彼女がドレスに着替えたら
最近、めいは教会にちょくちょく顔を出すようになった。
結婚式で着るウエディングドレスを見るためだ。
きっかけはサラとノイマンの結婚式に参加してのこと。
サラが着ていたドレスを見て、隣にいたラグナに問いかける。
「サラ殿が着ている衣装はなんと言うんじゃ?」
「あれはウエディングドレスといって、結婚式のときに着られる特別な衣装なんですよ」
「ほう・・・」
「綺麗ですよね、サラさん」
「あぁ、綺麗よのう・・・」
まぁそういうわけで、すっかりドレスの虜になってしまったのである。
ドレスを眺めるめい。
「ウエディングドレスか。一度でいいから、着てみたいのう・・・」
思わず口に出してしまう。そのとき、不意に後ろから声をかけられる。
「どうしたんですか?めいさん」
ラグナだ。ドレスに見とれてて、まったく気がつかなかった。
「!べ、べつに、なんでもないですじょ?」
「何か口調が変な気がしますが」
「ほ、本当に何でも・・・それより、今の話聞いてなかろうな?」
「聞いてませんとも。
めいさんがウエディングドレスを着たいなんて言ってたこと、僕は聞いてません」
吉○新喜劇か。
「お前の人生さぁ・・・」
何故か現代口調になるめい。
「ま、まあまあ・・・。
でも女性にとっては一度は着てみたい衣装ですから、その気持ちも分かりますよ」
しばらく無言でドレスを見る2人。やがてめいが、
「・・・我がこれを着た姿、想像できるか?」
そんな質問をしてみる。
「うーん。でも、綺麗な姿だっていうのは想像できますよ」
無難な返答じゃの、と苦笑する。
そんな会話をしていると、2階から話し声とともに、誰かが階段を下りてくる。
ホワイト神父と・・・見慣れない人だ。なにやら困った顔をしている。
「こんにちは」
「こんにちは、お2人さん」
そちらの方は?とラグナが尋ねる。
「あぁ、こちらは写真屋さんなんですよ。いつも結婚式の際にお世話になっていまして」
はじめまして、と挨拶をする写真屋。
「なにやら困った顔をしていましたが、何かあったんですか?」
「実はですね、お店の宣伝ということで、新郎新婦の写真を撮ろうと考えたのです。
で、モデルさんをお願いしていたのですが・・・」
「急に来られなくなった、と」
「そうなんです。急病で来られなくなってしまいまして」
「まぁそういうわけで、誰か代わりの方がいないかと、相談していたんですよ」
そういえばぴったりの人がいるではないか。
「あ、サラさんとノイマンさんは?」
「尋ねてみたんですよ。でも数日前から留守でして」
「確か2人とも、遠出するのでしばらく帰れない、なんてことを言ってたのう」
「うわ、なんてタイミングの悪い・・・」
神父が口を開く。
「ラグナさん、めいさん。新郎新婦役になっていただけないでしょうか?」
「え」
「ええええっ!」
驚く2人。一番驚いているのはめいだ。
なんせめったに着られないドレスが着れるのだ。
それがこのような形で実現できようとは、思っても見なかったわけで。
「これも何かの縁ということで、お願いしますよ」
写真屋は手を合わせてお願いしている。
「自分は構いませんけど・・・」
ラグナはちら、とめいを見た。
「し、仕方がないのう。誰も代わりがいないのなら・・・」
そうは言っているが、やはり嬉しいらしい。顔が赤いぞ、めい。
「決まりですね。それでは、よろしくお願いします」
「(良かったですね、めいさん)」
「(さっき我が言ってた事、他言無用じゃぞ?)」
「ではわたくしめが、衣装の着付けをいたしましょう」
いつの間にかタバサがいた。
「あ、タバサさん。いつの間に」
「散歩の途中でここに寄ったら、皆さんの話し声が聞こえてきたものですから・・・」
「ちょうど良かった。それではタバサさん、お願いできますか?」
「喜んで。では、早速支度をしましょう」
そしてしばらく後―
ドレスに着替えた自分の姿を見て、目を疑う。
「こ、これが・・・?」
「とてもお似合いですよ、めいさん」
「・・・どうも////」
顔が真っ赤である。
一方こちらは、一足先に着替えを終えたラグナ。なかなか様になっている。
「遅いなぁ、めいさん・・・」
と、そこへタバサがドアを開け、入ってくる。
「お待たせしました、ラグナ様」
続いて、めいが入ってきた、のだが。
「ど、どうかの・・・」
まるで別人のような雰囲気が出ている。
いや、決して今までの格好が綺麗じゃない、というわけではないぞ。
「おおう!?」
その姿を見て、思わず素っ頓狂な声を上げるラグナ。
お前はト○ックのう○だじろうか。
「な、なんじゃ、そんなに似合わぬか?」
ちょっと不満そうな顔をするめい。
「すごい・・・綺麗だ・・・」
「別人に見えますよね。私も驚きました」
タバサも驚いたようで。
「そ、そう言われると照れるのう・・・」
「さあ、写真屋さんがお待ちですよ、行きましょう」
そして撮影現場にやってきたわけで。
「うーん」
写真屋は少々納得がいかない様子。
「?何かまずいところでもありました?」
「・・・もう少しナイスバディの女の子だったら良かったなぁ・・・」
「Σ」
おそるおそるめいを見るラグナ。
「^^」
何故かめいは微笑んでいる。が、よく見ると・・・
「ちょ、めいさん、笑ってるけど目が笑ってない」
しかもいつの間にか刀を握り締めている。
・・・まずい、殺る気だ。
「^^^」
「わーっ、めいさんおちついてやめてー!」
ラグナは切りかかろうとするめいを止めるのに必死であった。
そして、夜。
帰りがけに見かけたロゼッタと一緒に酒場へ行くめい。
ホットミルクを2つ頼み、席に着く。
「えー、そんなことがあったんですか。いいなぁ〜」
ロゼッタは羨ましそうにめいを見ている。
「良くないわ。写真屋は失礼なことを言うわ、恥ずかしいわで大変じゃったよ」
「ふ〜ん」
「な、なんじゃ」
「・・・そう言いながら、うれしそうな顔してますよ?」
「え」
思わず顔に手を当てるめい。そのしぐさを見てロゼッタは笑いながら、
「もう、素直じゃないんですからw」
ホットミルクが2つ、テーブルに置かれる。
ロゼッタがミルクを飲み、つぶやく。
「あーあ、あたしも着たかったなぁ・・・」
「ふむ」
めいはロゼッタの身体を眺め(特に胸)、ため息をついた。
「な、何ですかじろじろ見て、しかもため息ついて」
「おぬしじゃ無理かもな」
「あー、ひどい!それどういう意味ですかー!」
酒場はいつもにぎやかである。
「あのラグナさん。教会の写真に一緒に写ってる方、誰ですか?」
ミストがくいくいとラグナの袖をひっぱる。
あれから数日―。
写真に写っている女性がめいだと気づく人は、ほとんどいなかった。
とはいえ、めいにとっては、その方がかえっていいのだろうが。
「え、えーっと・・・」
説明したほうがいいのか、黙っていたほうがいいのか悩むラグナ。
黙っていたほうがいいかもしれないぞ。
そして数日後、写真屋さんからあの時の写真を受け取る、めいの姿。
「まぁでも、悪くはなかったかもな・・・」
嬉しそうな笑みを浮かべて、大切そうに、懐にしまっておくのでした。