両手に花・エロミスト編
「ふぅ……」
深呼吸をして呼吸を整える。背後から聞こえる衣擦れの音が妙に艶かしい。
心臓の鼓動が早い、体中が火照って足が震える。
やばい、今からこんなことでどうする。
もう一度深呼吸をする。 少しは落ち着いたようだ。
ムテキのヒヤクで気合をチャージし、いざ行かんと覚悟を決めた直後、ロゼッタの
「い、今から服脱ぐんだからあっちむいてなさいよ」
という無情な一言により、お預けを食らった犬のように部屋の隅でぼけっと突っ立って待つ羽目になってしまった。
いや、考えようによってはこっちの方がよかったような気もする。
いきなり女の子の、それも飛びっ切り極上の裸を、しかも二人一気に見せられては冷静でいられる自信がない。
心臓の鼓動がうるさくて周りの音が聞こえない、何て体験が出来るとは思わなかった。
口の中はカラカラに乾き、大して暑くもない部屋なのにじっとり汗ばんできた。
一向に落ち着かない体を、理性で持って無理やりねじ伏せる。うん、大丈夫だ。まだ冷静でいられる。
「ラグナさーん、こっちは準備できましたよー。早く来てくださーい」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、まだ心の準備がっ……」
ロゼッタが何か言ってるけど、こっちだってとっくに準備は出来ていたんだ。
もう何度目か分からない深呼吸をして、覚悟を決める。
そして、まるで限界まで引き絞られた弓が解き放たれたかの様にのように後ろを振り向く!
「……っ!!」
あー、やっぱ無理だった。理性が音を立てて吹っ飛ぶ。眩暈がする。足がふらふらする。
論理的な思考が出来ない。理知的に物事が判断できない。そんなジャンクな頭で理解できたのは、
自分が今まさに天国に立っている、というその一点だけだった。
新調したばかりのダブルベッドの上には、ペタンと座ってヒラヒラ手を振ってる素っ裸のミストさんと、
顔どころか全身をうっすら朱に染めて、膝を抱えて小さく丸まっている真っ裸のロゼッタの姿があった。
誘蛾灯に誘われた羽虫のようにフラフラとベッドに近づく。
文字通り手を伸ばせば届く距離に、一糸纏わぬ姿で座っている二人の女の子。
今からこの二人とあーんなことや、こーんなことをするんだと思うと、それはもうアレです。大きくなっちゃうモンです。
仕方ないんです。生理現象なんです。だからそんなにまじまじと見ないでください。ロゼッタさん、ミストさん。
そう、こっちは目のやり場一つにさえ困っていたのに、この二人ときたらさっきからある一点しか見ていません。
「うわぁ、ラグナさん、とっても元気ですねー。こんなに大きくしちゃって、やっぱりラグナさんはえっちです」
「……噂には聞いてたけどさ、実際見ると結構グロいわね」
何かもう好き放題言っている二人、ああ、ミストさん、お願いですから指でツンツンしないでください、暴発しそうです。
それからロゼッタさん、そのグロいものがこれからあなたの中に入る予定なんです。だからもう少し優しい目で見てください。
開始早々に主導権を奪われてしまい、ここからどう立ち直ったものかと思案する。
よし、ここはお返しとばかりに二人の裸を思う存分眺めてやろう、この機会を逃したら次は永遠に来ないかもしれないからなー、
なんてことを考えていると、すかさずミストさんが、
「ふふ、ラグナさんもロゼッタもちょっと緊張してるみたいですね。……というわけで
ここは私がラグナさんの緊張をほぐして差し上げたいと思います。ロゼッタもいいよね?」
「……別にいいわよ。ちゃっちゃと始めなさい」
コレは正直意外だった。
普段ミストさんのことをライバル視しているロゼッタのことだから、順番決めで一悶着あるものだと思っていたからだ。
よっぽど緊張しているんだろうか、よく見るとまだ頬は赤く染まったままだった。
「さあラグナさん、いきますよー。めくるめく快楽の世界へレッツ・ゴーです」
なんだか訳の分からない宣言とともに、ミストさんが覆いかぶさってくる。
その全身を、こちらも全身を使って抱きとめ、そのままの姿勢でゆっくりとベッドに倒れこんだ。
ミストさんの細い腕が首に回される。こちらもゆっくり、包み込むように背中に腕を回してみる。
柔らかい、そして暖かい。心地よい重さを全身に感じながら、体全体を使って存分に人肌のぬくもりを味わう。
