雲雀に応接室で抱かれてから数日が経った。 もう二度と話す事もないだろうと思っていたのに、ツナはあれから何度も雲雀に抱かれていた。 校内で一人の時に雲雀に会うと応接室、保健室や使われていない教室などに連れ込まれて無理矢理抱かれた。 そこまで嫌いなのか…。自分を抱いている時の雲雀の表情を思い出して胸が痛くなる。 仕返しを出来て満足しているのだろう。きっとツナが無駄な抵抗をしているのが面白くて堪らないに違いない。
何故、自分はこんな事を雲雀にされているのに本気で抵抗しないのか。
何故、雲雀の言葉にショックを受けていたのか。
仕返しで抱かれた事に胸が痛んだのも、答えは簡単だ。自分は雲雀に好意を抱いていたのだ。 何処に惹かれたのか自分でもよくわからない。だって、出会いは突然トンファーで殴られたし、その後も雲雀に会う度に酷い目に遭っていた。 そんな人の何処に惹かれたか…多分、最初はあの揺るぎ無い強さに憧れていたんだと思う。 ツナは、獄寺や山本と会う前は独りだった。けど、同じ『ひとり』でもツナの独りと雲雀の一人は全く質が違っていた。 ツナは周りから外されて独りだったけど、雲雀は自ら一人でいる事を望んだ。何事も自分だけでできる強さ、自信があった。 似ている境遇だけど、そこに自分の意志があるかどうか。その違いはとても大きい。
出会いは最悪だっただろう。 何故こんなにも惹かれるのか。 見ている内に気がついた事がある。
沢田綱吉にいつもくっついてる二人の男達の視線。
それでもその二人は現状に満足しているのか幸せそうに笑って、沢田綱吉もまた今まで以上に幸せそうに笑うのだ。 苛々した。
昼休み。獄寺が珍しく躊躇いがちに話しかけてくる。
「10代目、あの…差し出がましいとは思いますが、何か困った事があるならオレが相談に乗りますよ?」 「え?」 「そうだぞーツナ。悩み事でもあるのか?」 「山本まで…どうしたの?」 「ツナ…最近、元気ないだろ。しかも少しやつれてないか?」 「そうっスよ10代目。食欲もあまりないようですし…」 「そう…?」 「そうだろ、ほら」
そう言って山本はツナをひょいっと抱きかかえる。
「や、山本…!!」 「てめぇ!10代目を降ろせ!つーか、10代目に触るんじゃねぇ!!」 「な?こんな簡単にかかえられるんだぜ?体重落ちてんじゃね?」
獄寺の言葉を流して心配そうに言う山本。
「…大丈夫だよ。ちょっと…夜眠れなくて疲れてるだけだから」 「それなら午後からの授業は保健室で寝てた方が良いんじゃないか?」 「アホか、保健室はシャマルが居るから逆に危ねぇだろ!!」 「んじゃ、今日は天気も良いから屋上で寝てくか?」 「二人とも…オレは大丈夫だから、午後からも授業でるよ」 『ダメ(です)!』 「えぇ?!」 「…ツナが言わないなら理由は聞かないけど、聞かない代わりにきちんと睡眠とってくれ」 「こいつと同じ意見ってのは納得いきませんが…オレも同じ意見です。まずはしっかりと体を休めてください」
いつになく真剣な表情の二人に、今の自分はそんなに酷い状態なのかと苦笑する。
「…わかったよ。二人の言うとおり少しだけ屋上で寝ていくよ。けど、二人はきちんと授業に出なきゃダメだよ?」 「あぁ、ちゃんと眠れよ?先生への言い訳はオレに任せておけ」 「そんな奴に任せるなんて危ないですよ!オレに任せてください!!」
言い合いながらもツナに別れを告げて教室へと戻る二人。 正直、限界だった。 これ以上抱くのを止めてくれるよう言って、雲雀の気の済むような方法で終わらせてはくれないだろうか。 本当は眠るつもりは無かったのだけど、肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていたのか暖かい日差しに誘われるように瞳を閉じる。
「こんな所で授業サボるなんて良い度胸だよね」
突然聞こえてきた聞き慣れた声。 ハッとして起き上がるとそこには雲雀が居た。
