夫婦の危機だよフィルさん

 夜。夫婦二人っきりの夕食を終えた後、穏やかな憩いの時が流れる。今日一日にあった出来事をラグナとフィルは
語り合う。『お弁当美味しかったよ』だとか、『春になったら何の種を蒔こうか』だとか。そんな平凡な会話でも、
二人は幸せそうに続けてゆく。やがて言葉が途切れた頃合を見計らって、ラグナはそっと微笑みかける。
「そろそろ、寝ようか」
 フィルは、少しだけ赤面しつつ頷く。
「……はい」
 そうして、二人で一つのベッドに潜り込む。家を満たすランプの明りは消され、しんと静まり返った家の中に響き
だすのはラグナの寝息。
「すう……くぅ……」

(だから、なんでこうなるのー!)
 愛しい夫の横に寝ながら、フィルはぷうと頬を膨らませていた。


「……と、いうわけなんですが……私、どうしたら良いのでしょうか?」
「って、言われてもね」
 いきなり宿屋へやってきたフィルに『経験者としてのご意見を伺いたくて』などと相談を持ちかけられ、アンは困
惑していた。その横には、同じくフィルに相談役を頼まれて連れてこられたサラの姿。
 サラは、不思議そうに問いかける。
「幸せそうな新婚生活じゃない。何か、問題でもあるの?」
 フィルはしばらくもじもじと堪えあぐねていたが、意を決して話始める。
「あの……私、普通の夫婦がどうなんか良く分からないのですけれど、あの、その……結婚してからずっと、『そう
いうこと』が一切無いって、変なのではないのでしょうかっ!」
「そういうこと?」
「ああの、その、こ、子供を作るための共同作業と言いますか、夫婦の営みと言いますか……」
「……ああ、アレね」
 ぽん、と手を打って得心するアンとサラ。直後、二人はのけぞりながら叫んだ。
「……って、結婚してからずっとヤってないの、あんたたち!?」
「嘘でしょ!? 私の時なんか連日連夜で、体力持たなくなりそうだったってのに!」
 恥ずかしさに耐え切れず俯いてしまうフィル。

「そりゃなんていうか……ご愁傷様っていうか……」
「うわぁ、やばいねそれは。イロイロな意味で」
 可哀相な猫でも見るかのような二人の視線に耐え切れず、フィルは懇願するように手を組んで言う。
「……あの、それで、私はどうしたら良いのでしょうか?」

 アンは唸りながら呟いた。
「……まずはさ、原因を考えなきゃいけないんじゃないの? ほら……例えば、いつも仕事で疲れていてそれどころ
じゃない、とか」
「いえ、それはありません。仕事を休んでお祭りに行った日にも、そういうのは、無かったですし……」
 あっさりと否定されて、アンは考え込む。と、今度はサラが手を挙げた。
「じゃ、外に女がいるとか」
「ちょ、サラ! 言って良いことと悪いことがあるでしょ!」
 咄嗟にアンはサラの口を封じようとする。しかしサラは止まらない。
「可能性の問題よ。それにラグナの周りにゃ女の子多いじゃない。有り得ない話じゃないでしょ?」
「だからって、夫婦の間に波風を立てるようなこと…!」
「なによ! その程度の波風で転覆するような船は、とっとと沈めてしまえばいいのよ!」
「あんたの実体験はどうでもいいの! 私が言いたいのは、フィルを思いやりなさいってことで……!」
「この! ノイマンのことは言うなぁっ!」
 なんか別の次元での口論が盛り上がる。しかし、そんな騒ぎを切って捨てるように、フィルは言い放った。

「ラグナさんに限って、それはありえません」

 そのあまりに毅然とした態度に二人は黙る。それでも、納得のいかないサラはおずおずと問いかけた。
「……根拠はあるの? ただ、恋は盲目ってやつじゃないの?」
「もちろん、根拠はあります」
 フィルは懐から何かを取り出した。それは、あまりに分厚いメモ帳だった。そのメモをぱらぱらと開きながら、
フィルは淡々と解説しはじめる。
「ここ一月ほどラグナさんの行動を追いかけた限りにおいて、村内、洞窟・遺跡内を問わずラグナを誘惑しているよ
うな女の姿は発見できませんでした。確かに、ミストさんやロゼッタさんのように、ラグナさんへ不必要な接触を図っ
ている者も散見されましたけれど、それは実力で排除しましたし……」

