「お久しぶりです、千種さん…」

「ボンゴレか…よくここに来れたな。アルコバレーノに反対されなかったのか?」

 

ここは復讐者が管理する、一般人はおろかマフィアにも知られていない場所。
裏の世界で有名な人物であれ、おいそれと来れる場所ではない。

 

「リボーンは復讐者に関わるなってずっと反対してましたけど、最後にはここの場所を探すのも手伝ってくれました」

「そうか…」

「…あの千種さん達の、その……」

 

声がだんだん尻すぼみになっていくのを見て、ツナが何を聞こうとしているかに気付く。

 

「処罰はまだ決定していない」

「そう、なんですか…」

 

泣きそうなホッとしたような顔で呟く。

 

「別にボンゴレが気にする事じゃない。オレ達はマフィアを殺した。そして捕まった。処罰があるのは当然の事だろう」

 

ポンとツナの頭に手を乗せる。

 

「でも…!」

「雪…」

「え?」

「外、雪降ってるのか?帽子が濡れてる」

「あ、はい。リボーンが悪天候だから帽子被って行けってくれたんです」

「そうか…アルコバレーノに大事にされてるんだな」

「それはないですよ。今日だってここに来るって言ったら、あいつ知ってた癖に殴ったんですよ!しかもハンマーで!」

 

その事を思い出し、頬を紅潮させて怒るツナ。

 

「それは尚更大事にされてるな」

「どこがですか?!」

「正しくは大事に想われている、だな」

 

きっとアルコバレーノは何度も復讐者と関わりを持つなと言ったに違いない。
しかしこの小さい少年は、時に見た目に反した意思の強さを見せる。
アルコバレーノが反対してたと言ったが、彼なら復讐者の事も他の人間よりは多少詳しいはずだ。
彼に似合わない必死さで止めていたに違いない。

逢いたいと願っていた千種ですら、ここには来て欲しくはなかった。
復讐者に捕まった者に面会しに…しかも処罰を下す事に反対してる人間が来る事を好ましく思う者はいない。
復讐者に目をつけられたら厄介だ。何かあった時、いつも以上に素早い対応をしてくるだろう。

だからアルコバレーノは反対して、それでもこの少年が行く事を決意して腹立ち紛れに殴ったのだろう。
心境としては懐いていたペットが飼い主に牙をむけたようなものだろう。もしかしたらそれ以上だったかもしれないが。
あの呪われた存在であるアルコバレーノが、まるで普通の人間であるような行動をさせる事ができるのは、この世界中でこの少年只一人だろう。

 

「そんなことないですって」

 

しかし少々他人の想いに対して鈍い所もあるようだ。

 

「それにしても帽子を被っていると雰囲気が随分変わるな」

うぅ、やっぱりですか?髪の毛多くてペタッてなるし、あんまり似合わないのはわかってるんですけど…」

「そんなことはないと思うが…」

 

確かにいつもなら元気に跳ねてるのに、帽子を取った今はぺたりと顔の輪郭に沿って毛先がぴょこんと跳ねている程度だ。
ツナがチラッと千種を見て頬を膨らませた。

 

「いいなぁ…オレも千種さんみたいにサラサラの髪だったら良かったのに…」

「そうか?でも似合ってるから良いだろ」

「ホントですか?」

「あぁ、帽子も髪型も可愛い」

「か、かわっ?!」

 

ボッと火がついたように赤くなるツナを見て少し笑ってしまったら拗ねられた。

 

「からかわないでくださいよ!」

「別にからかったつもりはない」

 

本当に可愛いと思ったから言っただけなのだが、そう言うとツナは困ったような照れたような複雑な表情をして呻いている。

 

「そういえばボンゴレの帽子、少しオレのと似てるな」

 

何気無く言ったその言葉にほんのり赤くなってたツナの顔が更に赤くなる。

 

「どうした?」

「い、いえ!」

「だが、顔が赤くなってる」

「いや…、その…」

「?」

「〜っ、おそろいになるなと思って!」

「おそろい?」

「どうせなら千種さんと同じようなのにしたくて…それで!」

「…わざわざ選んでくれたのか?これを」

 

ツナは観念して素直に頷く。
暫し沈黙が続きツナが恐る恐る千種の顔を窺うと、ツナに負けず劣らず真っ赤になっていた。

 

「ち、ちぐささん?」

「あ、あぁ、すまない。少し驚いただけだ」

「オレの方こそすいません。おかしな事を言って…」

「いや、構わない」

「千種さんがこんな所に閉じ込められてるのに不謹慎だとは思ったんですけど…。
あの、もし良かったら帽子オレのと交換してくれませんか?!」

「この帽子とか…?」

「はい。以前…千種さん達が刑務所に入ってた時の写真でも千種さん帽子被ってたから、被ってると思って…!
その、何ていうかまた会えるように、約束っていうか願掛けっていうか…だから、えーと、…千種さんの持ち物が欲しくって…!」

