君はペットバトン - 2008/03/21



王室会議の佐奈様から、リオウ飼い主とのご指定つきで、君はペットバトンをまわしていただいた。
「家に帰ってきたら玄関前に怪我をした『ローデンクランツ王女』がいました。どうしますか?」

こんな素晴らしいネタをリオウ様の誕生日に頂戴してしまったら、はっぴーはっぴーなものを書かなきゃウソだろうと思った。
「待ってろよリオウ、すぐにすっげープリチーな姫をプレゼントしてやっからな!」とか思った。

一週間以内に回答したいとほざいた。一週間あれば余裕で回答できると思っていた。甘かった。

妄想するのがあまりに楽しくて、題意逸脱、大暴走。長ったらしい、SSのような回答になってしまった。……これ、回答したうちに入るのか???
しかもあんまりはっぴーじゃない……。

佐奈さんごめんなさい。
リオウごめん。

最後の設問と回答は(→この辺)にあります。

君はペットバトン
飼い主:宮廷楽士リオウ(カイン様教育期間中・建国祭以降)


深夜。
所用を済ませ、神殿脇の林から戻ってきて、建物の入り口に姫を見つけた。
姫も僕に気づいたらしく、こちらに向かって歩きはじめた。
二歩、三歩、四歩……彼女の歩みはいつもより遅くてぎこちなかった。
足を引きずっている……怪我をしているのか? ――慌てて彼女に駆けよった。

●家に帰ってきたら玄関前に怪我をした『ローデンクランツ王女』がいました。どうしますか?

建国祭の晩以来、王子の授業以外で彼女と顔を合わせるのは初めてで、とにかく気まずかった。
加えて、僕に会いにきたのだと言われれば、警戒心ばかりが鎌首をもたげた。
こんな夜更けに、一人で僕に……姫は果たして丸腰なのだろうか、足を引きずって見せたのは、僕を油断させるための演技ではないだろうか……――そんなことまで考えてしまったのは、彼女に酷いことをしたという自覚があるからだ。
しかし彼女を追い返すことなどできるはずがなく、となれば僕の部屋へ連れていくしかなかった。
彼女が本当に足を痛めているなら、歩かせるべきではないと思った。
かといって抱きあげて運ぶというのも憚られた。
彼女に触れることを迷った挙げ句、肩を貸すことにした。
あの夜と同じように、二人で僕の部屋へと歩いていく。

部屋の扉を固く閉ざし、姫に長椅子を勧め、怪我の状態を確かめる。
僕に会いにくる途中で転んだのだと彼女は言うが、その言葉に偽りはなさそうだ。
衣服の汚れ、両手のかすり傷、右足の捻挫――どんな転び方をしたのかさえ察することができた。
本来なら典医に診せるべきなのだが、彼女自身がそれを望まないなら仕方がないし、僕も怪我には慣れている。手早く処置を施した。
薬草茶と焼き菓子を用意し、卓を挟んで向かい合わせに腰をおろす。
姫がこんな時間に僕を訪ねてきた理由を、ゆっくり聞き出そうと思った。……が。
とりとめのない会話と沈黙が繰りかえされるうちに……ほんの一瞬、僕が目を離した隙に……、姫は姿勢良く腰掛けたまま、寝入ってしまった。

○手当をして食事を与えると眠ってしまいました。何処に寝かせる?

