贈り物の指輪


結構自信作だったんですけどね」
「自信作ですか?…あの指輪はラグナ様がお作りになられたのですか」
そういうとなにやらタバサは考え込む表情になった。
「ああ、いや、作るといっても僕が未熟だし、片手間で作ったものですし、
本当は街で何か買ったほうがいいんですが、
売ってるものでは、ビアンカさんは喜ばないでしょうしね」

あと二言三言ほど会話をして、ラグナを見送る。
ラグナが見えなくなると、タバサはそっとつぶやく。
「お嬢様にも気づいてもらわないといけませんね」

そしてお昼過ぎ。
ビアンカはバルコニーでつまらなそうしていた。
手には先ほどの紫水晶の指輪。
そこに、タバサが洗濯物を干しにやってきた。
「あら、お嬢様、こんなところにいらしたのですか」
指輪を太陽に透かしてみると、石の中の細かな不純物がはっきりと見える。
「それは、ラグナ様の贈り物ですか。」
「そうよ、まったく何度見ても安物だわ。
素材も悪いし、カットも悪いし、いったいどこに売っているのかしら」
ビアンカの見るからに不機嫌そうな声がする。
「せっかくの頂き物なのに、ご機嫌斜めですね。
ラグナ様と会っているお嬢様は嬉々としてましたよ」
タバサは会話をしながらも、洗濯物を干す手を止めることはない。

「別に、そんなに嬉しそうにしてないわよ」
反射的に口が出る。
何で嬉しいのか、理由がないんだもの。
タバサったら、いったいどこを見ているのかしら。


洗濯物をすべて干し終えて、タバサがつかつかとこっちにやってきた。
「お嬢様は何か欲しいものはないのですか」
「そうねぇ…」
ビアンカはぼーっと外を眺めながら考えはじめた。

なにがいいだろう、欲しいものは街そのものだったりするけど、
あいつには無理だし、あ、そうだ、あの公園に立てる私の銅像!
って、私の銅像はもっと有名彫刻家に彫ってもらうべきよ。
そもそもあいつが彫刻なんて彫れるわけないし。
大体、あいつがなにができるのよ。
「ラグナ様って笑顔が素敵ですよね」
そういえば、あいついつも笑顔よね、悩みないのかしら。
素敵って…まぁ、かわいいとは思うわよ。
なんだかんだいっても、私好みなのかもしれないし。
「贈り物は、ラグナ様の愛…なんて…」
ラグナの愛かぁ。
そうね、愛。いいかもね。
まんざら、あいつのこと嫌いじゃないものね…。
ラグナが好き…。
す、好き? ラブ??
って、え、え、ええ?私、変なこと考えてなかった???
「ちょっと、タバサ、何、何、何言っているのよ!」
真っ赤になって振り返ったが、タバサはすでにいなかった。
「タバサの、ばかぁーー!!」
ビアンカの大声がバルコニーにこだました。

部屋に戻ると、ポケットから先ほどの指輪を取り出した。
「こんなもの、いらないわ」
いつもどおり、机の上のオルゴールの中に放り込む。
その時に気がつく。
オルゴールの中にはすでに5つの指輪が入っていた。
いずれもラグナからもらったものだ。
「そういえば、あいつ、こんなにも持ってきていたのね」
最初にもらった銀の指輪はいびつな形をしている。
それから比べると、今日もらった指輪はずいぶんまともなものに見える。


もしかして、これはあいつが作っているの。
「まったく、暇な人ね。なんで、こんなもの作るのかしら」
私のことが好きとか?
好き…ってことは…
「ビアンカ、僕は君が好きだ、結婚しよう」
結婚…結婚…ってことは、あ、あいつと夫婦の営み…
え、な、なに考えているの、タバサよ、タバサが変な事言うからだわ。
でも、そ、そのキ、キスとかして…。
そ、そしたら、わ、私の、こ、ここに、ら、ラグナのそれが…

ビアンカの秘部を覆う布は湿り気を帯びていた。
ベッドに倒れると、服越しに自分の秘部を触り始めた。
寝そべったビアンカを覆うようにして、目の前にラグナがいる。
そして、ラグナの男性を示すものが、自分の女性の部分を狙っている。
もうすぐ、ラグナが自分の中に押し入ってくるのだ…。

想像はとまることはない。
ビアンカの中から汁があふれ出し、下着はそこを中心にジュクジュクになっていた。
そのぬれた部分を軽く押してやると全身がしびれるような快感が走る。
気持ちいい…

「お嬢様、寝衣をお持ちしました。」
タバサの声を聞き、ビアンカははっと正気を取り戻す。
「タタタタタタタバサ、ノノノックぐらい…」
先ほどまで火照っていた身体が、冷や水を浴びたように冷たくなる。
あまりにも突然のことで、うまく声が出せない。
「申し訳ありません。ノックはしたのですが、お気づきになられなかったようで」
タバサのいつもどおりの口調は、ビアンカとは対照的だ。


