ラグナとロゼッタと初めての夜・後編
「その……ラグナ? 何か、言ってよ」
上半身を露にしたロゼッタは若干顔を背けながらも、ベッドに腰掛けているラグナに対してそんな言葉を落とした。
「え……っと、その……」
いきなりそんなことを言われても……というか、突然目の前でそんな格好になられて動揺しないでいられるはずもない。
だが、それでも何かを言ってあげなければ……そんな思いに責め立てられ、ほとんど麻痺した頭で必死に考えた台詞――それは、なんとも陳腐な一言だった。
「……綺麗だ」
「……」
女性に向ける単純な言葉――好きだ、愛している、可愛い、綺麗だ、などなど。それらは単語単語で述べれば陳腐なことこの上ない。このときのラグナもそう思わないこともなかった。
だが、時としてそれは魔法の言葉と変わる。その一言だけで嬉しい、その一言が全て……そんな風に思わせてしまうくらい。それほどまでに単純だけど、本当に純粋な言葉。
「うん……、ぅん。あれ? なんで、こんな……」
「ロゼッタさん」
「おかしいよ……ね。自分から裸になって、自分から見せて、それでお世辞でも褒めてもらえて……。それがこんなに嬉しいなんて……おかしいよね?」
ぽろぽろと止め処なくこぼれおちていく涙。それは拭っても拭っても流れ続け、頬から顎、顎から首、首から胸元へと徐々に徐々にと伝い流れていく。
それは、穢れも汚れもまるでないその真っ白な雪原に流れる一本の小川のよう。その光景は本当に言葉通りに綺麗だった。
「ロゼッタさん。ちょっとごめんね」
そう口を動かすのとほぼ同時に、突然ラグナはロゼッタの方へと手を伸ばす。そして、彼女が驚く暇すら与えずにその手を掴むと、彼女を再びベッドの上へと引き戻した。
「……きゃっ?」
そのまま場所を入れ替え、ラグナはロゼッタの上に覆いかぶさるような体勢をとる。
「ラグ……ナ?」
「ごめんね、いきなり。でも、もう……」
抑えきれなかったのだ。ロゼッタのこんな姿を、こんな表情を見せられて、触れずにはいられなかった。抱きしめずにはいられなかった。
愛しい――その気持ちが大きくなりすぎて。
「うぅん、いいよ。すごく、恥ずかしいんだけど……、あたしもラグナに触れて欲しい。ラグナにあたしのこと、もっともっと知ってもらいたいから」
「ロゼッタ……さん」
その言葉を聞くや否や、ラグナはもう躊躇うこともなく、彼女の身体へ手を伸ばしていた。
「……んぁ」
最初に触れたのはその外気に完全に曝け出された胸。大きい……とまではお世辞にも言えないが、ふっくらと緩やかに隆起した双丘。それでいて、形には張りがあって、その頭頂部にあるピンク色の乳首もぷっくりと勃っていた。
まずはその外周部から撫でるように、あるいは初めて触るもの故の確かめるかのような慎重さでその胸の上を掌が這っていく。
「やっ、あ、あああぁぁ……」
『愛撫』ということ自体まともに知らないラグナであり、その手つきも非常におぼつかないものではあったが、今まで触れられたこともないロゼッタの胸はあまりにも敏感で、その行為だけで大きな喘ぎ声がこぼれだしていた。
(……ゴクッ)
その声がラグナの理性をまた一歩崩壊させていく。
今度は撫でるのではなく、指先に少し力を込めて、その胸を掴んでみる。
「う、あぁ……んんっ」
同じロゼッタの声。けれども、先程とはまたまるで異なるロゼッタの声。その微妙な反応の差異がラグナの興奮と好奇心を高めていく。
「……ぅ。ラグナ、何か……笑ってない?」
「そ、そんなことないですよ?」
「ホントに?」
ロゼッタは疑るような目でラグナのことを見つめるのだが、今の彼女の目はもうだいぶトロリとしており、威圧するにはまるで効果が薄かった。