薬草茶はただの薬草茶。緊張を解すくらいの効能しかないし、睡眠薬など入れていない。焼き菓子も然り。
なのになぜ、こんなことになるのだろう。
あれからまだ二週間と経っていない。
姫はこの部屋で起きたことを忘れてしまったのだろうか。僕が怖くはないのだろうか。――眩暈を禁じ得ない。
起こして彼女の部屋まで送り届けようかと思ったが、やめた。
深夜、目撃される危険を犯してまで、そうしなければならない理由がなかった。
抱きあげても起きない姫を僕の寝台へと運び、捻挫している足に注意しながら横たえた。
困惑が深すぎて、邪な欲求など皆無だった。
否。彼女の額に口づけたいとは思ったけれど、なにかに試されているような気がしてできなかった。
そして僕は長椅子で浅い眠りについた。


寝台が軋む音に目を開けば、姫が床に足をつけるところだった。
起きあがった僕に気づくと、姫ははにかみながら「おはよう」と言った。
外はまだ薄暗い。
今なら人目も少ないだろう。彼女を送っていくにはちょうど良い。
そんなことを考えながら、足早に歩み寄る。
「一晩では治らないわね」と苦笑する姫を、一旦、寝台に座らせた。
と、……姫は唐突に、とんでもないことを言いだした。

●朝起きると「しばらくおいて」と言ってきました。どうしますか?

自分の耳を疑った。
からかわれているのだと思ったが、いくら待っても彼女は自分の言葉を取り消そうとはしなかった。
一介の楽士が王女を部屋に泊めてしまっただけでも問題だというのに、彼女はいったいなにを……――向けられる柔らかい笑顔を、呆然と眺めていた。
まあ、でも……。
王宮は王族のもの。
彼女がどこでなにをしようが彼女の自由で、僕の部屋が居場所に選ばれただけのこと。
……ではなくて。
戯れにもほどがある。
姫は僕などを相手に浮き名を流したいというのか。
それほどあの夜の行為がお気に召したというのか。
……でもなくて。
僕は寝起きは悪くない方だ。なのに頭が混乱して、考えがまとまらない。
「だめかしら」
「だっ……だめというよりも……」
「犬や猫のようにそばにおいてほしいのよ。今夜からは私が長椅子で寝るわ」
「……っ、なんということを……皆に知れれば……」
「誰にも言わないわ。このままここに隠れているから大丈夫よ」
それはつまり、皆に内緒で、犬や猫のように君を飼えと?
確かに僕は君に、僕のものになるよう迫った。でもこんなのは無茶だ。
君はこの国の王女。帰りが遅いだけで捜索本部が設立されてしまう身分だというのに、ここで飼うなんてどう考えても不可能だ。
そもそも僕は、君を飼いたいと思ってあんなことを言ったのではなく……。
全身から力が抜け、自然と姫の前に跪いていた。
そのままの姿勢で懇願する。
「姫……僕を困らせないでください」
困るなら、冗談として受け流してしまえば良い。
それができないのは、自分に負い目があるからだ。姫がこんなことを言いだした理由に、僕は気づきはじめていた。
「では、私が毎晩こっそりここに来るというのは、どうかしら」
姫は、取引を忠実に履行してみせる一方で、おそらく僕を監視したいのだ。王子に手を出さないように。
「……わかりました。ですが椅子で寝るのは僕です。それだけは譲れません」
建国祭の晩、姫を部屋に送り届けたとき、彼女は僕を信じると言ってくれた。
あの言葉は偽りだったのだろうか。
窓の外が明るくなっていく。


○話し合いの結果ペットとして飼う事になりました。好きな名前を付けて良いとの事、なんてつけますか?そして、あなたをなんて呼ばせますか?

その夜、足を引きずりながらも、宣告通り僕の部屋に忍んできた姫の第一声に、またもや僕は呆然とした。
『飼い犬や飼い猫には、主が自由に名前をつけるべきだと思うの』
真綿で圧殺するような遣り口……これは、彼女なりの復讐なのだろうか。
それとも、あんな方法で彼女を手に入れた僕に、神が下した罰なのだろうか。
「……姫は『姫』です。それ以外、僕には考えられません」
「そう……。わかったわ。では、私はあなたをなんと呼べば良いかしら?」
「えっ?」
「『リオウ様』、『ご主人様』、『我が主』、『我が君』……」
「待ってくださいっ、それでは立場が逆です!」
「逆ではないわ。私が飼ってもらうのだから……」
「姫……僕のことは今まで通り『リオウ』と……お願いします」
これは監視であり復讐であり天罰なのだ。
建国祭の前夜、僕は大きな罪を犯した。その帰結がこれなのだ。


