すごいよ!メロディさん 〜とりあえずモロッコ行って来い〜 ラグナ女体化


「ふんふん、ふ〜ん♪」
その日、メロディは奇怪な歌を口ずさみながら、自宅の台所でこれまた奇怪な薬を作っていた。
「もー少しで完成だから、待っててね〜♪」
「はぁ……」
と、居心地が悪そうにしているのはラグナ。
急用があるから、とメロディに呼び出されていたのだ。
「あの……メロディさん、用事っていうのは…」
「ん、ちょっと待ってて〜。……え〜っと、後はコレとコレを混ぜて…。
 …………出来た〜!」
嬉しそうにフラスコを掲げるメロディ。
その中には紫色で沸々と泡を立てる、見るからに毒々しい液体が入っていた。
「えっと……それ、何ですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれました。
 これこそ、あたしが長年の研究の末に生み出した血と汗と涙の結晶! ホレ薬なのです!」
得意満面な顔つきで語りだすメロディ。
しかし、いくらラグナでもそんな話を信じるはずが無い。
「ホレ薬……ですか…はぁ」
「む……なによ〜、タバサさんみたいな喋り方しちゃって。
 見た目はアレだけど、効果覿面なのよ、この薬っ。…………理論上は」
「いや、それ無茶苦茶不安ですよ」
冷や汗をかきながら呟くラグナ。
するとメロディは満面の笑みを浮かべながら、ラグナの元へとやってきた。
「ふふ〜ん♪ この薬が量産された暁には、他の町で売りさばいてガッポガッポの大儲けよっ!」
「あ、やっぱりお金に困ってたんですね……」
「でもね……この薬の効果は、あくまで理論上。実際に人が使ったら、どれくらいの効果が出るか分かってないの…」
「まあ、分かってたらあんな不安げに付け足したりしませんよね」
「そ・こ・で♪」
小悪魔のような笑みをラグナへ向ける。
「臨床実験、協力してくれるよね♪」
「いや、あの、臨床って……僕病人じゃないですよ」
「いいから飲むの♪」
強引にフラスコの口をラグナの口内に突っ込む。
「ちょ、メロディさんやめ…むがもご…っ!」
抵抗空しく、謎の毒々液はラグナの胃袋へと収められてしまった。
そして次の瞬間。
「────っ!?」


─しばらくそのままでお待ちくださいム


「……っはぁ…はぁ……っ」
息も絶え絶えになりながら、トイレから這いずり出るラグナ。
そんな彼を見ながら、メロディは呟く。
「……もうちょっと甘くしたほうがよかったかな?」
「鬼ですかあなたは」
恨めしそうにメロディを睨みつける。
「じょ、冗談だよ冗談〜っ! ラグナ、大丈夫?」
「大丈夫なわけ無いでしょう……。上からと下からの同時攻撃は、さすがに応えましたね……」
壁にもたれながら、気分が悪そうに口を押さえる。


「ご、ごめんね〜……。……ところで…」
興味深そうにラグナの顔を覗き込むメロディ。
「……ねぇ、何か体に変わったところとか無い?」
「……変わったところ…?」
「うんうんっ。ほら、もう薬の効果が出てるかもしれないし」
目をキラキラと輝かせながら、ラグナに詰め寄る。
しかしラグナはため息をつきながらこう言い返した。
「あのですねぇ……僕で試しても、多分意味無いと思いますよ…」
「へ……?」
どうして? と言いたげな顔で、メロディは人差し指を自分の顎に突きつける。
「……いや、だって、その…」
要領を得ない様子で、ラグナは呟いた。
「その……元々、メロディさんにベタ惚れですから…」
元から惚れているのだから、ホレ薬など使っても無意味。ということだ。
「え、あ……そ、そっか…………そうなんだ…」
首まで真っ赤にして縮こまるメロディ。
未だにこの手の台詞には弱いようだ。
「と、とにかく! もう二度とこんな危ないことはしないこと! いいですね?」
しかし当のラグナも相当恥ずかしかったらしく、無理やり話を終わらせようと語気を強める。
「う、うん……分かった…」
メロディはしょんぼりとした様子で、後片付けを始めるのであった。



