成長セシリア→ラッセル



トン、足に体重をかけるごとに、古く痛んだ階段はギシギシと小さな悲鳴を上げる。
ゆっくりゆっくりと階段に足を降ろし、すっと軽く手すりに細い指を滑らせた。
体重をすこし移動させるだけで、耳には重い木の悲鳴が聞こえてくる。
数年前とはまるで違う音。
あのころから、自分は随分成長した。
その証拠が、こんな日常生活のひとつにも表れる。
階下には、自分と違いあのころとほとんど変わらぬ父の姿。
図書館兼本屋を経営している父は、机にいくつか本を並べて伝票の確認をしているようだった。
階段を鳴らしそうになった足を戻して、父を見つめた。
本を扱っているとき、本に囲まれているときの父の表情が、とても好きだった。
大好きな父が、それは嬉しそうに本に触れ、瞳は優しく細くなる。
そうして、ほんの少し眺めていると。
「おや、セシリー。どうしました?」
父は自分に振り向き、先ほどよりも優しく、瞳に自分を映して微笑んでくれる。
その瞳を受け、セシリアは胸が鳴るのを感じた。
「ううん、…なんでもないよ、……パパ」



一歩外に出ると、土の匂いと涼しい秋の風がセシリアの首筋とエルフの特徴である長い耳を撫でてゆく。
ふふ、と昔と変わらない、あのころのままの微笑みをこぼして、
セシリアは撥ねるように歩き出した。
雑貨屋の角を曲がると、小さな小屋が7つと大きな一軒屋が見える。
その先には大きめの畑が広がっており、
まだ芽は出ていないようだが、サツマイモ、ピーマン、茄子など、
様々な野菜の葉が朝の光りを受けて青々と輝いている。
「ラグナお兄ちゃん、おはようー」
「ああ、おはよう、セシリー。散歩かい?」
「うん。お仕事あるから、ちょっとだけ」
「ラッセルさんにばっかり任せてちゃダメだぞ。今は二人だけなんだから」
ついとラグナは我が家の方へと首を回した。
箒を手に落ち葉を集める金色の髪の女性が一人。
後ろ姿で顔は見えないが、長い三つ編みは今でも変わらないようだ。
ふっとラグナの口元が緩む。
その姿を、セシリアはなんともいえぬ、例えるなら“羨ましい”そう感じる瞳で見ていた。
だがそれも一瞬で隠し、すぐに元通りのセシリア得意の笑顔になる。
「ラグナお兄ちゃん、幸せそうだね〜」
少し意地悪のつもりで言ってみた言葉だった。
「…ああ、幸せだよ」
だがあたりは外れたようで、照れくさそうに笑う顔が帰ってきた。
セシリアの横に伸びていた口元はすっと戻り、つっと軽く頭を垂れた。
「いいなぁ…お嫁さんに…なりたいな…」
「え?」
小さく呟いたつもりだったが、あたりは静かだったためか微妙に聞こえてしまったようだ。
セシリアは頬を赤くさせて、「なんでもないよ!」と叫んでまた町へ戻っていってしまった。
クワを肩に担ぎ、ラグナは茫然とセシリアの背を見送った。



雑貨屋の角を曲がり、腕を大きく振って慌てたように走った。
はっはっと息継ぎをするたびに冷たい空気が体内に入って、
のどが渇いてしまう。
ドキンドキンと緊張しているときのように胸が鳴り、変な汗まで背中に浮かぶ。
(バレてないよね?バレてないよね??)
病院を通り過ぎ、図書館のドアの前でセシリアは急停止した。
走った距離は短いものだが、どうしてか不安のようなものが渦巻く胸の所為か息が続かない。
たまらず膝に両手を当てて、一生懸命呼吸を整えた。
数秒そうしていると、呼吸の乱れは落ち着いたものの、起こり始めた不安はいまだ治まってくれそうになかった。
ドアノブに手を掛け、ギィィ…重いドアを引いて首だけ覗かせた。
そうするとすぐに鼻腔をつく墨の匂い。そして、いつも優しい父の姿。
「おかえりなさい、セシリー」
そうしていつもの通り向けられる、優しい笑顔。
セシリアは思わず手で口元を覆った。
そうでもしないと、泣き出してしまいそうだったのだ。
その様子にやはり父は気づく。
「どうかしたのですか?顔色が悪いですよ」
机から回って、セシリアに近づく。
せっかく父が心配してくれているんだ。
セシリアは何か言わなくてはと震える口を開こうとするが、
声を出してしまうと、今度こそ涙が溢れてしまう。
口元の手をきゅっと握り締め、父の横をすり抜けるようにしてセシリアは駆ける。
「…ごめんパパ」
ギシギシ大きく階段を鳴らし、セシリアは階段を駆け上がっていってしまった。
「……セシリア……?」
薄暗い図書館に、途方に暮れたように父は階段を見上げた。



部屋に入り、いつからかできてしまった自分と父との部屋を隔てる扉を閉め、
セシリアはその扉を背に崩れ落ちてしまう。
涙が溢れて止まろうとしてくれない。

「……パパ…っ」
小さいころから、大好きだった。優しくて、温かい。
いつもパパが見守ってくれているってわかってたから、安心できた。
あの、小さな自分を迎えてくれる大きな腕と胸に飛び込むのが、何より好きだった。

あるとき、パパの着替えを見てしまった。いつもはたくさん服を着ているから気づかなかったけど、
服の下にはノイマンさんくらいある筋肉と、痕になってしまっているアザや傷の数々。
とても図書館の館長をしているとは思えないその体に、見惚れてしまったんだ…。
いつも飛びついていたパパの胸、服の下はあんな男らしい胸板が隠されていた…。
そこでなんとなく、気づいてしまった。パパが、戦士だったこと。
そして、パパに感じた、感情も。

「ぅっ……パパの…本当の子供じゃない…なんて、ひっぅ…知って、る。
…だってパパ、ウソつくの…下手」
試すように、ママの話をふった。そのたびにパパは困ったように首の後ろを掻いた。
ちょっとつついたらすぐにボロが出るんだもん…。
わからないフリするの、大変だったんだよ…?

