ドクター×エリィ・夏
基本的に、病院はいつも暇である。
たまに倒れる牧場主が運び込まれる以外は、決まった患者が決まった時間に来るだけだ。
金髪の牧場主も、仕事に慣れたのか、近頃では運び込まれることもなくなった。
空色のワンピースに白いフリルのエプロンという出で立ちの看護婦は、
それでもこの町にとってドクターと自分が必要だということをしっかりと自覚し、
いつも献身的に働いていた。誰に対しても。どんな時でも。
「また、調べ物ですか」
にっこりと笑って、リラックスティーをドクターのデスクに置く。
まだ、エリィには良くわからない内容の分厚い医学書を熱心に読んでいたドクターは、
顔をあげ、時計を見た。午後三時。
「ああ、もうこんな時間だね」
そう言いながらも、再び医学書に視線を戻し、片手でカップを口に運ぶ。
「…クレアさん、来ませんね」
いつからだろう。この清楚な外見の内側に、こんな想いを抱えるようになったのは。
エリィが、ドクターの反応を伺いながら、口を開く。
初めて彼女がこの町に来た時は、確かに、彼女が町に馴染めればいいと思っていたのに。
そのためなら、彼女がドクターと関係を持っても平気だと思っていたのに。
「そうだね、忙しいんだろう」
相変わらず、ドクターは下を向いたままで、表情が見えない。
「…その本、そんなに面白いんですか…?」
エリィは考える。
どうして自分はこんなに苛ついているんだろう。
ドクターは今、どんな顔をしているんだろう。
「ドクターって、クレアさんのこと好きですよね」
そんなことないよと笑い飛ばしてくれると、期待した。
ドクターが町の誰と関係を持っていても、最後に帰ってくるのは病院で、
病院で待っているのは自分だとずっと信じていた。
やっと、ドクターが、顔を上げた。エリィをじっと見つめる。
「…そう、なのかい?」
まるで他人事のように、とても間の抜けた答えが返って来た。
でもその瞬間、エリィは、自分の内側に渦巻いていたものは嫉妬だと、自覚した。
「僕はあまり…全くそういうことには疎いから」
ドクターがそう言って笑う。
「その割には、町中の女の子のこと知ってるじゃないですか」
もしかしたら、ずっと平気な顔をしていたけれど、自分は嫌だったのかもしれない。
こんな町だからきっとそんなものなのだと思ってきたけれど、違ったのかもしれない。
「知ってるって…」
ドクターの手から分厚い医学書を離して本を閉じた。
空色のスカートとフリルのエプロンをたくしあげて、ドクターの膝に向かい合わせに座る。
ドクターが、少し余裕を取り戻した表情になる。
「…なんだ、またこんな昼間からそういう…」
そう、決してこういうことは珍しいことではなかった。
暇な時はどちらからともなく、相手の身体に手を伸ばし、幾度となく身体を重ねた。
だから、いつものことだ、と、ドクターは判断していた。
エプロンを脱がせようと後ろに回したドクターの腕を、エリィが掴んでそれを止める。
「ドクターにとって…私は何ですか」
ドクターの肩に顔を埋めて尋ねる。
「ドクターにとって…クレアさんは何ですか」
「エリィくんは僕にとってなくてはならない病院の看護婦さんだよ」
すぐさまドクターが答えを返す。
「じゃ…クレアさんは…」
「患者さん」
ドクターの指がせわしなく動き、エリィの脚を這い上がって来る。
エリィはドクターの首に腕を回し、力を込める。
できれば聞きたくなかったことを聞こうとしている。
「マリーちゃんに聞きました…グレイを落とせってドクターに言われた…って」
ドクターの手のひらがエリィのヒップを撫でようとして、一瞬、止まった。
「別にそれは関係ないだろう。ただ発破かけただけだよ」
エリィの指がドクターの股間に伸びる。
「嘘…です」
今まで、町の中の人間関係を変えるようなことをするような人じゃなかった。
良い方にでも悪い方にでも、そんなことしたことなんてなかった。
「もしかして…グレイがクレアさんに…」
ドクターが優しくエリィの太腿を撫でる。
「グレイがどうなろうが、僕には…」
「グレイとクレアさんをくっつけたくないんじゃ…ないんですか」
また、ドクターの手が止まる。
こんなに嘘をつくのが下手なのに。
「リックでもクリフでもカイでもなくて…グレイなんですね」
ドクターがそう思ってしまったのは、きっと。
「わかっちゃうのはきっと、ドクターがクレアさんのこと好きだからです」
涙が自分の睫毛に付いているのがわかった。
「そしてそれがわかったのは…私が、ドクターのこと好きだからです」
自分がどうして笑顔でいられるのかわからなかった。
ドクターが、空いている方の手でエリィの睫毛をなぞり、唇にキスをした。
互いの唇を互いに貪り、舌を絡め、音をたてて唾液を混ぜた。
何度も何度も角度を変えてキスをしながら、ドクターは器用にエリィのエプロンを
外し、胸をはだけさせ、スカートを捲り上げてショーツを下ろす。
エリィも慣れた手つきでドクターのベルトを外し、下着からペニスを取り出した。
そっとエリィの白い胸の膨らみを揉み、ピンクの突起にキスをしてドクターが言う。
「そうかもしれないね」