ああもう、主導権なんてどうでもいいや。今はただ、このままミストさんと抱き合っていられればいいさ。
背中に回した手にそっと力をこめる。柔らかくも張りのある感触が返ってくる。
そういえばミストさん、いい匂いがするなー、何てことを考えながらふと見上げると、
こちらをじっと見つめる瞳と目が合った。
ミストさん、顔が近いですよー、このままいくとくっついちゃいますよー、なんて思った瞬間、
「ぅむっ……」
くっついた。唇と唇が。
なんか電気っぽいものが脳みそあたりを突き抜けて行ったような気がする。
やばい、気持ちいい。
キスでこんなにも気持ちよくなれるなんて思わなかった。
背中に回していた手をミストさんの頭へと持っていく。髪の毛の手触りが心地いい。
思い切って舌を入れてみる。相手の唇を押し開くように舌を突き出す。
応えてくれた。彼女の舌も同じようにこちらの口の中へと入ってきた。
たぶん、これが彼女の言う快楽の世界とやらの入り口なんだろう。
どのくらいキスを続けていただろうか。やがてどちらかともなく、名残を惜しむかのように唇が離れる。
顔を上げたミストさんは、微妙に焦点のあってない目をトロンとさせ、こちらを見つめている。
その唇はやや湿り気を帯び、唾液が糸となってこちらの唇と繋がったままだ。うわ、なんかエロいな。
「ふふ、ラグナさんのキス、頂いちゃいました。もっといろんなもの、頂いちゃってもいいですか?」
「ラグナさん、ここ、触ってみてください」
そう言って彼女は体を起こすと、上に跨ったまま、ほんのわずかに脚を開いた。
触らなくても分かる。こっちの腹の上はぐっしょりと濡れていたからだ。
おそるおそるミストさんの秘所へと手を伸ばす。
案の定、ほんの少し触れただけなのに指はじっとりと湿ったようになっていた。
「私、ラグナさんとキスしただけでこんなになっちゃったんです。ラグナさんはどうでしたか?」
どうでしたかと聞かれても、そういうのは口で言うより実際に見てもらった方が早いでしょう。
そう言うと、ミストさんの視線はやっぱりあるところに釘付けとなるわけで、
「うわぁ、さっきよりもさらに大きくなってますね。嬉しいです。ラグナさんも気持ちよかったんですね」
ええそりゃもう、気持ちよすぎてむしろ痛いです。
勃起しすぎて痛くなるなんて今までの人生振り返ってみても経験ないです。
「男の人も大変なんですねぇ。でも、女の子も大変なんですよ。
なぜならこういう時、あるものがとってもとっても欲しくなって我慢できなくなっちゃうんです。」
それは遠まわしにこの愚息を突っ込んで欲しいって言ってるんでしょうか?
ミストさん、あなたさっきから人のことエッチだエッチだとか言ってますけどあなたも相当エロいですよ。
「うふ、それはお互い様です」
認めちゃったよ、この人。
「さあ、ラグナさん。準備はよろしいですか? 今から私と一つになりましょうね」
あー、それは本来ならこっちが言うべきセリフなんだろうけど、さっきからミストさんはお腹の上に乗ったまま、
つまりマウントポジションを取られてるわけで。さらに言うなら、最初抱き合ってたときに主導権を
取ることを諦めてしまっているわけであって……。
よーするに、今の自分はミストさんのなすがままなのである。
「あぁっ……!」
体を少し持ち上げて、お互いの性器同士をあてがう、そしてそのままゆっくりと腰を沈めていった。
切なくも艶めかしい声と共に、いきり立った肉棒がミストさんの膣口へと飲み込まれていく。
「うぁっ……!」
思わず声が漏れる。きつい、熱い、やばい。
色々と思うことはあるが、それよりもなによりも、とんでもない快感だった。
腰に力を入れる。そうでもしないと冗談でなくイってしまいそうだった。
それだけは男としてやってはいけないだろう。
そう思うことによってちっぽけな矜持を何とか保っていられた。
対するミストさんは、呼吸が荒く、肩で息をしている。
なんだか苦しそうなんだけど、なんだか気持ちよさそうにも見える。
多分こっちも同じような顔をしているんだろう。
苦しいんだけどそれ以上に気持ちいい、彼女にもそんな感覚を味わっていて欲しかった。
「ふぅ……、何とか全部入りましたね。お腹の辺りが何だか変な感じです」
少しは落ち着けたのだろうか、依然として上気した顔のままで呟いた。
そしてゆっくりと、けれど断続的に腰を動かし始める。
こういう場合って、こっちも腰を動かした方がいいんだろうか?
