春の感謝祭inアルヴァーナ カイル×セシリア
セレッソの花の咲き乱れる春の、よく晴れた、とある暖かい日。
カイルはセレッソ広場のベンチに座っていた。
先日、セシリアと待ち合わせの約束をしたのだ。
理由は不明だが、時間はとらせないと言っていたし、断る理由もない。
待ち合わせの時間よりも早めに広場を訪れ、彼女を待ち続けていた。
「あ、カイルさん! すみません、お待たせしましたか?」
メイドの仕事の合間らしく、メイド服のままでセシリアはやってきた。
手には小さな包みを持っている。
「いえいえ。…それで、どういったご用件ですか?」
「えっと、その…。…チョコを、受け取ってほしいんです」
少しばかり顔を紅潮させながら、セシリアが手に持った包みをカイルに差し出す。
最初は不思議そうな顔をしていたカイルだったが、笑顔でそれを受け取った。
「ありがとうございます、セシリアさん。…でも、どうしてまた急に?」
「実は…今日は、私の住んでいたカルディアの風習で、その…
す、好きな…男性に、チョコをあげる日なんですよ…。アルヴァーナには、そういう風習がないみたいですけど…」
『好きな』の部分のボリュームが非常に小さく、カイルの耳には届かなかったが、
セシリアからチョコをもらって全く悪い気はしなかった。
「ありがとうございます」
もう一度、笑顔で礼を言うカイル。
一方のセシリアは、先ほどと同様に、顔を紅潮させている。
「…あの、カイルさん?」
「はい?」
「少しだけ、目を閉じててもらえますか?」
「…? 構いませんけれど…」
言われるがままに目を閉じるカイル。
「い、いいって言うまで開けないでくださいね?」
「はぁ…」
…そのまま10秒ほど経過したが、何も起こる気配は無い。
「…あの、セシリアさん?」
そう言った、頬に何か柔らかいものが触れるのを感じた。
驚いて目を開けたが、そこにはさっきよりも更に顔が赤くなっているセシリアしか居ない。
「あ、すみません、まだ何も言われてないのに開けちゃって…」
「いえ、い、い、いいんです! あの、それより…チョコ、味見してみれくれますか?あまり、自信はないんですが…」
やけにあせっているセシリアに対し、怪訝そうな顔をするカイル。
…しかしそれよりも、つい先ほどの感触が何なのかが気になった。
一瞬、唇の感触なのではないか、などという考えが頭を過ぎったが、まさか、とその考えを自分で一蹴した。
包みを開けると、ハート型の小さなかわいらしいチョコレートが、何個か入っていた。
試しにひとつ、口に放り込む。
「…うわ、美味しい…」
「そ、そうですか? 良かったです…」
咲き誇るセレッソの花の下、微笑み合う二人。
相も変わらず、セシリアの顔はセレッソの花よりも色を帯びていたが、その笑顔は、
とてもとても、幸せそうな笑顔だった。