カミュの奇妙な冒険 〜ヤな占いはだいたい当たる〜

『それでは、次は星座占いのコーナーで〜す』
その日、カミュは牧場でラジオを聴いていた。
ごく最近になって、カルディアでもラジオ番組を受信できるようになったので、いの一番で購入したのだ。
『今週で一番ツイていないのは、さそり座のあなた! 今週は何をやってもうまくいきません。
 なるべく家から出ないようにしましょう』
「うわ……なんだよ、テンション下がるなー…」
さそり座のカミュはひどく落胆した様子で呟いた。
『特に、最近好きな人に恋人がいることを知って落胆している、牧場経営独身のあなた。今日死にます』
「メロディのことは言うなあぁぁぁぁぁ!! っつーか、明らかに個人攻撃じゃねーか!?
 しかも死ぬってなんだ!? んな占いあるか!!!」
乱暴にラジオを掴み、矢継ぎ早にツッコミを入れるカミュ。
しかし相手は機械。返事が返ってくるはずもなくノノ。
『それでは、良い週末を〜』
「送れるかぁぁぁぁ!!」
ラジオを思いっきり壁に投げつける。
しかしそのラジオは壊れることなく、壁にめり込んだ。
なかなかシュールな光景である。
「……まったく、バカバカしい。こんな占いが当たってたまるか…」
ぶつぶつと呟きながら、今日の仕事に取り掛かろうとするカミュ。
その時……。

 コンコン──

「……ん?」
誰かが玄関を鳴らした。
こんな時間から、一体誰が?
不審に思いながらも、玄関を開ける。
「……あ、おはようございます。カミュさん」
そこに居たのはラピスであった。
「……あれ? ラピスさん、仕事は?」
病院をほったらかして、こんなところへ来ていいのか?
そう思い問いかけると、ラピスは深刻そうな面持ちで答えた。
「その……お仕事の前に、どうしてもカミュさんに相談したいことがあったので」
「相談? まあ俺でよければ、いくらでも乗るけど」
「ありがとうございます。……実は私、今自宅で九官鳥を飼っているのですが…」
それは初耳だ。
よく考えてみれば、彼女とは毎日のように顔を合わすが、家庭環境などはあまり分かっていないのだ。
「名前は九ちゃんといって、とても可愛らしくて、お利口さんなんですが……。
 昨日、鳥かごの鍵を閉めるのを忘れてしまって……」
「……ああ」
なんとなく話が読めてきた。
「逃げられちゃったから、俺に探してきてくれというんだな?」
「はい。お願いできますか?」
一瞬、先程の占いが頭をよぎったが、ラピスの頼みとあらば聞かないわけにはいかない。
「ああ。でも俺も仕事があるから、あまり期待はしないでくれよ」
「あ、ありがとうございますっ!」



「……とは言ったものの…」
カミュは頭を抱える。
「全っ然見つからねーぞ……」
疲れた様子で呟きながら、ラピスとの会話を思い返す。
(九ちゃんは寒がりですから、この時期に外を飛び回るということはあまり無いと思います。
 おそらく洞窟にいるか、誰かの家にお邪魔しているかと……)
というわけで、先程から近隣の洞窟を片っ端から探しているのだが、全然見つからない。
時間は既に三時前になってしまった。
「……やっぱり、誰かの家に入り込んでるのか…?」
これだけ探しても見つからないのだから、おそらくそうだろう。
次は町の住民を片っ端から当たっていくしかあるまい。
ここから一番近い家は……。
「…………あ゛」



「……よりにもよって、最寄の家がここか…」
そう言うカミュが佇むのはミスト牧場。
つまり、ラグナの家の前である。
「入り難いよなぁ……やっぱり」
自分がメロディのことを好きだったのは、ラグナも百も承知のはずだ。
下手に顔を合わせてしまっては、場の空気が重くなること間違いなし。
「……とにかく、さっさと探して次行くか…」
玄関の取っ手に手をかけようとしたその時、家の中から怒号が聞こえてきた。