「……ここ一月って、あんた。遺跡とかの中まで追いかけてったのかい……」
「っていうか、実力で排除って……それって……」
 妙な寒気に手を取り合って震える年増組二人。
 フィルはメモ帳をぱたんと閉じると、微笑みながら言葉を続ける。
「これは別にラグナさんを疑ったのではなくて、あくまで確認しただけです。私たちは、本当に愛しあって結婚しま
したし、今も変わらずに愛しあってますから。そうそう、今朝だって私が『ラグナぴょん♪』って呼んだら真っ赤に
なって照れちゃって、その後私が渡したお弁当を本当に嬉しそうに受け取って……」
 頬に手を当てて、いやいやするようにのろけ始めたフィルに、アンとサラ顔中に『うんざり』ってオノマトペを浮
かび上がらせて吐き捨てる。
「あー、はいはい。良かったわねー。すごいわねー」
「なんかもー幸せそーねー。少しゃこっちにも分けて欲しいわ、ったく……」

 さて、相談は続く。
「……しかしそうなると、やっぱりアレかな」
「そりゃもう、アレしかないんじゃない?」
「アレ……?」
 うんうんと頷きあうアンとサラに対し、フィルは理解できずに首をかしげる。
「あの、アレとは……」
「ちょい耳貸し」
「はい」
 ごにょごにょ。
 サラの囁き声に応じて、フィルの顔は驚き、赤くなり、そして泣き出しそうに変わってゆく。
「……ふ、不能……あ、あるいは男色だなんて……そんな……」
 アンは何か納得するように呟く。
「一番手近にミストっていう据え膳があるのに手をつけなかったしねー。ま、そこらへんが妥当なラインなのかなぁ」
 続いて、サラが追い討ちをかける。
「そうよねー、ラグナはなんか怪しいと思ってたのよ。妙に女の子っぽいところあるし。案外今回の結婚は、自分の
本当の性癖を隠すための偽装工作だったりして」
「ひ、ひどい……そんな……そんなことって……えぐ、ふ……」
 フィルは手で顔を覆うと、ついに泣き出した。しかし、その肩を優しく叩きながら、アンは自信満々で言った。
「安心しなさい、大丈夫よフィル」
「そうそう。あたしらが秘策を授けてあげるから」
 サラは歯が光る笑顔と共にぐっとサムズアップ。
「秘策……?」 
「そう。いい? よく聞きなさい……」

 夕刻、ラグナは家路を急いでいた。窓から明りの漏れるマイホームに笑みを浮かべながら、そっとドアを押し開く。
「ただいまー」
 結婚以来、ラグナの帰宅は早い。一人の頃と違って夜遅くまで洞窟内に篭ることも無くなったし、ましてや寝袋を
使って洞窟内で夜を明かすようなこともしなくなった。家に愛する妻が待っている、その事実がラグナを家路に急が
せるのだ。
 そして今日もまた、愛妻フィルが彼を出迎える。
「おかえりなさーい」

 瞬間、ラグナは僅かに残っていたHPとRPが一気にゼロになったような衝撃を受けた。あまりの事態に膝から崩
れ落ちる。
「〜〜〜っ!?」
 そこにいたのは、ふりふりレースのエプロンを着けたフィル。それだけなら特に衝撃を受ける姿でもない。ただ
し、エプロンの下が全裸となれば、話は別だ。

(は、裸エプロンっ!?)
 呆然と膝をつくラグナに、フィルは頬を真っ赤に染めながら聞いた。
「に、似合いますか?」
 そしてその場でくるん、と一回転。背中側は僅かなエプロン紐しかつけていなのであるからして、当然形の良いお
尻は丸見えとなるわけであり、かてて加えて膝立ちのラグナの目線だとその奥の茂みさえも見えてしまうわけで……。
 それが男としての限界であった。ばたり、とラグナはその場に突っ伏した。