「ホントですよ」
それならば……とばかりに、今度は両手をその胸に押し付けてみる。
「ぁん」
柔らかな弾力がラグナの掌を押し返そうとする。最たるはその真ん中の部分。押し付けても尚、より反発しようとしてくるのはむくむくと勃起してくるロゼッタの乳首。
それをパンをこねるときの要領で優しく練ると、まるで発酵したかのように、僅かではあるものの、その胸が膨らんだような感じがした。
「コレ……なんだかすごいことになってるみたいだけど、痛くはないですか?」
「う、うん。なんか変な感じ……だけど、大丈夫。ラグナの手がやらしぃ……じゃなかった。優しいから」
「…………」
少しだけラグナの表情がふくれっ面になる。
「そんなこと言うと、少し意地悪しちゃいますよ?」
「……え?」
ロゼッタは突然の言葉に驚きそうになるのだが、ラグナはそれすらも許さずに、全体に広げていた指をその一点に集める。さらには、片方のその場所には唇を近づけた。
チュ……と、フレンチキスのごとく、ピンク色の乳首に唇が触れると、ロゼッタは身体に電撃を走らせたかのような衝撃に打ち震えた。
「ひゃうううぅぅっ!?」
その反動で二人が乗ったダブルベッドがギシリと軋む。そして、その後もハァハァと息を荒げるロゼッタの挙動でベッドは震動を止めることはなかった。
「……ぁ、はぁ、ぅ。ば……ばかぁ。ラグナのバカ。いきなりこんなことするなんて」
「ご、ごめんなさい。こんなになるなんて思わなくて」
「もう……」
だが、それきり。ロゼッタはラグナから顔を逸らしたまま無言になってしまった。
もう話したくもなくなってしまったとでもいうのか? そんな疑問がラグナの心を苛み、先程の己の行動に後悔の念を呼び起こす。
「……」
しかし暫くすると、ロゼッタはそんな風にしょげているラグナの方へ視線だけ向けて、この距離でなければ聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「その……、ね。前もって言ってさえくれれば……、あの、その……しても……いいから」
「――――っ」
流石のラグナでも、その一言でキレた。
まるで「犯してくれ」と言わんばかりの誘う言動の数々。好きな女性にここまでされて何もしない男性がいたら見てみたいとさえ思える。
「ロゼッタさんっ!」
「ラ、ラグナ!? だから、何かするなら前もっ…………んうっ!?」
一旦ラグナを制止させようと伸ばしたロゼッタの手だが、それは敢えなくラグナに掴みとられてしまう。そんな動きを封じられたロゼッタに、今度は教会でしたようなものでもに、フレンチキスのような軽いものでもない、貪り尽くすような激しいキスをした。
「んっ、んんぅ……。ぁ……んぷ、ちゅる」
カチリと互いの歯がぶつかり合ってしまってもお構いなし。その歯も歯茎も舌も、口内のありとあらゆる場所をラグナの舌がなぞっていく。
「じゅる……ちゅぷ、じゅ……んぅ。ん、ん、ぁ……ぅ」
最初はラグナにされるがままになるロゼッタではあったが、初めに交わしたキスのときと同様に、徐々に徐々にとその行為になれていき、次第には自分から舌を絡ませようと動かしていた。
二人の口から漏れ出す唾液の粘着質で卑猥な音、酸素ではなくその行為を求めるかのような荒い呼吸、そしてその激しさを物語る汗の塊が二人の額に浮かんでは飛散した。
「……ぷはっ。はぁ、はぁ……ぁ」
吸盤のように吸い付いては離れない二人の唇を強引に離すと、互いの熱い呼吸が鼻先をくすぐった。
「ラ……ぐ……ぁ。はぁ、は……ふ、はぁ」
