報われない話
また独りぼっち。
彼と彼女の幸せを願わなきゃいけないのに、
親友同士が結ばれたことを喜ばないといけないのに。
祝福の言葉をかけた時の二人はすごく嬉しそうで、
胸がヂリヂリと痛む。
傷つくのが怖くて被った笑顔という仮面、こういう時には役にたつな。
家族のいない私にとって二人はかけがえのない親友で
そんな二人が結婚するという事に、嬉しさと同時に寂しさも感じているのかななんて
自己分析してみたけど、寂しさの方が強かったみたい。
男と女の3人組ってやっぱり数が悪いなあ。
二人が結婚してからは、会う回数もどんどん減っていって、
最近はもうほとんど会わない。
時折見かける彼らはとても幸せそうで、
私の居場所はまるでなかった。
お父さんとお母さんは
どうしてこんなにも早く私の前からいなくなってしまったんだろう。
もし、今でも側にいてくれたらこんなに寂しい思いをしなくて済んだのに。
さみしいよ。
さみしいよ。
私はまたひとりぼっちになっちゃったよ。
さみしいよ。
さみしいよ。
お父さんお母さん
合いたい、合いたいよ。
自分と同じ名前のつく洞窟。
冒険好きな父親が大好きだったこの洞窟。
中にある湖はいつもと変わらず、優しく波が揺れ白い光を水面に映し出していた。
その湖の目の前までやってきてその水面を見つめる。
「お父さん…、お母さん…」
頬を一滴の涙がこぼれ落ちる。
あの二人にも言わないでここまでやってきた。
だって言ったらきっと止めるから。
知ってますか?
少しの希望や喜びは、辛い世界にとどまらせる足かせになってしまうんです。
二人には分からないだろうな、だってすごく幸せそうだから。
彼らはこんな感情など知らなくていい。
幸せに、ずっと笑顔でいられるといい。
だからひとりでここにきた。
ためらう気持ちは無い。
そのまま前に少しずつ進んでいく。
そして金色の髪が頬をなぞり後ろへと流れていく。
体が宙に浮く感覚。
そう感じた次の瞬間に体は冷たい水の中に落ちていった。
優しい見た目とは裏腹にその水はひどく冷たく、すぐに体の自由を奪う。
神様、どうかあの二人のゆき先が涙でくもらないようにしてください。
どうか私をお父さんとお母さんのいるところに連れて行ってください。
どうか、どうか……
だんだんと意識が遠くなっていく。
さようなら、私が好きだった世界。
さようなら、私が幸せになれなかった世界。
突然彼女がいなくなった事に最初は村人も驚いたが、
元より変わった子であったため、どこかに旅にでも出たのだろうと
特に心配されることはなかった。
ただ、村とすこし離れた家にすむ夫婦は、
雨の日になるとお菓子や料理を作って待っているという。
ひょっこりと彼女か現れるような気がして。