(待て待て待て! これはシークルのわなだ!)
 混乱のあまり意味不明な思考がラグナの脳髄に木霊していた。それでもフリーズしかける頭を必死で再起動して、
なんとか落ち着きを取り戻す。なんとか立ち上がりつつ、最大の疑問を投げかける。
「……どういうことかな、フィル? なんで、そんな格好を……」
 しかし、フィルは答えない。顔を真っ赤にしながらも、真っ向からラグナを見つめている。
「……フィル?」
 とうとうラグナの視線に耐え切れなくなったように、怒るような口調でフィルは言った。
「こ、興奮しましたか!」
「はい?」
「そ、その、ラグナさんはいやらしい気分になりましたか!」
 ラグナ、再度フリーズ。気分を率直に表すなら、『何を言っているんだ、お前は』ってな感じである。一方のフィ
ルはと言うと、泣きそうになりながらも必死に説明を始める。
「あ、アンさん達から教わったんです! この格好なら、どんな男の人もイチコロだから、って!」
 ラグナの脳内に、星空に浮かび上がる笑顔の年増ーズが見えた。
(なに考えてんだあんたらー!)
 思わず心の中で叫んでみても、星空はあまりに遠く届かない。

 軽い頭痛を覚えつつも、視線はとりあえず右90度方向に固定して扇情的な姿態を視野に入れないように努力する。
そしてラグナはようやく言うべき言葉を見つけた。
「……あー、えと、その、と、とにかくそんな格好はやめて、早く着替えてきなよ……」
 更に『風邪ひくといけないから、ね』と付け加えようとした瞬間、フィルは叫んだ。

「ら、ラグナさんは、私のこと、本当に好きなんですか!」
「え……?」
 それは、怒りの声だった。明確でいて苛烈な炎のような怒り。逸らしていた視線を戻せば、フィルは激情に打ち震
えいる。それはラグナが初めてみる生々しい感情をあらわにしたフィルの姿だった。
「ラグナさんは、いつも私のことを、好きだって、愛してるって言ってくれます。けど、それならどうして一度も抱
いてくれないんですか!」
 思いもしない言葉。ラグナは答えることが出来ず、ただ呆然とし続ける。
「私は、ラグナさんの全てが欲しいんです、ラグナさんのためなら、どんな恥ずかしいことも、こんな格好だってし
てみせます。だから、本当に私のことを好きだって、愛しているって言うのなら、私を、私のことを……」
 そしてとうとうフィルの目から涙が零れ落ちた。
「抱いて下さい……お願いします……」
 フィルはそのままぺたりと床に座り込んだ。両の掌で顔を覆い、涙で歪んだ顔を見せまいとしながら。

 悲痛な叫びは途絶えて、ただすすり泣きが室内に響く。
(なんてことだ……)
 砂を噛んだような苦い心地にラグナは顔をしかめる。腹の底から湧き上がってくるのは、例えようもない自己嫌悪
だった。
(僕が、馬鹿だったのか……)
 ラグナは静かにフィルの側に寄り、その小さな体をかき抱く。そして、そっと囁いた。
「ごめん……」
 その謝罪の言葉をどう捉えたのか、フィルの体がびくりと震える。しかし、ラグナは腕の力を強めながら、優しく
言葉を続けてゆく。
「ごめん、フィル……君の気持ちに気付けなかった……本当の事を言うと、僕はずっと君を抱きたいって思ってた。
結婚する前からずっと、もちろん今この瞬間も思い続けてる」
 その言葉通り、こんな状況でもラグナは股間が強張るのを感じていた。腕の中に殆ど全裸に近いフィルがいるのだ。
その甘い感触には抗えない。そのまま獣のように圧し掛かりたい衝動を押し殺しながら、本当の気持ちを伝えようと、
告白を重ねてゆく。
「でもね、僕は君はそんなこと嫌がると思ってた。獣みたいに君を求めたら、僕のことを軽蔑するだろうなって思っ
てた。だから、好きだけど抱けなかった……触れなかったんだ」
 気がつけば、知らず知らずのうちにラグナは泣いていた。強くフィルをかき抱きながら、嗚咽をこぼしていた。
「ごめん、フィル……本当にごめん……」


