タバサの野望


  「この変態!!」
  深夜のジャコリヌス邸にビアンカの怒号がこだまする
  「ああっ、ビアンカさまお許しをっ」
  ビアンカが履く黒いハイヒールの下でタバサが懇願する
  「何が最新のファッションよ!嘘じゃない!!」
  そう言うビアンカの服装は確かに異様だった
  肌に食い込むような黒皮の服に黒いハイヒール…俗に言うボンテージ姿だ
  それを着こなすビアンカの顔は怒りと恥ずかしさで真紅に染まっている

  それは今日の朝の事だった
  「ビアンカ様都会で流行の衣装を手に入れました」
  そう、言ってタバサが持ってきた衣装がこれだったのだ
  勿論、タバサはこの衣装がどんな時に使われるか知っていた
  そういう方面の知識がほとんど無いビアンカがそれを知るわけも無い
  「ふぅん、こんな格好が流行っているんだ…」
  勿論変だと思わなかったわけではない、だがそれ以上に
  「フン、まあまあじゃない」
  都会のセンスが分からない田舎者だとは思われたくないという見栄が働き
  異様なこのファッションを受け入れる
  「それではラグナさんに見せに行ってみてはどうでしょうか?」
  「何で、あいつに見せに行く必要があるのよ?」
  「ラグナさん、きっと喜ぶと思いますよ?」
  「あいつを喜ばせる必要なんて無いけれど…まあ田舎者に都会のファッションを
  教えてあげるって言うのも悪くないわね」
  密かに想いを寄せる相手と言う餌に、いとも簡単に引っかかるビアンカ
  「良く似合っておりますよ、ビアンカ様」
  「当然でしょ?都会の最先端の衣装は私にこそ相応しいの」
  そそくさと着替えを済ませビアンカはラグナの居る牧場に出かけていった
  あの格好のまま町の中を歩くのだろう、まあこの時間なら歩いている人間は少ないだろうが
  自慢げにボンテージ姿で町を歩くビアンカの姿を想像し
  タバサは吹き出しそうになるのを必死に堪えビアンカを見送った



  「何が、都会で流行のファッションよ!?大嘘じゃない!?」
  ヒールで這い蹲るタバサの頭をぐりぐりと踏みつける
  「び、ビアンカ〜そこら辺で許してやってはどうなんだ〜」
  扉の向こうで物音を聞いて走ってきたジャコリヌスがおろおろとした口調でそう言った
  「お父様は黙っていて!…それと入ってきたら殺すから」
  今のビアンカは恐ろしいまでの威圧感を所持している
  服装での相乗効果もあるだろうが、扉越しの声だけでも十分な破壊力を持っている
  グリモアも恐らくその威圧感だけで追い返せるだろう
  …身の危険を感じたのか、ジャコリヌスが遠ざかる足音が聞こえた
  「ふう……」
  ビアンカが一息つく、タバサにとっては怒りが静まってしまっては困る
  全て計算通りに、ビアンカにこの服を着せ怒りを買ったのだから
  「ですがラグナさんは、喜んでくれたでしょう?」
  落ち着きかけていたビアンカの顔に赤い真紅の警戒色と
  うっすらと滲んだ涙が浮かび上がる
  「タバサ、あんた良くそんな事が言えるわね!?
   この、このっ、このド変態っ!!ド変態っ!!」
  「お許しください、ビアンカ様」
  「ふざけないで!!私に対してあんな辱めをして許すわけないじゃない!」
  まあ、どんな結果になったのかは大体予想がつく
  「変態、変態、変態!!」
  ぐりぐりと頭を踏みつけるヒールのつま先に、強く力が入る
  「こんな不埒な格好で外を歩かせて、おまけに体中土埃で汚くなって最低!!」
  「では私が責任を持って、ビアンカ様のお体を綺麗にして差し上げます」
  そういうとタバサは頭に乗っていたヒールを口で舐め始める
  「ちょ、ちょっとタバサ!?」
  急なことにビアンカがうろたえる
  逃げようとも、タバサが足を掴んでいるので上手く逃げられない
  さらにハイヒールからビアンカの足に向って移動している
  「ひゃん!?」
  ついに露出した肌を舐めとられる
  「も、もういいからっ…」
  「ビアンカ様に恥をかかせてしまったのですから、私の気が治まりません」
  そういうタバサは間違いなく嬉しそうだ、一方のビアンカは困惑してる
  最初はヒールだった行為がもう太ももにまで達しようとしている
  「ビアンカ様……」
  「はんっ…やめなさい……も、もういいから……」
  目で懇願するビアンカ立場はすでに逆転している、タバサはあえて気にせず舐め続ける
徐々にビアンカの吐息に熱が籠もり始める
  「(あと一息……)」
  と、その時
  「こんばんは、ビアンカさん居ますか?」
  良く知った声が聞こえる、ラグナだ
  タバサの手が緩む、その隙を突いてビアンカが逃げ出す
  「今回は許してあげるから、もう舐めたりするのは止めなさいよね」
  捨て台詞のように言うと扉に体当たりするように走っていく
  「うわっ!?ビアンカさん、まだその格好だったんですか!?」
  玄関の方でラグナの声が聞こえる
  「後一歩だったのですが……ラグナさんという餌は効果はありますがリスクも大きいですね
   とりあえず第一段階は成功と言うことで次のプランでも練りましょうか」
  そう、呟くとタバサは厨房へと消えていった



  翌日
  「ねぇ、ビアンカ新しい服を買ったんだって?見せてよ」
  「ろ、ロゼッタ!?」
  「いいじゃん、減るもんじゃないしさ〜」
  「メロディ!?」
  次から次へと人がやってくる、せっかく忘れかけた恥ずかしさが蘇る
  「だ、誰よ!?こんなに速く噂を広めたのは!?」
  牧場まで、人に会った覚えは無い
  「どうしました?ビアンカさん?」
  「ミスト!」
  そういえば牧場にいつも居るんだった、ビアンカの顔はその髪よりも青ざめていた
  「本当に斬新ですよね、私驚いちゃいました都会の人はセンスが違うんですね」
  笑顔でそう語るミスト、見られていたなんて…
  天を仰ぐ、そういえば空も青かったっけ…太陽が嫌味なほどに照っている

  カルディアの町は今日も平和だ

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