愛しい愛しいあなたと醜い醜いわたし ラグナ×ロゼッタ


真ん丸の満月が、まるで太陽のように私たちを照らしている。
一寸先も見えないはずの真夜中なのに、こうも明るいと何だか不思議に満月を見入ってしまう。
ランプに火をつければ灯がともる。月が時がたてば満月になる。
おんなじ光なのに、全く光の質が違う。
うまく言えないけど、満月は心安らぐきがする。
改めて、自然というものはすごいものだと思ってしまう。
お月見はたぶんこういう気持ちを出すために、あるかもしれない。
っと。いろいろと現実逃避をしてみました。
ちょっと深呼吸をしっかりとして…。
…………ふう。
どうして、どうして! ラグナが私をお月見に誘ってくれるの?!
なんでなんでなんで!!!! おかしくない?! 普通ミストでしょ?! ねぇ!!!
もう、満月の光を浴びたラグナの顔なんて、見たくない!
いつもだったら優しく笑っているラグナだけど、なにこれ、格好良すぎ!
もう、あーもう! 帰りたい帰りたい帰りたい!
顔を見るだけで顔が赤くなってしまうから、いやぁああああああああ!!!
「ロゼッタさん?」
「きゃあ!! な、何々? ら、ラグナ…!」
不思議そうにラグナは私を見ていた。
もぅ、すっごいびっくりしちゃったよ。
「そ、そこまで驚かないでくださいよ」
私の言葉に傷ついたのか、ラグナは少し悲しそうな顔をする。
「ごめんごめん。さっきからずっと満月見ていたから、急に呼ばれてびっくりしちゃった」
「月をみてたんですか。うん、いい月ですね」
私を見ていたラグナも満月を見る。
ぼーとした顔を見られなくて嬉しいけど、いやでも、ずっと見てもらいたいかも。
うぅ、もぅ、ごちゃごちゃ。いやになってくる。
けど、本当にずっと見ていたいほど、綺麗な真ん丸。
こうも綺麗に見れるもの、ちょっと久しぶりかな。
「そうだね。綺麗だね」
「真ん丸で黄色くてふっくらしていて、おいしそうですね」
「コラ食べ物にたとえない。いやでも、おいしそうだけどね」
一応ご飯食べてきたけど、ちょっと小腹が空くころ。
いやでも、絶対に食べません。この満月に誓います。夜食はダイエットの天敵!
「という訳で、じゃじゃーん」
ラグナはバスケットを出すと、牛乳とだんごを取り出した。
…もしかしてわざと? あの焼きとうもろこしといい、狙ってやってるんだったら容赦しないよ?
「はい。ロゼッタさん食べてください」
ラグナは嬉しそうに私にふっくら真ん丸のだんごと、コップに注いだ牛乳を差し出した。
この顔で裏を持って言ってるんだったら、たいした男ね。
「ぅ…」
私は差し出されただんごと牛乳に、思わず手がぴくりと動いた。
いやもう、誓ったし今ついさっき! いや、でも、うん。食べたい食べたい食べたい!
ラグナが作ったものならなんでも貰うし食べるんだけど、流石にこの時間帯は太るかも。
「ロゼッタさん? もしかしていらないんですか?」
ラグナはもう泣き出しそうに顔をうつむかせる。
……この男。絶対に裏があるかも。
だってそんな顔されたら断れないよ。
はい。嘘です。だんごと牛乳を食べたいだけです。

