「んっ…」
本をぱたんと閉じてグレイが背伸びをする、午後四時。図書館が閉まる時間。
夏になってカイが来て、宿屋に帰ってもゆっくり本が読めないとわかっていても、
読みかけの本を借りようかどうしようかとグレイは迷っていた。
マリーが手元のノートを片づけて、図書館を閉める準備をする。
グレイに本を持って帰るかどうか聞いて、グレイを先に送り出す。
…いつもなら。
かちゃり、と図書館のドアの鍵が閉まる音がした。
本棚の前で読みかけの本を書架に戻そうか借りて帰ろうかと迷っていたグレイが、
顔をあげる。
すぐそばに、マリーがいた。
「あれ?ごめん。俺、すぐ帰るから…」
手を伸ばせば触れられる位置にマリーは立っているのに、
床を見つめていて、顔が見えない。
「どうしたの?」
「…今日は…」
うつむいたまま、マリーが声を絞り出す。
「…まだ、帰らないで…」
そう言って、一歩、グレイに近寄り、身体を寄せる。思わず身を引こうとしたグレイに
腕を回し、ぎゅっと身体を押しつけた。
…これって…
マリーとはそんなんじゃないって言ったのに。あの人に。
ただの友達だって、言ったのに。あの人に。あの時に。
「グレイ」
名前を呼ばれてグレイが我に返る。
「違うこと、考えないで…私を…見て…?」
マリーが眼鏡を取って書架に置いた。そのまま、グレイの顔を寄せ、キスをする。
「俺は…あの…」
グレイが身体を捻り、一歩、出口に近づく。マリーの腕がグレイの首に絡まっている。
マリーがグレイの肩に顔を埋めて、片手でグレイの手を取る。
「私、グレイのことが好きよ…」
あ、決定打だ、とグレイは観念する。そのままグレイの手はマリーによって、
マリーのスカートの中に導かれ、ショーツの中に入れられる。
「ここ…恥ずかしいの…グレイのこと考えると…それだけでこんなになっちゃうの…」
マリーのそこはすでに濡れている。
「グレイが一生懸命本読んでる時…後ろでこんなになってるの…」
「ね…触って…」
グレイは必死に逃げ道を探す。
「でも、マリーはドクターのことが…」
「違うわ」
即座に否定される。
「グレイだって、わかってるくせに…」
そう言ってマリーがグレイのモノをつなぎの上から触る。
思っていたよりも身体は正直で、察知したグレイは腰を少し離していたつもりだったのだが、
普段は大人しくて物静かな黒髪の少女の方がグレイの何倍も聡かった。
グレイのモノは既に準備を始めていた。
逃げ道を塞がれた。
せめてマリーの腕から逃れようとグレイが足を引く。がん、と、書架が背中にあたった。
傾斜のある棚に足をしたたかに打って、グレイは声にならない叫びをあげた。
そのまま書架に背中を預けてしまう。
マリーはグレイの手を離し、グレイの顔を両手ではさんで、再びゆっくりとキスをする。
「…好きなの…」
マリーの舌がグレイの舌を掴まえる。何度も角度を変えて、何度も口づける。
あの人の感触とは少し違う。ぼんやりとした頭でグレイは思う。
することは同じなのに、何が違うんだろう。
マリーがつなぎのチャックを下から器用に開けて、グレイの本能を取り出す。
…情けねーかも…グレイはそう思いつつ、もうどうすることもできない。
ペニスにちゅっ、とキスをして先端を銜える。
「んっ…」
グレイがびくっと反応する。
先端を丁寧にねぶられる。口に含んだまま、舌で割れ目をちろちろと刺激する。
ちゅばっと音をたてて、漏れ始めた先走りを吸う。そのまま、ちゅばちゅばという
音をたてながら、何度も何度も口から出し入れする。
指を添えて、そっとしごかれる。まるでグレイの中から精液を吸い出すように、
マリーの指と口が動く。それに合わせて思わず、グレイの腰が動き、
どくり、と白い液がマリーの口に広がった。
マリーは一滴も漏らすまいとグレイの精液をそのまま飲み込み、
ペニスを丁寧に舌で拭き取った。
グレイの腰は抜けている。ずるずると書架を背にしてへたり込んだ。
「マリー…あのさ…」
言葉を探すが、頭が真っ白になって何も言えない。
「つなぎって着るの大変そうね」
何事もなかったかのようにマリーが笑う。そして今度は上からチャックを降ろし、
グレイの前を全開にした。そのまま、マリーはへたり込んだグレイの足に跨る。
「私ね、グレイの後ろでグレイのこと考えてると、こんなことしちゃうの…」
膝を立て、スカートを捲り上げ、ショーツを自分でずらした。
「…知ってた…?」
自分の下生えに指を差し込み、動かし始める。
「グレイのこと考えながらすると、すごく幸せなの…
今まで、声を出さないようにって気をつけてたのよ?」
そう言いながら、指をくりくりと動かしている。