翌日、異変は起こった。
早朝、身支度を整え、仕事の前のトイレへ向かったその時にラグナは気付いた。
「…………」
無い。
何か、とても大切なものが無いような気がする。
落ち着いて周りを観察する。
目の前に鏡があった。
じっと目を凝らしてみる。
……有る。
普通、あってはならないものが有る。
「……ええぇえぇぇぇええええ!!!?」
そう、今のラグナには──
膨よかな胸がある代わりに、男の象徴が無いのだ。



「……っていうかそれ、着替えるときに気付かない?」
驚いたような呆れたような。
そんな表情でメロディはため息をつく。
「……寝惚けてたんですよ、思いっきり…」
頭を抱えながら唸るラグナ。
「……やっぱり、昨日の薬のせいなんですかね…?」
「うーん……そうかも…。とんでもない副作用ね」
「副作用なんてレベルじゃないでしょ、これ」
そう言って自分の体を見つめるラグナ。
……どこからどう見ても、この体型は女だ。
しかも……。


「……しかも、なんであたしよりスタイルいいのよ!!」
思わず襟首を締め上げるメロディ。
「ししし、知りませんよそんなこと! というか、締めノ締めないでくださいノ!
 ただでさえ胸が苦しいんですから……!」
「むきー!! あたしより二回りほど大きいからってー!!」
そう、今のラグナは出るとこは出て引っ込むところは引っ込む。
まさに「ボンキュッボン」な感じなのである。
「と、とにかく早く戻してくださいよっ」
「うーん……そう言われても、どういう理屈でこうなったのか分からないし……。
 あたしにもお手上げだよ……」
両手を挙げて頭を振る。
「そ、そんなぁ……」
「あ、でもでもっ。あたし、ノンケでも平気でいけちゃう女だから安心して」
「ノンケの意味分かってますか!!?」
「? 同性ってことでしょ?」
「違います! ……というか、それが平気っていうのも、かなり問題な気が…」
「えー、シャロンさん直伝の必殺テクを魅せてあげようと思ったのに……」
「何やってんのあの人!!?」
ここにきて明らかにされたメロディの秘密にラグナはたじたじ。
しかし、そんなことはお構い無しにメロディは話を続ける。
「ん、まあ冗談なんだけどね。……とにかく、あたしじゃ治してあげれそうに無いし…。
 やっぱり、他の人を頼るしかないわね」
「はぁ……なるべく、他の人には見られたくなかったんですけどね…。
 ……やっぱり、病院かな?」
「それが一番確実だろうね。……代わりに、カミュかザッハ辺りが女の子になっちゃう可能性も否定できないけど…」
「……他のところにしましょう…」



そしてやってきたのはジャコリヌス邸。
「フフフ……遂に……遂にあたしにも出番が廻ってきたのねっ!」
そう言ってガッツポーズを取るのはビアンカ嬢。
連載開始から三ヶ月目にして、待望のSSデビューである。
「……というわけなんですけど、なんとかなりませんか? タバサさん」
しかしそんな彼女を尻目に、タバサにこれまでの経緯を説明するラグナ達。
「…ってコラー! そこのバカップル! あたしを無視しないの!!」
「そう言われましても……なんか、ビアンカさんに話しても無駄な気がして」
「そうよね。見るからに世間知らずのお嬢様って感じだし」
「くっ……! 反論できないのが悔しい……っ」
まさに言いたい放題である。
しかしタバサの方も、これには困った顔をした。
「えっと……申し訳ありません、ラグナ様。なにぶん私も、このような事態は初めてですので…」
「何か無いんですか? ……ほら、エルフの秘薬とか」
「ムテキの秘薬(夜用)ならありますが……」
「いりません。……っていうか、なんでそんなものを…」
「この前イヴァン様の露店に並んでいたので、興味本位で……」
「……あの人は…」
頭を抱えうなだれるラグナ。
「分かりました。では、せめて応急処置だけでも」
「応急処置?」