「あんまも美味しそうなだんごだったから、見とれちゃっただけよ」
白々しく私は言うと、奪い取るようにだんごと牛乳を貰った。
この偉大な自然の力があるのに、人はランプのような自然の力を使わない力を手に入れる。
たぶんより楽で扱いやすい物が欲しいという、欲があるからだと思う。
まさにお月見なのに、だんごを食べたいという欲がでるのと一緒だね!
「もし体重が増えたら責任とってよね」
「え?」
「なんでもない! ほらせっかくのお月見何だから、ラグナも食べなよ!」
「はい!」
ラグナは嬉しそうにうなず、きだんごをほおばる。
ほんと、その無邪気さが可愛いけど、憎たらしいときがあるね。
ああもうほんと、満月様すいません。十分もたってないのに誓いを破ります。
私は満月とだんごを何度も見て、目を瞑りだんごを食べた。
もっちりとしてしっとりとした食感と、何もつけてないのに淡い甘さが口に広がる。
ただの牛乳かとおもったけど、いちごがはいったいちご牛乳。
甘いいちごが丁寧に潰されていて、牛乳と程よく混ざりだんごとは違った甘みが口に広がる。
いちごが好きな私にとって、すごい嬉しい。
次にどちらを食べようかと悩んでしまい、そんな私に少し微笑む。
だんごも牛乳もとっても美味しい。満月は綺麗だし、何よりもラグナが私の隣にいる。すごくなんか幸せ…。
「ラグナ。牧場やめて、食べ物屋をやったほうがいいんじゃない?」
この憎たらしいほど、ラグナは料理がうまい。
あの日の焼きとうもろこし以来、ラグナはいろいろな食べ物をもってきた。
それはもう私が本気をだしても、到底作れない料理を持ってきたりしてる。
たまにもってくる量が多いときは、ご飯のおかずとしてだすんだけど。
そのとき明らかにお父さんのフォークが、ラグナの料理に一番先に手をつける。
…一人の女として不愉快きわまりない。
「食べ物屋ですか…。やりがいがありそうですけど、せっかくミストさんに牧場を貸してくれたんですから、牧場を続けたいですね」


ズキ。
すごい、痛い。胸が本当に剣で貫かれたように、痛みが走った。
潰れそうになる衝動に、新しいだんごに手をつけた。
誤魔化すようにだんごを食べたけど、ついさっきまで食べていたあの美味しさは感じられなかった。
ただ口に苦味が広がっただけだった。
苦し紛れに上を見上げると、満月が私の心の中を見透かしたように輝いていた。
「ロゼッタさん?」
私が様子が変わったのを気づいたのだろうか。ラグナは心配そうに私を見る。
涙が出そうになった。だけど、グッとこられた。
ごめんね、ラグナ。こんなにも弱い私で。
こんな心配させるぐらいなら、あなたのお誘いを断ればよかったのにね。ごめんね。
「なんでもないよ」
口から開いたのは自分でも驚くほど、そっけない言葉。
私は慌ててラグナのほうを見る。
「ぁ、ごごめんね。大丈夫だよ? て、ラグナ口元」
「え? 口元?」
「右のほうにだんごがくっついているよ」
え?とラグナは左のほうを手で擦った。
「違うー。右だって」
私は指でラグナのだんごをとった。
もぅ、だらしない。私の指先ぐらいのこんなにデカイだんごをくっつけないでよ。
「全く、子供じゃないんだからちゃんと食べなよ」
ついついとっちゃったけど、捨てるのもったいないし食べちゃお。
私は指についただんごを口の中にいれる。
「あ…」
「え? どうかしたのラグナ?」
「いえ! いいえ! 大丈夫ですって!」
変なの…。なんかラグナって最近変な顔をするんだよね。
風邪みたいに顔を赤くなるだよね。
ラピスに、
「ラグナ最近調子悪そう?」
ってきいたけど、
「元気にがんばってますよ。元気すぎてこっちが心配です」
っていってたし変なの。
「あ、ロゼッタさんも、だんごついてますよ?」
「え? ホント?! ヤダ!」
あわてて私は口元を探る。
「ほら、ここに…」
ラグナは私に身を寄せた。
「ほらここですよ」
ラグナは私の顔を指差した。
「え、どこ?」
「えっとですね」
ラグナの顔がぐっと近づいた。
ち、近い!
しかも、ちょっとドキッてしちゃったよ。
「ど、どこよ! おしえ───ぁ」


唇が。
 触れた。
頭が真っ白になった。
  なんだか体が勝手に動いた。
気づいたころには、
 泥だらけでクレメンス山を降りた私がいた。
ぽた ぽた ぽた
 涙が、地面を湿らした。
ら ぐ な 
 私は、どうなったの?
唇に。
 手を触れる。
やわらかいあの感触が、
 まだ残っていた…。