それから多少は喋れるようになるまでいくらかの時間を要したが、それでも二人の瞳の焦点はどこかズレたままだった。
「ラグナ、らぐナ、ラぐな……、らぐなぁ……」
ロゼッタはただただその人の名を呼び続け、目の前の焦点のズレた像に向けて手を彷徨わせ続けた。
「ロゼッタ……」
ラグナも手を差し出して、ロゼッタのその手を掴む。その互いの肌の感覚を得ることによって、二人の視界は急にクリアになり、互いの顔を間近に見た。
「ラグナって……意外と大胆。気付かなかった」
「ロゼッタだって。こんなに泣き虫で、こんなに可愛らしいなんて」
「も、もう! そういう歯の浮く台詞は禁止だってば。そ、それに……『ロゼッタ』って」
「あ……」
しまったとばかりにラグナは口を押さえるのだが、ロゼッタはそんなラグナに対して首を横に振った。
「『ロゼッタ』って初めて『呼び捨て』で呼んでくれたね。もうあたしたち結婚したんだし、『さん』付けはやっぱりおかしいよ。だから、これからは……そう呼んで。そう呼んで欲しい」
「で、でも……」
「じゃなきゃ、離婚しちゃうからね」
「う……」
冗談にしても笑えないし、そもそもそんなことは絶対にしたくはない。となればどうするか……答えは一つしかなかった。
「ロ、ロゼッタ……?」
「なぁに、ラグナ?」
あまりの恥ずかしさにラグナは赤面するのを隠し切れなかった。けれど、その気恥ずかしさ以上にどこか愛おしさ……そして清々しさが大きかった。
だからだろうか。こんなことを普通に言えてしまうのは。
「ロゼッタ。一つに……なろう」
「うん。ラグナ……」
ラグナはロゼッタの背とベッドの間に手を差し込み、優しくその身体を抱きしめる。
互いの顔はやはりまだ赤いままだったけれど、その身体にはもう強張りも震えも消えていた。
「できるかぎり優しくしますから。でも、もしかしたら、その……」
「うん、分かってる。でも、大丈夫だから……」
「大丈夫」という言葉がなんとも健気に聞こえる。恐らくはロゼッタも『初めて』でどういうことになるか、聞き及んでいるのだろう。それでも彼女がそんな風に気丈でいられるのは、普段からの彼女自身の性格故などではなく、今このときの想いの強さ故なのかもしれない。
「それじゃあ、始める……から」
口ではそんな風にあくまで冷静に努めているが、手の方はそれどころでなく、何の躊躇いもなくロゼッタのスカートを捲くり上げる。
「〜〜〜〜っ」
子供がやるようなスカート捲りとは訳が違う。そのあまりの羞恥心にロゼッタは咄嗟に顔を手で覆った。
ラグナはそんなロゼッタの様子を一瞥するものの、視線はすぐにその部分へと注がれる。純白のショーツで覆われたその部分へ。
「これ、取るから、少しだけ腰を浮かせてくれるかな?」
「…………」
当然だが、ロゼッタは答えようとしない。だが、首を横に振ることもしなかった。
少しだけ考えてから、そっと……本当に気付くかどうか分からないほどに微々たる動作でロゼッタは言われた通りに腰を浮かせた。
それと同時にラグナはショーツの端を指で摘み、ゆっくりと慎重に引きおろしていった。
その下着と徐々にその姿を見せていく下腹部との間に糸が引く。それに、布一枚……それだけしかないはずの下着がやけに重く感じられる。
それだけで分かる。ロゼッタが今までの行為をどんな風に思っていたか、どんな風に感じていたか。
「――――」
ついに露になったその部分。髪よりも薄い金色の恥毛とその下にある膣口の薄いピンク色は、汗か、はたまた他の何かかで濡れていて、まるでピンクサファイヤにも似た宝石の輝きに感じられた。