「雲雀、さん…」
ニヤリと口の端だけで笑いツナの上に圧し掛かってくる。
「やっ、雲雀さん!止めて下さい!」
抵抗して、抱くのを止めて貰う様に話さないと…そう思っているのに、雲雀はこちらの話など聞く耳持たなく手馴れた動きでツナの服を脱がしにかかる。
「雲雀さん!オレの話を聞いてください…!!」 「断る」
ツナの必死の願いを一刀両断すると知り尽くしたツナの性感帯を弄り始める。
「あ、ダメ…!お願いです、止めて…」 「五月蝿いよ」
少しムッとした顔でツナの唇に噛み付く。そのまま舌を入れて奥深くで縮こまっているツナの舌を探り当てる。
「んぅ…はっ、ん…っ」
慣らされてしまった身体は悲しいくらいにキスだけで反応し始めてしまう。 勃ちあがったツナの性器を雲雀はズボン越しに撫でる。堪らず腰がひくりと動いてしまう。 あぁ、このままだといつもと同じだ…。 脱がされるズボンと下着。うつ伏せにされて蕾を舐められる。そして…蕾に感じる圧迫感。 報復である以上自分に拒否権なんてないのだろうか。ずっとこのまま…雲雀の気が済むまでこんな関係を続けなければならないのだろうか。 何も、考えたくない。 ツナは瞳を閉じて快楽の波に意識を飛ばす。
自分の想いにはっきりと気付いてから身体だけを繋げただけでは物足りなくなった。心も手に入れたいと願った。 抱いて身体が満たされても心は以前よりも飢えた。 心が手に入らないのならいっそ周りに大切にされて、汚い物とは掛け離れたこの子に唯一”憎悪”を抱かれる存在になってみようかとも考えた。 だが、何度抱いても憎まれる事は無かった。でも、雲雀の心が満たされる事も無かった。 自分の下で何も映さない瞳で快楽の波に溺れる沢田綱吉。こんな関係になりたかったわけじゃない。 どうすればこの想いが伝わるのだろうか。もう手遅れなのだろうか。…手放すのも諦めるのも御免だ。
「ねぇ…どうしたら君は笑ってくれるの?」 「…え?」 「僕の事が憎い?」 「ひ、ばり、さん…?」 「どうしたら僕の事を許してくれる?…どうしたら好きになってくれる?」
雲雀が今までに見たこともない苦しげな表情で呟く。ツナは突然の事に思考が止まってしまう。 優しくしないで 生理的な涙が零れた跡を拭うように掠める。 やめて 綺麗な顔を苦しげに歪めて真っ直ぐに見つめてくる。 勘違いしてしまう。期待してしまう。
「ど、うして…今更…」 「…今更だっていうのはわかってるよ。けど、こんな状態で居るのは嫌だから」 「どういう、意味…?」 「僕は…君が好きだ」 「っ?!」 「こんな事しておいて言える台詞じゃないだろうけどね」
自分勝手な想いで無理矢理抱いて、自分が辛いからまた自分の気持ちを押し付けて。我ながら酷いものだと失笑する。
「嫌われていても、これだけは伝えておきたかったから」
これだけの事をしてきたんだ。どれだけ嫌われているか…。覚悟を決めて返事を待つが、一向にツナから返事は返ってこなかった。 口も聞きたくないくらい嫌われてるのかと思い始めた頃、雲雀の下に組み敷かれていたツナが小さく噴出した。 最初は小さくクツクツと笑う程度だったが段々と大きくなってくる。 雲雀の顔がきょとんとするのを見て更に笑う。流石に殊勝な態度だった雲雀も、これにはカチンとくる。
「…人が真剣に話しているのに、その態度はないんじゃないの」 「す、すいません…。でも、雲雀さん、順番おかしいですよ。普通告白してから、こういう関係になるものですよ?」
雲雀も自分と同じような想いで苦しんでいたのかと思うと辛くて泣きそうになっていた自分が、呆れを通り越して可笑しくて仕方ない。
「…だからって笑いすぎでしょ」 「ごめんなさい、でもね、雲雀さん…」
オレも貴方の事が好きなんですよ?
麗かな日差しの中、屋上には照れくさそうに笑うツナと、驚きのあまり固まっている雲雀という奇妙な組み合わせが見られたらしい。 反省 |