泥だらけになった服だとお父さんにどう思われるかわからないから、ミストに頼んで服を借りて着替えた。
私は今本当にひどい顔をしていると思う。
家から出てきたミストが、見たことがないくらい驚いた顔をして、私のことを心配してくれた。
「ロゼッタさん大丈夫ですか!? え、えっと、ほら、このカブを食べて元気だしてください!」
…相変わらずだね。こんなことがなかったら笑ってあげたのに、ごめんね。
ミストに感謝の言葉を言ったあと、私は家に帰るため夜道を歩いた。
脚に何かがついているのかな。
私は脚を引きずって歩いていた。後ろを見ると子供が遊んだみたいに線が描かれてあった。
しゃがんで脚を見ても、何もついてないし、怪我もしていない。
服が破れているところもあったのに、奇跡的に怪我はしてなかった。
…分かってる。
脚が重い理由なんて、ラグナが私にキスをしたからだ。
これは夢なんだと思うくらい、驚いた。
…うん。分かっていたの。
だんごが私の顔にくっついてないことぐらい。
期待していたの。ラグナが私の唇を奪ってくれるかも、と。
おかしいよね。私。おかしいよね?
あれほど、ラグナはミストのものだと思っていたのに、私はラグナを求めている。
そうラグナを拒否できない私がいる。
あの誓いは所詮、眉唾物のだった。
ただの自己満足…。ラグナが私のことを思っていないと思わせ、心を楽にさせているだけ。
酷いな、私。…違うそんな、優しい言い方じゃない。
醜いんだ。そう、ただラグナは悪くないのに、ううん違う。ラグナはラグナらしく生きているだけ。
ラグナを望んだり望まなかったりして、本当の気持ちをラグナに伝えない私は醜い。
最近、泣いてばっかりだね。
しゃがんだまま私は涙を流し続ける。
弱いね。醜いから出ちゃうのかな。
ねぇ、ラグナノ。


なんとかお父さんをやり過ごし、私は自分の部屋に入った。
私は手にある泥だらけの服を机の上に置き、ベットに腰をかける。
そのまま体をベットにあずける。
ブラブラと脚が揺れた。
ベットが私の重みでどんどん沈んで行く。
このまま沈み続ければいいのに。
「ラグナ…」
自然とでた言葉に、私は思わず眉間にしわをよせた。
どれほど私はラグナを思い続ければいいの?
思い続けるだけで、救われるの?
唇にそっと手を触れる。
まだあの感触が残ってそうで、ゆっくりと触れる。
私だって女。小さいころから憧れていたのはホワイトストーンだけじゃない。
ファーストキスも、好きな人を想う気持ちも、全て憧れていた。
恋愛は華やかで、綺麗で美しいものだって思ってた。
だけど私の恋愛は、ただの醜い私の想いだけが動いているだけみたい。
…何がしたいんだろ。
どうやってラグナと会えばいいんだろう。
いつもどうりに、できるかな。
ミストとラグナが喋っているときに、ミストに服を返さないといけないのかな。
そもそも、お月見であんなことがあたったのに、平気でミストに服を借りてしまった。
ラグナがその話題をだしたとき、ミストがこの服のことを訊いてきたとき、私はたぶんまた逃げると思う。
だってだってだって、怖いから…。
何が怖いのかわからないけど、怖いしかない。
ドンドン。
私の部屋のドアが叩かれた。
お父さんかな。私が帰るのを待っていたのに、逃げるように二階に上がっちゃったから流石に心配したのかな。
私はベットから体を起き上がり、どんな言い訳をしようかと悩んだ。