 どれくらい、そうしていたのだろうか。ラグナは涙でぬれた頬に温かさを感じて顔を上げた。そこには、ラグナの
頬に手を当てるフィルがいた。その表情に先ほどの激情はない。ただの、いつも通り穏やかなフィルだ。
「目、赤くなってますよ、ラグナさん」
「……フィルだって」
 掛け合った言葉に、二人同時にくすりと笑いあう。
「私たち、馬鹿ですね。相手のことを考えたつもりが、お互いで傷つけあってたなんて」
「……そうだね、本当にそう思うよ」
「でも、だからこそお似合いだと思います、私たちは」
「……うん」
 その瞬間、ラグナは二人の間にあった壁のようなものが消えたような気がした。『ひょっとしたら、このとき本当
に二人は夫婦となれたのかも知れない』そうとも、思えた。

 そして、自然と二人の唇は重なってゆく。

「はむ……ちゅ……あん……」
「ぢゅ……ぺろ……ちゅぷ……」
 重なった唇がやがて舌の絡み合いになり、口腔全てを擦り付けあうような濃密なキスへと変わってゆく。触れるだ
けのキスならば何度もしてきたが、これほど深いキスもそこから得られる快楽も二人にとっては初めてだった。未体
験の快楽に、二人は耽溺する。
「ひゃ……! ふん……」
 舌先を甘咬みし、唾液を流しあい、啜りあう。口の周りは、互いの涎でべとべとに濡れて光る。呼吸困難で意識が
白く飛びそうになる寸前、ようやく二人は舌の交わりを解いた。
「はぁ! はぁ! はぁ……」
 息を整えながらも、両者の腕は止まらない。互いの肌の感触を求めて、さわさわと指は走る。ラグナはフィルのエ
プロンを解くと髪や背中や尻肉を撫で回しはじめ、フィルはもどかしげにラグナを包む衣服の戒めを解く。
 互いが一糸纏わぬ裸体になるのに、そうと時間はかからなかった。

「ああ……」
 フィルはラグナの猛った性器に感嘆の声を漏らした。勃起した男性器を見るのは初めてであったが、恐怖よりもむ
しろ情欲が疼いた。
「これが、ラグナさんの……」
 そしてラグナもまた、フィルの裸体に耐え難い欲情を感じていた。官能で火照った肌、ぴんと立った乳首、そして
既に蜜で濡れて光る淫唇……見ているだけで、ラグナは更に張り詰めてゆき、性器から引きつった痛みさえも覚えて
しまう。
 そして、お互いは互いに何を求めているのか理解した。言葉もなく抱き合い、倒れこむようにベッドへと移動する。
再び濃厚な口付けを交わしながら、二人は微妙に位置をずらして挿入の体勢をとってゆく。だが、ラグナの先端が
フィルの戸口に触れたとき、フィルの手がラグナを押しとどめた。
「あ、あの、ラグナさん!……その、する前に、一つだけ、言わせて下さい……」
「……どうしたの? やっぱり、怖い?」
「そ、そうではなくて!……わたし、実はその……ラグナさんが居ないとき、変な気分になって、ラグナさんの、
お、お○んちん想像して、何度も自分を慰めたりしてました……」
「へ?」
 耳まで紅潮させながら、フィルはとんでもない告白をする。
「私、その、実はかなりいやらしくて、浅ましい女なんです! だから、きっと、はじまってしまうと自分が満足す
るまで、その、ラグナさんに、無理強いしてしまううかも知れなくて……」
 フィルの声は尻すぼみに消えていった。呆れられたかも知れない、そんな思いが心に泡の様に湧き上がってくる。
しかし、その告白に対するラグナの解答は、いたって単純だった。
「はうんむ……!?」
 強引に口付けて舌を割り入れ、唾液を吸い上げ、ねぶり、とかす。たっぷりと時間をかけて、全ての不安や惑いを
溶かし消すように、深く濃密なキスを交わす。
「はぁ……ら、ラグナさん……?」
 やがて唇を離された時、フィルはラグナの穏やかで力強い微笑を見た。
「あのね、フィル……そういうこと言われると、男としては『絶対に満足させてやる!』って気持ちにしかならない
の。それに、僕も自分では相当にいやらしいヤツだと思うから、ここから先はどっちが一層いやらしいのか、勝負っ
てことで」
「え、あの……はい……」 
 その台詞で、フィルの最後に残った不安はかき消された。フィルはラグナを迎え入れるべく足を開くと、ラグナは
肉棒を突き入れた。

