に出てきた。
呆れ顔でこちらを見ているロゼッタを自分の元に引き寄せる。
「ダメ、ですか?」
「ちょっと、安静にしてろって先生にも言われたでしょ?」
怒られる。
諦めずに抱き寄せたまま、うなじから耳の裏へとキスをする。
「ひゃうっ。ちょ、あ、こらっ、あっ」
弱点は知り尽くしていた。
「あ…はぁ…はぅ…はぁ…ちょ、ちょっと待ちっ…」
そこで強引に引き剥がされる。
「はぁ…はぁ…もう、仕方ない人ね……」
勝った。

「一応病人なんだから、私がしてあげる。大人しく横になってなさい」
下着を下ろされる。
「もう…これが本当に病人なのかしら」
既に臨戦態勢に入っていたラグナ自身は天井へと向かってそそり立っていた。
(してあげるって…どうする気だろう)
「間近で見ると結構大きいわね…こんなのがいつも私の中に入ってるんだ」
硬くなったモノを握ったまま、軽く上下へとスライドする。
そして、意を決したような表情を一瞬見せた後……ラグナ自身をその口へと。
「うわっ」
思わず声が出る。
今までフェラなどしてもらってなかったし、オーラルの知識が無かったであろうロゼッタが急にラグナ自身を口に咥えた為、驚きもあった。
「ん…んぐ…ん…はぁ…ん」
「ど、どこでそんな事を?」
「ん、ぷはっ、ああ、この前トルテが」
意外な名前が出た。一番性知識には疎そうな子なのに。
(もしかしたら本に書かれてたのかな…)
あの図書館にそんな本が有るとも思えなかったが。

「んぐ…ん…はふ………んー。ちょっと舐めにくいわね…あ、いい事思いついた。ちょっと待ってて」
そう言ってキッチンの方に向かう。
戻ってきたロゼッタの手には小さな壺が握られていた。
ラグナ自身に、その壺の中身を掛ける。
「う、冷たっ!」
つぼの中身はハチミツだった。
「うん、これでよし」
ハチミツでどろどろになったラグナ自身を再び咥える。
「は…うむ…甘くて…ん…何か不思議な感じ…はむ…」
唾液とハチミツの交じり合ったモノが口の中を出入りする度に淫靡な音が響き渡る。

暫くそうしている内に、限界が迫ってきた。
「う…はぁ…はぁ…ロ、ロゼッタ…出る」
「ふぇ?」
言うや否や、先端から白濁したものが勢いよく迸った。
不意を突かれたのか、ロゼッタは顔面に思いっきりその白濁液を浴びる事になってしまった。

「で、何でまだこんなになっちゃってるのかしら」
一度の射精では満足しきれなかったのか、未だラグナ自身は硬さを失っていなかった。
「申し訳ないです…」
「あなた本当に病人なのかしらね…」
またも呆れ顔になるロゼッタ。

「今度はロゼッタの中で………」
「もう…仕方ないわね」

ロゼッタの服を脱がす。
相変わらず胸はあんまり無いけど、良く引き締まった綺麗な肢体だった。
その肢体の隅々に、軽くキスをする。

ふと、ベッドに備え付けのテーブルを見るとさっきのハチミツの壺が有った。
壺を手に取ると、どうやらまだ大分残っているようだ。
ハチミツを手に取ると、それをロゼッタの鎖骨から胸、脇腹から陰部にかけて塗りたくった。
「ひゃ、あふ、冷たい」
塗った部分から延ばして行き、身体全体に行き渡るように。

蝋燭の光に照らされたハチミツ塗れのロゼッタの肢体は美しく、とても淫靡だった。

「あなたは横になってて…うん、そう」
ロゼッタがラグナの身体に跨り、つまりは騎乗位の体勢でラグナ自身をロゼッタ自身へ。
「ん…あふ…入った」
クチュ…
お互いのハチミツとそれ以外の液の混じった陰部から卑猥な音が響く。

「ん…はぁ…はう…はぁ…はぁ…ああ…」
ゆっくりと、抽挿を始めると、段々とロゼッタの声に艶が混じり始める。
「はぁ…はぁ…んぅ…はぁ………あ…や……」
徐々に徐々に、動きが激しくなってくる。
下から胸を、その先端を刺激する。
「あ…やぁ…胸…あふ…」
上体を起こし、唇、耳の裏、鎖骨へとキスをする。

お互いそう長くは持ちそうもなかった。
「はぁ…くぅん…あは…あっ…あっ」
ロゼッタの顔は上気し、更に艶っぽくなっていった。
「う…ロゼッタ…もうそろそろ…」
「うん…はぁ…はぁ…」
一際強く抱きしめる。
「あ…はぁはぁ…くぅん…ああああぁぁ………」
「ぐっ………」

ロゼッタが絶頂した事を確認し、ラグナもロゼッタの膣に精を放った。
そして、お互いを強く抱きしめたまま、二人は眠りに落ちて行った。

「…こほっこほっ……」
「風邪ですね。ラグナさんのがうつったんでしょう。今日は一日安静にしてる事」

翌朝、ラグナは全快していた物の、今度はロゼッタが風邪をひいていた。
どうやらラグナが持っていた風邪の菌と、ハチミツ塗れのまま寝たのがまずかったらしい。

キッチンの方からなにやらいい匂いがしてくる。
今度はラグナキッチンで何かを作っているようだ。
「ご飯できましたよ。食べれますか?」
「うー。食べる」
ロゼッタの作った物より一段上手な牛乳粥と、やはりロゼッタの物より一段上手なシチューとかぼちゃのプリン。
一人暮らしだったため、料理に関してはラグナに一日の長がある。
「はい、あーんして下さい」
スプーンでシチューを掬って口元に。
「んー…美味しいけど…旦那の方が料理が上手いってなんだか惨めだわ……」
「ロゼッタの作った物も十分に美味しいですよ」
「え…そう?」
「ええ」

ゆっくりとした時間が流れていた。
お互いを愛しみ、幸せな時間が確かにそこには流れていた。

fin

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