「ロゼッタさん。失礼します」
言葉を失った。
頭が真っ白になった。
唇の感触が戻ったきがした。
ドアから入ってきたのは、お月見と変わらないラグナ。
ドクン。
急に胸がなる。痛くて熱い、変な胸。
「ロゼッタさん…」
ラグナは一歩一歩ゆっくりと私に近づく。
私は逃げようと体を動かそうとするけど、腰が上がらない。
とうとうラグナは私の目の前にいた。
「ロゼッタさん。僕は───」
「い、嫌ぁ!!!」
パシン。
乾いた音が部屋に響いた。
「あ」
ラグナの頬が次第に赤くなり、口を切ったのか口から血がポタリと落ちた。
私の手がじぃんと痺れている。
「あ、あ」
言葉がでない。手が振るえて、体も氷付けにされたように動かない。
ただ頭の中には冷静に、私の手がラグナを傷つけたことはすぐにわかった。
ラグナはゆっくりと私に近づき、私を抱いた。
「ロゼッタさん、ごめんなさい」
こっちが苦しくなるほど、今にも泣きそうなほど震えた声。今まで聞いたことがないラグナの声…。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
ラグナの声と体の温かさで、ようやくゆっくりと私は口を動かす。
「ラグナ…ミストのことが好き…?」
いままでずっとずっとずっと思っていた、たった一つの疑問。
いつまでも笑顔で挨拶がしたいから。
いつまでもこの想いを想い続けたいから。
いつまでも変わらないあなたでいてほしいから。
それが壊れてしまうことが。怖くて、恐ろしくて、言えなかった。

「僕はミストさんが好きです」

ドン。
私はラグナを両手で押した。
ラグナは不恰好に床に尻餅をついた。
大きく深呼吸をして、手を振りかぶりラグナの頬を叩く。
パァン!
さっきと比べ物にならない音が鳴った。
痛かった。痛かった。痛すぎだよ!
胸なんて、潰れちゃっていいから、この痛みをなくして!!!この胸の痛みを、痛みを…!!
「ラグナ! どうして、どうして?! あなたはミストがいるのに!! どうして私の唇を奪ったの?!!」
「それは…ロゼッタさんを愛しているからです…」
「な、何を言っているの?!」
「ミストさんも好きですよ。フィルさんも、ノイマンさんも、タバサさんも、めいさんも、ビアンカさんも…村の人たち全員好きです」
一呼吸して、ラグナは口を開く。
「だけど、ロゼッタさんは…好きじゃないんです…。愛してます、ロゼッタさん」
私はその場で崩れ落ちた。体に力が入らない。動かない…。
なんて、私って罪深いんだろ…。相愛だったのに、私の嫉妬で、最愛の人を殴ってしまった。
「あ。あ。あ。あ。あああ。あ…」
うずくまってしまう。
なんてことをしちゃったんだろう。なんて…こと…。
なんか。暖かい。…ラグナが私を抱いているんだ。
暖かいよ、うん。だけど、私はそんなことをする価値のない女だよ?
「ロゼッタさん。ロゼッタさん。ロゼッタさん」
ラグナはだんだんと強く強く強く、けど優しくゆっくりと私を抱いていく。
「ごめんね。ラグナごめんね。こんな女なんだよ? 私は 醜 い 醜 い わ た し 」
涙が出るくらい。あなたのことを大切に思い続けていた。
どれほど、あなたに逢うことを想っていたんだろう。精一杯の笑顔で、私はあなたに逢い続けていた。
もうそれも、終わり。
「愛 し い 愛 し い あ な た は。もぅ、こんな私を慰めなくっていいんだよ?」
ラグナはあれほど強く抱いていたのに、私から身を離した。
そう、それでいいの。早く私から逃げちゃって。
あなたの本当の好きなミストに、愛を奉げてあげて。