目を覆っているはずなのに、ラグナの視線がソコに集中しているのが分かるのか、ロゼッタは下半身を恥ずかしそうにもじもじと身じろぎさせる。
だが、それはラグナにとっては逆効果。求愛の踊りのようなその動きにラグナは堪らず自分のズボンをずり下げて、既に激しく屹立した己の分身を取り出した。
「ロゼッタ……、いきますよ」
そして焦りと緊張と慎重の中、握り締めた自分自身をおぼつかない手つきでロゼッタの秘裂へとあてがって……
――ヌチ
先端部分がその柔肉と接触した。
「……っく」
それだけでラグナの身体には恐ろしいまでの痺れが走った。
まだ亀頭の部分の半分すら入っていない。本当にただ接触しただけだというのに、ロゼッタのソコはものすごい熱を帯びていて、火傷してしまいそうになる。
だがだからと言って、そこから離れようなんて微塵にも思うことはなかった。いや、違う。その熱さがまるで蔦のようになってラグナのモノを離そうとはしなかったのだ。
「ロゼ……ッタ……」
まるで泥沼……この際溶岩にでもはまったかのように、ラグナのそれはジリジリと埋没していく。
止まらない。止める気もない。
触れただけでこれほどの感覚ならば、もし全てが埋没されたとき、自分はどうなってしまうのだろう……そんな考えすら浮かんでくる。
だが、どうなったって構わなかった。そんなことよりも今のラグナの想いは唯一つ。「ロゼッタと一つになる」……ただそれだけだった。
「う……ぅ、あ……はっ。ああ――」
内部への侵入が進む度にこぼれだすロゼッタの甘い声。
「この調子ならば、大丈夫なのでは?」なんて思うラグナではあったが、しかしその後すぐさまに侵入が妨げられた。
「ん、ん……はぁ。ラグ……ナ……」
ロゼッタ自身も分かっているのだろう。その障壁の存在に。そして、二人が一つになるということは、その障壁を乗り越えなければならないことに。
「ロゼッタ。本当に……いいんですね?」
「……」
しかし、すぐには返答がない。いくら決心していようと、やはり怖いものは怖いのである。今またロゼッタの身体が少しだけ震え始めた……のだが。
「うん。大丈夫。あたしには……」
すぐにそれも止まり、ラグナのことをこれ以上ないくらいの強くまっすぐな視線で見上げた。
「いいよ、ラグナ。きて……」
「……うん」
理性が、溶けた。
その言葉その声、目の前に横たわるその女性の姿、辺りに漂う甘くもきつい匂い、今まだ残る唇が触れ合ったときの味、そして今まさに繋がろうとしているその部分の触れ合った感触。
五感の全てが狂いそうになるほどに狂い、それが理性という名の鎧を溶かした。
「――っは」
腰に力を込める。また少しだけラグナのモノがその中へと入っていく。だが、本当に少ししか進んでないはずなのに、この圧迫感はこれまでの比ではなかった。
「……んっ、ん……ぅ、うぅ」
ラグナの下でロゼッタがきつく歯を食いしばっている。額にも殊玉のような汗がいくつも浮かび上がる。
それだけで今の彼女がどんな思いをしているか、容易に理解できた。
そんな彼女にラグナができること……それはその苦痛の時を早く終わらせてあげることだった。
「いくよ。……我慢して」
そしてラグナはまるで体当たりするかのような勢いでロゼッタのことを一気に貫いた。
「あ、んぁ!? ああぁぁ――ッ!!」
ロゼッタの絶叫が響き渡り、ラグナの鼓膜を震わせる。さらには、ラグナの背中に回されていた手がそこに激しく食い込んだ。
ギリリ――爪が肌に食い込み、その部分を赤く変色させる。
「…………」
だが、ラグナは眉の一つも動かすことはなかった。だって、こんな痛みに比べれば、ロゼッタの痛みは想像を絶するもののはずだから。だから、こんな程度で少しの弱音を見せることはできなかった。
