草木も眠る丑三つ時。
夜でも街灯が消える事のない帝国の中心街と違い、片田舎のカルディアの町ではランプの付いている家も無く皆寝静まった時間。
ひたひた…ひたひた…
そんな時間にも関わらず忍ぶように動く影が有った。
ごすっ
「…うう……痛い……です………」
手に携帯用の燭台を携えたトルテだった。
蝋燭の光では足元まではあまり明るくならず、本棚に足をしこたま打ちつける。
(あ……いけないいけない………)
ここはカルディア図書館。販売もしているので書店も兼ねている。
住居も兼ねており、2Fではラッセルとセシリアが寝ている為大きな音を出すと起きてしまうかもしれない。
(ゆっくり……ゆっくり慎重に………)
ナマケモノですらもう少し早いんじゃないかと言う時間を掛けて、ようやく目的の棚に辿り着いた。
(ここに……うん、これ………)
1冊の本を手に取り、床に置いた燭台の光を頼りに表紙を捲る。
「うわぁ……」
思わず声が出る。はっとして思わず口を押さえる。
トルテが手に取ったのは「性騎士のスキル」と言う題名の本、平たく言えばエロ本だった。
ラッセルが好き好んでこんな本を入荷するとも思えないので、恐らくは騎士道の指南書と間違えたのだろう。
図書館の手伝いをしているトルテは時々入荷した本の検品もしている。
そんな中偶然にもこの本が入荷しているのを見つけ、興味半分で図書館の奥、誰も見ないような棚に隠しておいた。
白昼堂々こんな本を読めるわけも無いので深夜忍び込んでこっそりと読もうと思ったわけである。
周りから「夢見がちな少女」と評されるだけあって、トルテには性に関する知識はあまり無かった。
少女漫画にありがちな「キスの後は後日談」と言う程度である。
そんなトルテに性に関するHow to本はカルチャーショックにも値する物だった。
(うわぁ…男の人のって…うわぁ……女の人って………)
本であれ、初めて目にする男女の営みにトルテは夢中になった。
読み進めて行く内に興味が首を擡げてくる。
(気持ち……いいのかなぁ………)
本には「女性を気持ち良くするには」とか「絶頂の為には」とか書かれている。
(んと…ここを……えっと、こうかな………)
今まで特に興味を示さなかった、排泄の為の器官としか思っていなかった場所を下着の上から軽くなぞってみる。
「ひゃうっ」
急に走った未体験の感覚と、比較的大きな声を出してしまった事に心臓が早鐘のように脈打つ。
(な……なんでしょう……今の………)
これ以上声が出ないようにポケットに入っていたハンカチを口に咥え行為を再開する。
(……気持ち……いい……かも………………)
本を片目に、自らの女性器をゆっくりと指で撫で付ける。
本による視覚的な興奮と、指による物理的な刺激によって既に下着は内から零れる液体で湿ってしまっていた。
もうそんな事はもう気にしないというかのようにトルテは更に自慰に耽る。
行為はエスカレートしていき、今度は未だ膨らみきらない胸やその登頂を刺激してみる。
本の記述通り乳首は硬く隆起し、弄る度に更に快感が生まれる。
(…んぅ…はぁ………はぁ………)
軽く摘み上げると全身を電気のように快楽が走る。
そして次第に下着の上からなぞるだけでは満足できなくなっていった。
本に書かれていた図解の通りにしてみようと、今度は下着の横から指を挿れてみる。
クチュ…クチュ……
静まり返った図書館に淫らな水音が微かに響く。
「ん………んぅ…………」
下着の上からとでは全く違った快感に、ハンカチでは押さえ切れない声が鼻から抜ける。
指の動きは如何に快楽を得ようかと段々と激しくなる。
最早館内に響く水音すら気にせず。
(ん………はぁ…はぁ…………あぁああぁあ!!!)
強い性感帯、クリトリスを指が弾いた瞬間、目の前が真っ白になる。
(ああ………はぁ…………はぁ………はぁ……………)
思考は途絶え、初めての絶頂に、波のように襲い来る余韻へと沈んで行った。
(さて…これからどうしましょう………)
我に返った後に残されたのは、唾液を含み重たくなったハンカチと分泌液でこれでもかと湿った下着、それとちょっとだけ後悔の念だった。
(お母さんに……ばれないように……洗濯するしかないですよね………)
そしてトルテは、まだ夜の明けない内に誰にもばれないようにと家路を急いだ。
(また……この時間に来よう………)
これ以降、真夜中はトルテの秘密の時間となった。
おしまい。