「ロゼッタさんすいません」
パン。
驚いた。
頬の痛みよりも、ラグナが私を殴ったことに。
だけど、わかった。
ラグナは私のことが嫌いになっちゃったってことが。
よかった、よかった。こんな苦しみから逃れられる。もぅ、こんな気持ちなくなっちゃえ。
「愛している人を殴る僕は、嫌いですか?」
「…そんなわけ。ないでしょ?」
今まで口にしなかった言葉が開いく。
「どれほど、私が愛してるて思っていたの。胸が潰れるぐらい潰れてしまったほうが救われるほど、この気持ちを抑えていたの…!」
私の涙が溢れた。
「怖かった怖かった。ラグナが私を嫌いだとわかるのが、怖かった!」
涙が頬を優しくなでるまえに、ラグナが私の頬をそっとなでる。
「ずっと思っていたよ。気づかないほどいつの間にか、この思いが溢れていたの」
それでも私の涙は流れ続ける。
「ミストと話すあなたの姿を見て、あなたに話す私は、まるでミストの幸せを吸い尽くしているようで、切なかった」
ロゼッタさん…とラグナは優しく私の耳元に囁く。
「私が、ホワイトストーンの伝説に憧れているのは知っているよね?」
またラグナは私を前よりも強く私を抱く。
「いつかあの伝説のように、私も幸せになりたいの。ラグナ以外。のラグナしかホワイトストーンは絶対に受け取らないわ」
私はこの想いを胸に刻み、
「だって、私はあなた以外の人を好きになれないから…」
ラグナを諦めた。
そう、そうよ。
ラグナはミストのものだと、い い き か せ て い た 。
「そう心の中では思っていたの。だけど期待していた。ひょっこりラグナが私の前に現れて、私にホワイトストーンを渡すのを。そうだから私は醜い醜い私なの…」


「僕はロゼッタさんを試していました」
次の言葉を言おうとした私は、ラグナの言葉に遮られた。
遮られてその言葉の意味が分からず、私は口を開いたままその場に固まった。
「ロゼッタさんが僕のことを想っているのかを、確認するためにいろいろとしました」
「試す、確認…? なにそれ?」
ラグナは私から手を離した。
「わざわざロゼッタさんが来る時間前に、ミストさんにカブを渡し笑顔を作ってました」
「そんな…」
私の涙はもう流れていなかった。
涙は信じられないラグナの言葉でとまっていた。
「他にも僕とミストさんが愛しているように見えるように、ミストさんと会話をしたり農作業をして、あなたの心を確かめていました」
「嘘よ。嘘、ラグナはこんなこと、しないよね…?」
「はじめて渡した焼きとうもろこしのときも、帰ったように見せかけて実はこっそりといました」
「続けないで!」
「…そのときの僕は、あまりにも嬉しさに思わず、自分でも驚くくらいの笑みを刻んでいました」
「黙って、お願いお願い!! 終わりにしよ!? もうやめて!!」
「ロゼッタさんが僕のことを思って、涙を流してくれたと知って…嬉しくて心がおどりました」
「やめて!!!」
私は必死に拒否をする。だけどラグナは言葉をまだ続ける。
「僕は命の恩人であるミストさんまでをつかってまで、ロゼッタさんのことを試していた…。そんな生易しいことばじゃない。最愛の人を弄んだ、僕は最低の人間なんですよ」
「嘘だって、嘘でしょ?! 嘘だって言ってよ…私を慰める言葉だって言って!」
私はラグナの襟を掴み、必死にラグナを見る。
ラグナは首を横に振った。
それは肯定だった…。私を弄んだ、ことを…。
こんな、こんなことって…あるの?
どっちが悪いの…? どっちが罪なの…?
「僕が悪いんですよ。黙ってこのことを隠していれば、あなたはただの嫉妬ですみました」
「もぅ、やめようよ…」
「あなたは、最愛の人に玩具の人形のように、いいように遊ばれて傷つきました」
「やめようよ…」
「その馬鹿な最愛の人は、傷ついた姿をみて正気に戻ってしまった」
「やめて、いつもどうりにしよ? あなたはいつも笑ってて?」
「ロゼッタさん。あなたを苦しませた人物は、この僕です」
「…ラグナ…」
もう、嫌。何これ。何なの?
これが私が求め続けていた、ラグナ…?
私が思い続けていた人は、どこに行ったの?
ねえどこ? どこ? 私のラグナはどこ?
「こんな僕は、ロゼッタさんを愛している資格がないです。僕がやっていることなんて、ロゼッタさんを傷つけているだけですから」


