二人の春は終わらない
春の感謝祭―――バレンタインデー―――乙女たちの戦いが終わった。
春の月の末、自宅でテーブルの上にチョコを並べながらカイルは迷っていた。
(チョコ貰ったからにはお返しなきゃなぁ・・・はは)
一応女の子全員から貰った。ちゃんと手作りだ。
毎日好物を配ってラブ度を10にしていれば当然である。
「全員にお返しっていうのも大変だし誰か一人にしよう」
カイルのそんな独り言を盗み聞しているのはもちろんマナである。
(フムフム・・・お返しね・・・絶対貰ってみんなに自慢してやるわ!)
・・・と言っても貰う方法など全くない。
(そうだ!海開きでかわいい水着姿を見せて・・・)
と思って自分の胸を見る。
(こんなぺったんこじゃ誰にも勝てない・・・ダメね)
がっくしと肩を落とす。
そのときとつぜん、
「あれ?マナ?いるの?」
カイルが声をかける
(やばっ、ばれちゃった・・・ここは冷静に)
「えっと、暇だから遊びに来たよ♪」
「おはよう、マナ」
汚れのない笑顔に照れて顔を赤くするするマナ。
「あれ?顔が赤いよ?熱でもあるのかな?」
そう言っておでことおでこをくっつけるカイル。
(そ、そんなことしたら余計・・・)
ばたっ
マナがのぼせて倒れる。
「マ、マナ大丈夫!?」
そこから記憶がない
「う、う〜ん。あ、あれ?ここは・・・」
見覚えのある場所だ。
「僕のベッドだよ。マナ、本当に大丈夫?」
たしかにベッドからカイルのやさしい匂いがする。
(ってカイルのベッドで寝てるの、あたし!?ど、どうしよう???)
また顔を赤くする。
「あれ?まだ顔赤いけど本当に大丈夫?」
ヤ、ヤバイ。また同じことになっちゃう。
「大丈夫よ、これぐらい。ちょっとめまいがしただけだから」
「じゃあ、気の済むまで寝てってください。僕は仕事してきます」
と言ってクワを抱えて下へ降りようとするカイル。
(これはチャンスかも!)
よし、と気合を入れて
「ちょっ、ちょっと待って」
「へ?」
「もうちょっとだけここにいて」
「・・・いいですけど?」
ベッドの横で椅子に座りマナを見つめるカイル
「あと、えと、カイルってす、好きな人っている?」
ストレートに聞いてみるマナ
「好きな人・・・?みんな大好きですよ。もちろんマナもダグラスさんも」
言うと思ったが、マナはめげずに、
「じゃ、じゃあ気になるって言うか、カワイイって言うか、そんな人いる?」
「いえ、別に」
思わずベッドから落ちそうになる
「もういいわよ!この鈍感男!」
カイルの家を泣きながら飛び出す。全力で家に走って行く。
家に入るとダグラスが、
「ど、どうしたんだ、マナ!?」
出た、心配性。
「何でもないわよ」
「さてはカイルだな。よし、締め上げてくるから待っててくれ」
そんなことされたら、カイルに嫌われてしまう。
「違うわよ!お父さんは黙ってて!」
「・・・すみません」
二階に上がってベッドに倒れこむ。
(何であんなこと言っちゃったんだろう、あたし・・・)
枕を抱きしめる。思わず嗚咽が漏れる。
(カイルが鈍いって分かってたのになぁ・・・)
「そこで泣いてるマナお嬢様はどうしたんですか〜」
横目で見るとアリシアだった。
今は話す気になれない。
「ほら、涙を拭いて。私に話しなさい」
「ヤダ・・・」
「何言ってんの。天才占い師に相談すれば悩み事なんて簡単よ」
涙でぬれた枕から顔を上げる。
「カイルのことなんだけど・・・」
「それこそ言いなさいよ。私は恋占いは得意よ」
「実は・・・」
今日のことを話す。
「ふ〜ん。そんなことがねぇ・・・」
返事が軽い・・・よくよく考えればアリシアもカイルにチョコをあげているんだった。
親友だからといって恋のライバルの相談に乗るなんてアリシアは大人だなと思う。
「彼は誠実だし、優しいし、気も利くし・・・」
アリシアはカイルのいいところを挙げていった。
よく見れば彼女も顔は赤い。
(やっぱり相談しにくいわね・・・)
「ま、まあとにかく彼はいい人だってこと。だから何かしらあると思うわ」
「え・・・ちょっと適当すぎない?」
「待ってれば分かるわよ。期待してなさい!」
(これじゃ、占いじゃなくて相談だわ・・・)
それから3日間マナはボヶーとしていた。
仕事も手につかず、ただ生きる屍のように。
さすがにアリシアは
「いい加減。生き返りなさいよ〜。たかが占いなんだから」
などと言ってくれた
(占いした本人がそんなこと言わないでよ・・・)
と、内心ツッコミを入れながら。
三日後、マナは用もなく掲示板を見るとカイルの依頼があった。
「お話があります。あの木の下に来て下さい」
そのとき、マナの心臓は爆発しそうになった。
掲示板の前で小躍りしているのをセシリアに見られてしまったのも気付かなかった。
「どうしてしまったんでしょうか。マナさん」
とアリシアに問いかける。
「さあね。何かあったんじゃない」
そう苦笑いするアリシアの目尻に涙がたまっていることは誰も気付かなかった・・・
マナがセレッソの木の下に行ってみると、カイルは先にいてその木を見ていた。
「あの・・・カイル」
「あ・・・マナ・・・えっと、この前はごめん。変なこと言っちゃって」
「い、いやあれはわたしが勝手に怒っただけで・・・」
内心ほくそ笑むマナ。
「それでお詫びも兼ねてこれ・・・」
と言って白い箱を取り出す。
(まさか、これは・・・)
「これ!春の感謝祭のお返しにチョコを僕が作ってみました」
「開けても・・・いい?」
「もちろんです!」
さっそく開けると何と・・・カブの形のチョコが入っていた。
思わず笑ってしまう。
「あはっあははっあはははっ、あたしがサクラカブ好きだからって形までするとは」
「ダ、ダメですか?」
「何言ってんのよ。嬉しいに決まってるじゃない。あそこで一緒に食べよ♪」
マナはベンチを指さす。
「はい!」
さっそくマナは一口食べた。
(あれ??変な味がする・・・何で?)
チョコをよく見るとカブが細かく刻まれたものが入っている。
(・・・チョコレートにカブはないでしょ・・・料理スキル1だからしょうがないわね・・・)
「味はどうですか?」
「もちろんおいしいわよ。な〜んかあげるのもったいないなぁ〜」
と言って残りを全部食べてしまった。
「ありゃ〜。ちょっとぐらい残して下さいよ〜」
「ちょっとあげるわよ・・・口移しで」
「?今何て言っ・・・」
マナはカイルにキスをした。
カイルも最初はビックリしていたが、後は彼女を優しく包み込むようにキスをした。
セレッソの花びらが舞う中でディープキスをしている二人はまさに恋人同士だった。
(この時間が永遠に続けばいいのに・・・)
と思うくらいマナは幸せだった。
苦しくなって唇を離すとカイルは、
「マナ・・・僕と結婚してくれないか・・・」
と言って婚約指輪を差し出した。
「うん・・・いいよ」
こうして愛する二人は永遠に結ばれた。
〜END〜