『ストップストーップ!! 落ち着いてくださいメロディさん! 相手は子供ですよ!!』
『止めないでラグナ! この女だけは、この女だけわぁぁぁぁ!!!!』

「…………」
入らないほうがよさそうだ。
結局玄関には手をかけずに、カミュは牧場を立ち去った。



町へ戻ってきたカミュは、まず手始めに図書館に立ち寄った。
「こんちわー」
「よう、負け犬」
「オイぃぃぃぃ!! 開口一番ソレは無いんじゃないの!?」
ザッハの手厚い洗礼を受けるカミュ。
思わず大声を出してしまう。
「カミュくん。図書館ではお静かに……」
いつも通りの穏やかな声で話すラッセルの左手には、昔愛用していたと思われるサーベル。
「あ……すんません…」
身の危険を感じたカミュは、ひとまず謝る事にする。


「……で、ザッハ。なんでお前がこんなところに居るんだ」
「ふふん。敵を知り、己を知れば百戦危うからずって言うだろ。
 モンスターについての勉強をしてたんだよ。お前と違って、おいらは猪突猛進型じゃないからな」
「そうだな。あまりにも慎重すぎて、キメラを見てトンズラ決め込んでミストに呆れられたんだよな」
「だからあれはドアが開かなくなっただけだっつーの!」
必死に弁解をするザッハ。
しかしカミュは全く信じていないようだ。
「ウソつけ。だいたい、勉強に来たってのもウソだろ。
 大方、トルテのおやつを摘み食いして、その罰で図書館の手伝いさせられてるとか、そんなオチだろ」
ザッハの動きが止まった。
「な……なんのことかな〜カミュく〜ん。おいらがそんな意地汚いことするわけ…」
「おい、目を合わせろ目を」
顔面に脂汗を浮かべながら顔を背けるザッハ。
詰め寄るカミュ。
その時、部屋の奥からか細い声が聞こえてきた。
「……あの…お兄ちゃん……遊んでないで…手伝ってほしいんだけど…」
「…………」
「……大当たりじゃないか」
「う、うるせー! つい魔が差したんだよ!」
カミュの手を振り解き、部屋の奥へと行く。
「……で? 次はどの棚を移動させりゃいいんだ? トルテ」
「えっと……そうじゃなくて…。
 雨、降ってきたから……窓、閉めるの…手伝って……ほしいの」
「……雨?」
二人の会話を聞いていたカミュは、窓の外を見る。
特に雨が降っている様子は無かった。
が、それとは別に、彼は大事なことに気が付いてしまった。
「あ。そういや俺、牧場に鍵かけてなかったな」
この町に泥棒を働くような人間はいないと思うが、用心に越したことは無い。
カミュは駆け足で図書館を後にした。
──トルテが意味深な笑みを浮かべていたことには気付かずに…。




「これでよし……と」
入り口にしっかり鍵をかけたことを確認すると、カミュは再び図書館へと足を向けた。
ザッハと一悶着起こしたせいで、九官鳥のことを聞くタイミングを逃してしまったからだ。
「にしても……雨なんか全然降ってないよな? なんでトルテは、あんなことを……」
ふと空を見上げる。
何か黒い物体が、青空を横切った。
(……カラス?)
いや、違う。
カラスにしては小柄だ。
ムクドリ?
違う。それにしては、体のラインがスリムだ。
ということは……。
「……あれか!!」
ついに見つけた。
逃がすまいと、カミュは必死に九官鳥を追いかける。
九官鳥はカミュの追跡を知ってか知らずか、誰かの家の窓から中へ入ってしまった。
「ふふん。袋の鼠……もとい、袋の九官鳥だぜっ」
カミュは意気込み、現場への突撃を敢行する。
「……あれ?」
家の中は無人だった。
入ったところは、メロディの家。
この時間なら、普段は番台に立っているはずだが……。
「……あ、そういや、さっきラグナの家に居たな」
何やら言い争いをしていたようだが、自分の与るところではないだろう。
むしろ、ああなったメロディに関わるとロクな目に会わない。
そんなことより、今は九官鳥だ。
「……まあ、しばらくは帰ってこないよな…」
そう呟き、勝手に部屋にお邪魔することにする。
やることやってさっさと帰れば、何も問題は無いはずだ。
抜き足差し足忍び足で階段を上り、部屋の近くまでやってくる。
壁に背を向け、さながらスパイ映画のように部屋の様子を探る。
(──居た!)
件の九官鳥は、テーブルの上でまったりとくつろいでいた。
こちらには全く気付いていないようだ。
息を潜ませ、背後から忍び寄る。
距離三○、二○、一○──


