ドクター×クレア夏

試そう。ドクターの前には一つの瓶。
初めて見るラベル。成分はどれも書物では見たことがあるが、
実際の効能は試したことがない。ましてや、それを組み合わせたものとなると、
まるで予想がつかない。
一応能書きはついているものの、それをいきなり使うことには躊躇いがあった。
かといって、自分やエリィで試して、万が一のことがあれば、診療に支障をきたす。
そこへ、牛乳と野草を携えて、クレアがやってきた。

クレアは、ちょっと考えてから、いいですよ、と笑った。
そして、瓶の中に入っている液体を一気に飲み干した。
一瞬の、間。
視界がくるりと回って、クレアは闇に落とされた。

彼が笑っている。
彼女が隣にいる。
自分はそれを眺めている。
ああなんて幸せそうに笑うんでしょう。
どうして隣にいるのは私ではないのでしょう。
すぐ近くで見ているのに、
どうして気がついてくれないのでしょう。
どうしてその笑顔をこちらに向けてはもらえないのでしょう。
体の芯が熱くなる。
手を伸ばして、彼に触れた、と思った瞬間、世界が遠のいた。

白い世界。病院の天井だ、と気がつくのに少し時間がかかった。
「やあ、気がついたかい」
ドクターの声。
何か夢を見ていた。夢を見ていたような気はするけれど、内容が思い出せない。


ただ、やるせない気持ちだけが残っている。
「すまない。身体は…大丈夫かい?」
そう言われて、クレアは思い出す。
ドクターに頼まれて、新しい薬を試してみて…倒れたのか。
「大丈夫です」
おうむ返しに答えてから、自分の身体のことを考える。
「もう少し、ここで休んでいってくれないか。もし、痺れとかあれば…」
ドクターが薬の副作用を心配している。
…これは副作用なのかな…
本には時々出てくるけれど、本当にこんな薬があるんだろうか。
身体が熱い。熱を持っている。
ドクターが手を伸ばして、クレアの頬に触れた。ひんやりとした感触が心地よい。
「ドクターが…自分で試せば良かったのに…」
クレアがドクターのもう片方の手を取って、自分の首筋に当てる。
火照っている。
「ドクターなら…男の人なら…一人で始末できるのにね…」
そのまま、顔を少しずらして、ドクターの指を唇で挟む。
目が潤み、頬が上気して桜色に染まっている。
ばら色の唇はしっとりと濡れ、ドクターを誘う。
自分でオーバーオールのボタンを外し、シャツに手をかける。
ドクターがその手を取って唇にキスをする。
「わかった…から…僕にさせてくれないか」
そのまま、さっきまで眠っていたベッドに倒れ込んだ。
クレアのシャツの前を開け、背中に手を回す。冷たい手の感触にクレアが反応する。
「ひゃんっ」
同時に、下に手が伸びる。へそを探り、そのまま指が脚の間に滑り込む。
「あっ…」
ドクターの表情が少し歪む。
「こんなになっちゃう薬だったんだねえ…」
笑っている。
「…いじわる…っ」
少し指で触れただけで、反応が返ってくる。
クレアの芯は膨らんで堅くなり、敏感になっている。
さらにその下で、刺激を受ける度に溢れる泉。
「どうして欲しい?」
潤んでいた瞳が涙目になった。
「どうしてって…ドクター…」