姫は僕に飼い主という役目を言いつけ、夜毎、僕の部屋に通ってくるようになった。
事が露見したとしても、僕は平民、彼女は王族。
おそらくやんごとないお方の戯れとして片付けられるだろう。
僕は王宮を追放されるかもしれないが、それこそが彼女の策なのかもしれない。
そこまでわかっていながら……なぜ僕は、彼女に湯浴みを勧めてしまったのだろう。

●お風呂に入る様に言いつけると「怪我をしているから頭を洗って」と言ってきます。洗ってあげる?

逆らえるはずがない。
第三者に現場を押さえられないよう最大限の手を打ってから、湯船につかる姫のもとへと赴いた。

上質な装飾が施された桶から立ちのぼる湯煙。
その中心で心地よさそうにしている華奢な身体。
可能な限り見てはいけないし、可能な限り触れてはいけないと、己を戒める。
彼女は「頭を洗って」と言ったのだ。それ以上のことをしてはならない。
しかし姫は……なぜ隠す努力をしてくれないのだろう。湯着を着るとか、なにか羽織るとか、方法はあるはずなのに。
狼藉を働いた前科がある僕に、裸身を晒せる姫の考えがわからない。
今さら隠しても意味がないとでも思っているのか。
それとも、僕を誘っているのか……。
「……そんなことはないか」
「え?」
「いえっ、なんでもありません」
彼女の背中にまわり、薄目で輪郭を確かめて、濃茶の髪に手を伸ばした。
「失礼します」
「お願いね」
姫の声は少し弾んでいて、はにかむような笑顔を思い起こさせた。
正面にまわれば、きっと本当にそういう表情を見られるのだろう。
悪い夢に捕らわれているかのようだ。早く済ませてしまおう。そう心に決めて手桶を取り、ひとまとめにした髪を濡らしていく。
髪から柔らかなうねりが失せ、肩の線が露わになっていく。
湯面に浮かぶ真紅の花弁は、姫の肢体を申し訳程度にしか隠しておらず、むしろこの光景をより扇情的なものにしている。
髪と頭に集中しろ、それ以外は見るな――理性の戒めは、下腹部ではとうに綻んでいた。
意識を強引に逸らす。
長老達はうまく誤魔化せただろうか、暗殺の依頼人はどいつだ、どうすれば二人を守り通せる……――そういったことに考えを巡らせればいつしか僕の頭は冷え、洗髪も八割方終わっていた。念入りに姫の髪をすすいでいく。
後ろ髪を掻き集めようとして、指先が首に触れてしまった時だった。姫が少し肩を震わせた。
「湯を足しますか?」
「いえっ、……大丈夫よ」
盗み見れば、肌も色づいている。寒いわけではないらしい。
そして、答える声は固かった。
やはり姫は、恐怖を押し隠していたのだ――少し、ほっとしてしまった。
王子を守るための、捨て身の監視。
僕のものになるという約束を忠実に守り続けることで、僕の翻意を防ぐ。
あるいは僕の翻意を早期に察知して、なんらかの手を打つ。
姫にここまでさせる王子に、うっすらとした殺意さえ湧き起こる。――黙殺する。
「……ぁ……」
突然、姫が小さく声を漏らして、前で手を組んだ。
「どうかなさい……」
油断した。
姫の手の位置からして、なにも見えないだろうと頭のどこかで楽観し、肩越しに前を覗きこんでしまった。
だが、両手は喉元の少し下にあって、肝心な場所をまったく隠していなかった。
白い湯桶、白い肌、赤い花弁、桃色の……――慌てて目を逸らした。
隠すべきはその下ではないのか……!
姫は僕がしたことを忘れてしまったのか。僕が怖くはないのか。
手桶を取る。無我夢中の突貫作業ですすぎを終え、声をかけてから姫に背を向けた。
部屋を出るとき、一度だけ振り返った。
姫の背中が寂しそうに見える……間違いなく、僕の気のせいだ。


○『ローデンクランツ王女』がお散歩(お出かけ)したいと言ってきています。何処に連れていき、何をしますか?