 

真っ赤になりながら一生懸命に説明するツナを千種は思わず抱き締めた。

──裏切られるならこんな感情はいらないと思ってたのに…期待する事に疲れて無くなっていたと思ってたのに
………どうしてこんなにも胸が締め付けられるのか──

 

「千種さん?」

 

突然抱き締められて目を白黒させているツナを離すと、暫く千種は黙っていたが不意に帽子をとった。

 

「!それは…」

「火傷痕だ」

「まさかこの前オレらと…!?」

「いや、犬が言っただろう、人体実験をされたと。オレは…どんな効果の特殊弾かは知らないが全身火に包まれて…」

「っ酷い…!なんで、そんな!!」

「大人達も必死だったんだろうな…。毎日誰か傷ついたり死んでいった。
オレも大火傷の後はもう駄目だろうと見切りをつけられて、ほぼ確実に失敗である特殊弾を撃たれる予定だった。
だが骸さまがそんな状況を壊してくれた…だからオレは今ここに居る。
…帽子は火傷痕が酷くて人前に出るのを嫌がるようになったオレに、骸さまと犬がくれたんだ」

「!!」

 

ツナがヒュッと息を呑んだと思ったら、俯いて泣き出してしまった。

 

「?!どうした、ボンゴレ!」

「っご、めんなさっ、い…!オレっ、そんな事も知らずに欲しいなんて、ごめ、なっ…い」

「落ち着いてくれ、ボンゴレ。確かにこれは大事な物だけど…だから持っていてもらいたいんだ」

「え?」

「大事な物だからあげる事はできないが…預ける事はできるだろ?」

「!」

「それに大事な物なら尚更…逢わないわけにはいかないからな。
だから泣き止んでくれ。泣かれると…どうして良いのかわからなくて、困るんだ…」

 

その本当に困っている声にツナはつい驚いてしまう。
千種を見るといつもは無表情に近いその顔は本当に困惑していて、どうして良いのかわからずオロオロしてるのだ。
滅多に見られない姿に涙も止まってしまう。
代わりに小さな笑い声が聞こえ始める。

 

「どうして笑ってるんだ、ボンゴレ?」

「ふふ、いえ、何でもないです」

 

どうして笑われているのかはわからなかったが、泣き止んでくれたのは助かった。
慰める事には慣れていない。した事もされた事も無いから。

 

「はぁ…すいません。千種さん真剣だったのに笑ってしまって…」

「いや、別に構わないが…何がそんなにおかしかったんだ?」

「それは…オレだけの秘密です」

 

言ったら二度としなくなりそうなので、暫くは内緒にしておこう。

 

「そうか…。それじゃあ、帽子だが…暫く預かってくれるか?」

「…はい」

 

千種が自分が被っていた帽子をツナに被せる。

 

「これはボンゴレがオレに被せてくれるか?」

「はい…!」

 

身長差がある為、千種が屈む。
ツナは額の髪をそっと分けて火傷痕を見つめる。

 

「痛くないですか…?」

「あぁ、たまに少し痛むが別に大した痛みじゃない」

「触っても、痛くないです?」

「触るぐらいなら問題ないが、触るようなものじゃ…?!」

 

ツナが火傷痕へとそっと唇を落とす。
広範囲にある火傷痕全てに、強くなりすぎないように静かにキスを落とす。
そして最後に帽子を被せる。

 

「ボンゴレ…今のは、その…」

「お呪いです。もっと良くなりますようにって。と言ってもご利益なさそうですけど…へへっ」

「そうか…それなら」

 

グイッとツナを引っ張ると腕の中にすっぽりと納まる。
ビックリしたままの表情で見上げてくるツナの額に同じようにキスを落とす。

 

「ちょ、千種さん…!は、はずかしいですよ!!」

「さっきボンゴレがオレにした事と同じことをしてるだけだが?」

「〜〜〜っ」

 

暫く口付けを落とす音だけが聞こえるが、千種がツナの耳元で囁く。

 

「また…いつか逢おう、ボンゴレ」

「…はい、いつか…絶対に」

 

互いの目をしっかりと見て静かに頷く。
そしてそうすることが当然であるかのように互いの顔が近付いていく。

 

再会を信じて誓いを交わした。

 

反省
柿ツナ編。勝手に色々捏造してます。嘘パッチ設定です。でも柿が帽子ずっと被ってる理由って絶対にあると思うんですよ!
その辺も含めて救済できるよう頑張ってみたのですが、また微妙な終わり方に…(泣)

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