リック×クレア2

何一つ。俺のものではない。
リリアという女の心はは父親に。ポプリという女の心はカイに。
今日は、ダッドの店にカレンがいない。カレンもいない。
頑張って守ってきたものは何一つ、自分のものではない。
愛して止まない母と妹も。毎日手をかけているにわとりたちも。
俺のものだと思っているとするりと手の間を抜けて逃げて行く。
実直に見えるからといって無欲なわけではないのに。
「リック」
金髪の牧場主が声をかけてくる。
「今日はカレンちゃんと一緒じゃないの」
ざわめく感情を殺して笑顔を作る。きっと今、自分は人の良い好青年だ。
「いつも一緒ってわけじゃないよ」
にこにこと女は笑っている。あっという間に町に溶け込んだクレア。
あれからどれだけ男とやった?その心は誰かに掴まれた?
「クレアさんこそ、俺なんかに声かけてる暇ないんじゃないの」
クレアは明るく笑う。ダッドに「もう一杯お願いね」と声をかけてから、
リックの瞳を真っ直ぐ見つめる。
無意識のうちに、自然にしていることなのだろう。
他人と話す時にはきちんと相手の目を見て話す人間なのだろう。
ただそれだけの、ことなのだろう。
「おかげさまで、ちょっとずつだけどね…収入も安定してきてるんだ」
本当に嬉しそうにそう言って、ダッドが出したワインを口に運ぶ。
「にわとりもね、増えてるんだよ」
そう言って、また笑う。
「世話は大変だけど…楽しいよ」
そうか。君はそんな生活が楽しいのか。俺はちっとも楽しくないよ。
俺はここの生活しか知らないから。何と比べて楽しいのかなんてわからない。
「…教えてよ」
俺はきっと笑顔のままだけど。それはもうそういう顔なんだ。
ずっと好青年を演じているから本当の表情がわからないんだ。
クレアがきょとんとした顔になる。
「教えるって…何を?私なんかがリックに教えることなんてないよ」
冗談きついなあ、と呟いてまたクレアが笑う。金髪が揺れる。
「そんなに、都会での生活はつまんなかったの?」
質問を探して口にする。首を少し傾げて、クレアが答える。
「…かもね。毎日同じ生活で…仕事の後、飲みに行っても今の方が楽しいの」
俺だって大して変わらないよ。毎朝カレンと話をして、ニワトリの世話をして、
一日が終わったら同じ店で同じ酒を飲む。



どこにいたってそういう生活をするものじゃないのか、人間は。
「クレアさんは贅沢だなぁ」
皮肉と取られても良かった。そのつもりで言った。
「そうかもね」
クレアはえへへと笑う。
「きっと恵まれてるのね、私」
目の前にあったグラスを空けて、クレアの腕を掴む。
「牧場、見せてよ」
クレアがまた、驚く。
「いいけど、もう夜だよ?」
「だって昼間はお互い仕事があるだろ」
クレアが自分のグラスを空にする。もっと疑うことを知った方がいいよ、君は、と
心の中で呟きながら、ダッドに声をかける。
「今日の分、クレアさんのも俺にツケといて」
わかったよというダッドの答えを背中で聞きながら、ダッドの店を出る。
「痛い…リック、腕が痛いよ」
店を出たところで、クレアが言った。
がっちりとクレアの腕を掴んでいた。このまま、自分のものにしてしまうには、
どうしたらいいだろう、とふと考える。
普段の自分なら、ごめんと謝って腕を離すだろう。
でも、どうしても離したくなかった。逃げられてしまう気がした。
疑うことを知らない牧場主をきれいなままで自分のものにしたかった。
他人を惹き付けるその心を自分のものにしたかった。
ゆっくりと、手首を握り直して、牧場へ向かうことにした。
「空がきれいだね」
ふと、クレアが呟いた。
夜の牧場はしんと静まりかえっている。
夏の草の沸き立つような匂い、土の匂い、それにかすかに家畜の匂いが混じる。
にわとりの匂いは嗅ぎ慣れているはずなのに、自分の家のにわとりとは違う気がする。
「ちょっと待ってね」
そう言ってクレアが家に入るので、ついて入った。
「待てない」
心配しているのか、不安になったのかわからないけれど、クレアの表情が一瞬曇る。
「どうしたの?リック、今日はちょっと変…」
「変じゃない」
これが本当の俺なんだよと思いを込めてクレアを抱き締める。
「リック?」
抱き締める腕に力を込める。