しかし本音を言えば、そんな痛みなど気にならないほどの快感がラグナを襲っていたから。
異物の侵入を拒むロゼッタの膣内がビクンビクンと躍動し、ラグナのモノをきつく締め上げる。抜こうと思って腰を引いても、まるでビクともしない。
「ロゼッタ……、きつ……」
「……んはぁ、はぁはぁ、ぁ」
荒々しいまでの激しい呼吸の吐息がラグナの頬を打つ。そしてロゼッタはいまだきつく歯を食いしばっており、その目尻にも僅かに涙を溜めている。
「痛い」ということだけは想像はできる。だが、「痛い」ということだけしか想像できなかった。
それほどに「痛い」であろうはずなのに、ロゼッタはどうしてこうもラグナのことを離そうとしないのか、ラグナのことを受け入れようとしているのか……。
それは、彼女の手の中にあった。
「ラグナ……これ」
腕を解いて、ラグナの前に片方の手を差し出す。その拳は血の気の引くほどにきつく何かを握り締めていた。
「これは、もしかして……」
「うん。ラグナから貰ったあたしの大切なもの」
そう。それはラグナがロゼッタにプロポーズしたときに渡した、幸福の白い石――ホワイトストーンだった。
「初めてのときは、どうしてもコレを持っていたかったの。だって、コレはあたしとラグナを繋いでくれたものだから。だから……」
その想いが、どうしようもなく嬉しかった。こんなにまで想われることがこんなにも幸せなことだったなんて知らなかった。
愛しい……その想いが。
「ロゼッタ。僕も……いい、かな?」
「え?」
ラグナはその石を二人の掌で挟むようにして、互いの指をしっかりと絡めあう。
「二人で……、二人一緒に幸せになろう」
「ラグナ……」
そして二人は手を重ね合わせたまま、そっと唇も重ね合わせた。
「あんッ、あ……あぁ。いたっ……はっ、は、ぁん!」
ラグナはロゼッタの膣内を優しく撫でるかのようにゆっくり、ゆっくりと腰を前後させる。だが、それだけでもラグナの意識を白ばませる。
包み込むような優しく暖かい感触と搾り尽くすような略奪的な感触。まるで対象に位置するような背反的な二つの感触がラグナをひたすらおかしくさせる。
だが、おかしくなっているのは彼一人に限らなかった。
「ラグナ、ラグナラグナラグナ――っ。あたし、おかしいよ……、ヘンだよぉ」
重ね合わせた手に力がこもる。そして虚ろな瞳でそう問いかけてきた。
「痛い……のに、すごく痛いのに、ラグナがあたしの中にいるって思うだけで、なんだか……すごく……、ひぅ!?」
我慢しきれず、ラグナは一度深くまで突き入れる。
「あ、あはぁ……、ふあああぁぁ! 初めて……なのに、痛い……のに、でもなんか、あたしいっぱいいっぱい……おかしくなっちゃってる」
次第に加速していく腰の動き。そんな言葉を聞いてしまったせいで、もはや動きに歯止めを利かせることもできなくなっていた。
「やだ、そんな……強……ぃ。いたっ。ラグナ、お願いだから……もっと、ゆっくり」
「すみません。ちょっと……無理そうです」
「そ、そんな…………、きゃうぅ」
その声に痛みしかなければ多分止められていた。でも、明らかに混ざっている甘い声がラグナのことをどうしようもなく惑わせた。
「はっ、はっ、あっ、あ、あ……」
振動の間隔、呼吸の間隔がどんどん速くなっていく。それにつれて、ラグナの限界までの時間も一気に短くなっていく。
「ラグナ、ラグナ、ラグ……ナ。それ以上は……ダメぇ。本当に、おかしく……なっちゃう……から」
「くうっ」
ロゼッタの背がきつく反り返り、同時にその膣内がきつく収縮する。
