素直じゃないあたし ピート×カレン

今日は冬の感謝祭。花の芽町の女の子が好きな男の子にチョコレートを渡す日である。
葡萄園の一人娘カレンも無論チョコを渡すつもりだ。
渡すつもりの相手はピート、町に引越して来て牧場を一人で切り盛りしている。いつも頑張る彼にいつの間にか惹かれていた。
ただ…カレンには一つ気掛かりな事があった。
それはケーキ屋のエリィである。
エリィと話をしていてピートが通りかかると明らかに様子が変わる。
目で彼を追ったりピートがこちらを向いて声を掛けたりすると下を向いて真っ赤になってしまうのだ。彼女がピートにチョコを渡さないはずがない。

さらに彼女はケーキ屋で働いているだけの事があり料理の腕もかなりのものだ。
カレンにとっては今回の冬の感謝祭の一番の強敵と言えるだろう。

カレンは普段はあまり口を聞かない母親に必死で頭を下げ、血の滲むような練習を重ねチョコレートケーキを完成させた。

いよいよ前日の夜…
「…はぁ明日か…上手く行くかな…」

(…ふふ♪ピートに渡したらどんな顔するかな?うまく渡せたら…告白しちゃおうかな…?)
等と妄想が膨らみ、カレンは夜遅くまで寝付けなかった。

翌朝…

カレンは昨日の晩に作ったチョコレートケーキを箱にしまうと牧場に向かった。

(ピート…いるかな?…)

牧場に入ってピートの家のドアに目をやると…

(!!)

そこにエリィとピートがいた。

カレンは慌てて物陰に隠れピート達の様子を伺う。

エリィは真っ赤になって綺麗な箱をピートに渡している。よく見るとピートもまんざらでも無い様子。

(……)

エリィが帰り、ピートが家に入ろうとした瞬間を狙ってピートに声を掛けた。

「…やけに嬉しそうね?」
「…カレン!?…見てたのか…」

「…あたしもチョコ持って来たけど…いらないでしょ?」

「…え?」

「…だってエリィのがあるんでしょ?あたしの義理チョコなんか欲しく無いよね」

「……義理?」

「そうよ!義理よ!なんか文句あるの!?」

「…いや…無いけど…」

「…とりあえず折角来たから渡しておくわ。」

「…ありがとう」

「言っておくけど義理だからね!義・理!」

「…そんなに力いっぱい言わなくても分かったよ…」

「変な勘違いされても困るから!じゃあね!」

嵐のように現れ去って行ったカレンを見送った後…肩を落として溜め息をつくピートの姿があった。

やってしまった…。
カレンは浜辺で膝を抱え落ち込んでいた。
(もう馬鹿馬鹿!あたしの馬鹿…何やってるのよ…)
素直になれない自分が嫌で嫌でどうしようも無かった。
(…ホントはあんな事言うつもり無かったのに。チョコレートケーキあげてピートが喜ぶのが見たかっただけなのに…)
溢れそうになる涙をぐっと堪えた時…

「カレン?」

不意に後ろから声を掛けられた。ピートである。

「何やってるの?風邪引くよ?」

「…別に。あんたには関係ないでしょ。」

カレンは立ち上がって体に付いた砂を払うと帰ろうと歩き出した。

「あ!カレン!」

「…何?何か用事あるの?」

「…あ…いや大した用じゃないんだけど…チョコレートケーキのお礼が言いたくて探してたんだ。」

「…そう」

「とても美味しかったよ。義理なのに気合い入ってるね」

「……」

「春の感謝祭は僕も頑張らないとな〜」

「…ただの…」

「…え?」

「……ただの…義理で……あんなに大変なのを…作るワケ無いじゃない…」

「……」


「…じゃあさっき言ってたのは…?」

「………ごめん…ね…あたし…」
カレンの目からはさっきまで堪えていた涙が一気に溢れてきた。

「……あたし…素直…じゃ…ないから…あんな…事…言っちゃって…ごめん…ね…」

カレンは泣きじゃくりながら必死に想いを伝える。

「…エリィが……チョコ…渡すの……見て…自信が無くなったの……だから…あんな……酷い事……」

「…カレン」

「…ホントは……ピートの事が………好きなのに……全然……言えなくて…」

「…ごめん…ね……ごめんね……」

ピートは泣きじゃくるカレンを優しく抱き締め、囁いた。

「…僕もカレンの事が好きだよ」

「!!」

「だから義理って言われた時…ホントにショックだった…」

「…ピート」

「でも良かった」

「………」

カレンはまた泣き出してしまった。

「もう泣かないでも大丈夫だよ…」

「…違う……よ……これは…嬉し涙……」


カレンが泣き止んだ後…
二人は浜辺に並んで座って海を眺めながら喋っていた。

「久しぶりにいっぱい泣いちゃった……ところでさ」
「うん?」

「エリィのチョコはどうしたの?」

「まだ食べてないよ」

「…突き返して来てよ」

「ええっ!?」

「何よ?文句あるの?」

「流石に悪い気がするんだけど…」

「ちょっとあんた浮気するつもり!?」

「違うよ!…ちぇっ素直なのは泣いてる時だけか…いつもそんななら可愛いのに…」

「何それ!?普段のあたしは可愛いくないって事!?」

「そんな事言ってないじゃないか…」

「そう聞こえたの!…ふんだ!どうせあたしは可愛くないわよ」

「もう…拗ねるなよ」

「知らない!ピートなんか嫌い!」

「…さっき好きだって言ったのに?」

「…」

「…僕はカレンの素直じゃない所も好きだよ」

「…ホント?」

「…うん」

「ピート♪」
カレンはピートの腕に抱きつき嬉しそうにしている。
「ゲンキンだなあ…」

「あたしとくっつけて嬉しい?」

「うん…でもカレン…その…胸が……当たってるけど…」

「ん〜なぁに?」

「いや…別にいいけど」


「ねぇ…それでいつ青い羽くれるの?」

「青い羽!?いつの間にそんな所まで話が…」

カレンの言う青い羽とはこの地方のいわゆるプロポーズの証である。

「どうなのよ?」

「え〜っと…今すぐってワケには行かないな…。もっとお金を貯めて…家を大きくして…そうしたら…」

「そうしたら?」

「そうしたら…必ずカレンを迎えに行くよ。青い羽を持って…」

「ホントね?あたし待ってるから…いつ頃になりそうなの?」

「う〜ん…後半年は掛かるかな…」

「えーっ!?そんなにかかるの!?もっと頑張りなさい!!」

「そんな事言ってもな…」

「…ここであたしと喋ってる暇があったらさっさと働いて来なさい!」

「はいはい…」

半年後…無事カレンと結婚したものの常に尻に敷かれるピートの姿があった。


END

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