「誰にでも…あんな風に笑うの?」
抱き締めているというよりは、逃げないように捕まえている。
「苦し…っ。リック…離して…っ」
首筋にキスをした。痣ができるくらい、強く、長くキスをした。
ふっ、とクレアの力が抜ける。
そのまま、耳たぶを唇で挟む。
「んっ…」
クレアが反応する。
「ずいぶん、感じやすくなったんだね」
「だって…」
わかってる。この町に溶け込むなら、意味もなく抵抗するより、快楽を求めた方が
よっぽどいい。それも一つの順応性だから。
でも、そんな町に馴れきった女はもうたくさんなんだ。
クレアさんならまだ間に合う。そのままで、俺のものになればいい。
そっと額にかかる金色の髪をよけて唇を重ねる。
手近にタオルを見つけて、クレアに目隠しする。
「リック…何を…」
クレアを抱きかかえ、ベッドに横たえる。腰を挟んで馬乗りになり、オーバーオールの
金具を外す。シャツを脱がせ、下着を外す。
シャツで手首を縛り、両腕を持ち上げてばんざいのポーズにさせる。
自分のエプロンを外し、その紐を使ってクレアの腕をベッドに縛る。
「リック…止めて…」
すでにぷっくりと立ち上がっている胸の突起にキスを落とす。
そのまま舌で転がすと、甘い吐息が漏れる。
反対の膨らみを手のひらで包み、突起を指でつまむと切ない声があがる。
「やぁ…ん」
「こういうの、初めて?」
耳元で囁くと、こくこくと頷いた。
「だから…ちょっと…」
必死に言葉を絞り出す。初めての快感を与えられるのに、止める気はない。
手を下半身に滑り込ませ、ショーツの中の茂みを探る。
突起は固く膨らんでいる。くりくりと指を動かすと、クレアが反応する。
「やっ…止めて…あっ…」
脚が自然に開き、腰が前後に動く。
「ココだけでイッてみる?」
指をさらに動かすと、クレアの腰がくねり、声にならない叫びとともに、一瞬の痙攣の
後、クレアの力が抜ける。
力の抜けた脚からズボンとショーツを引き抜き、両足首を縛る。


「リック…いやぁっ…」
リックは眼鏡を取り、自分も服を脱いでぴったりとクレアに身体をくっつける。
「本当にいやなの?」
すっと指をクレアの脚の間に滑り込ませる。
「ここは期待してるみたいだけど?」
ぴちゃぴちゃと音をたててクレアの中を掻き回す。
「腕と脚…ほどいて…目隠しも…」
リックは答えない代わりにクレアの脚を持ち上げ、その間に顔を埋める。
紅く固くなっているクレアの突起を舌でつつく。
一度頂点を迎えたクレアのクリトリスは感度を増しており、クレアは腰をよじらせる。
自由にならない身体が、快感をもろに受け止めてその感覚が倍加する。
「やだっ…恥ずかしいよぉっ…」
思わずクレアが叫ぶが、気にせずリックは女体を開く。
スリットに指を入れ、押し広げる。縁を指でなぞり、口づけて舌でなぞる。
クレアの蜜が口に入り、音をたててそれを啜る。
結んだ脚が抵抗しようとするが、ろくに動かない。
舌をスリットの中に押し込むと、クレアが声をあげる。
「リック…リックぅ…」
この声で。名前を呼ばれたかった。こんな風に。ときに切なく。ときに甘く。
「あん…リック…」
色っぽい溜息と共に紡がれる自分の名前を聞きたかった。
今この時は、クレアの心は自分のことでいっぱいだと、思うことができた。
「…リック…もっと…お願い…」
リックの怒張したペニスがクレアに侵入する。
「リックのソレが欲しいの…」

支配欲丸出しで抱き締められて。逃げ場をなくした女は自省する。
そして相手を少しばかり憐れむ。
いいよ。好きにしても。
いいよ。名前を呼んであげる。
「リックの…前のときよりおっきい…」
たくさんたくさん誉めてあげる。
たくさんたくさん感じてあげる。
「あ…あぁん…たくさんっ…感じちゃうよぉ…」
たまには、こういうのも刺激があっていいもの。
まだ、心とカラダは別物だもの。
「…リック…イイよぉ…もっとして…」
でも、心はもうあなたの方を向くことはないの。

あなたのおかげで気付いてしまったの。
あなたの入り込む余地はもうないの。
人間の表情は笑顔がすべてではないの。
自分も笑顔が貼り付いているのに、気付いていないのね。
弱みを見せられる人がいるのに、気付いていないのね。
どんな気持ちも見せたい人ができたのよ。
知らない町から来た人間だからって理想を被せたらだめなのよ。
…そろそろ、意識を手放そう…

「んっ…」
よがり声を上げていたクレアの脚が痙攣する。
「イクぅ…」
背筋がぴんと仰け反り膣壁がぎゅっと締まる。
リックのペニスはそれに絞りだされるようにして精液を吐き出す。

頭は冷えたかな、とクレアは思う。
目隠しをされているのでリックの表情はわからない。
男はこんなことで満足できるのかな…はどうなんだろう…
ふ、と意識が途切れた。

ぐったりとしたクレアに、リックは再びキスをした。
脚と手をほどき、目隠しを取る。
長い睫毛に縁取られた瞼にキスをする。
こんなことをしなくても、良かったのかもしれない。
彼女の視線は自分のものになったのかもしれない。
でも、その方法がわからない。
形だけでも自分の物にしたかった。そして安心したかった。

心に、もっと大きな空洞が生まれるなんて予想もしなかった自分を、
思わず、嗤った。

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