秋に花咲くキモチ

マナの秘密の事を見てしまってからカイルは落ち着かなかった。何より仕事が手につかない。ジョウロで水を撒いてもボンヤリして雑草に水を撒いたり、モンスターにブラシがけしてもいつの間にか、何もいない所にブラシをかけている始末。


仕事が上手く行かないのはマナも同じ。
荷物の配達でサツマイモを届けるはずがジャガイモを届けたりお釣りを支払いより多く渡してしまったりと失敗が続く。


ダグラス「マナ…一体どうしたのだ?」

マナ「あ………お父さん…」

ダグラス「何か悩みか?ならばこの父になんでも打ち明けるが良い」

マナ「・・・・・」

言えるわけが無い。片想いの男の家で自慰、さらにはそれを最も見られたくない相手に見られてしまったのだから。

ダグラス「さては…カイルに何かされたのだな!そうなんだな!?」

マナ「違うの!カイルは関係無いの!」(関係あるけど!)

ダグラス「安心しろ。マナよ。この父がカイルを絞めあげてやろう」

マナ「もう!お父さん!!!」

ダグラス「しかし…マナ…」

マナ「お父さん…大丈夫だから…」

二人とも気まずいのかお互い相手を避けている状態になってしまっている。
小さい街だ。いずれ皆にも気付かれてしまうだろう。

誰がこんな悩みを聞いてくれるだろうか…マナは街を歩きながら考える。

父親に改めて相談するか…いやいやそんな相談しようものなら卒倒して病院に担ぎ込まれてしまうだろう。

セシリアに相談しようか…いやいや…セシリアもカイルの事が好きなはず…互いに口には出さないが分かるのだ。


そんな事を考えながら歩き舟着き場まで来てしまった。
アリシア「あら…?マナじゃない?どうしたの?顔色が悪いわよ」

マナ「アリシア…」

アリシアはどうだろう…秘密を守ってくれそうだし何より経験や知識が豊富そうだ。

アリシア「ご飯でも食べに行く〜?エンドールさんのとこにさ」


マナ「うん…」


アリシア「何食べようか?太るからあんまりカロリー高いのは食べられないけどね〜♪」


マナ「うん…」


アリシア「…ねぇ…さっきから話聞いてるの?」


マナ「うん…」


アリシア「だったらいいけど。マナは何食べる〜?」

マナ「うん…」


アリシア「・・・」


アリシアはマナは宿屋まで引っ張るように連れて行った

エンドール「お待ちどうさま」


アリシア「わぁ〜美味しそう♪頂きま〜す♪」


マナ「・・・・・」


アリシア「マナも遠慮しないで食べてよ。今日は私のおごりで良いから♪」


マナ「・・・・・」


アリシア「…何かあったんでしょ?カイルと」


マナ「あ…」


アリシア「話してみてよ。力になれるかもしれないし」


マナ「…絶対、絶対誰にも言わないって約束してくれる?」


アリシア「あのねぇ…私は占い師よ。守秘義務は守るわよ」


マナ「…あの…実はね…この前…カイルの


マナはアリシアにこの間あった事の全てを打ち明けた


アリシア「ふ〜ん…大体分かったわ。でもあんたも随分大胆な事をしたわねぇ…」


マナ「…うう…言わないでよぉ…」


アリシア「…で、どんな顔して会えば良いか分からないって所かしら?」


マナ「…うん…それになんだか避けられてるみたいだし…」


アリシア「いっその事自分の気持ちをぶつけてみたら?」


マナ「え?でも…もしダメだったら?」


アリシア「…これ以上状況が悪くなるとは思えないけど?」

マナ「…そうよね。分かったわ。頑張ってみる。」


アリシア「…それにさ…」


マナ「それに??」


アリシア「…これはある意味チャンスかもよ?」


マナ「どうして?」


アリシア「…彼は確かにアルヴァーナの色々な女の子と仲良いけど…何ていうのかな…」

マナ「?」

アリシア「彼って…女の子をあまり意識してないみたいなのね。全然カッコつけたりしないで男の友達と同じように別け隔てなく付き合ってるから…今回の事で彼の心に火を付けられたかもしれないわね」

マナ「…避けられてるのに?」

アリシア「…多分そうだから避けられてるのよ」

マナ「…え?」

アリシア「彼は記憶が無いのよ。もちろんこれまでに好きな女の子との思い出もあったでしょうけど…そういうのも全て忘れちゃってるから…きっと戸惑ってるのよ」

マナ「あ…」

アリシア「…まあでもそんな純粋な彼だから女の子にも人気があるのでしょうね」

マナ「…」

アリシア「だから…あなたも彼を好きになったんでしょ?」

マナ「うん!」

一方のカイルと言えば…

相変わらず仕事が上手く行かず無駄な動きが多いためすっかり疲れてしまった。
カイル「はあ…どうしたんだろう?僕は…」

ジョウロを投げ出し牧草の上に寝転がる。

牧草の香りと涼しくなった風が心地よい。

こうして休んでいる間もマナの事が頭に浮かんで来る。
仕事が上手く行かない理由は分かっている。マナだ。彼女の事しか頭に浮かんで来ないのだ。街ですれ違っても心臓が飛び出しそうな程鼓動が激しくなる。
しかし彼には記憶がない…この気持ちの正体に気付けないのだ。

