「城島犬、お前に面会人だ」
犬がダルそうに見上げると包帯で顔を覆った人間が見下ろしていた。
（こいつら嫌いなんだよなー）
エストラーネオにいた時、人として扱われる事はほとんど無かった。
人体実験の材料として最低限の──生命の維持がかろうじてできる程度──世話しかしてくれなかった。
死なれたら実験材料が足りなくなるから。
こいつらのオレの扱いはあの時のようで、人間だとは思っていないだろう。
「どうしてウサギちゃんがここにいんの？」
「少し話を…と言うか、その…謝りたくて」
「はぁ？謝るって何を？」
「…あの、居場所を…」
「壊した事に対する謝罪ってことかよ」
「…今更なのは重々承知してます。けど…居場所の大切さは…オレもわかるから、だから…一言だけでも良いから謝りたくて…」
ツナの曇りのない瞳を犬は目を丸くして見つめる。
こいつは骸さんを倒した敵だ。
そしていずれオレらの標的の対象になるべき人物だ。次期ボンゴレのボス。
それが、自分とそのファミリーに危害を加えた人間に頭を下げるなんて…。
「ウサギちゃんってさ…もしかしてバカ？」
「は、はぁ？！」
わざわざリボーンの反対を制してまでこんなところまで来たのに、謝罪して即バカ呼ばわりされるとは心外だ。
いくらツナが押しに弱く負け犬根性が染み付いた性格とは言え、ここまで言われたらさすがにカチンとくる。
「バカってどういう事ですか？！」
「だってオレ達はウサギちゃんを乗っ取ろうとしたのに、何で謝る必要あんの？」
「オレの事は別にどうでも良いんですよ。日頃からどうせ理不尽なことばっかだし、結果的に助かったんで。
…そりゃ、獄寺くん達にした事は許せないけど、でも貴方達だって…被害者じゃないですか」
少しだけ表情が曇る。
「…ウサギちゃん…バカじゃなくてお人好し？」
「うっ…、そうかもしれませんけど！…でもオレだって同じ立場だったら居場所を守る為に同じことしてたかもしれません。
居場所が無くなるって事がどれだけ怖いか、苦しいか…！
自分の居場所の大切さは…人によって違うから貴方の気持ちがわかる、なんて傲慢な事は言いません。
けど、大切である事には変わらない…！なのにオレだけが貴方達の居場所を壊してしまって…ごめんなさい」
うっすらと涙が溜まってる瞳を見て犬は不思議な気持ちになる。
小さい頃からファミリー内では人体実験が繰り返され毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際だった。
外に出たら他のマフィアから狙われて、信じられるのは自分と千種と骸さんだけだった。
ごくたまに、可哀想にと同情してくる人間は居たけど、ムカついたから殺した。
同情なんかが何の役に立つ。腹が膨れるか？追っ手を気にせず眠れるようになるのか？
事あるごとに可哀想と言い、涙を流して自分の優位を見せつけて来る。
骸さんと言う居場所を見つけたオレにただ可哀想にと連呼する奴等にはウンザリだった。
でもウサギちゃんは何かが違う。
同情してるわけじゃない。
同じ涙なのにどうしてこんなに綺麗に見えるんだろう？何か違う物で出来てんのかなー？何か甘そう。
おもむろにツナに近付いていき今にも零れ落ちそうな涙をベロッと舐めた。
「うわっ、ちょっ、なにするんですか？！」
「あっれー、やっぱしょっぱいや…」
「は?」
訳がわからないツナは疑問符を浮かべるが犬は構わずにまた涙を舐めた。
目を白黒させているツナの瞳から尚も溢れてくる涙を見ながら犬は唐突に気付く。
そうか惹かれてたんだ。
自分と同じく居場所を守る為に必死になっていたこの少年に。そこまでわかったらスッキリした気分になる。
（普段考えたりするのは骸さんや柿ぴーの仕事だから、久しぶりに自分できちんと考えた。偉いなーオレ）
満足して笑ったら、ウサギちゃんは大きな目を更に大きくして驚いた。
その隙に唇をペロッと舐めたら今度は顔が真っ赤になった。面白い。
「さ、さっきから何なんですか、一体？！人が真面目に話してるのに…！」
憤慨してるツナに殊更からかうような口調で話す。
「だってウサギちゃん、目だけじゃなくて顔まで真っ赤にしておもしーんだもん。それに謝る必要はないびょーん」
「え？」
「とりあえず怪我してるからおとなしく捕まったけど、オレ達がこのままの黙ってるわけないじゃん。
まだオレ達の目的は全然果たせてないんだし」
「…またマフィアの人達を、殺すんですか？」
「もっちろん。またウサギちゃんとも会うかもねー」
複雑そうな顔をしてるツナに、壊れた居場所は自分で直すから謝る必要はないと言うとやっぱり複雑そうな顔をしたまま小さく笑った。
反省
話がまとまんないですー。強引に終わらせました！
本当はこの後ちょっと続いてツナが犬の居場所に…みたいな文章いれたかったんですけど、力不足で削りました。
とりあえずこれで残るは骸さん。オチは考えてるから、打ち始めたら早いはず…！
ちなみに文中の可哀想と言って涙流して優位を感じるってのは個人的なひねくれた解釈です。
可哀想と人に言える人は、自分は可哀想じゃないから言えると思うんですよ。
だから自分がそうじゃなくて良かった、この人の方が可哀想なんだって意味にもなるかと思って書いてみました（ひねくれすぎ！）