ジーンのこともある。散歩は王宮内で済ませたい。
だが庭園やテラス、博物館を提案しても、姫はあまり嬉しそうではなかった。遠出したいのだろう。
足も治ってきたし、気分転換したいのはわかる。だが、無防備すぎる――胸の内で溜息をつき……すぐに思い直した。
出かけた先でなにが起きても、僕が彼女を守り通せばよいのだ。建国祭の晩も、そう約束したではないか。
幸い姫は僕に選択を委ねてくれた。ならば、彼女を守りやすい場所――勝手を知っている場所に連れていけばよい。

「姫、この服にお召し替えいただいてもよろしいでしょうか? 今日は一風変わった場所へご案内したいのです」
僕が彼女に差し出したのは平民の……しかも男物の服だった。
畏れ多いことだ。却下されるかもしれないと思っていた。
しかし姫は笑顔を崩さず、当然のことのようにそれら一式を手にとった。

二人きりでこっそり抜けだして、エシューテの港へ行ってみよう。
視察でまわることなどまずないであろう、路地裏の光景を見てもらおう。
この際だ。多少、怖い目にあってもらうのもいいだろう。姫の顔は、怯えていてもきっと綺麗だ。
それで警戒心を持つようになってくれるならば、一石二鳥というもの……。

少なくとも前者に関して、彼女は僕の期待を裏切らなかった。


●『ローデンクランツ王女』が寝たいそうです。何と言ってくるでしょうか?一緒に寝ますか?

姫は毎晩なんらかの話題を用意して僕の部屋へやってくる。
それが尽きてくると寝る時間――就寝への通過儀礼がはじまる。
「姫。そんな目で見ても駄目です。そこは僕が寝る場所です」
長椅子に腰掛けた姫は、肩を落とし、表情を曇らせる。
「どうしても駄目?」
「はい。それだけは譲れないと最初に申し上げたはずです」
きっぱり告げると、姫はおとなしく立ちあがってくれた。
当初は双方が、長椅子で寝ると強く主張し合っていた。
姫は身体を張って椅子を占拠したし、そんな彼女を僕は半ば強引に寝床に押しこめ、事を収めていた。
「決定権は飼い主の僕にあります」――無礼を承知でそう言い放ったのは、姫が通ってくるようになって五日ほどたってからだろうか。
それを機に、就寝前の通過儀礼はかなり簡略化された。
だが、今日の姫はずいぶん素直だ。
嵐の前の静けさ――そんな文句が脳裏を過ぎる。
「……一緒に……というわけにはいかないのね?」
寝台へと歩を進める姫が、僕に背を向けたまま、呟くように言った。
後ろ姿が酷く寂しそうだ。数日前、湯煙の向こうに見た白い背中を思い起こさせる。
「ゆっくり、おやすみになってください」
どう断ろうか少し考え、ただ聞き流すことにした。
と、
「リオウは飼い主なのだから、す、好きにして良いと思うの」
姫は突然こちらに向きなおった。
「だから……一緒に……」
やっぱり嵐がきたか――胸中で冷めた言葉を吐き、動揺を凍らせる。強いまなざしから目を逸らす。
『へえ……いいんだ?』――不意に、自分が口にした言葉を思い出した。そのあとで自分が彼女にしたことも。
わずかに視線を戻せば、綺麗な首飾りのそばで、華奢な手が震えている。
気づけば僕の心の臓も震えていた。
状況を長く放置しすぎた。意を決したとばかりに、姫は自分の服を床に脱ぎ落としてしまった。
「私は、あなたのものでしょう?」
確認の問いは自信なさげで、縋るような響きを帯びていた。
姫を僕のものに――そんなのは一夜きりのことだと諦めていたのに。
否。強硬手段に出れば何度でも叶う願いだとは思っていた。壊れかけた関係を守り、繕いたくて、そうしなかっただけだ。
ここ数日間、僕は実に禁欲的に耐えてきた。
もう限界だ。