誰かに相談しようと結論を出したが…誰にすべきか?
彼は思考を巡らせある人に行き着いた。

ゴードンさんだ。彼なら聞いてくれるに違いない。
そして正しい結論に導いてくれる。
そう決めると彼はジョウロを片付け、街の教会に向かって走って行った。

カイル「ゴードンさん!」
ゴードン「おう、カイルか?どうした?俺の説教を聞きに来たか?」

カイル「いえ、違います!ゴードンさんに聞いて欲しい事があるんです!」

ゴードン「悩みの相談か?いいぜ、聞こうじゃないか」


さて…何から切り出したものか…カイルが悩んでいると…
ゴードン「話にくいのか?ならばこうしよう」

カイル「?」

ゴードン「俺がお前に質問をしていく。お前はそれに答えるだけだ。いいな?」

カイル「はい」

ゴードン「お前は何か困っている事がある。そしてそれを俺に話して解決策を探しに来た。そうだな?」


カイル「はい」

ゴードン「うむ。そしてその困った事を一つ挙げてみろ」

カイル「…仕事が上手く行かないんです」

ゴードン「うむ。その原因は分かるか?」

カイル「…マナだと思います」

ゴードン「ほう。マナが四六時中付き纏うのか?」

カイル「違います!…いえ…違わなくも無いんですけど」

ゴードン「…つまりお前の心の中にマナが付き纏うと言う事だと思うのだが違うか?」

カイル「…はい。」

ゴードン「それでお前はその心の中のマナをどうしたいのだ?」

カイル「…教えて欲しいんです。どうして僕はこんな事になってしまったのか?」

ゴードン「…お前…本当にそれが何か分からないのか?」

カイル「はい…もしかしたら病院に行った方が良いような病気なんですか…?」

カイル「街でマナとすれ違っても急に鼓動が激しくなっちゃうし…」

ゴードン「…ああ思い出したぞ。お前には記憶が無いんだっけか」

カイル「…はい。」

ゴードン「…道理で鈍いわけだ。マナも苦労するな」

カイル「???」

ゴードン「…話が逸れたな。本題に戻そう。カイル、お前は病気にかかっている」

カイル「…え…」

ゴードン「それもとびっきり重いヤツだ。ワイングラス片手にお供を付けて赤絨毯歩けるくらいタチの悪いヤツだな」

カイル「…そんな…」

ゴードン「お前の病名はな…『恋の病』だ」

カイル「……え?」

ゴードン「お前は…今マナの事が好きで好きでたまらないのだろう?」

カイル「…でもマナは前から好きでしたけど…?」

ゴードン「…違う。そうじゃない。例えばそうだな…確かマックスやレイとも仲が良かったよな?」

カイル「はい」

ゴードン「あいつらの事は好きか?」

カイル「そりゃそうですよ。大切な友達ですから」

ゴードン「その『好き』と今のマナに対する『好き』は一緒か?」

カイル「…あ…」

ゴードン「違うだろう?その『好き』ってヤツがな、カイル。人を愛するってヤツなんだよ」

カイル「ゴードンさん…僕はどうしたら…?」

ゴードン「簡単じゃねぇか!マナに自分の気持ちを伝えるんだ」

カイル「…でも…」

ゴードン「安心しろ。マナもきっとお前の事が好きなはずだ」

カイル「ええっ!?何で分かるんですか!?」

ゴードン「そりゃあ…大体マナの様子見てれば分かるからな…」

カイル「そうなんですか!凄いなあ」

ゴードン「いや…あれで気付かないって方がどうかしてると思うぞ…」

カイル「…あはは…はぁ…」

ゴードン「とにかく胸張って張り切って行って来い!」

カイル「はい!ありがとうございました!」

ゴードン「礼なんていらねぇよ。感謝するならここでマナとお前の結婚式を挙げてくれ。それが最高の礼だ!」

「はい!」

カイルが出ていった後…ゴードンは一人呟く

ゴードン「…ふっ…若いってのはいいな。久々に色々思い出しちまった…」

ゴードン「…なあ、お前。」

そういってゴードンは壁に架けられた絵の中で美しく微笑む婦人に目を向けた。

カイルは牧場に戻り、今日も出荷物の回収に現れるであろうマナを待っていた。

牧場に夕焼けの紅い光が差し込む頃、彼女は現れた。

カイル「マナ〜!」

マナ「…カイル?…どうしたの?」

カイル「…マナ…大事な話があるんだ…」

マナ「…え?」

カイル「…マナ…僕は…僕は…マナの事が好きなんだ。好きで好きでどうしようもないんだ!」

マナ「…カイル…」

カイル「…だから僕と…結婚してほしい!」

マナ「…はい。喜んで…」


カイル「!?なんで泣いてるの…?」

マナ「…違うよぉ…嬉しくて泣いてるの…」

カイル「…マナ…」

マナ「…ずっとずっといっぱいアプローチしたのに…カイルったら全然気付いてくれないんだもん…」

カイル「…ごめん」

マナ「やっと気付いてくれたのね…」

カイル「うん…」

マナ「…嬉しいよぉ」

カイルは泣きじゃくるマナを抱き寄せてキスを交した。

夕闇の迫る牧場に二人の重なる影が静かに伸びていた。


続く

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