本日10月14日は沢田綱吉の誕生日である。 愛しの10代目の誕生日を誰よりも喜び騒ぎそうな自称右腕は… 現在高熱にうなされていた。
数日前から何をあげたらツナが喜ぶか、 夜も寝ないで必死に考えていた結果がこれでは情けない。 しかもプレゼントすら買えてない。
あー…一生の不覚だ。 ださすぎる…。
せっかくのツナの誕生日なのに何をやってるのかと自己嫌悪に陥る。
ともかく、意地でも夜までに熱を下げて、せめておめでとうの一言ぐらいは言いに行きたい。 と言うかオレが10代目に会いたい。 薬を飲もうにも体が思うように動かない。 仕方ないので、ベッドの上に転がっているといつの間にか眠ってしまった。
ふと意識が戻ると、トントンと音が聞こえ美味しそうな匂いが漂ってくる。 いー匂いだなぁなんて、ぼーっとする頭で考える。 まてよ。 一体誰が居るんだ? オレのこの部屋に勝手に上がってこれる奴なんて限られてないか?! 恐ろしい事に、ドアノブを溶かして料理を作りそうな人間が居る。しかも身内に。 このまま寝たふりを… いや、駄目だ。寝ていても口をこじ開けて食べさせるだろう。 熱いのに冷や汗が止まらない。 足音が近づいてくる。
「って、あれ?10、代目…?」
「あ、起きた?獄寺君」
「は、はぁ。あのなんで10代目がオレんちに?学校は?」
「獄寺君が熱出したことをリボーンに言ったら、ビアンキが…看病しに行くって聞かなくてね…。
だからオレが行くからビアンキは大人しくしててって言ったんだけど、
オレが学校に行ってる間だけでもって言うから、サボってきちゃった。
鍵はリボーンが持ってたから、勝手に上がらせてもらったよ」
「すいません、オレのせいでご迷惑を…」
「獄寺君のせいじゃなくて、獄寺君の為に来たんだよ」
「え?」
「だって心配だったから…。元々学校帰りに看病しに来るつもりだったんだ。
それが少し早くなっただけだし、気にしないで、ね?」
「10代目…!ありがとうございます!!」
キッチンから良い匂いが漂ってくる。
「あ、薬飲む前に何か胃に入れないとまずいだろうから、勝手にキッチン借りてるから」
ツナがキッチンへと走る。
10代目がオレに手作り料理…!
てっきりビアンキの料理だと思っていただけに、感動もひとしおだ。
…って10代目の誕生日にオレがサービスされてどうする!
「10代目!飯ならオレが…っ!」
ツナの居るキッチンへ向かおうとしたが、急激に起き上がったせいで眩暈がして視界が反転する。
やばい、ベッドから落ちる。
そう思って身構えていたが、いつまでたっても衝撃はこない。
代わりに耳のすぐ横からツナの声が聞こえる。
「いててて…獄寺君大丈夫だった?」
「10代目?!申し訳ありません!すぐにどけます…!」
獄寺を庇ってツナが下敷きになっている。
すぐによけようとするが、体が思うように動かない。
「急に動いたら駄目だよ、獄寺君!」
「で、ですが、10代目に料理を作らせるなんて…」
「いーの、オレが作りたくて作ってるんだから!それより獄寺君は安静にしてないと…熱だって出てるんでしょ?」
ツナは獄寺の前髪を上げると、コツンと額を合わせて熱を計る。
唇と唇が触れ合いそうで触れないギリギリの距離に心拍数が一気に跳ね上がる。
「とりあえず、獄寺君はおとなしく寝ててね。もう少しでお粥できるから」
「すいません…それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」
獄寺の体をツナが一生懸命に支えて、ベッドに戻す。
「そろそろできたかな?ちょっと待っててね」
ツナがパタパタとキッチンへ向かう。
あー幸せすぎる…!
本当ならボスである沢田さんに看病してもらうなんて、
決して許されないことだろうけど、けど幸せを感じずにはいられない。
「お待たせ!お粥だから、失敗はしてないと思うけど…美味しくなかったら言ってね、作り直すから」
「そんな滅相もありません!絶対に美味しいですよ!10代目の作った物なら残さずいただきます!」
「ありがと…。はい、獄寺君、口開けて」
「へ?」
…
……
………
徐々に赤くなっていく獄寺の顔を見て、ツナもやっと自分が何を言ったか理解する。
「ご、ごめん!自分で食べられるよね!!
