ロゼッタ ラグナ死後


しとしとと振る雨、屋根は水滴がタラタラと垂れて、下に水溜りを作る。
街の皆は平和に暮らしている、アンさんはいつも皆を優しく迎え入れてくれるし、
皆いつもニコニコして笑顔で接してくれる。
あの放浪詩人も慰めてるのか知らないけど毎日毎日会いに来る。(ウザイけど)
私の名前はロゼッタ、私は数年前、夫を亡くした、名をラグナ、
ゼークス帝国をたった一人で押し退け、この街を守り、そして私を愛してくれた。
私の肩にはいつもの彼の温もりがまだ残っている。

そう、彼が居なくなったのは私が原因なのかもしれない。
彼が死ぬ9日前、私は彼と喧嘩をした、ささいな事だった、結婚当日、
お父さんが私にくれた金色のオルゴール、それをラグナがたまたま落として、壊してしまった。
こればっかりは私は怒った(いつも怒ってるけど)、何度も何度も
怒鳴りつけた、そのたびにラグナは何度も何度も心底、謝った。
それから5日はほとんど会話もしなかった、食事さえ作らなかった。
 今想えばなんという事をしてしまったんだろう、何であの時、彼に
優しくしてやれなかったのだろう、何で素直にしょうがないね、といってやれなかったのだろう。
それ以来、彼は武具を作る工房にこもり始めた、何も言わなかった、言えなかった。

彼が倒れている、親友のミストにそう告げられた、丈夫な彼が
倒れたのだ、大変な事が起こったのだろう。
工房に駆けつけ、夫をミストと一緒に担いで病院に行った。
そして医師にこう告げられた。

『奥さん、彼はもう長くは無いでしょう、最期まで傍にいてあげなさい』

一瞬倒れそうになった、何度も何度も自分がやったことを悔やんだ、
絶対に治らないと、不治の病という物なのだろう。
その場でぽろぽろと涙がこぼれてきた、ミストが気を使って毎日毎日
何度もカブを送ってきた(一瞬嫌味かと思った)
彼の病状は日が昇るごとに悪化していった、顔色は悪く、目が光を失い始めて。
その日はもう耳が聞こえない状態だった、何度も目に熱いものが込み上げて来る。

ラグナが居なくなる40分前、私は耳の聞こえない彼に、『ごめんね』と
小さい声で何度も何度も語りかけた。
そうするとラグナは手で物を書く仕草をした、私は紙とペンを彼の手に握らせた。
そして彼はこう書いた。

『オルゴール、壊してすいませんでした、本当に、すいませんでした』

今まで目に溜めていたものがドッと溢れた、彼の手の中で泣いた、
彼はこっちを見てニッコリと微笑んだ、ラグナの最期の笑顔だった。



その後ラグナの遺体は牧場の動物小屋の前に建てられ、立派な物が作られた。
ロゼッタはそのお墓の前に来るたびにぽろぽろと泣いた。
お墓には彼の剣や盾、アクセサリーが飾ってあった、皆からそれぞれ決めた物
を置いてあった。

彼が工房に篭っていた時、私は今頃気付いた、壊れたオルゴールは
どこに行ったんだろう?誰かが捨てたのかな?ふと私の胸に予感が走る、
工房に駆け足で行く、私の予想は的中した、辺りはラグナが当時使用
したまま置いてあったたため、彼が何をしていたかは大体検討が付いていた、

彼が壊した金色のオルゴールは、今ここにあった。
ボロボロだったはずなのに、新品同様に綺麗に直されている、
立ち尽くした、一筋の涙がこぼれた、馬鹿だった、本当に馬鹿だった。
ラグナが直したオルゴールをそっと手に取り、ネジを回して鳴らしてみた。
ポロン ポロン と美しい音楽が流れる、それにあわせてロゼッタも泣いた。

彼のお墓の前で手を合わせた。

     今日も、カルディアの皆は元気です。

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