さらに乳首を口に含み、舌で執拗に転がす。
「ん…んっ…」
思わず、エリィが声をあげる。
「だったら…こういうことを私とするのは…っ」
ドクターの瞳が暗く翳る。
「…したいんだろう?僕もだ…」
エリィのヴァギナに指を入れて掻き回す。
「何を言っても君には聞いてもらえないだろうからね」
ドクターが指を増やす。くちゅくちゅという水っぽい音が大きくなる。
にやり、とドクターが笑う。
「それに、今日煽ったのは君だよ」
「好きな人がいてもセックスするのは自由だ」
「でも少なくとも、好きでもない女とこんなことしないよ」
優しいのか冷たいのかわからない言葉を次々と囁く。
一瞬、優位に立ったと思ったエリィの目論見は音をたてて崩れる。
それなら自分かクレアかどちらか選ぶというのが世間での常識だと思ったのに。
「あ…っやめて…ドクター…」
ドクターの指がクリトリスを捏ねる。
「例え僕がクレアさんのことを愛しているとしても、だ」
そう言ってドクターが脚を少し開く。跨っているエリィの脚も一緒に開いた。
ドクターのペニスが頭をもたげている。
「君に迫られたらこうなってしまう」
「ドクター…そこは…いやぁ…」
すでに、エリィは快楽に支配され、腰を浮かせてくねらせている。
「君だって、ご託を並べても、欲しいモノはかわらないだろう?」
額に汗を滲ませて、エリィがさっきとは違う涙を浮かべている。
「何が欲しい?」
クリトリスを捏ねられながら、ヴァギナに何度も指を抜き差しされて、
エリィの思考はいつもの行為の時と同じになってしまっている。
「これ…」
思わず、ドクターのペニスを掴んでいた。
「…入れて下さい…」
どくり、とペニスが脈打ち、固さを増した。
ドクターが意地悪く唇を歪ませる。
「僕の、愛情は?」
がん、と頭を鈍器で殴られたような気がしてエリィが蒼ざめる。
「欲しい…です…でも」
今そんなことを言うなんて、と叫びそうになった。
「あ…うっっ」
ぐい、とエリィの中でドクターの指が動く。まともに喋ることができない。
ドクターの顔を見ることもできない。
視線を下に移すと、赤黒く光るドクターのペニスがあった。
「君の欲しいモノはそこにあるよ」
ドクターが囁き、エリィから指を抜いた。
エリィの腋に手を入れ、エリィの腰を浮かせる。
もう、見なくても手探りで自分の中にドクターを導けるのが情けない、と思いつつ、
エリィは自分のヴァギナの入り口にドクターのペニスをあてる。
自分で、腰を下ろす。
下から貫くような感覚が走り、ドクターの根本までエリィは銜え込む。
「あ…あぁっ…」
思わず、背が反り、顎が持ち上がる。
首の付け根にドクターが強く口づけた。
「ドクター…痛い…」
そのまま、ドクターがエリィに歯を立てた。
「君が…気が付かなかっただけなんだ…」
そうなのか、とエリィは思いながら腰を振る。
ずっとずっとドクターの愛情は貰えていたんだ。
でも自分が気が付かなかったんだ。
クレアさんが来るまで、何も変わらないことを望んでいたのは、自分だったんだ。
気持ちが動いてから、大切なことに気が付いても、もう手遅れなのに。
「んん…あぁっ」
エリィは思わず口を覆って天を仰ぐ。
ドクターが胸にキスをする。ピンクの乳首を吸われると、それだけでイッてしまう。
「ドクター…」
喘ぎながら、エリィが言葉を振り絞る。
「ごめ…んな…さい…でも…」
大きく、息を一つ吸い、一気に吐き出す。
「ドクターのこと…愛してます…」
やおら、エリィの腰を抱えてドクターが立ち上がる。
口づけをして、そのまま診察台へ向かう。
「やっ…入ったままなんてっ…あぁんっ…」
エリィの脚がひくひくと痙攣して、膣壁がびくびくと収縮する。
そのまま、自分を抜かないように注意して、エリィを診察台に仰向けにし、
ドクターが覆い被さる。
エリィがドクターの腰に細い脚を絡めた。
「君の中に…っ」
それだけ言って、ドクターが腰を前後に激しく動かす。
エリィはドクターにしがみつき、唇を力一杯吸った。
二人の動きが同調し、一層速くなる。同時に、舌を絡ませ合い、唾液を啜った。
「…いくよ…」
ドクターがエリィの最も深いところを何度も突くと、答えるようにエリィの膣が
震えてぎゅっと中が狭くなる。
エリィの求めに応じるかのようにドクターはエリィの奥に精を吐いた。
「んん…っ」
身を捩らせ、背を反らせていたエリィから、力が抜ける。脚が少し震えている。
肩で息をしながら、涙目になっているエリィの瞼に口づける。
こんなに余裕なくセックスしたのはいつ以来だろう、と思うとエリィは恥ずかしくなり、
思わず顔を覆ってしまう。
いつも片手間に、いつも暇つぶしに、してきたこととはまるで違う。
「ドクター…私…頑張ります…から」
何を頑張るのか、自分でもわからなかったけれど、
もっとドクターに気持ちをぶつけたいと、思った。
「…だから…」
気持ちが動いてしまうのは仕方が無いのかもしれないけれど、
エゴだと言われるかもしれないけれど、後悔したくないと、思った。
ふっ、と目の前が明るくなる。ドクターが顔を覆っていた手を取って、
にっこりと、優しく微笑んで唇に、キスをした。