ふと目を開けると、窓の外が白んでいた。
姫を部屋に帰さないと――慌てて起きあがり、そのままの体勢で硬直した。
帰すべき存在を、僕は下敷きにして寝こんでいたらしい。
姫はよく眠っている。起こすのが忍びないほど安らかな顔をしていた。
まあ……もう少ししてからでもいいか……――静かに姫の上から退いた。
いつ眠りに落ちたのか思い出せない。寝ようと思って寝たわけではないのだろう。
口づけたいと思う相手と、またしても、口づけてはならない関係のまま交わってしまった。自分を抑えられなかった。
あの夜、姫は初めてだと言っていた。ならばおそらく昨夜は二度目で、無茶など許されなかった。……なのに。
掛布を探して首を巡らせれば、そこかしこに僕が吐き出した精の跡や姫から溢れ出た雫。頭の痛くなる光景が広がっていた。
姫は今度こそ思い知ったに違いない。僕はこれまで以上に警戒されるだろう。

甕に湯を汲んで部屋に戻ると、姫はすでに目を覚まし、寝台の上で所在なげにしていた。起こす手間が省けたらしい。
「これを……」
寝台の脇に甕を下ろし、姫に手拭いを渡す。
ふと窓の方を見やって、朝の挨拶がまだだったことに気づいた。
だがそんなものに意味などあるだろうか。今はそれよりも……。
「ごめん……」
謝罪をと思った途端、簡潔すぎる言葉が口をついて出た。
「後悔……しているの?」
「当然です」
「なぜ……?」
姫の問いを、苦い思いで受けとめた。
僕には前科がある。いきなり狼藉を悔やんだりすれば、不思議に思われるのも仕方がない。だが、
「私に……愛想が尽きたの?」
そんな疑問に繋がっていくのは、少し意外だった。
……否。意外ではない。ちょっと考えればわかることだ。表現こそ遠回しだが、これは、「飽きたのか」と――「取引の対価として魅力が失せたのか」という質問なのだ。
とんでもない。姫が納得しやすいように、はっきり言った方が良いのだろうか。
『夕べの君はとても可愛かったよ。このまま遠くへ連れ去って、どこかに閉じこめてしまいたいくらいだ。君は僕に飼われに来たんだから、すべてが終わったあとなら、それくらい構わないよね?』――と。
だけどそれは本音の一部でしかない。僕は姫の身体だけでなく、信頼も――心も欲しい。無茶な願いだ。
「僕は、ただ……」
「ごめんなさい」
二つの声が重なった。
どちらの方がより大きいということはなかったが、気合いでは僕が負けていた。
少しの間をおいて、姫が言葉を続ける。
「本当に、ごめんなさい。……私、焦っていたの」
視線を転じれば、姫は力なくうなだれていた。
一糸纏わぬ無防備な姿は相変わらず。目を逸らそうとして、ふと気になった。
姫は胸元に手を当てている。肝心な場所を隠そうとせず、その上を……そこにもっと見られたくないものがあるかのように。……数日前、薔薇の花弁が散る湯船でも、同じことをしていた。
「……証が……、……約束の証が、……えて……」
早朝の空気に寄り添うような、静かな声。それが、一瞬だけ揺らいだ。だがすぐに元の調子を取り戻す。
「消えて、しまって……」
そこまで聞いて、彼女がなにを隠していたのかようやく理解した。
僕が戯れ混じりに残した口づけの跡。
ひとときでも彼女を所有したのだという、馬鹿げた昂揚感から刻みつけた印。
そんなのはもともと消えてしまうべきもので、消えたからといって、彼女が気に病む必要などなかったのに。
「不安に、なって……焦って、しまって……」
昂りを押し殺すための代償なのか、細い指先がどんどん柔肌に食いこんでいく。放っておけば痣になるだろう。
寝台に上がり、強ばった手をどかして姫を押し倒した。赤くなりはじめていた一点に口づける。