頬は少し上気して、いつもよりピンク色になっている。
「んっ…
でもね、もう限界なの…我慢できないの…」
グレイは必死で目を逸らす。
どうして自分でもこんなに必死にマリーから逃げようとしているのか、わからない。
カイにもいつものように、早く脱出しろよ!と言われたし、
こういうのを据え膳って言うんだろうし、貰ってしまえばいいんだろうけど。
いや、もう脱出してるんだ。でも、あの人と何か約束をしたわけじゃないし。
なにか約束していてもこうなったら、この町の人間なら、抵抗無く行動すればいい。
…約束を。したかった…?…あの人と…。
マリーが空いている方の手で、グレイの顔をぐい、と自分の方に向ける。
「…ちゃんと…見て…私…んんっ…」
そこにも良いところがあるのか、とまた明後日なことをグレイは考える。
「ここに…グレイの…入れて欲しいの…」
そう言って、指で自分の割れ目を押し広げる。
「ここ…自分の指じゃ…足りないの…グレイのが…欲しいの…」
グレイの手を取って、自分の脚の間に差し入れる。
柔らかい茂みにグレイの指が入る。意志とは無関係に指も動く。
さっき一度触った時よりもっと、そこは熱を持ち、濡れている。
黙っていればわからないだろう。知られてもそんなものよねと言われるだけかもしれない。
…あの人に…
思わず、指に力が入る。マリーはジャンパースカートの中から手を入れて、
今度は自分の胸を触っている。切なげな吐息が漏れる。
マリーが煩わしそうにジャンパースカートを脱ぎ、その下に着ているブラウスのボタンも外す。
ショーツも脚から抜いた。ブラももう外れていて…グレイは初めて前にホックがある
ブラジャーがあると知った…いつもはわからないがそれなりの大きさだと思える乳房と
固くなったピンクの突起が見えた。
再び力を取り戻し始めたグレイをマリーは見逃さなかった。
ブラジャーはまだ引っ掛かったままだったが、グレイのペニスに手を伸ばし、
そっと触れる。今度は、下着をずり降ろして、全てを手にする。
「ね…いい?」
良いも悪いもマリーが足の上からどいてくれない限りないもんだと思うが、
触られて喜んでいる自分がわかる。
答えを待たず、マリーが腰を浮かせ、自分の脚の間にグレイのペニスを挟む。
そのまま、そっと自分でグレイが自分の中に入るように導いて、腰を落とす。
「んっ…」
やはり、熱い。この熱を持つ肉襞にペニスが埋まると理性が飛ぶ。
マリーがゆっくりと腰を上下に動かして、奥へ奥へとグレイを誘う。
「んんっ…グレイ…好きよ…」
腰を動かしながら、マリーがグレイにキスをする。
グレイの手を取って自分の胸に当てる。
「…触って…」
グレイの手は抵抗しない。柔らかい乳房の感触を確かめる。
頂点の突起は固くなり、膨らんでいる。そこをつまむと、マリーが声をあげる。
マリーの片手は再び自分の脚の間に入れられ、クリトリスを触っている。
「ん…っ」
びくり、と肉襞が収縮する度に、グレイの意識が持って行かれる。
マリーが腰を上下に動かすのに合わせて、自然に腰が動く。
「あん…グレイのすごいイイ…やっぱり…好きな…人と…」
こんな状態でもしゃべっているマリーはすごいな、とまたおかしな感心をする。
好きな、人と…?
「…一番…気持ちイイ…」
好きな人とするのが?そのモノの大きさや長さや形や向きではなくて?
飛びそうになる意識の端に、その言葉が突き刺さる。
「私…グレイのこと…好き…」
マリーが腰を落としては浮かせ、喘ぎながら伝える。
「あっ…んん…イッちゃいそう…」
とりあえず、現状から解放されようと、グレイも答える。
「いいよ…イッて…俺も…出る…」
二人の腰の動きが速くなり、ぐちゅぐちゅと言う二人のこすれあう音が大きくなる。
「ん…グレイ…グレイ…グレイ…あぁっ…あぁーんっ」
マリーが何度もグレイの名を呼び、
いつもの彼女からは想像もできないような声をあげて頂点に達した。
熱い彼女の中でグレイも自分を解放した。
グレイが果ててもマリーは腰を落としたまま、グレイに腕を絡めてくる。
「…大好き…」
そう言って、力の抜けたグレイにキスをする。
「ちゃんと、明日も図書館に来てね…」
わかってる。この狭い町でいつもの習慣を変えることは難しい。
すぐに人の口にのぼり、あれやこれやと推測されて、まわりまわって噂が走る。
それを、聞かれたくはない。…あの人に…
「わかってるよ。俺本好きだし」
力なく笑って、グレイは答えた。
マリーはにっこり笑ってやっと立ち上がり、グレイも自由になった。
身体とは裏腹に、心に重い、鎖がついたような気がした。