「…………」
ジャコリヌス邸前で、ラグナは呆然と立ち尽くしていた。
それというのも……。
「あー……えっと、ラグナ……似合ってると思うよ、うん」
「フォローになってませんよ……」
そう言ってラグナは、「スカート」の裾を摘む。
そう、今のラグナが着ている服は、ビアンカでも着なさそうなコテコテのゴスロリ。
「これなら、外を歩いても違和感ありませんよ」と、タバサに無理やり着せられたのだ。
「……違和感どころか、根本的な部分から間違えてる気が…」
「でも、本当に似合ってると思うよ?」
「……あの、メロディさん? 僕のこと慰めたいんですか? それともどん底まで叩き落したいんですか?」
「もっと自信持って! こんなに可愛いんだから」
「いや、あの、そうじゃなくて……」
「あ、そうだ。今度からラグナのこと、『ラグナちゃん』って呼んだほうがいいかな?」
「人の話聞いてます!?」
実のところ、彼女はこの状況を楽しんでるんじゃないか?
ラグナがそう思い始めたところで、二人に声をかける人物がいた。
「こんなところで、何を騒いでおるのじゃ?」
「へ? あ、めいさん」
こんなところで会うとは、珍しいものである。
「その、実はかくかくしかじかで」
掻い摘んで事情を説明する。
「なるほど、そんな事情が……我はてっきり、ラグナ殿にそういう趣味があったのかと…」
「違いますからね! 女装趣味なんて持ってませんからね!」
必死になって否定するラグナ。
めいは分かっておる、と言わんばかりに両手を突き出す。
「どうどう。よし、ならば我が一肌脱ごうではないか」
「ほ、本当ですか!?」
「うむ。東洋の神秘、しかとその目に焼き付けておけ」



「…………」
宿屋の前で、ラグナは呆然と立ち尽くしていた。
それというのも……。
「うん、これはこれで中々そそるものが……」
「もはやフォローする気ゼロですね…」
そう言ってラグナは、「帯」の間に指を入れる。
そう、今のラグナが着ている服は、典型的な巫女装束。
「ラグナ殿には、和服のほうが似合うと思うぞ」と、めいに無理やり着せられたのだ。
「……なんで僕にピッタリのサイズがあったんだろ…」
「まあまあ、いいじゃないの。眼福眼福っと♪」
「あ、もう楽しんでますね。完璧に楽しんでますね、コレ」
「ね、ラグナちゃん。写真とっていいかな?」
「早速ちゃん付け!? というか、写真禁止!! ただでさえアンさんに白い目で見られて、気が滅入ってるんですから!」
「……なんか、エラいことになってるな…ラグナ…」
「い…!?」
さすがに我慢の限界が来たラグナが怒鳴り散らしていると、突如現れたカミュがこちらを見ていた。


「そうか……お前にそんな趣味が…」
「だから違いますって! あーもー、なんで会う人会う人変な勘違いするかなー!!」
「ねぇカミュ。ラグナちゃん可愛いでしょ〜♪」
「せめてこういうときくらいはフォローしてくださいよぉぉぉ!!!」
血の涙を流すラグナ。
そんな彼(彼女?)を、値踏みをするような目で見るカミュ。
「……まあ、及第点ってとこだな。せめてもう少し髪が長ければ……」
「なんで真面目に考察してるんですか!!?」
そう叫び、何故かとっさに胸元を隠そうとするラグナ。
見も心も女になりつつあるようだ。
「う〜ん……それじゃぁ…」
と、ラグナの後ろに回りこむメロディ。
「ラグナちゃん、もうちょっと内股にして」
「……? こうですか?」
「うんうんっ。で、手は前のほうで重ねて…」
「はぁ……」
「仕上げに、小首をかしげてニッコリ微笑むっ!」
「……?」
よく分からないが、言われるままにするラグナ。
「ごふっ」
突然カミュが口元を押さえる。
「い、一生の不覚……まさかここまでの破壊力を有しているとは…っ!?」
「吐血!? まさか萌えた!? 萌えたんですか!!?」
「ちくしょぉぉぉ!! なんで男なんだよラグナぁぁぁ!!!」
「遂に言っちゃいけないこと言っちゃったよこの人!!」
泣きながら走り去るカミュ。
そして何もかもに絶望しきったラグナなのであった。