顔を上げ、印のつき具合を確かめた。
「また、数日で消えると思うけど……君の覚悟は、もう十分見せてもらったから」
身体を起こせば形の良い乳房が目に入った。
夕べあれだけのことをしておきながら、まだ欲が湧き起こる。
早々に寝台を降り、姫から距離をとった。
「……だから、次はこんなこと、しなくていい。飼うとか飼われるとか、そういうのは、もう……」
不意に息がつまって、言葉を切った。
奇妙で慌ただしかった日々の、思い出と呼ぶには新しすぎる記憶が、次々と脳裏を過ぎっていく。
『終わりにしよう』――最後の一言が出てこない。
何度、息を継ぎなおしても、唾を飲みこんでも、終わらせるのが名残惜しくて声が出ない。
身体だけでも手に入るならいいじゃないか。このまま続けてなにが悪い。言ってしまったことを取り消せ。飼い主でいたいだろう? ――欲にまみれた叫びが頭の奥でこだましはじめる。
長い沈黙を退けたのは、「ありがとう」という穏やかな声だった。
座した姫の方へと目を向ける。手は、さっきまでのように胸元に当てられていた。
「リオウは私にここを使わせてくれるから……長椅子では身体が休まらないでしょう? 何日もごめんなさいね」
顔を上げた姫と、しばし見つめあう。目には映らないなにかが、往き来したような気がした。


長いようであっというまだった。
心地の良い寝床が、寂寥感をかきたてる。
あの時……姫は僕が刻みつけたばかりの印に手を当てて、寂しそうに、愛おしそうに微笑んでいた。
『でも私、あなたに飼われるの、嫌ではないのよ』――去り際にはそんなことも言っていた。
姫はもう通って来ないけれど、飼う飼われるの関係が本当に終わったのかは、よくわからない。

○他にペットとどんな事をしたいですか?

笛を取りだして掲げ、側面に彫り込まれた文字の凹凸を指先で確かめた。
僕の原点に連なる、遠い異国のもの。
もし、姫が望んでくれるなら、いつか……。

いや、考えるのはよそう。
まずは彼女との約束を果たす。すべてはそれからなのだから。


●バトンを回す人、『』に指定して6人に回してください。

『 (王宮キャラなら誰でも) 』、飼い主属性指定なし。
王宮のお好きなキャラを飼ってあげてください。 飼い主はご自身でも、お好きなキャラでも構いません。
可愛がるもいぢめるもご自由に♪
お時間がありましたら、よろしくお願いします〜。

(HN五十音順)
 あさぎあづさ様@*sight [other side]
 シギ様@ESCAPISM
 悠様@仰月

君はペットバトン
●家に帰ってきたら玄関前に怪我をした『 』がいました。どうしますか?
○手当をして食事を与えると眠ってしまいました。何処に寝かせる?
●朝起きると「しばらくおいて」と言ってきました。どうしますか?
○話し合いの結果ペットとして飼う事になりました。好きな名前を付けて良いとの事、なんてつけますか?そして、あなたをなんて呼ばせますか?
●お風呂に入る様に言いつけると「怪我をしているから頭を洗って」と言ってきます。洗ってあげる?
○『 』がお散歩(お出かけ)したいと言ってきています。何処に連れていき、何をしますか?
●『 』が寝たいそうです。何と言ってくるでしょうか?一緒に寝ますか?
○他にペットとどんな事をしたいですか?
●バトンを回す人、『』に指定して6人に回してください。

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