可愛いとつい構っていたくなる。少しでも長く相手の気を引いていたいと思う。
すぐに終わらせて相手を満足させて、それで振り返ってもらえなくなったらどうしよう。
ほら、僕を見て。僕が必要だと言って。僕を欲しいと言って。
クレアが視線を逸らす。上気した頬を一層染めて口を開く。
「…お願い…ドクター…」
そう言って、両手で顔を覆う。
「…して…」
どうして。どうして見つめてくれない。
もっと強請って。もっと甘えて。もっともっと…
指に力を入れてぐっとクレアの中に挿れる。
「んぁあっ」
クレアが仰け反る。
「好きな男でもできた?」
動揺をポーカーフェイスの下に入れ、ドクターが囁く。
「そんなこと…いやぁっ」
最後まで答えさせない。少し指を動かしただけで、声を上げる。
ぐちゅぐちゅと指を出し入れすると、クレアの腰が浮いた。
「やぁっ…ドクター…っ」
「何が嫌なの?これで十分じゃないの?腰が動いてるけど?」
それは薬のせいで。
潤んだ瞳も上気した頬もばら色の唇も。何もかも薬のせいで。僕のためではなくて。
露わになった胸に口付ける。
同時にショーツもオーバーオールごと引きずりおろす。
白い肌は美しいまま。ただうっすらと染まっている。この色は。
ピンクキャット草の花の色。夏に咲く花の色。
胸の突起を丁寧に舌で転がす。つつく度に喘ぎ声が聞こえる。
「誰に惚れたの?」
また聞いてしまう。
「ちが…います…好きな人なん…て…」
いないよね…。飛びそうになる意識の中でクレアは考える。
「そいつはそんなに上手かった?」
そんなことなかった。
…誰が…?
「ちが…う…の…」
声に出していた。
ドクターが手を止める。クレアの上に馬乗りになって、押さえつけたまま、
ネクタイを外し、ワイシャツを脱ぐ。


ベルトのズボンを引き抜いて、聞いた。
「何が違うの?」
唇が歪む。
「そいつはそんなに上手くないってこと?」
クレアが一瞬身を捩る。逃がすまいとドクターが肩を押さえつける。
「今から楽にしてあげるから」
そう言うなり、既に天を向いていた自身をクレアに打ち込む。
「やぁ…っ…んんっ…んんっ…あぁんっ…」
クレアの目は虚ろになり、半開きの口からはよがり声があがる。
こんなに激しく反応する女は滅多にいない。
「何回でもイクといいよ」
この反応が、僕のものだったら。ドクターの頭の冷めた部分が考える。
これは僕のものじゃない。
身体の反応は未知の薬の副産物で。
心は…誰かが持って行ってしまったようだ。本人も気付かないうちに。
それなら。気付かないうちに再び獲ってくればいい。
何度も、クレアがドクターを締め付ける。ひくひくと脚の筋肉が痙攣している。
「僕なら…君をこんなにしてあげられるのに…」
腰を動かしながら、喘ぐクレアにドクターが囁く。
「…気持ちイイ…?」
必死でクレアが頷いて答えた。
最初は、クレアが甘えてきたくせに。同じ顔で同じ身体のくせに。
どうしてもっと僕を求めない…?
まるで、多く飲み過ぎた薬を吐き出すかのように、持て余した性欲だけを吐き出して。
呼吸をする度喘ぐ度それも少しずつ薄まって。
僕はどんどん君に嵌って行きそうなのに。
だいたい、どうして彼女を被験者にしたんだろう。誰でも良かったのに。
彼女の気持ちを確かめたかったから…?
ああ、そうだ。
少しでも自分のことを気にかけてくれていますようにと願っていたから。
そのくらいで良かったのに。
あまりにも無防備で。無防備すぎて。
…捕らえられたのは、自分。
ドクターの胸に氷が突き刺さり、クレアの何度目かの絶頂で、ドクターは果てた。
白い双丘が少しずつ動きを鎮める。
やっと、声が出せるように息が整ってから、クレアが口を開く。
「ドクター…ありがとう…私…どうしていいかわかんなくなっちゃって…」


それ以上のことは言わなくていいのに。
「あのお薬…やめた方がいいと思う…」
「そうだね僕もそう思うよ」
用意していた答えを用意していた通りに口にする。
それでも収穫はあったんだよ。
クレアを抱きしめる。
君は満足したかもしれないけど、僕はまだ駄目みたいでね…
心が、渇いて渇いてしょうがないんだ。
口には出さないけれど。
「ドクター…?」
クレアを抱きしめた腕にぎゅっと力を込める。
「…ドク…ター…?」
心配そうなクレアの声が、今は自分だけのもの。
これから心を獲り返そう。持って行ったのはきっと…彼、だから…。

誰の夢だったんだろう。
ドクターに抱きしめられてクレアはふと考える。
この腕が、彼のものだったなら。
目が覚めたとき、傍にいるのが彼だったなら。

ドアの外で白いレースのエプロンがふわりと揺れる。

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