よろよろと覚束ない足取りで、ベッドに倒れこむ。
枕の下に隠してある一枚の古びた写真を取り出し、そこに映る人物にくちづけた。
「……パパ…すき。…すき。パパ……っ」
膝丈の柔らかいスカートを太ももを撫でながらめくり上げてゆく。
薄いショーツに触れ、硬い部分を指で弄る。
「ん…んん…」
つー…と下に下りてゆき、割れ目に細い指を這わせて強く擦った。
じわじわと愛液が真ん中に染みを作っていく。その湿った感触を確かめると、
スカートをさらに捲くり上げる。そうすると象牙のようなすべすべとした腰が現れ、
そこに引っかかるようにしてあるショーツの紐に手をかけ少しづつずらしていった。
腰骨の下あたりで止めて、今度はヘソから手を差し込んでいく。
(図書館のお仕事、一人でさせちゃってごめんね…終わったら、すぐにお手伝いに行くから…)
階下では、きっと父は自分を心配して階段を見上げながらも、
一人本の整理に追われているだろう。
トルテが嫁いでしまってからは、セシリアがトルテの代わりに図書館の仕事を手伝っていた。
遊べなくなる、という意識は少なかった。
パパのお仕事のお手伝いができる。役に立てるからと、それが嬉しくて
セシリアは毎日の仕事をしっかりと覚えていった。
なにより、そう。お客さんのいないときは、パパと二人っきりなのだ。
家などではあまり見られない姿の父を見るのが、なにより楽しかった。



くちゅ、くちゃ…もうすでに口を開いて待っている膣に、セシリアは指をゆっくりと差し込んでいく。
「…ぁ…はっ…パパぁ」
こんな細い指なんかじゃ、到底物足りない。
迷わず三本目の指が侵入してくる。
パパのあの節くれだった太い指がほしい。
動きが早くなり、慣れた手つきでセシリアは膣内を擦り上げ、クリトリスを素早く弄った。
戦士だったというパパの、あの固い指で…!
──ぐちゅちゅっ!
「ふ…ぅぅん…!…あ、はぁ…」
ぎゅっと寄せられていた肩から力が抜け、差し入れたときとはまた少し違った
ゆっくりさでショーツから手を引き抜いた。
「はぁ…はぁ…は…」
上気した頬を手の平で包み込んで、その熱さをぼんやりと感じる。
もう片方の手はベッドの上に投げ出され、力が抜け切ってしまっていた。
首を傾け、腕、天井、そして、写真を次々と目に映していく。
写真に写っているのは、小さかったころの自分と、
その自分と手を繋いで照れくさそうに変わらぬ笑顔を浮かばせている父の姿。
眉が寄せられて、目の端からは温かい雫が零れ落ちてゆく。
父とは違う、長い耳にも雫は落ちる。

大人になんてなりたくなかった。
あのときのまま…素直に『パパがだいすき』って誰にでも言えたあのときが、一番幸せだった。
もう、これ以上大人になんてなりたくない。
「……だって、大人になっても、パパのお嫁さんになれるわけじゃない……」
大人になるってことは、認めてしまうことでもある。
子供のまま、“パパのお嫁さんになりたい”なんて無邪気に思っていたかった──。
ぐすっと鼻をすすって、枕に顔を押し付けて涙を吸い取らせる。
顔を上げて、パタパタと手で顔を仰いでから、もう一度写真を手にした。
「……ごめんなさい、パパ」
唇を軽く触れさせ、写真は再び少し湿った枕の下に隠される。
「………」
セシリアは瞳を閉じ、ゆっくりと立ち上がり、部屋をあとにした。



トン、足に体重をかけるごとに、古く痛んだ階段はギシギシと小さな悲鳴を上げる。
ゆっくりゆっくりと階段に足を降ろし、すっと軽く手すりに細い指を滑らせた。
体重をすこし移動させるだけで、耳には重い木の悲鳴が聞こえてくる。
朝と同じ、耳に心地好い音。
階下には、本棚と資料を見比べてはペンを取る父の姿。
ギシィ…わざと体重をかけて、大きく音を鳴らして父を見つめる。
そうすると父はふっと顔を上げ、心配そうにこちらを見上げる。
写真と同じ、優しい瞳。
「セシリア、もう大丈夫なんですか?」
その瞳を受け、セシリアは胸が締め付けられるような錯覚に陥る。
「うん、大丈夫。…心配かけてごめんね……パパ」
セシリアは、今自分ができる精一杯の笑顔を父に送る。
父は、安心したように、目を細めて微笑んだ。

セシリアの瞳に陰が落ちる。
暗い図書館の、照明から少し離れた階段の上部に立つセシリアの瞳の色までは、
彼には判断できない。
ぽつり、きっと服の擦れる音より小さな声で、セシリアは言葉をこぼす。

「……パパ……あなたが…すき」



end


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