「ん〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
 挿入と同時に、フィルの体が一気に強張る。目は固く閉じ、唇も噛み締めて何かに耐えている。
「フィル、やっぱり痛かった……?」
 しかし、フィルは髪を振り乱すようにして頭を横へ振ってそれを否定する。
「ちが……痛くないです……むしろ、気持ち良すぎて……もう……くうっ!?」
 ラグナが軽く腰を動かした瞬間、フィルは一度目の絶頂を味わった。ベッドの上での自慰とは比べ物にならない快
感。しかしその余韻に浸る暇は無かった。
「いく、よ! ふ! く!」
 ラグナは一気に注挿を開始する。その動きの一つ一つがフィルの膣内を抉りまわし、快楽をつむぎだしてゆく。
「ひゃああ! あ、あああ、あ! くぎぅっ!?」
 絶頂の感覚が波のように襲い掛かってくる。嬌声なのか悲鳴なのかも分からない獣じみた声を上げてフィルは乱れ
続ける。そしてラグナもまた快楽に曝され続ける。
(すごい……これが、フィルの膣中……!?)
 突き入れる度、性器に絡みつく肉のひだ。締め付け、揺るぎ、そしてまた締め付ける。何か別の生き物に呑み込ま
れるているような錯覚さえ覚えてしまう。
「が、くっ……!」
 目蓋の奥で稲妻が走るような、そんな激しい快楽。ラグナもまた最初の絶頂を迎えた。

 どく、どく……
「ひぎいいいいっ!?」
 子宮口の精をぶちまけられた感触に、フィルはまた軽く達してしまう、だが、ラグナの動きは止まらない。股間も
硬度を維持したまま、放った精液も更なる潤滑液替りにして動き続けてゆく。

「やぁっ! そんな、あんなに、出たのにぃっ!」
「言った、ろ! どっちが、いやらしいか、勝負、だって!」
「は、はいっ! もっと! もっと出してぇっ! 動いて、下さいっ!!」
「く…! 言われ、なくても!」

 それから二人、延々と快楽を貪り、幾度となく達し続ける。今までの心の距離を埋めるように。
 その営みは新たな日が昇り、中天に差し掛かるまで続いた。

 夕刻になってから、二人は同時に目覚めた。
「あ……おはよう」
「えと……おはようございます」
 昨夜の痴態にそぐわないなんとも普通な挨拶に、二人でくすりと笑いあう。次の瞬間、枕元に置かれた時計を見て
ラグナは驚く。
「うわ、こんな時間!? あー、いけない、今日は仕事さぼっちゃったな……」
「仕方ありませんね。可愛い奥さんのためですから」
 悪戯っぽく囁くと、フィルは裸のままラグナに身をすりつける。
「あ……えと……と、とりあえず、温泉にでもいかない? この時間ならもう開いてるだろうし、この汗とかいろい
ろ洗い流さないといけないから……」
「あ、それはいいですね。着替えたら、一緒に行きましょう」
 
 温泉までの道を、二人は並んで歩く。フィルはラグナの腕にそっと手を添えながら、半歩後ろを歩いていく。ふと、
フィルの足が止まった。
「どうしたの?」
「……思ったんですけれど、いつか一緒にお風呂入りたいですね」
「え?」
「それで同じ湯船に浸かって、昨日みたいに激しく……」
 ほう、と陶酔したように呟くフィルに、ラグナは赤面してしまう。
「……フィルって、けっこうやらしいんだな」
「え? だから昨日言ったじゃないですか。私はいやらしい女です、って」
 ラグナの腕に絡みつくように抱きついて、フィルはささやく。
「私、もう自分を偽ることはしません。ラグナさんが嫌だと言っても、私が満足するまで絶対に放しません。もう、
一生一緒に歩いてもらいますから。改めて、よろしくお願いします、ラグナさん」
 ラグナはフィルの瞳の中の自分を見つめ、フィルもまたラグナの中の自分を見つめる。
「……こちらこそ、よろしくフィル」
 そして、二人は村の大通りの真ん中で口付けを交わす。夕陽が描く二人の影は、一つに重なりながらどこまでも長
く伸びていた。

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