「はぁぁ……」
巫女装束のまま、ラグナは公園のベンチでうなだれる。
「もう、一生このままなのかな……」
このまま一生、町の人達にネタにされ続けなければならないのか。
そう思うと急に目頭が熱くなってくる。
「うっ……うぐ…ぐす…」
「あわわ……こ、子供じゃないんだから泣かないでよ〜」
さすがに遊び過ぎたと思ったメロディがあたふたし始める。
「だ、だって……ぐすっ……」
「よしよし……」
子供をあやすようにラグナの頭を撫でる。
「もし戻らなくても、あたしがずっと一緒に居てあげるから。ね?」
「メロディさん……」
「えへへ……あたしは、いつでもラグナの味方だよ」
優しく微笑みながらラグナに抱きつく。
「……そもそもの原因はメロディさんにあるってこと、分かってます?」
「あ、あはは〜、何のことかな〜?」
白々しく目を背ける。
そして背けた先──公園の入り口に、誰かが居ることに気が付いた。


「あ、いたいた……まったく、少しはあたしの話も聞いて行きなさいよ」
そう言いながら二人に近づいてきたのはビアンカ。
「……あれ? ビアンカさん?」
「あれ? じゃないわよ、もう……それよりも」
呆れたような表情で言う。
「ラグナ、変な薬を飲んだせいで性別が逆になっちゃったんでしょ?」
「え、ええ……そうですけど…」
「それなら、もう一度同じ薬を飲んだら戻るんじゃないの?」
『…………あ』



翌日、雑貨屋にて。
「……ホント、一時はどうなることかと思いましたよ…」
そう言ってラグナはため息をつく。
今ラグナが着ている服は、ゴスロリでも巫女装束でもなく、いつも着ているあの服だ。
「災難だったわね……はい、カブの種」
ラグナの愚痴を延々聞かされ、少し心労気味なロゼッタがカブの種を五袋ほど手渡す。
「あ、どうも。……薬飲んで一晩寝たら治ったんですけど……女の子って、結構大変なんですねノ」
「ん? 大変って、何が?」
「その……お手洗いとか、下着のこととか…」
ロゼッタの顔が引き攣る。
「下着って……あんた、女物の下着付けてたの……?」
「いや、だって無いと痛いんですよ、胸が」
「……もしかして、喧嘩売ってる?」
壮絶な殺気を放ちながらラグナに詰め寄るロゼッタ。
「そそそ、そんな滅相も無い! あ、あのですね! 大きければ良いというものじゃなくてですね!
 少なくとも僕は巨乳より美乳派ですし、その……ロゼッタさんは顔と性格でフォロー出来てるじゃないですか!」
「あんたの発言は全然フォローになって無いけどね!!」
鬼神の如き勢いでラグナに掴みかかる。
今にも殴られそうなその時、雑貨屋に何者かが勢いよく入ってきた。
「ラ〜グナちゃ〜ん♪」
「……あの、メロディさん? いい加減その呼び方はやめて欲しいんですけど…」
「え〜。結構気に入ってるのに〜……。それはそうと…」
と、持って来た小袋をゴソゴソと漁り始めるメロディ。
「じゃ〜ん♪ どんな疲れもたちどころに解消してくれる栄養ドリンク!
 今朝完成したんだけど、試飲してくれないかな〜?」
極上の笑顔で小瓶を抱えるメロディ。
一瞬嫌そうな顔をするラグナだったが……躊躇いながらも、結局受け取ってしまう。
「……女で苦労するタイプね」
ロゼッタがため息をつきながら呟く。
まったくだ。
自分は彼女に対して、本当に甘すぎる。
そんなことを思いながら口に含んだドリンクは、ひどく苦い味がした。

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