なんだかミストさん一人に御奉仕させているようで心苦しい。
「いえっ……、ラグナさんは、そのまま、楽にっ、していてください。私が、一生懸命気持ちよくさせてあげますからっ。
ですから、記憶が戻っても、この町から出て行くようなことをしないでくださいねっ」
……そういえばそんな目的があったような。
でも、もう心は決まってしまった。
失う前の記憶がどんなものだったかは知らないけど、自分のことをこんなにも想ってくれる人がいるなら
その想いに応えるべきじゃないだろうか。
大丈夫ですよミストさん。たとえどんな記憶を持っていたとしてもここから出て行くようなことはしませんから。
「あぁっ、そのぉっ、言葉がっ、聞けて、嬉しいですぅっ!」
それがきっかけになったのか、二人のテンションがおかしくなるくらい上がっていく。
「はぁっ、あぁっ……!」
「はっ、はぁっ、あぁあああっ!」
そろそろイっちゃいそうです、ミストさん!
このままではまずいと思い、あわてて腰を引こうとする。
すると何故か、それまで騎乗位の体勢で腰を振っていたミストさんがこっちのほうへ倒れこんできた。
そして、首筋にしっかりと手を回すと、
「ふふ、だーめです。逃がしませんよー」
その言葉と、笑顔がとどめになった。
「ぐがぁっっっ!」
我ながらなんつー声を出すかなー、なんて叫び声をあげて見事にミストさんの体内に欲望の塊をぶちまけてしまった。
「どうでしたか、気持ちよかったですか?」
最高でした。
彼女と繋がったまま、ピロートークモードに入る。
全身に広がる疲労がむしろ心地よい。
このまま抱き合っているのもいいかなー、と思っていると、
「それはよかったです。それじゃ、今度は彼女の方を気持ちよくしてあげてください。
ちょっとご機嫌斜めになってるみたいですけど、ラグナさんなら大丈夫です。優しくしてあげてくださいね」
……そう言われて思い出した。
恐る恐る顔を上げる。
するとそこには
「ふん、あんたたちあたしのことほっといていつまで宜しくやってるつもりなのよ
ていうかいい加減代わりなさいよこっちだって我慢の限界って言うもんがあるんだからね」
ラグナあんたへとへとだけど大丈夫なのほんとこれであたしのとき手ぇ抜いたりしたら
承知しないんだからね」
なんて顔に書いてありそうな、いかにも私不機嫌ですわよオーラを全開にしたロゼッタ様が君臨なされていた。
あー、これはあれだ、なにか死亡フラグに近いものを感じる。
そりゃそうだよなー、目の前でいちゃいちゃしてるのを素っ裸でお預け食らった日には
あんなどす黒いオーラも出せるようになるだろうしなー。
こんないい目にあった直後なのに、本当に天国へ言ってしまうのはいくらなんでももったいなさ過ぎる。
それに、いくら疲れているとはいえ、こんな極上の果実を放ったままでいられるわけがない。
さて、ミストさんには責められっぱなしだったけど、ロゼッタ相手にそういうわけにはいかないだろう。
死亡フラグ回避のため、何てしょっぱい理由じゃなく、さらなる快楽の世界へロゼッタと一緒に行くことにしよう。
(続きます)