「違うよ」
否定した言葉が私の唇から自然と出た。
それは私でも驚くほどの、澄んだ声。
なんだかその声は何かに気づいた気がしたから、私はしずかにそれに素直に従った。
「ラグナは私を想ってて、私を傷つけたと思ってるんだよね? うん。ありがとうラグナ」
あれほど混乱していた頭はもう、穏やかな風が通ったように落ち着いていた。
「何で、ありがとうなんですか? 僕は僕は!! ロゼッタさんを!!」
今まで見たことがない叫ぶラグナを見ても、私は冷静にラグナを見る。
「だって、結果はこうなっちゃったけど、私はそれでよかったと思ったから、嬉しいよ」
「なんでですか…?」
「それはね。ラグナが本当に私のことを想っていることが、分かったからなの」
私がずっと悩んでいたことは単純なこと。
「ラグナはね。誰でも優しい笑みと許容するその暖かい心のせいで、あなたが一番好きな人が分からなかったの」
そう。ラグナが一番好きな人は誰…?
「だけど、ミストだけは想いはどうあれ、ラグナはミストだけは特別にした。あなたの思惑どうり、私はあなたはミストが好きだと思ったの」
あなたを見るたびに思うの。
「ラグナを想っていた私にとって、それは本当に許すつもりはないよ。だけどおかげで分かったの。本当にあなたが一番好きな人が、分かったの」
あなたは愛している人はいないの?
「ラグナ。あなたが全てを許容する心と、一つだけの特別な心をもっているのなら、私はね」
あなたは誰でも好きなだけじゃ、私は許さないから。
「そう、私は全ての人から拒否されても、愛しい愛しいあなたの全てを奪ってしまう。醜い醜いわたしでいるわ」
だから愛して、この私を。
「ラグナを独り占めする…こんな私は き ら い ? 」
「嫌いじゃないですよ」
「じゃあ、なに?」
「…意地悪ですね」
ラグナは顔を赤くし、大人に注意された子供のように困った顔をした。
「私を弄んだ癖に生意気ね。ラグナ?」
そんな可愛らしい表情をするラグナに、まるで子悪魔のように私はいやらしく笑う。
そんな私にラグナは私が望んでいた、いつもと変わらない笑みを向ける。
「愛してます。ロゼッタさんを誰よりも愛してます」
私はゆっくりと頷き、いつもと変わらない笑顔を向ける。
「うん、うん。私もラグナを誰よりも愛しているよ」
いつかこの言葉を告げられるのを願い続けていた日々。
そしてその言葉に答える私。
トクトクトク。
胸がドキドキして、顔がなんだか熱い。
目じりも熱くなって、涙が私の頬を優しくなでた。
「あはは。泣いてばかりだね」
今までと違う涙。慰めじゃない祝福の涙だよね。


ぺろり。
「きゃぁあああああああああああああああああ!!!」
パッチーン!
ラグナの頬が、それはもう惚れ惚れするぐらいのいい音がなった。
「たく、何するのよ!?」
あろうことかラグナは私の涙を舐めた。
愛しているっていって何それ!!?
「いつものロゼッタさんですね」
嬉しそうに微笑むラグナ。
口から血でてるんですけど。
「たく、いい根性してるわね」
「ごめんなさい」
誤るラグナに、私はラグナの口元を優しく拭ってあげる。
「コラ。誤るんだったら態度であらわしてよ」
「はい」
嬉しそうにラグナは顔を私の顔に近づける。
ラグナは顔を傾け、唇を近づける。
私は静かに目を瞑った。
「ラグナ」
暗闇の中、わたしは 愛 し い 愛 し い あ な た の名前を言う。
「ロゼッタさん」
暗闇の中、あなたは 醜 い 醜 い わ た し の名前を言う。
私はゆっくりと微笑む。たぶんラグナも笑っているだろう。

「愛してる」「愛しています」

重なる言葉。

重なる唇。

重なるあなたとわたし。

愛しているよ。

そう、愛しい愛しいあなたと醜い醜いわたしをノね?

───end────

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