「……とったぁぁぁぁぁ!!」
半ばヘッドスライディング気味で拿捕することに成功。
捕らえられた九官鳥は、キーキーと独特の鳴き声を発しながらバタバタと暴れまわる。
「ちょ……あまり暴れるなっての。後始末が大変だろ」
「ふーん、後始末ねぇ……。証拠隠滅でもする気?」
背筋が凍った。
いや、まさか。
まさかこんなに早く?
カミュは恐る恐る後ろを向く。
「……ごきげんよう」
堕天使降臨である。
「ご……ご機嫌麗しゅうございます…」
膝をガクガクさせながら応答するカミュ。
「……で? こんなところでコソコソと、何をやっていたのかな〜?」
影を落とした笑顔で詰め寄るメロディ。
そのあまりの気迫に、一気に部屋の隅まで追いやられてしまう。
「お、落ち着け! 落ち着いてくれ! 別にやましい事をしていたわけじゃないんだ!
 お前が考えてるようなことは一切してないから!」
「ふーん。じゃあ、その腕に抱えてるのは何?」
はっと思い、自分の腕の中を見る。
そこにあったのは黒い鳥……ではなく、下着。
(名前は九ちゃんといって、とても可愛らしくて、お利口さんなんですが……)
「利口ぅぅぅぅ!? これ利口とはベクトル違うよ! 変わり身だよ! 忍術だよ! 東洋の神秘だよ!!」
窓の外を見やると、一羽の鳥が病院へ向かって飛んでいるのが見えた。
「……最期に残しておく言葉、ある?」
驚異的な威圧感を放ち、指を鳴らすメロディ。
カミュは観念した様子でこう言った。
「……お前には、黒より水玉のほうが似合うと思ぼはぁ!!」
メロディの右フックがカミュの顔に炸裂した。
続けて左フックがヒット。
右、左、右、左と容赦ない連打が叩き込まれる。
間違いない。この技は──
(デ……デンプシーロール!?)

デンプシーロール──
上半身を数字の8の字を横にした軌道で振り続け、体が戻ってくる反動を利用して左右の連打を叩き込む。
威力は折り紙つきだが、反面ボクシング技術の発達した近代ではカウンターに弱いという欠点があるため、
恐るべき破壊力を持ちながらもいつしか使用者がいなくなり次第に歴史の闇へと消えていった諸刃の剣である。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

(……あ、死ぬ。これ死ぬわ)
今朝の占いが脳裏によみがえる。
(特に、最近好きな人に恋人がいることを知って落胆している、牧場経営独身のあなた。今日死にます)
ヤな占いに限って当たるものなんだよな。
薄れ行く意識の中、そんなことを思っていたカミュはトドメの金的攻撃を喰らって完全に沈黙した。



(カ……さ………ミ…さん!)
誰かの声がする。
とても聞きなれた声だ。
……誰かを呼んでいるのだろうか?
薄っすらと目を開ける。
だが、目の前に広がるのは、黒く染まった草むらのようなものだけだった。
「……ここは地獄か? 焼け野原が見える…」
「……それは焼け野原じゃなくて、九ちゃんの羽毛です」
目の前を遮っていたものが無くなり、心配そうな面持ちのラピスが顔を覗かせた。
「あれ……ラピスさん? ここは……」
「病院です。……崖の下で倒れていたそうですね。メロディさんが、わざわざ運んできてくれたんですよ」
「……そういうことにされてんのか…」
「はい?」
「あ、いや、なんでもない」
額に手をやり、ため息をつく。
「もう……カミュさんは無茶しすぎです。気をつけてくださいよ」
「はは……ちょっと張り切りすぎちゃってさ。次からは気をつけるよ」
「本当に分かってるんですか?」
「分かってるって。次からは死なない程度に無茶するから……」
そこまで言って、カミュは初めて気付いた。
ラピスが泣いていることに。
「え……あの、ちょっとラピスさん?」
「心配……したんですから…」
大粒の涙をこぼしながら、ラピスはカミュの手に、そっと手を重ねる。
「本当に……心配したんですから…」
予想だにしなかった事態に困惑したカミュは、ただただ謝り続けるしかなかった。



「うふふ……。全ては…わたくしの……シナリオ通りです……」
謎の影が病室の入り口から二人を覗き込んでいた。



Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!