「ええっと、なに?あ、ああ、寝巻きね、そ、そうね、早く着替えさせて頂戴」
そういうと、ベッドから飛び降り、タバサの前に後ろを向いて両手を広げた。
後ろ釦のワンピースを着ているときの、いつもの動作。
タバサが釦をいくつかはずすと、ビアンカの服は肩口からすとんと床に落ちた。

いつもどおり、服を着せてもらうのを待つのだが…一向にその気配がない。
「タバサ、どうし…ひゃぅ」
ビアンカが振り返ろうとしたとき、予想外の感触に小さな悲鳴を上げた。
タバサが、ビアンカの下着の濡れている場所を擦りあげたのだ。
「な、何をしているの!」
「いえ、こちらのほうが濡れてますから…どうなさったのかと」
ビアンカは先ほどの行為を思い出し、言葉に詰まった。
「湯浴みをされた後、身体をちゃんとお拭きになってないのですか」
「そ、そうよ、きょ、今日は雑に拭いたのね」
「そうですか、下着もお取替えしたほうがよいですね」
タバサは、そういって箪笥から新しい下着を取り出した。

「身体をお拭きしますから、ベッドに腰掛けてください。」
裸にされたビアンカは、タバサに言われたとおりベッドに腰掛けた。
なんだか、変な事になっちゃった。
一人で出来るから、と言って早く追い出そうかと思ったが、
変に勘ぐられるのも困る。
いつもどおりにしていれば、すぐ済むことなのだから。
いつもどおり、いつもどおり…。


ぬるり。
「あ…ひゃん…タ、タバサ!!」
タバサはビアンカの股間に顔をうずめ、敏感な部分をなめていた。
「ちょ、ちょっと、や、やめ…あ」
タバサの頭を引き剥がそうと、両手で力いっぱい押したのだが、
それも、タバサの舌がビアンカの敏感な突起を擦り上げると、
力が抜け、腕はタバサの頭に添えるだけとなってしまった。
「お嬢様も、いつのまにか立派に成長されたのですね」
タバサは舌と指を巧みに使い分け、ビアンカに休憩を与えない。

「な、何へんなこと言ってるのよ!」
相変わらず腕には力が入らない。
「ラグナ様はお嬢様にこんなにも想われているのですね」
ラグナ、という言葉を聞き、心臓がドクッと強く躍動する。
同時に自分の中から、一塊の愛汁が流れ落ち、
あふれ出した汁はタバサに丁寧に舐め取られる。
「あいつは…な、なんでもないやつよ…」
「お嬢様…素直にならないと、ラグナ様も離れてしまいますわ」
タバサは言葉を発しながらも、ビアンカの攻め続けている。
「い、いいもん、べ、別にあいつなんてどうでもいいわ…」

そういうと、ビアンカの腕からタバサの抵抗が消えた。
タバサが刺激をやめ、すっと離れたためだ。


「素直でないお嬢様に、おしおきです」
にこやかな声。
タバサはビアンカから少し離れた位置で、傍観を始めた。

タバサの刺激から開放され、安心したビアンカだが、それも一瞬だった。
その余韻は痒みのような感触としてじわじわと身体を蝕む。
身体をよじるが、決して衰えることはない。
観念して、タバサが舐めあげた部分を自らの手で擦り上げるも、
タバサが与えていた快楽にはまったく程遠い。
部分的には和らぐものの、足りない物が積み重なっていく速度にはぜんぜん足りない。
「タ、タバサ…」
ビアンカは涙目になりながらタバサに助けを求める。
そんなビアンカをよそに、タバサはそっと呟く。
「お嬢様が好きな方は誰ですか」

こ、こんな時に何を…タバサの意地悪…。
どうしても、あいつのことを…。
…別に、な、なんでもない…やつなのに…な、なんで。

胸がぐっと締め上げられるような想いに駆られる。
さっきとは違う涙があふれる。
気がつくと、手で擦り上げる速度が速くなっている。
身体を覆っていた、くすぶるような鈍い感覚はすっかり取り払われ
ただただ、快感に向かって疾走していく。

気持ちいい。
さっきはあんなに苦しかったのに。
やっぱり…私は…。
「ラグナの、ことが、好きなんだ…」
ビアンカは喘ぎながら、小さな声で呟いた。


「はい、よく言えました」
タバサは、その小さな言葉を聞き逃さなかった。
そして、ビアンカの背中に回ると、後ろからビアンカの右乳首を舐め始めた。
「素直になれた、ご褒美です」
左手はビアンカの左側をこね回し、右手は下の陰核をつまみあげる。
本領を発揮したタバサの前に、ビアンカはあっという間に達した。
しかし、タバサは愛撫をやめようとはしない。