とは言え、きつい締め付け自体は今に始まったものではなく、ラグナなんてもうとっくにおかしくなっていた。我慢するのが面倒と感じるほどに。
楽になりたい。絶頂に達したい――――そんな感情がラグナの心を蝕んでいく。もしその感情に心を委ねてしまえば、こんな行為一瞬で終わる。そうすれば、ロゼッタもこれ以上苦しまなくて済む。
だというのに、ラグナは必死にそれを耐えていた。ただただ無心に腰を律動させながら。
「ふぁ、ああ、ああ――っ! ラグナ、イ……あぅ、あ。なんで? なんで、こんな……気持ち、イ……っ」
そしていつしか、ロゼッタの声から痛みより快感を訴える比率が増してくる。さらには、互いの結合部からは泡立つほどに甘い蜜が飛散してはベッドのシーツを汚していった。いくつかの赤い斑点の沁みもその液体の量でだいぶ薄く滲むようになっていた。
「らぐなぁ……。ギュって……して? 離れないように、あたしのこと離さないように強く抱きしめて」
「ロゼッタっ」
ラグナはその腰を押し進めるのと同時にロゼッタの身体を引き寄せる。そしてその唇に己の唇を勢いよく押し付けた。
ガチリ――、また失敗。しかし、この際上手くキスができないことなんてどうでもよかった。ただ、二人が一つとなれれば……。
「んむぅ。ん……じゅ、ちゅる……っは。らう……な……ぁ、らぐ……あぁ」
「ロゼ……、ううっ」
目の前が真っ白に染まっていく。手放しそうになる意識。
だがそれでも、互いは互いの名を呼び続けた。二人が共に手にした手の中の『幸せ』を強く握り締めながら。
「んくっ、はっ、あ、あ、ああああぁぁぁ――ッ!!」
ラグナは最後の一突きをロゼッタの一番奥へと送り込む。その一番温かいところで、ラグナは耐えていた全てのモノを開放した。
ビュク、ビュク、ビュルル――。
滾りに滾ったその熱い衝動が自分の中からロゼッタの中へと注ぎ込まれていく感覚。放出しているはずなのに、何故かすごく満たされていく感覚。
「あ、あぁ……」
止まらない。終わりなんて本当に来るのかと疑問さえ覚えるほどに、放出が止まない。
また、それをずっと受け続けるロゼッタもその放出を助長させるかのように内部の収縮を繰り返していた。
そんなおかしな状態がどれだけ続いたか……それは二人の結合部から溢れ出た白濁液の量を見れば一目瞭然だろう。
そしてようやく、二人は『繋がり』という拘束から解放され、共々身体をぐったりと弛緩させ、肩を並べて横たわった。
「……はあぁ」
深いため息を一つ。ラグナは重たい瞼を何とか開いたまま、隣のロゼッタの姿を見やる。
「…………」
気を失ってしまったのか、それともただ単に疲れて眠ってしまっただけか。しかしどちらにしても、ロゼッタのその表情は何かに安堵し、何かに満足した……そんなとても穏やかな表情を浮かべていた。
「ラグナ……」
「えっ?」
そんな風に思っていた矢先のこと。ロゼッタが突然ラグナの名を呼ぶ。
「んぅ。大好き……なんだから、ね。むにゃ」
「……寝言、ですか」
あまりにはっきりとした寝言だったので、てっきり起きているのかと思ったのだが、ロゼッタは明らかに寝入っていた。それでも、やはり……。
「あれ?」
二人が繋いだその手と手。それは今も尚きつく結ばれており、軽く払ってもビクともしなかった。
「……まぁ、いいか」
離れないものを無理に離す必要もない。むしろ、離したくはない。この手の温もりを。この手に掴んだその『幸せ』を。
「おやすみなさい、ロゼッタ。僕も……大好きですよ」
誰も聞いていないのに少し恥ずかしげな様子でそう呟くと、ラグナもまた心地良い疲労感の中、まどろみへと落ちていった。