「雲雀さん、居ますか?」

 

ツナが控え目なノックとともに応接室の扉を少しだけ開けて覗き込んでくる。

 

「おはよう、綱吉。珍しいね、君が休日に学校に来るなんて」

「えぇ、ちょっと用事があったんで…」

「日曜日は補習は入って無いはずだけど?それ以外で君が学校に何の用事で来たの」

「学校に用があると言うか、学校に居る人に用があるというか…」

「ふぅん…誰に、何の用?」

 

ピクリと片眉だけ跳ね上がる。少しだけ不機嫌そうな声音になる。

 

「あ、そ、そういえば雲雀さん甘い物好きですか?」

 

不自然なまでの話題転換と、ツナの目が異様にキョロキョロと落ち着きが無い。

 

(目が泳いでる…何か隠してるのがバレバレだ。…面白くないね)

「…大嫌いだよ」

「あ…そうですか………あのオレ、帰りますね。失礼しました…」

 

ツナが明らかにがっくりとした顔をしているが、自分に隠し事をするツナが悪いと無視を決め込む。
応接室を出る前にもう一度ツナが見てきたが、それも無視した。

 

 

 


翌日、ツナと会う事無く一日が終わり、更に翌日。
妙に生徒達が浮き足立っていた。
雲雀は前日ツナと会えなかった事もあって酷く苛ついていた。

 

やけに浮かれて群れてる奴等を殴っても全然気分が晴れない。
風紀委員数名ほど八つ当たりを自覚しつつ殴ったが、やはりいつもの高揚感は得られない。
すっきりしないことに余計苛立っていたら応接室を控え目にノックする音が聞こえた。

 

「失礼します、雲雀さん」

「何の用だい、綱吉。僕は今機嫌が悪いんだ」

「知ってますよ。草壁さんに委員長をどうにかしてくれって頼まれた…っていうか泣き付かれたから来たんですよ」

 

じゃなきゃ機嫌の悪い雲雀の元にわざわざ出向くなんて命知らずな行為はしない。

 

「どうしてそんなに苛立ってるんです?」

「今日はやたらと群れてる奴等が多いからだよ」

「バレンタインデーなんですから、それくらい大目に見ても…」

「バレンタインデー?あぁ、バレンタインの事か。聖バレンタインの命日と今日の浮かれた奴等がどう関係してるの」

「え?聖バレンタインの命日って??」

 

話がいまいち噛み合わない。

 

「えーと…今日はバレンタインで女の子が好きな人にチョコを渡したりして告白とかするんですよ」

「なにそれ。人の命日に何でそんなバカみたいなイベントをやってるのさ」

「ど、どうしてって言われても…別にオレが決めた訳じゃないですから」

「ふぅん…それで綱吉はいくつ貰ったの?…あぁ、それとも君の場合はあげる方かい?」

 

クツリと小さく笑われ、暗に抱かれる立場だから女と同じかと揶揄された事に気付き、ツナは耳まで赤くなりながら答える。

 

「義理チョコ程度なら貰いましたよ。黒川にはホワイトデーは3倍返しとか言われましたけどね」

「3倍返し?」

「来月の14日がホワイトデーって言って、今日チョコくれた子にお返しするんですよ。
それでホワイトデーのお返し目当てで安いチョコを大量に配ってホワイトデーに高価な物をよこせって言う人がいるんです」

「なにそれ。ようは只のバカ騒ぎでしょ」

「…バカってそんな…。オレもホントは雲雀さんにチョコ渡そうと思ってたんですよ」

「…初耳なんだけど」

「内緒にして渡そうと思ってたんですよ。でも甘い物大嫌いなんて言うから、他の物も思い付かなくて止めたんです」

(そうかこの前のは僕に会う為にわざわざ来たのか)

 

そう思うと殴っても得られなかった高揚感が不意に感じられた。

 

「でも今更チョコも告白も必要ないでしょ。何回僕に抱かれたと思ってるの」

「っ…!そ、そりゃそうですけど、何て言うか…こういうのは気持ちの問題なんです!!!」

 

真っ赤になりながら言い訳をする姿に思わず笑いが零れる。

 

「飲み物でも入れて来るよ。ちょっと待ってて」

 

そう言うと雲雀は応接室に何故かあるキッチンへと向かった。
ほどなくして、やけに甘い匂いが漂ってくる。戻ってきた雲雀が手にしていたのはマグカップに茶色い液体だった。

 

「ホットチョコ…?」

「今日はバレンタインデーなんでしょ?」

 

クスッと笑いながらマグカップを差し出して来る。

「甘いの嫌いなのによくありましたね」

「別に嫌いじゃないからね」

「…え?前に聞いたら甘い物大嫌いって言ってたじゃないですか?!」

「そうだっけ」

 

サラリと嘯く。
明らかにムッとしていたツナだが、突然マグカップを机に置くと雲雀の方に近寄ってくる。
何をするのかと見ていたら雲雀の顔を少し上に向かせてそのまま唇を重ねてきた。

 

「っ、あま…」

 

口の中にホットチョコの甘さが広がってきた。
自分からすることが滅多に無いツナは若干赤面しつつも、悪戯が成功して得意満面だ。

 

「…随分と生意気になったよね」

 

少し脅すような声音で言っても

 

「…雲雀さんのおかげですよ」

 

ツナも負けてはいない。
暫く睨み合っていたが不意に雲雀が口角を上げて笑うと唐突にツナをソファーに押し倒した。

 

「僕だけ貰いっぱなしじゃ悪いから、今度は僕からあげるよ」

 

作った笑顔で心にも無い事を宣う。

 

「え、えんりょ、…っ、ん〜んぅ…あっ、雲雀さん、やっ…!!」

 

 

 

 

「雲雀さんのバカ!」

 

あの後ソファーで腰が立たなくなるまで抱かれた。
その口から飛び出した暴言に、雲雀は余裕綽々の表情で言葉を返す。

 

「ホワイトデーは3倍返ししてくれるんでしょ?期待してるよ」

 

反省
バレンタイン=チョコ=甘い。そんなわけでエロカットして甘くしてみました。チョコレートプレイしてみたかった…時間足りず><

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