タバサは愛液でべとべとになった右手を口に持っていくと
それを舐め上げ、唾液と混ぜ合わせる。
「初めては…ラグナ様のものですから…」
タバサがそう耳元で囁くと、ビアンカの愛液があふれ出した。
「こちらで我慢してください」
タバサはそう言葉をつなげ、ぬるぬるになった右手を
ビアンカの後ろの穴に塗りたくる。

ビアンカはタバサの意図に気がついたが、何も言葉が発せない。
タバサの上手すぎる攻めの前では、ビアンカの言葉は喘ぎ声へと置換される。
そして、指で前の穴から出る愛液を掬い上げては後ろの穴に搬送する。
たっぷりと潤滑油が塗られた。

「では、お嬢様…そろそろ…」
そういうと、ビアンカの乳首に歯を立て、つねり上げた。
「ああっ!」
ビアンカはその痛みにビクリと痙攣し、その瞬間にタバサは指を差し入れた。

ビアンカはおぞましい感覚に襲われたが、それも一瞬のことで、
ヒリヒリとする乳首を舐め上げられると、意識はそちらに集中する。
そして、差し込まれた指は、ビアンカのお腹の奥のジンジンと疼く場所を
的確に捉え、後ろから刺激した。

呼吸が荒くなり、ろくに酸素がすえない。
背筋に電撃が走り、目の前が真っ白になる。
涙を流し、涎をたらし、愛液をほとばせて、
ビアンカは二度目の更なる高い絶頂に達した。


うっすらと目を明ける。
月明かりに照らされ、ほんのり明るい部屋が見える。
ビアンカが身を起こすと、掛け布団がばさりとめくれあがった。
掛け布団を全部はがして調べるが、目立ったしわも、染みもない。
ビアンカ自身もちゃんと寝巻きを着ている。
まるで、変な夢を見たように。

部屋を照らす月に誘われ、窓へと歩み寄る。
まだ月は高く、夜明けまでにはほど遠いらしい。
もう一度、寝なおさないと。
ベッドに戻ろうとした時、机の上で何かが光った。
ラグナからもらった紫水晶の指輪。

そっと、指にはめて、月にかざす。
月の光に照らされ、ぼぉっと光る紫水晶を見て、「きれい」とつぶやいた。
「ラグナは明日も来るのかな…」
寝不足の顔をあいつに見られるのは癪だわ、とベッドにもぐりこんだ。

次の日。
「…こんな小さいルビーじゃ見えないわよ、ダメね」
ラグナの指輪は、またもやビアンカの酷評にさらされていた。
「ビアンカさんの眼鏡は厳しいですねぇ」
あはは、と笑うラグナ。

そんな中。
「あれ?その指輪…」
ラグナが声を発した。
ビアンカが不思議そうな顔でラグナの視線をたどる。
視線の先にはビアンカの指、紫水晶の指輪がはまっていた。
昨日の夜、そのまま外さずに寝てしまったらしい。

「あ…」
見られた。
どうしよう。

一瞬、沈黙が流れるが、ビアンカはその間を嫌って何かを言おうとする。
「ああ、あの、えっと、これは…」
ビアンカの言葉を待つラグナ。

「ラグナがくれた物だからつけているの」
そういってしまいたいのだが、声が出ない。

「そ、そうね…まぁ、考えようによっては、
パパにねだっても買ってもらえないものなのよね」
ビアンカはラグナから視線をそらすように続ける。
「だ、だから…その、あの、あれ
えっと、そう、合格よ、でも、これで合格と思ったら大間違いよ」
悪役の捨て台詞のようなことを思わず言う。
「あの…それって合格なんですか?」
そうラグナに聞かれて、ますますしどろもどろになる。
「そ、その…でも、ともかく合格なんだから、つけているのよ、悪い?」
ビアンカの曲がりくねった論理が出来上がった。

「じゃあ、今日の指輪は合格ですか」
そう聞かれて、ラグナの方を見た時、
ずっと奥でこちらの様子を伺うタバサを見つけた。
タバサがこっちをみてる…どうしよう。
「こ、これもパパには買ってもらえないから…おまけの合格よ」
ビアンカの視線は中を泳ぐ。
でも…こんなのでは駄目だというのは分かっている。
最後に、しどろもどろに消えそうな声で口を動かした。
「あ…あの、でも、ラグナが作ったものなら、な…何でもいいのよ」

「あれ?」
視線を戻すと、ビアンカの前にはラグナはいなかった。
「ラグナ様はお帰りになりましたよ。
今度はおまけじゃない合格をもらうって、意気込んでました」
洗濯物を抱えたタバサがビアンカとすれ違いざまに声をかけ、通り過ぎた。
その言葉を聞いてビアンカは力が抜け、へなへなと座り込む。
「なによ…もう…」

「一応合格ですけど、これで合格と思ったら駄目…ってところですよ、お嬢様」
タバサは一人になると、悪戯っぽく微笑みながらそう口にした。

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