この前ランボが風邪引いた時食べさせてあげたから、つい…!はい、熱いから気をつけて持ってね!」
わたわたとおかゆを茶碗ごと獄寺に渡そうとするが、獄寺は赤い顔のままツナをジッと見つめてる。
「獄寺君…?」
「10代目…あの、オレ…10代目に食べさせてもらいたいなぁ、なんて思ってるんスけど…ダメっスか?」
「えぇ?!」
熱のせいで若干潤んだ目でジーっと見つめられると、何だか小さい子供にねだられているような気になる。
視線に耐えられずに目を逸らしても、変わらず獄寺はツナをジーっと見つめているのがわかる。
結局その視線に根負けしてしまった。
「じゃ、じゃあ…はい」
「あ、は、はい…あちっ!」
恥ずかしさの余り、冷ます事も忘れて獄寺の口に入れてしまう。
「ご、ごめん!大丈夫?火傷してない?舌出してみて」
言われた通りに舌を出すと少しだけピリッと痛んだ。
「ホントにごめん!少し赤くなってる…」
ツナが獄寺の舌の火傷にふぅーと息を吹き掛ける。
…
「って!何やってるんだ、オレ!ご、ごめん、冷ますのはお粥の方だよね?!」
ツナはこれでもかと言うほどに顔を真っ赤にしてベッドに突っ伏す。
暫く突っ伏していたツナだが、漸く顔をあげる。
「さっきからホントにごめんね…オレ、全然役に立ってない…」
「そんなことないっスよ!10代目が来てくれただけでも嬉しいのに、10代目の手作り料理まで食べられるんですから!」
「でも…火傷させちゃったし」
「大丈夫ですよ、大した事ないですから!それに…10代目が冷ましてくれれば大丈夫ですよ」
「う、うん」
再び持ったおかゆを、今度こそフゥーフゥーと懸命に冷まして獄寺の口に運ぶ。
何だか妙に気恥ずかしくて、獄寺は口を開けること、ツナはおかゆを獄寺の口に運ぶことに黙々と専念する。
やがて最後の一口を獄寺の口に入れたツナは、獄寺の表情を伺う。
それに気付いた獄寺は満面の笑みで「美味かったっス!」と告げると、ツナの表情がやっと笑顔になる。
「さて、ご飯も食べたし次は薬だね。粉薬しかなかったけど、飲める?」
「あ、どうもすいません。何から何まで…。薬は別に粉薬でも何でも飲めますよ」
そう言って粉薬を一気に口に入れて水で流し込む獄寺を見て、ツナは感嘆の声をあげる。
「すごいねー。オレ粉薬苦くて未だに飲めないのに…」
「苦いってわかるだけマシですよ…姉貴の料理と比べたら…」
「…それもそうだね…」
思わず納得してしまう。
ツナが食器を洗っている間に、獄寺は薬のせいか段々眠くなってくる。
洗い終わってきたツナがそれに気付く。
「眠くなってきた?」
「少しだけっス」
そう言いながらも欠伸を堪えてる様子はどうみても眠そうだ。
「ふぁー、何かオレも眠くなってきたかも…」
「じゃあオレと一緒に寝ますか?」
冗談で言ったのだが、ツナは暫し考え込むような素振りをして獄寺の隣りに潜り込む。
「10代目?!」
「んー?」
「風邪うつりますよ!」
「うつったら獄寺君が看病してくれるでしょ?」
「勿論です!…じゃなくて…!」
「ダメ…?」
「う…ダメ、です…」
「…誕生日くらい好きな人と一緒に居たいんだけど、ダメ?」
「〜っ、そんなこと言われたら断れないじゃないですか…」
「へへ…ごめんね、ありがとう」
嬉しそうに獄寺に抱き付くツナを、獄寺も抱き締め返す。
後日、予想通りに熱を出したツナを、困ったような、
それでいて嬉しそうな表情で甲斐甲斐しく世話をする獄寺の姿が見られた。
反省
ツナ誕小説2本目アップ!何だか獄寺が相手だとギャグ傾向になりつつある気が…!
シリアスとかも大好きなんですけど、とりあえずはこんな感じで。
後2本!…間に合うかな…(汗)